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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第四章
103/398

ブリジット。毎日勉強させられる

 ローデポリス中央にある旧市街のさらにど真ん中、他の地区よりも少々小高くなった丘の上に王宮はあった。ロマネスク建築を思わせる重厚な石造りの王宮は、侵入者を防ぐ高い外壁に囲まれており、その中身は小学校の運動場くらいなら2つ3つすっぽりと収まってしまいそうな広さの庭園になっていた。


 大きな玉石が敷き詰められた池の辺りには色とりどりの花が咲き乱れ、庭師たちがのんびりと手入れをしている。庭園の端にはノウゼンカズラで出来た桃色のガーデンアーチが架かっており、それをくぐると皇帝の伴侶が生前愛したバラ園に続いていた。


 リディアには四季がなく、一年を通じて美しい花々が目を楽しませてくれたのだが、残念ながら今は王宮に花を愛でるような、雅やかな趣味を持った者は居らず、庭園は宝の持ち腐れとなっていた。


 その代わり、庭の一部は芝生の敷き詰められた運動場になっており、毎朝剣の稽古を積む姫様の掛け声が、練兵場もかくやと言わんばかりに響いてくるという、なんとも残念な広場が作られていた。


 と、その運動場の周りを今、不審な影が縫うように走り抜けた。その影の持ち主は、王宮の裏手へと続く茂みの中に身を潜めると、息を殺してじっと辺りの様子を窺った。


 宮殿のあちこちではガシャガシャと鎧を鳴らしながら近衛兵たちが駆けまわっている。彼らはお互いに声を掛け合い、


「……いたか!?」「いや、いない」「そっちは?」「駄目だ。ええい、くそっ!」


 王宮内を逃げまわる何者かを追いかけていた。と、その時、一人の近衛兵が大声を上げて叫んだ。


「いたぞっ!! 裏手だ!!」


 ブリジットは、チッと舌打ちをすると、潜んでいた茂みから飛び出して、声を上げた近衛兵に躍りかかった。守るべきはずの姫に逆に襲いかかられ、彼はギョッと目を丸くしつつも、必死に剣を引き抜くと、飛びかかってくるブリジットの剣を受け止めた。


 しかし、それが精一杯で、次の瞬間にはもう彼女の姿は彼の視界からは消え去っており、キョロキョロと辺りを見回す近衛兵の延髄に手刀が叩き入れられると、彼はそのまま目を回して気絶した。


 ドサリと崩れ落ちる近衛兵の向こう側、運動場の方角から大勢の近衛兵たちが駆けつけてくる。


 ブリジットは気絶した男をその場に放置すると、宮殿の裏手へと続く細い隙間のような裏道に入り込んだ。


 しかし、その先は行き止まりになっており、


「姫っ! お待ち下さい、姫っ!」「もう逃げられませんぞ」「いい加減、観念してお戻りください」


 あっという間に近衛兵たちに追いつかれ、外壁を背にして大勢の兵士達に取り囲まれてしまった。


 多勢に無勢、さしものブリジットも数には勝てず……


「くっ……殺してもいいならなんとかなるのに」


 悔しげにそう漏らすと、近衛兵達は一斉にビクリと肩を震わせた。まるでアベコベの話だが、実際にそうなのである。王族を守るために組織された近衛隊であっても、本気のブリジットにかかっては到底敵わない。


