五十八話 くじ
「反撃……だと……?」
王は、至極不快な感情に見舞われた。
確かに背後を取られた事は不覚の一言。そこは認めよう。
だが自身と少年との実力差は天と地ほどの差があり、今のこの状況も自分が”誤って殺してしまわぬよう”手加減に次ぐ手加減の結果生まれた状況だと言うのに。
「おもしろい……この栄えある帝国の現王に向かって、一体何をどうやって反撃してくると言うのか……」
王にとって、背後を取られる事は何の欠点ではなかった。
背中を見せると言うミスはあくまで定石における失態であり、事王に関してはそれは当てはまらない。
事実、背後にいようがどこにいようが、王は後ろに目が付いてるかのように”正確に”少年の位置がわかっている。
自分の後ろで今どんな体制でどんな装備をし、さらには息遣いからどれほどの疲労、緊張、焦り等……相手の全てが手に取るようにわかる。
「どうした……折角掴んだ反撃のチャンス、さっさとやってくるがよいわ」
剣か、槍か、それともさっきの多重式弓矢か。
何がこようと何の問題もない。以下に精霊を操ろうが全ての攻撃は自身の危機に値するものではなかった。
背中を取った。「だからなんだ」それが今の、王の心中を現す一言であった。
「余裕こきやがって……!」
「さあ、こい!」
王は背中越しに発破をかける。
王の余裕は当然の事。少年の行動と共に即座に振り向き、叩き落とすなり掻き消すなりいくらでも対処は可能なのだ。
一切まったく何も問題ない。むしろ、時間の無駄だからさっさと来てほしい程である。
予想外の事態に混乱させられた思考は、瞬く間に冷静さを取り戻していく――――
――――そして、再び混乱に見舞われる。
(な…………!?)
シュゥゥゥゥゥゥ…………
少年の打った反撃。それは自身に危害を及ぼす物ではなかった。
少年が発したのは”水の霧”。シュゥゥと静かな音を立て柔らかに場内を包み上げていく。
じわじわと視界を満たす霧に、なんだこれはと心で叫ぶ。
王はまたもわからなくなった。そして、再び疑問が駆ける。一体今あいつは、何をしているんだと――――
「【水烏賊】――――……」
「――――ッ!?」
王は少年の声に反応しとっさに振り向いた。
それもそのはず。この意図不明の霧を、何故か【水烏賊】と名付け技のように扱っているのだ。
――――振り向いた王は眼前の光景にまたも冷や汗をかかされる。
何故なら、振り向いた先には一寸先も見えないくらいの”闇”が広がっていたから――――
(なんだ……これは……)
「カウンター狙ってた? 残念。正解は”闇に消える”でした」
「闇の……霧……?」
「水玉は水を出すだけじゃない。もう一つの性質があるんだ」
「それは悪霊の性質。僕もよくわかってないんだけど、水玉は悪霊みたいに禍々しい”暗色”を出すことができるんだ」
「日常生活ではほぼ役に立たないから普段は使わない。でもこうやって、霧に乗せれば……ほら」
「夜のできあがり」
そして直後、少年は闇へと消えていった。さらには闇が、今度は自分すらも覆い尽くす。
闇は瞬く間に王の視界を奪い、光の差し込まぬ黒一色の世界へと引きずり込んだ。
(目くらましだと!? この期に及んでまだそんな……!)
王が疑問とするのは闇に包まれた事ではない。”視界を奪って何がしたい”。その一点に収縮する。
反撃の一手が目くらまし。それで一体何ができるのか。
しかも自分には、視界を奪われる事などなんのデメリットもないのに。
「本当に……何を考えているのかわからぬ奴!」
そして王は動き出す。何も見えぬ闇の中を、あたかもすべてが見えるように一直線へと移動した。
ドジュン――――数える間もなく到着した先は、”外へと続く出口”。
この場から唯一の出口に陣取る事で、とりあえずは相手の一番の目的を阻む事を選んだ。
(奴は戦闘は望んではない……目的は外に出る事だ……)
(下らぬ! 大方闇に紛れて脱出するつもりだろうが!)
