四十六話 馬鹿
「やばぁ~……」
『お前、最悪打ち首かもしれんな』
夕食が喉を通らない。王宮だけあってそれは豪勢な料理がわんさか出てきたが、二口程度摘まむと即その場を出てしまった。
飛び出すようにその場を出た僕は今夜泊まる部屋への案内を執拗に急かし、そして到着と同時にバン! と扉を閉め即鍵を掛けた。
この客間もさすが王宮だけあってスイートルームばりの豪華さなのだが、そんな貴重な体験を噛みしめる事もなく適当な椅子に座りうなだれているのが現状だ。
完全に騙された……いや、向こうは騙したつもりなど毛頭もないだろうが、まさかずっと一緒にいたアホ丸出しのアイツが、まさかまさかの――――
「”王子”だったなんて……」
『すまん。わいも気づかんかったわ』
それなりの地位がある事はわかっていたんだ。あの六門剣を三本も所持していた事。執行院の連中に敬語を使われていた事。ヤクザとツーカーな仲な事。飛空艇製作に関わっていた事……
今思えばヒントはたくさんあった。あの財布の中身を考えないめちゃくちゃなショッピングっぷりに、妙に幼稚でガキっぽい性格。しかし民を思う気持ちは本物で、時たま見せる国を憂う素振り。
誰が言ったっけか「お偉いさんのバカ息子」と言う比喩がヤツにピタリと当て嵌まってしまった為、無意識にその考えが刷り込まれてしまった。
確かにアイツは、自分の事を名乗っていなかった。向こうからすれば自分は超有名人、だから相手も知ってて当然。
そんな日々を送って来たのだから「フーアーユー?」なんて言われる経験はほぼ皆無に等しいはずだ。向こうは向こうで自己紹介し慣れてなかったのだろう。
ヤツから見れば「お前が誰だよ」と言いたい気持ちが今ならわかる。
「お偉いさんのバカ息子」それはある意味では間違いではない。ないが、あの”若様”はそっちの”若”
だったとは……
『タメ口聞いて水玉ぶつけたあげくタクシー代まで出さすとはな』
「ガチやべえ……」
『あの姐さんの次はお前かも知れんな。このバカモンガー! 言われて』
「oh……」
――――コンコン
『誰かきたで』
「ふぁい……今開けまーす」
夜更けの来客、一体何事か。居留守を使いたい所だがここは王宮、万が一の粗相があってはいけないと思い腰を上げる
僕の気持ちも知らず扉はしつこくコンコンと鳴り続ける。扉を叩く音に呼ばれ、けだるさを感じつつゆっくりと扉を開いた。
「いよぉアルエ! 遊びに来たぜ!」
「……」
――――そしてそっと、扉を閉じた。
「ってオイ!? 閉めんなよ!」
「今何時だと思ってんの。近所迷惑ですよ」
「いいじゃねっかよオイ~、開~け~ろ~よ~!」
(うぜえ……)
やはりこいつは王子様とは思えない。一国の王子ともなれば、民に安否を気遣い明日の為にゆっくり寝かせてやって欲しいと言う物だ。
多少の金銭感覚の狂いは許そう。しかしこんな夜更けに「野球しようぜ」なノリでこられてもマナー違反も甚だしい、しつけのなってないただのおバカさんだ。
「おい! 開けろ! 開けろ~!」
『ああ言うとるで。王子様が』
「んだよもう……」
「お、やっと開けたな? アルエ!」
「遊ぼうぜ!」
「……」
――――そしてそっと、扉を閉じた。
「だーから閉めんなっつーの!」
――――
……
「ったくよー、ノリ悪すぎんぜぇ」
(くそ……結局開けちまった)
結局、こいつの扉ガンガン攻撃に負け扉を開いてしまった。あんな音を何時間も立てられては寝るどこか夜更かしもロクに楽しめない。
これが自宅なら即110なのだが、ここは奇しくも王宮。王宮はすなわちこいつの家であり、泊めてもらっている身としては家主の命令は絶対なのだ。
「どーせそんなすぐ寝ねえだろ? 俺も暇してんだよ」
「なんか、なんかやろうぜ!」
(なんかって何だよ……)
やはりこいつはバカだ。次期王の分際で夜眠れないから遊ぼうぜとはこれいかに。
確かにそんなにすぐには寝ないが、僕は今疲労困憊で部屋でじっとしておきたい気分。そんな目に合せたのは、他でもないお前だろ。
「そうそうさっきまで今日買った奴の整理してたんだ! アルエ! 見てくれ!」
「はいはいなんっすか」
「見ろ! 十分の一サイズの”魔導二輪”ミニチュアだ!」
『バイクのおもちゃや』
「これは内部に魔導式回転機構が埋め込まれてて使用者がスイッチを押すと独りでに自走して――――」
――――ガシ
「……オラァッ!」
「ああっ! 何すんだよ~!」
思わず、投げ捨ててしまった。理由はない。ただイラっときた。それだけなんだ。