 彼女を追い詰めた近衛兵達はダラダラと冷や汗を垂らしながら、


「さあ、姫様。今日こそはお戻りいただかないと、我々も、家庭教師の先生方の首も飛んでしまいます」

「そんなの知りませんよ。私が雇ったわけじゃありません」

「御身は将来、皇帝陛下の後をお継ぎになり、この国を背負って立たれるお方。いつまでもそんなわがままを言われては困ります」

「わがままなのはそちらの方ですよ。私はちゃんとお仕事頑張っていたのに、無理矢理連れ戻したのは陛下の方です」

「仕方ないじゃありませんか、あなたが後継者なのですから」

「その件については何度も断ってるのに……完全に騙されましたよ」

「それも姫様の将来を思ってのこと、さあ、いい加減に諦めてお戻りください」


 ブリジットはムスッとした表情を隠そうともせず、


「嫌ったら嫌ですよ。クラウ・ソラス!」


 剣を引き抜くと、その刀身がまばゆい光を発するのだった。


 その強烈な光に目眩を起こし、近衛兵が怯んだ隙に、ブリジットは壁を蹴って垂直に飛び上がると、外壁を飛び越えて向こうへと消え去った。


 5メートルを越える堅牢な石壁をなんの苦もなく飛び越えていく様に、あっけにとられた近衛兵であったが、我に返ると必死になって叫んだ。


「わー! 姫様っ! お戻りくださいっ! 姫様ぁ~!! ホントに処罰されちゃうから~!!」


 そんな言葉には見向きもせず、ブリジットはムスッとした表情を崩さないで王宮から続く道を、姿勢を低くしたまま駆け抜けた。きらびやかなドレスの裾がまとわり付いて走りづらい。コルセットにギュッと肋骨を締め付けられて息苦しい。何でこんな嫌な思いをしなきゃいけないんだと、彼女はプリプリ怒りながら坂道を駆け下りていった。


 王宮のある小高い丘の周りは高級住宅街が続いており、建国当初から皇帝に付き従う配下の家々が並んでいる。その住宅街を抜けるとやがて坂道は広くゆるやかになって来て、ローデポリスのメインストリートと交錯する商店街へと続くのだった。


 ブリジットはその商店街へと真っ直ぐやってくると、メインストリートへは向かわずに、その少し手前にある店に飛び込んだ。特徴的な制服に身を包んだメイドさんたちが働く、メイドカフェ『Biddy's(ビディーズ) gelato(ジェラート)』である。


 店の扉が勢い良く開かれ、来客を告げる呼び鈴が店内に鳴り響くと、その店のメイド長であるアナスタシアが客を迎えるためにいそいそとやって来て、


「お帰りなさいませ、お嬢……様? お姫様?」


 来店したのがブリジットであることに気づいて、困ったように眉を顰めて肩を竦めた。


「アナスタシアさん。ごめんなさい、匿って!」


 ブリジットはそう言うと、返事を聞かずにバックヤードへと飛び込んだ。


 あっけに取られた店内が一瞬しんと静まり返るが、すぐにいつものことだと気を取り直すと、何事も無かったかのようにざわめきを取り戻す。


 暫くすると王宮の方から近衛兵たちがやってきて、ガチャガチャと鎧を鳴らしながら店内へと入ってきた。しかし、


「ご無礼、仕ります! 王宮警備隊であります! 姫様が、こちらへおいでになっておりませんでしょうか」


 と、近衛兵が聞いても、応対に出たアナスタシアは頭を振るって、


「ううん。来てないよ」


 と素っ気なく言って相手にしなかった。もちろん、ブリジットは店内に隠れているし、近衛兵たちもそれは重々承知なのであるが、相手が悪いというか何というか、彼もあまり強く出れず、


「……アナスタシア様。もしも姫様を匿っておいででしたら……」

「ううん。居ないよ」


 アナスタシアに伏し目がちにそう言われると、彼らはそれ以上追求できず、困った顔をしながら店から出て行くしかなくなるのであった。


 17歳になったアナスタシアは美しくなった。


 元々、綺麗な女の子だったが、もはや形容のしようがないほどに美しくなった。それは道行く女性までもが思わず立ち止まって見惚れてしまう程だった。


 スラリと伸びた手足とピンと伸びた背筋が、彼女のスリムな体を引き立て、黒目黒髪というエキゾチックな風貌は驚くほどに白いのに、唇は血色がよくて浮き出るように瑞々しい。それでいて、サラサラの絹のような髪の毛を二つ結びにして、どことなくまだまだ子供のような危うい雰囲気を漂わせている。