(そのような子供だましが通用する相手ではない事を……その体で教えてやるわ!)
王は目を閉じただ立ち尽くすのみ。
雑念を払った心は、直に闇と同化していった――――
…………
「オヤジめ、案の定出口陣取りやがった」
『もしかして、ばれた?』
「バレる所か今どこで何してるかすら筒抜けだよ」
『アカンやんけ……』
「いいんだよそこは織り込み済みなんだから」
「コポポ? コポッ コポッ!」
『せやせや。結局王のネタバラシはなんやってん?』
「ああそれね。正解は……”コレ”さ」
この闇の中で唯一出る光は、スマホの画面からの淡い光。
自分が出す光と、カメラに搭載された”夜景モード”によってスマホにのみ視界が効く形になる。
そんなスマホのカメラが今映しているのは――――指が見切れる僕の”喉”。
「そう…………王の能力は”声”の魔法だったんだ」
『コポポポ~~~~ッ!』
その反応、水玉も気が付いたようだ。
王の今までの不自然すぎるくらい精密な位置測定も、この一言なら全てが繋がるだろ?
ただ……ドヤ顔決めたい所をかっこ悪いが、アレの正式名称がわからん。
そこはむしろ逆に問おう。アレ、なんて言う名前だったっけ?
『【反響測位】…………!』
「あ、そうそれそれ」
【反響測位】――――イルカやコウモリが主に使用する、空間の位置を音の反射で知る能力である。
自然界では主に自身が発する超音波を対象に反射させる事で、物の大きさや形、仲間の識別等を知る事を目的とする。
が、ごく稀に人間が使用する事例もある。
その場合は盲目の人間が視えぬ目の代わりに、舌打ちを利用した反響測位を用いる。
反響測位を会得した人物は”音を見る”と表現する。
できる人にとって音の世界とは、広がる視界と同意義なのだ。
『そうかぁ……だからあんなに正確に……』
「多分【水蜂】を掻き消したのもそれのせいだ。あんな超音波が出せるなら、水を吹っ飛ばせるのも不思議じゃない」
「動画で見たぞ。声でガラスを割るミュージシャンの奴。あれもその原理だろ?」
『そうや。音ってーのはざっくばらんに言うと”揺れ”や。揺れの大小で高いとか低いとか、うるさいとか小さいとか表すねん』
「ガラスを割る時は裏声みたいな高い音を出してた。それも音の揺れって奴か?」
『ああ、あれは高い音の方がガラスと共振しやす……てー事は、あのマッハ寸前の爆速ダッシュも?』
「”振動”だな」
――――”声”。その一言で王の全てが解説できた。
正確な位置測定を可能にする反響測位。
水を掻き消し、豪速移動を可能にする超振動。そしてそれらを広範囲にまで広げる大声量。
言ってもあの人は元教師。長年怒鳴り続けた甲斐あって、喉が人外のレベルまで鍛えあげられているようだ。
さらにそこに魔法の力が加われば……歩く”声帯”兵器の完成である。
『つくづく化けもんや、あのオッサン』
「まぁそう言うなよ。魔法があるこの世界なら全然その程度不思議じゃないさ……そんな地震オヤジがこうして静かにしてるってー事は」
『落雷五秒前ってか』
地震雷火事オヤジとはこのシチュエーションの為にできた言葉に思えてきた。
声と言う地震、怒りの雷、外は大火事。で、アイツはオヤジ。もの見事に全てがピタリと当てはまっている。
視界の効かない闇は王にとっては何のリスクもない。むしろ見づらい分、損をしているのは僕の方だ。
『じゃあどうするねん?』
「それはな、お前が――――」
「――――オイ小僧ォッ!」
説明中になんと間の悪い。案の定王は落雷の口火を切るように、ドデカイ声で語りかけてきた。
そんな叫ばなくても十分聞こえるってーのに……大変だな、声を武器にしている奴ってのは。
「読めたわ貴様の考え! 闇に紛れて突破口を開くつもりだな!?」