こいつが説明がてらしつこく鳴らす、プップーと響くクラクションの音に。
「ああ、俺の魔導二輪……」
「明日同じの買え。どうせいくつあっても同じだろ」
「まぁ同じのはすでに持ってるんだけどな」
『持っとんかい』
「そうそう、お前にも渡したい物があるんだ」
「またプレゼント? 今度は何よ」
「これ」
こいつは王子だけあって本当に気前がいい。ダブりなんて一切気にせず、バカみたいに買い物をしたあげく潔くくれてやるその心意気は実にアッパレだ。
こいつはもしかしてあれか、友人を”物”で繋ぎ留めておくタイプの奴か。
ぼっち予備軍にありがちな発想だな。それは確かにありがたいのだが、そのポジションは友人ではなくクラスの”便利屋”にしかなれないと言うのに……
「ナニコレ? カード?」
「ふふん、聞いて驚け。無理言って一枚発行してもらったんだ」
「それは――――工業区への許可証さ!」
「なにぃーーーーッ!?」
そしてさすが便利屋だけあって、仕入れてくる物も本当に便利だ。これがあれば、今厳戒態勢中のあの工業区へ入れる。
工業区へ入れると言う事はあの飛空艇のドッグへ行けると言う事であり、ドッグに行けると言う事はあわよくば飛空艇に”乗れる”……かもしれない!
「明日朝一で行こうぜ!」
「ちょ、行くわ! 何時起き!?」
「日の出速攻コースしかねえだろ!」
「承ったぁ! スマホ、アラームのセットを!」
『さっきまでボロクソに言うてた癖に』
持つべきものは友人だな。それもただの友人じゃない。金と権力とその他もろもろ備わったとびきりハイスペックな奴。
あのしょうもないゲームとエロ動画の話しかできない同級生とはえらい違いだ。ほんと、友達は選ばねばならない。
あのノータリン共が鼻水垂らしながらガチャを引いてる間に、僕はこうしてとびっきりのレアアイテムを引く事ができたのだ。この”友人”の力で――――
「うんうん、やっぱ持つべきものはなんとやらだな」
「そういやさ、異界には残してきたツレとか、いねーの?」
「全然。そんなもん、僕とつるむ価値のある奴なんてあっちにはいねーよ」
『ぼっちって言えや』
「ふーん……精霊使い様は言う事が違うねっと」
「あ、そうだ……」
「ん?」
「今日”クラン戦”だったんだ……」
クラン――――それは僕の所属するネットゲーム上の仮想組織。ネットが家庭用ゲーム機まで浸透した昨今、自宅にいながら他のプレイヤーの同じゲームを楽しめると言う素晴らしい機能だ。
僕は友人は少ないが”フレンド”はたくさんいる。ゲームを通して知り合った、アイコンとプロフィールカードだけのフレンドが。
『クランってあれかい。お前が最近やってる……』
「何? クランって」
「FPSって戦争ゲーがあって……それでネットを通じて知り合った人らと、組んで試合する対戦ゲームなの」
「戦争!? お前、戦争やってんのか!?」
『ある意味な』
有名タイトルなので動画くらい残っているだろう。何故かネットの繋がるこの世界で、ブログが見れたと言う事はおそらく動画の方も行けるはず。
スマホのOKサインと共に画面を若様へ見せる。おもちゃ好きならこっちも感心を持つだろう。近頃のグラフィックは、現実とほぼ変わらないからな
「ちょ、ええ!? ナニコレ!?」
「うわすげっ! オィィィィ! なんか、なんか爆発したぞ!?」
(すっげー食いつき……)
ここへ来てから何日か経った。この世界で夜を迎えるのはこれで四度目だ。
元の世界を去ってから四度目の夜。日付と時刻が正しいとすればそれは四日が過ぎた事となり、四日が過ぎたと言う事は全国の皆様が夜更かしを企てる、ちょうど”週末”の日になるのだ。
その日、僕はクラン戦の約束をしていた。僕の所属するクランは無名ながら精鋭ぞろいの猛者集団だ。
僕のようなぼっち学生、無職、フリーター、不登校児等々、時間に余裕のある連中ばかりで構成されたそのクランだ。
時間がある故メキメキと腕を上げて行き、確実に武功を立てていく。今ゲーム内で最もノリにノってるクランなのである。
「あ、死んだ」
「いや……ピンピンしてるけど」
「そりゃそうだよ。何度でも復活するんだから」
「 ま じ か ! ? 」
どうやら、こっちにはゲームまではなさそうだ。現実とほぼ同じ空間に湧いて出る無限に復活する兵士。自分で言っててなんだが、なんか自分がネクロマンサー的な物に思えてきた。
まぁそんな芸当ができるのも所詮ゲーム……そんな事とは露知らず、初めてのプレイ動画に若様ならぬ若王子は興味津々だ。特に”無限に復活”の部分が衝撃的だったらしい。
