最後のプレゼント
「…む。…のぞむ。」
誰かが僕を呼んでいる
幼い頃から何度も何度も聞き慣れたその声
不意に僕の顔を覗き込む彼女
「…せ…星奈?」
僕は驚き一気に目が覚めるそんな僕をよそに、彼女が屈託のない笑顔で僕を見つめる
「望。メリークリスマス!」
そう言いながら、えへへと笑う彼女
幼い頃から何度も見て来たその笑顔
僕の大好きな大切なその笑顔
気付いた時には僕は星奈を強く抱きしめていた
幼い頃からいつも側に居た星奈
昔から、こうやって僕を起こしに僕の部屋にやってきた星奈
彼女と恋人同士になったのは高校一年生の時。いつもと同じ帰り道で僕が彼女にキスをした
あの時、星奈は泣いていた[嬉しい]そう彼女が呟いた時、僕はもっと強く彼女を抱きしめていた
それから四年。僕らはいつも一緒に過ごしていた
早く自立して結婚も考えていた
「…星奈会いたかった」
彼女を抱きしめたまま何度も何度も呟いた。彼女の全てが愛おしくて、僕は何度も彼女の髪を撫でていた
そんな僕の方へと顔を向けて彼女が口を開く
「望…私も凄く会いたかった。…望少し老けたね?」
彼女がクスクスと笑いながら僕の頬を愛おしそうに…そして少し悲しそうに撫でる
そんな彼女を再び抱きしめ聞いてみる
「星奈…僕は変わってしまったかな?」
僕の問いに、僕を抱きしめ返して彼女が答える
「変わらないよ。私の好きな望のままだよ。…ただ、その時間の流れに私が一緒に居れなかっただけだよ」
彼女の言葉に胸が締め付けられる様だった…
あの頃のまま変わらない彼女…
僕の大切な星奈
「…何故僕たちは離れ離れにならなければいけなかったのだろう…何故僕はあの時、星奈を助けられなかったんだろう…」
ふと口にしてしまった言葉に涙が溢れ出してきた
そんな僕の様子に気付き、顔を向け涙を拭ってくれる彼女。
「泣かないで望…。しょうがなかったんだよ。私は望に愛されたから幸せだったんだよ?…だから…もう十分だから…望…幸せになって。」
そう笑顔で答える星奈は本当に幸せそうな顔をしてくれていた。
僕は何も答えられずにただ彼女を抱きしめた
「…望?私行きたい所があるの…連れて行ってくれるかな?」
ふと、僕の肩越しに彼女が言った…
僕は不思議に彼女の顔を見る
「お母さんに会いたいんだ」
少し淋しげに答える彼女
そんな彼女の頬を撫でながら僕は答える
「ちょうど僕も星奈に渡したい物があったんだ…」
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ピンポーン
インターホンを鳴らすと、出て来たのは一人の女性。以前会った時よりも随分白髪が増えた様子だ
「あら?望君?来てくれたの?」
そう言いながら笑顔で僕を家の中へと迎えてくれた
…ただ僕の後の星奈の存在には気が付いてはいない様子だった…
後から星奈が小さく呟く
「…お母さん…随分老けちゃったな…」
そんな彼女に僕は目を向ける。つられて星奈のお母さんも目を向ける。
…だが、やはり彼女の存在には気が付かない様子だった…
家の中へと足を進め向かった先は一つの仏壇。
…そこに飾られている写真は…星奈…
仏壇の前に立ち線香をあげる
僕は仏壇に飾られている小さな箱を手に取り星奈の前へと差し出す
不思議そうに僕を見ている彼女に、箱を開け中から一つの指輪を取り出した。
「…これ。本当はずっと星奈に渡したかったんだ…あれから五年もたってしまったけど…やっと渡せる。」
そう言いながら彼女の左手を手に取る。
彼女の目からは涙が溢れていた
その様子を不思議そうに見つめる星奈のお母さん
眉をしかめて僕に問い掛けてくる
「…望君?…誰と話をしているの?」
僕はその言葉に返事は返さず、星奈の薬指に指輪をはめた。
多分、指輪が浮いているようにしか見えないであろうおばさんは驚いて星奈の方を見ていた
「…望君?…そこに星奈が居るの?」
涙を溜めて僕に問い掛けるおばさんに僕は黙って頷いた
その様子に堪え切れなくなった星奈がおばさんの元へと歩き出す
星奈が見えないおばさんは、動き出した指輪をじっと見ていた
その指輪が自分の元へとやって来て、首から後へ回って行くのを見ておばさんは自分が抱きしめられている事に気が付いた
…途端にその場に泣き崩れてしまったおばさん
そんな自分の母親を一緒に涙を流しながら抱きしめる星奈…
僕は、二人をそのままにしてあげたくてそっと廊下へと足を向けた…
「望?」
あれから少し経って星奈が僕の元へやって来た
「少し私の部屋に行かない?」
彼女がそう言って階段の方へと歩きだす
僕もそれに従い彼女の部屋へと足を向けた
…あの時のまま変わらない彼女の部屋
僕は彼女のベットへと腰を下ろす
星奈も僕の隣に座り、僕を見ている
「望?さっきも言った事だけど…私ね、本当に望に幸せになって欲しいの…私はもう、どんなに頑張っても望の側には居てあげれないから…」
そう僕に言った彼女。
目には涙をいっぱい溜めているが、本当に幸せそうな表情だ。
僕はまた胸が張り裂けそうになり、何も言えないでいた…
言葉の変わりに、彼女を抱きしめて唇を合わせた
とても軽く…初めて唇を合わせた時の様に…
「…望…大好きだよ…最後に会えて嬉しかった…」
彼女が吐息まじりで僕に言う
僕は星奈を強く抱きしめた。きっと、もう二度と会える事は無いのかもしれない。でも今だけは…彼女を離したくなかった…。
「…パ。…パパ起きてー」
あれから十年…今の僕の目覚めは大切な娘…月奈から始まる。
…結局あの日気が付いたら僕は自分の部屋のベットの上だった
ただ、僕の記憶の中にはあの日の出来事が鮮明に残されていた
…それは星奈の母親も同じだったようだ…
そして…あの日から消えてしまった星奈の指輪。
それが、あの出来事が現実だった事を示していた
…きっと、あの時の出来事は神様が僕達にくれた贈り物だったのだと思う
あの時、星奈と会う事が出来たから月奈にも出会えたのだろう
星奈の母親もあの出来事から昔の元気なおばさんに戻ってくれた
そして、きっと星奈の薬指には今でも指輪が輝いているのだろう…