「どうやらその様子、我が魔術の正体に気づいたようだな……だがそれがわかるのならば、貴様の得意な”水遊び”が通用せぬ事と同義であると、理解できぬほど阿呆ではあるまい!?」
(その通りだよ、クソが)
王の能力は声。さらにそこから派生する超振動。あのヘラの反力とか言うのと同じだ。
”音は水に伝わる”。本当に王の力は悉く水と相性が悪い。
それは今、こうして争っている王と僕との相性を現しているかのように……。
「気づかれた以上もはや隠す道理もない……しかしその代わり、貴様は多大な物を失ったと知れェ!」
ゴゴゴゴゴゴ……
『うあ……マジか』
王の言う通り、僕は判明と引き換えに大事な物を失ったようだ。それは”身の安全”だ。
この闇の中に一つだけ光る、大きな逆ハの字が現れた。……王のヘラだ。
王はあの小汚いヘラにさらに強い魔力を加え、その結果しおき棒が立派な殺傷武器に変化したらしい。
王の魔力が存分に注入されたヘラはもはや神々しさすら感じる程に、強く眩しく輝いている。
あれに直撃したらどうなるか……は、考えたくないな。
「見えるかこの光り輝く我が得物! この光に触れた瞬間、貴様如きの脆き肉体は瞬く間に崩れ落ちるだろう!」
「なるべく死なぬように気を遣いたかった……しかし、ここまでくればもはや五体満足は保障できぬ!」
「闇を切り裂く光の一閃は、全ての邪なる物を撃ち払うと知れェ!」
「僕は邪かよ……!」
『おーおーおー、言われ取る言われ取る』
「……るせェェェェェ! こっちにはまだ”切り札”があるんだよォォォォォ!」
「まだ言うか!? どうせそれも下らぬ子供だましだろう!」
「貴様が切り札と呼ぶ物なぞどれもたかが知れている! どうせまたあの水遊びの延長であろうが!」
「こ、このオヤジ! 後悔するなよてめぇーーーーッ!」
「だったらさっさとこんかァーーーーッ! それでも精霊使いかァァーーーーッ!」
さっきの仕返しか、王はこれ見よがしに挑発してきた。「お前如きが何をしようと全て無駄だ」とでも言いたいのだろうか。
意外と根に持つオヤジだな……しかしその発言は確固たる自信から来るものであり、ハッタリでビビらせようとしているわけじゃないのは明白だ。
事実あの強く輝くヘラをフルスイングされれば、連れ戻されるまでもなく部屋まで吹っ飛んでしまう。手間暇いらずの場外ホームランの刑に処されるイメージは十分できた。
あのオヤジも切り札があったと言うワケか……未だ底知れぬ、あの強い魔力が。
『おお……オッサン超なんとか人みたいになってるって』
「くっそぉ……警告染みた事言いやがって」
『でもある意味親切とも言えるで。吹っ飛ぶか丁重に運ばれるか、選ばしてくれとるとも言える』
「……で?」
『そんな人の好意に、お前はどう答える?』
「……うぜえんだよオヤジ!」
『やっぱクソやお前』
王の親切に中指で返事した所で、そろそろ突撃の決意を固めよう。
今の僕に必要なのは、プレッシャーに打ち勝つ精神力……闇の霧が覆う中、スゥゥと息を吸い込みゆっくり吐いた。
士気を高める鼓舞の想像。某有名映画のワンシーン、バトル漫画における戦闘前の会話ページ、アニメの渋いナレーション等々……ありとあらゆる”上がる”光景を脳裏に浮かべる。
それらの光景の中に自分が入り込んだような錯覚を自分に与え、妄想の世界に入り込む――――そしてどの妄想も、一つの呼応で繋がった時。
(行けッ! 行けッ! 行けッ! 行けッ! 行けッ! 行けッ! 行けッ! 行けッ!………………)
「――――行くぞ!」
カチャリ。特攻の口火を切る小さな金属音が鳴った。
――――
「やはり玉砕を選んだか……小僧ォッ!」
「ここまで言ってまだ来るならば、もう止めん! 望み通り帝都の土の一部となるがいいわァッ!」
王と僕、両者共に決意を固めたようだ。
死ぬかもしれない特攻と、殺してしまうかもしれない断切に。