 男性が少々苦手らしく、応対するときはいつもどことなく伏し目がちに身を固くし、時折上目遣いに困ったように返事をするものだから、それが世の男性の庇護欲をかきたてるのか、誰もが彼女に首ったけになった。


 だが、彼女の気を引こうと邪な感情を抱くには、あまりにも彼女は強すぎた。


 かつて、たるみきっている但馬を鍛え直すために、エリオスと共に始めた朝のトレーニングは、その但馬が脱落し、やがて忙しくなったエリオスも抜けたあと、アナスタシアとブリジットの二人だけで続けられていた。


 そのうちそれは、有名になりすぎた二人が市街で待ち合わせをするのが不可能になったため、王宮の庭に作った運動場でやるようになった。


 二人でエリオスをやっつけた出来事以来、アナスタシアはブリジットの弟子であり、彼女の元でトレーニングを積んでいたのである。


 王宮には王宮警備の近衛兵が常駐しており、初めこそ娼婦出身のアナスタシアのことを嫌がったが、その美貌から次第に若い近衛兵たちの憧れの的になっていった。


 そんなある日、アナスタシアがやってくるとソワソワしだす近衛兵たちの姿を見て、面白がったブリジットは、彼らにアナスタシアに稽古を付けてやれと言った。彼らは俄然やる気を出して、彼女にいいところを見せようと頑張った。


 ところが、その時にはもう、そんじょそこらの男が束になってかかっても敵わないほどに、彼女は強くなっていたのである。


 稽古をつけるどころか逆にこてんぱんにやられた近衛兵達は、プライドをへし折られ、彼女から一本取ろうと躍起になった。しかし、躍起になればなるほど、彼女の美しさとその剣技に惹かれていったのである。


 メイドカフェで押し問答を続けるアナスタシアと近衛兵であったが、そんなわけで暫くすると近衛兵のほうが折れて、スゴスゴと退散するより他なくなった。アナスタシアが、地味にS&H社の役員であり、ブリジットの友人ということからも、元々彼らのほうが立場が下なのだ。


 苦虫を噛み潰したかのような顔をする近衛兵を撃退すると、店の周りをウロウロする彼らを苦笑しながら見守る従業員たちを尻目に、アナスタシアはバックヤードへと入っていった。


 中にはきらびやかな衣装を身にまとったブリジットが居て、


「アナスタシアさん、ありがとう。助かりました」

「うん」


 彼女は礼を言うと、バックヤードからこっそりと表の様子を窺った。


 近衛兵達はまだ諦めていないらしく、どうにか店内からブリジットを引きずり出せないかとディスカッションしているようである。


 全く忌々しい……プリプリ怒っていると、アナスタシアが言った。


「……王様。ダメだって?」


 彼女は口下手なのか、極端に口数が少なかったが、何を言ってるのかはもう慣れた。


「そうなんですよ。今朝、先生が帰ってらっしゃるって、陛下自身がおっしゃってたくせに、授業は予定通り組まれてたんですよ。酷いと思いませんか?」


 ブリジットはアナスタシアの問に答えると、ふくれっ面を見せた。


 彼女はメディアとの戦争が終わると、亜人からの暗殺の心配がなくなり安全になったという名目で、正体を明かして国民の前に出た。前々からブリジットと面識があった人々には、驚かれつつも好意的に受け入れられ、噂として知っていただけの者にも概ね評判は良かった。


 特に、メディア戦争を終結に導いた休戦協定での事件を解決したのが、実はブリジットであるとの噂が流れると、美しくて強い姫の存在は、まるでアイドルのように熱狂的に迎え入れられることになった。


 ブリジットは、あの事件の時に、八面六臂の活躍を見せ、亜人の謀略からリリィを守り抜き、そして襲いかかってきたエルフを撃退したことになっているのである。


 それはメディア戦争終結後の国民の結束を狙ったプロパガンダであり、本当なら但馬の貢献度が高い出来事を横取りするような真似をブリジットは嫌ったのだが、国民の不安を取り除き、そして但馬の安全のためにもそれが良いのであるならばということで、彼女は甘んじてそれを受け入れたのである。