何やらブツブツとアンデッドがどうのこうの言ってるが、ゲームと言う概念そのものを知らないこいつに説明するのも億劫なのでこのまま放置しておこう。
精々アンデッド兵のドンパチに釘付けになっているがいい。僕も、お前が王子様だと言う事に至極驚かされたんだからな。
「異界マジやべえ」
「あーくそ、皆怒ってるだろうなぁ」
「そうかぁ……兵士だったんかお前……」
「上等兵だぞ、上等兵」
『ゲームの中の話やで』
「こっちも驚きなんだよ。まさかお前が王子様だったなんて」
「気づかなかったの? わざわざ見やすいよう六門剣を腰に掛けてるのに」
「六門剣が……?」
「そうだよ。六門剣は王家の宝剣。王の資格を持つ者にのみ持つことが許される」
「王の資格……」
「次期王に選ばれた者は六門剣の六つの試練を受ける」
「それに耐え抜いた者が、晴れて次期の王となる……それが俺」
王になる者が受ける六つの試練。それは六門剣の六門の名にちなんだ物だろうか。
試練はすなわち素質を図るための物。一国を担う王となるのだからそれはそれはキツい試練なんだろうな。
「よく合格できたな……」
「ナハハ、実は俺もなんで選ばれたのかよくわかってねえ」
『でも試練をやり遂げたんでっしゃろ? すごいですやん』
「そう……なのか? よくわかんねえけど」
『試練って何しますのん』
「まさかペーパーテストじゃねえだろうな」
「それもあったな……ま、それだけじゃないけど」
王に選ばれるには一体どんな事をするのだろう。こっちではもっぱら”選挙”だが……興味が沸いた僕らの為に、当の実体験者が事細かに教えてくれた。
王の試練の内訳はこうだ。
一、知力を図るペーパーテスト
二、体力を測る体力テスト
三、精神力を図る忍耐テスト
「やっぱりテストあるんだ……」
「個人的にこれが一番キツかったわ」
『体力テストてなんや。ウェイトリフティング的な事か?』
「まぁそんな感じ」
「じゃあ三番目は?」
「先代は知らねえけど、俺の時はこうだった」
「――――帝都からどこかの辺境の街まで、不眠不休で走り続けるの」
『……』
「しかも往復で」
「うへぇ……」
この時点で中々の地獄っぷりだが、一国の王になるとなればそれはまぁ当然か。
三番目の帝国横断ウルトラマラソンを達成した時点でもうやりきった感が全面に出てきそうだが、それはまだ半分にすぎないから恐ろしい。
この六つの試練の一から三の半分までで、候補者の大部分は脱落するそうだ。脱落と言うか普通に死傷者が出そうな感じだが、さすがにそこまではないか。
言うなればここは予選。本番はまだまだこれからなのだ。
「で、四つ目の試練で図るのが”人望”。こいつを王として認めるか。こいつに国を預けられるかって言う」
「四つ目の試練中は各々アピール期間が設けられてさ、期日になれば候補者一人ずつに国民が票を入れてくって奴なんだが……」
「……選挙?」
「あ、それそれ」
『へぇー。アピールってどんな事しましたん』
「車に乗って清き一票を~ってやってたの?」
「え? えーっと……」
「……疲れてたから、何もしてなかったわ」
「えっ」
若様の選挙期間中行ったアピールはこうだ。三番目の試練で疲れた若様はとりあえず爆睡。
そしてひと眠りしたら体力が回復したので、ダチと「飯食いに」行ったり演説中の他候補者を「野次」ったり、飽きたら一人商業区へ赴き、ありったけの品を「買い漁った」り……
それで、何故通るのか。じゃあ他の候補者の涙ぐましい努力は一体なんだったのか。この国の選挙は一体どうなっているのか。不思議だ。不思議でならない。
「そうこうしてたら、いつの間にか本番始まってた」
「バカだ……」
「で、五つ目でや~っと……これが出てくるわけ」
(六門剣……)
四、人望を図る総選挙。
そしてここまでの難関を潜り抜けてきた者のみがたどり着ける第五の試練、それこそが王家の宝剣”六門剣”による選別である。
「なんかこう、並ばされてよ。したらこれが突き刺さった台が出てくるのね」
「うん」
「人数分の六門剣があって……で、一人一本ずつ抜いて行けと」
「ははーんわかった。で、ちゃんと持てた奴が合格なんだ」
「せーかい。やっぱアルエは鋭いな」
この時残った進出者は四人。各々がこれまでの試練を乗り越えてきた猛者ばかり。約一名まるでふざけているものの、他の候補者はここまでたどり着くのにどれほどの努力をしてきた事か。
それが六門剣の気まぐれで全て水泡と帰すと言うのだから王の道は険しい。図っているのは「運」か?