この闇の中を突っ込む僕に対し構えを取る王の姿が、光り輝く魔力にヘラによって鮮明に理解できた。
(【反響測位】――――)
――――王は、特攻をかける少年に対し自身の十八番”声”を遺憾なく発揮した。
人間の聴覚範囲を遥かに超えた音波を口から発し、この場全体に余す事無く響かせていく。
(おそらく少年は……きっと……)
それにより場内の全てが王の知覚に注ぎ込まれていく。詰め込まれた知覚は感覚へと昇華し、そして直”思考”へと運び込まれる。
怒号を発していた先ほどの表情とは裏腹に、王の精神は至って冷静であった。
”バレている”……少年の得体のしれない自信と先ほどの不可解なミスから、その結論に至るまでに時間はかからなかった。
そして、だからこそただ”無策”に特攻してくるような阿呆ではない事も。
ガチャ…………
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ――――
(こ、これは!)
闇の中。視覚は通じずとも反響測位によって、王はこの場における全ての”形”を認識していた。
王は今、声により生み出された「反響の世界」の中にいた。でかい柱から壁に施された細かい装飾まで、全てが認識できる。
だが……反響測位には一つだけ認識できない物があった。
音波式レーダーの欠点。それは”色がない”と言う事。故に無論、今の王には闇の黒以外が認識できない。
その黒の中で蠢く形――――”大量の”人影が。
(増え……た……? な、なんだ!? アイツは今何をしている!?)
突如増えた人影。
少年は一人しかいないはずなのに、反響の世界から見る人影は一人や二人所ではなく、二、四、六……いや、もっといる。
どこからともなく現れた謎の増援。その全てから何故か執拗に鳴り響くガチャガチャとうるさい音は、明らかに金属による物だ。
少年はそんな物持っていなかったはず。それは我が目でハッキリと見た。
奴の持ち物で唯一金属に近いあのしゃべる箱だって、まさか自分の口で「ガチャガチャ」言ってるわけではなかろうに。
だとすれば――――必然的に――――
(――――廊下に飾っている……”甲冑”!?)
増えた人影の正体は――――甲冑であった。
先ほど少年に乗せられ叩かされた物と同じ人を型どった甲冑。あれは、この廊下を豪華絢爛に飾る装飾の”一部”であった。
甲冑は一つだけではなく、見栄えが映えるよう複数個が等間隔で並ばされている。
そして、あるべき場所の甲冑がゴッソリ抜けている事も理解できた。
(こ、小僧ォ…………! やけに自信ありげだと思ったら…………ッ!)
微かに甲冑に隙間からこぼれる何かが感じ取れる――――それは”液体”。
この事から、おそらく奴は「甲冑の中に水を入れ、精霊に指示してあたかも人のように動かしている」のだと推測した。
これが先ほど少年の言っていた、水の中にある”悪霊の性質”よるものなのか。
真偽はともかく説得力はある。人形に憑りついた悪霊のように、妙にリアルで生々しい人の動きを見せているから――――
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ――――……
(なんという……こんな……こんな短時間で……こうまで……)
王は心の中でどこかタカを括っていた。自身の能力。気づかれなければこれ幸い、しかし”バレた所で”どうにもならぬと。
だが異界から現れた少年は、これを”最善の一手”を用い打破してきた。
反響の世界の弱点を付いた、元教師の立場から見ても申し分ない”最適の”手段で。
無数に走り寄る大量の甲冑――――王の視る反響の世界には色はない。
故に、”どれが少年かがわからなくなって”いた。
「う……お……オオオオオオオオッッ!!」
――――――――!