 しかし、そのお陰で彼女は自由を失う羽目になったのである。


「戦争が終わって、もう自由だってことで正体を明かしたはずのに、逆に自由じゃ無くなるなんて、いくらなんでも酷いと思いませんか。国民が混乱するからって会社も辞めさせられるし、毎日勉強させられるんですよ?」

「うん」

「王位継承権だって、とっくに放棄してるのに、全然聞き入れてくれないんです。お陰でなんか変な派閥が出来てるみたいで、先生を巻き込んで私と兄さんとで争わそうとする人まで出てくる始末。おまけに毎日勉強させられるし。もう、うんざりです」

「う、うん」


 ブリジットが表舞台に登場し、なおかつ王位継承者の第一位であることが告げられると、俄に王宮周辺が騒がしくなった。要は、ウルフが次期皇帝だと勘違いして、工作をしていた者たちが肩透かしを食らったわけである。


 しかし、彼らがすぐにブリジットに鞍替えするかと言えば、そう簡単にはいかなかった。ぽっと出のブリジットよりも、実はウルフのほうが国民には人気が高かったのである。


 そこで、貴族の間でウルフ派とブリジット派のような派閥が出来てしまい、よく知らない相手がゴマをすってきたり、陰口を叩いていたり、このところの彼女の周辺はかなり面倒くさいことになっていた。


 特に、但馬がブリジットを秘書兼護衛として連れていたことは余りにも有名であり、そのためブリジット派という派閥がもしあるとするならば、彼がその首魁であると勝手に勘違いした貴族が但馬にゴマすり、接近しようとして迷惑をかけていた。


「先生が目立って変な人達に狙われないようにと思って、メディアでの出来事は私がやったってことにしたのに……結局、先生にばかり迷惑をかけることになってしまって、もうどうしていいか分かりませんよ」

「先生はそんなの気にしてないと思うよ?」

「だと良いんですけど……おや?」


 話しながらこっそりと窓の外を見ていると、店の周辺をうろついていた近衛兵たちが王宮へと引き上げていった。


「今日はやけに諦めるのが早いですね。何かあったんでしょうか……」


 それは、どうせ但馬のところへ行くのだろうと気を利かせた皇帝が、近衛兵に邪魔をしないように通達したのであるが……そうとは知らないブリジットは胡散臭そうなものでも見るような目つきでそれを見送ったあと、


「まあ、何にしても助かりました。これでお店から出れますね。アナスタシアさん、準備は出来てますか?」

「う、うん。でも、いいの?」

「もちろんです。それに早くコルセットを外したいです」


 そう言うとブリジットはアナスタシアに背中を向けた。アナスタシアは肩をすくめてヤレヤレと首をふるうと、ブリジットのドレスの紐を解いて、コルセットを外してあげた。


 ブリジットの締め付けられていた肺が解放されて、彼女がうぇ~っとオッサンみたいなため息を漏らす。


 その後、ドレスを脱ぎ捨てた彼女は、用意しておいてもらったカフェの制服に衣装を着替えると、姿見の前で満面に笑みを浮かべた。これでどこへ出しても恥ずかしくないメイドさんである。


「うふふ。これならお店の従業員として紛れ込んでても、きっとバレませんよね」

「駄目。お客さんが困るよ」

「冗談ですよ。それに、こういう姿は先生にだけ見てもらえればいいです」


 ブリジットはメイド服のスカートをヒラヒラさせながらそういった。


 但馬が領地を行ったり来たりするようになってから、ブリジットは彼とあまり会えなくなっていった。会社も辞めてしまったし、朝のトレーニングにも彼は顔を出さないからだ。


 但馬は基本的に思い立ったらすぐに行動するタイプだったので、あまり予定を建てない人物だった。そのため、上手く時間を調整して会うということも出来ず、気がつけばブリジットは彼とどんどん疎遠になっていた。