「――――どうだオヤジめ! 今お前には僕が分身してるように見えるだろ!」
『なんでそんなもん着込んでるねんって思ったら……そう言う事かい!』
「動く甲冑を僕と間違えたのは、人型だったからだ! 反響を頼りに動いてるから大雑把にしか区別できなかったんだ!」
『雨を降らしたのは……ノイズを出したかった?』
「ああそうだ! 知ってるぞ!? 軍事用のソナーだって、雨の中では誤動作しまくるんだろ!?」
「仕組みがわかれば……対処は十分可能だ!」
『確かに蛾に妨害されるコウモリとかおったけど……にしてもよくこんな危険な場面で……いや、危険やからこそか?』
「必死こかなきゃやられるんだよ!」
――――こうまで事がうまく運ぶのは、相手が”王だから”とも言える。
王からすればハンデを背負った条件付きの戦闘。それ以前にそもそも王に立ち向かう奴などこの国にいない。
能力を知るまでもなく、刃を向ける者なぞいるわけがないのだ。
そんなことをすれば、そいつはたちまち国家反逆を企てるテロリストにされてしまうのだから。
『これで一斉にかかれば……行けるかもしれんな!』
「いや、それはダメだ。アイツにはまだあの”喝ッ!”がある」
「今一斉に飛びかかってそれをやられれば……折角の意表が水の泡になる!」
『って、じゃあどうするねん!?』
「――――こうするんだよ!」
『――――おわっ!』
ガチャリ。金属片が強く当たる音がした。
(――――小僧……!)
王の視点はまさに混乱の一途を辿る。
「多勢に無勢」「人海戦術」そんな軍事的兵法に置いて、自分は今最も不利な状況に置かれているのだ。
突如湧いて出て複数の同一人物に、キツネに摘ままれたように化かされた感覚が王を巡る。
「分……裂……!」
王は歯ぎしりをしつつも、悔しさを紛らわすように分裂体を一つ一つ数えていく。
反響測位を用い、的確に、正確に――――その結果、今活発的に動いている甲冑は、”計10体”。
どうやら甲冑の全ては操れなかったようだ。そこは不幸中の幸いか。
しかし同時に、必然として全てを叩く必要性が生まれた事を知る。動く甲冑は10体。そこに、少年らしき形はないのだ。
(甲冑を……着たな!?)
あの独特の服装の痕跡が反響の世界に存在しない。
それが意味する事は、少年は甲冑を動かすだけでは飽き足らず、自身もそれを身に着け紛れたのだ。
闇と形の二重潜伏。王はもはや怒りを通り越し、不完全燃焼の怒気が深いため息となって漏れ出た。
この期に及んで小細工……いや、”ミクロ”細工まで使って、そこまでして抗いたいのか、と。
「第一陣、行くぞォーーーーッ!」
「戦力分散まで……全く、君と言う奴は!」
この時王の中でふと、商店街風ガラガラ式くじ引きが思い出された。教員時代の学院祭にあった、どこかのクラスの出し物の一つである。
この場合単純計算して確率は十分の一。この10と言う数字から思い起こされる。あの時も確か十種類の景品があったなぁと。
何故こんな事が脳裏に浮かんだかはとある元教え子に起因する……この十の甲冑が本来のくじ引きと違う点は、”当たるまで引き続ける”事ができると言う点だ。
さながらあの時景品全部を独り占めしようとした、やりたい放題を貫く元バカ生徒、現大魔女のように――――
「本当に……粉微塵になりたいようだな!」
王の決意は崩れない。例え自身の一撃が少年の命を奪うことになろうと、くじは引くまで終わらない。
こうなった以上結果が出るまで止まる事はないのだ。当たりか、はずれか。
この事は今まさに特攻をかける少年も、重々承知していた――――
『賽は投げられた?』
「バッカ、ありゃ六面体だろ! この場合は言うなら――――」
甲冑部隊の先発隊が今、王に向けて突っ込んでいった。
(――――”銃”は突き付けられた!)
つづく