 しかし、皇帝に報告をする目的があったからか、今日は珍しく帰還の予定をアナスタシアに告げており、今朝方トレーニングの時にそれを聞いたブリジットは、その瞬間に午後の予定をぶっ千切ることを決意した。


 アナスタシアと待ち合わせの約束をしたあと、コソコソと逃げる準備をして、そして近衛兵と大立ち回りをした挙句、こうして店に逃げ込んできたわけである。


「久しぶりに先生に会えるんですから、いっぱい旅の疲れを労って差し上げなくては。今日の私は先生のためのメイドですよ、きっと喜んでくれますよね」

「うん。先生、そういう変態……変なのは好きだと思う」

「うっ……いいんです。喜んでいただけるのであれば」


 ブリジットがプンスカしながらそう言うと、アナスタシアは彼女特有の眉毛だけが困ったような表情で尋ねた。


「姫様は、先生のことが好きなの?」


 ブリジットは突然そう言われてドギマギした。意外だったが、彼女にそう問われるのは初めてだったのだ。だが、すぐに気を取り直すと、


「好きですよ。好きというか尊敬しているんです。ただの金儲けのためなんて、口さがない人も居ますけど、誰がなんと言ったって、あれだけ多くの人々に貢献してきた人は全世界を探しても他に居ませんよ」


 彼女はその豊満な胸を強調するかのように、腕組みをしてウンウンと頷きながら続けた。


「私は騎士として、そのお手伝いがしたかったんです。腕にだけは自信がありましたから。でも、もうそれも叶わないかも知れませんから、せめてその高潔な精神に報いてあげたいだけなんです」


 彼女がそう言うと、アナスタシアは分かったような、分からなかったような、なんとも言えない表情で、


「ふーん……」


 と言って、小首をかしげるくらいでそれ以上は聞いてこなかった。それから、今日は早上がりにするから後を頼んでくると言って、バックヤードを出てフロアに向かった。


 ブリジットはそれを見送ってから、またメイド服のスカートが曲がってないか、鏡を見ながらクルクルと回って確かめた。リボンやフリルがふんだんにあしらわれてる割りには、胸を強調するデザインで、可愛さよりも何故か女性の艶やかさが強調される服である。


 但馬はこんなのが良いのかと思いながら、ブリジットは鏡越しに見えるアナスタシアの背中を見つめた。


 いや、但馬が好きなのは、ああいう子だ。自分ではない。いくら自分が彼のことを好きだとしても、その目はいつも、自分ではなくアナスタシアの方を向いていた。それはまるで手に入らない宝石でも眺めているかのようで、時に悲しく映った。


 どうしてそんな顔をするのだろうかと思っていたが、アナスタシアと仲良くなり、彼女の複雑な生い立ちを知るに連れて、なんとなく分かるようになって来た。


 そうなると、ただ但馬の尻を追いかけていた時とは違って、彼女に対する負い目と、負けたくないという気持ちと、抜け駆けしたい気持ちと、彼と一緒に暮らす彼女に対する悔しい気持ちと、それでも彼女にも頑張って欲しいと思う気持ちと、やっぱり負けたくない気持ちで、自分の中になんとも理解し難い気持ちが形成されていくのを感じて、彼女抜きには彼を見ることが出来なくなった。


 本当は、朝のトレーニングを続けているのも、もしかしたら但馬に会う機会が増えるかも知れないと思っていたからだった。でも今はそれは違うとはっきり言えた。ブリジットはアナスタシアのことが気になっていた。恋のライバルとしても、剣のライバルとしても。


 亜人と人間のハーフだと言う彼女は、日を追うごとに、その美しさと共に強さも磨かれていった。それは信じられないスピードで、もしかしたらもうすぐ自分も抜かれてしまうのでは無いかという、危機感さえ覚えるくらいだった。


 もしも、そうなった時、自分はまた追いかけることが出来るのだろうか。彼のことも、彼女のことも……


 そんなことを考えながら、彼女はピカピカに磨かれた姿見の前で、慣れないスカートの裾をつまんだり、跳ねる前髪を撫で付けたりしていた。


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