「んでさ、ここまで来たんだから折角だし受かりてえじゃん?」
「ああ」
「だからさぁ……俺は一個閃いたの。絶対これイケるだろって言う画期的な作戦をよ」
「何したんだよ」
「――――開始と同時に”全部”持った。他の奴の分も俺が奪ってな」
「……バカか!」
それは人呼んで「反則」と言う。サッカーで言うハンド。野球で言うデッドボール級の反則だ。
無論他の候補者から非難轟々だったろう。試験管も「何してんだお前!」と怒鳴り散らしただろう。
一国の王を決める試練にも関わらず持前の物欲を発揮し汚い手段に出る若様。ケツを蹴飛ばされながら「出てけ!」と言われてもおかしくなさそうな暴挙だが、今ココでこうして王宮にいられると言う事は、そう言う事なんだな……
「いきなりかましてやったのさ。ナハハ」
「だからなんで通る……」
「まぁどっちにしろ受かってたよ。六門剣全部を同時に持てる奴なんて他にいなかったし」
「……いや、いたわ。一人だけ、同じ事が出来る奴が」
『誰?』
「――――パム」
「え!?」
『あの姐さんも受けてたん!?』
「ていうか、俺を王の試練に誘ったのがアイツ」
「ええっ!?」
「俺はむしろ付き添いで……っと、向こうはそう思ってなかったようだけど」
ここで一つ思い出した。帝都在住時代のオーマの話だ。確か若い頃は「パム」と呼ばれていて、異界の東大【魔導院】に所属していたと。
魔導院卒の経歴を持つ者は帝国内でも要職に着く事が多く、その確かな実績の為入学テストも最難関の物だと。
なるほど、そんな終盤まで残れるわけだ。魔導院卒のオーマがそこにいたと言う事は、こいつもきっと――――
(なんか昔番長同士が伝説の決闘したとかなんとかで、それから魔導院の中で聖地だって言われてるんだよね。ここ)
「アンタ……もしかして魔導院の”伝説の番長”?」
「えっなんでお前がそれ知ってんの?」
「開発区で迷ってる時に……駐在さんから聞いた」
「あー……うん、そんな風に言われてた事もあったっけ……」
「でもなぁ……あれもなぁ」
あの時聞いた番長同士の決闘の当事者が、まさかこんな近くにいたなんて。ホントにこいつは若、王子、番長と人の上に立つ肩書ばかりだな。
天に愛されし男。持って生まれたカリスマって奴なのか? そう言えば貧民区の連中もコイツにだけは手を出さなかったな……親分もガキも親しげな顔を見せてたのは、そう言うわけか。
なるほどな。テキトーにしてても選挙に受かったって事は、こいつはすでに持ってたんだ。アピールするまでもなく票を入れてくれる”信者”が。
「パムに魔導院の話を聞いたのね」
「ああ。あの人のせいで入試試験が一部変更になったって聞いたよ」
「そうだなぁー……あいつだけは……ほんと……」
この反応から察するに、それはそれは中々強烈な学生時代を過ごしたようだ。
インテリだらけの意識高い系学生の憧れの地、魔導院に入学できたのだからきっと生徒は希望に満ちた日々を送っていた事だろう。
しかし彼らにとって不幸だったのが、その偏差値最高峰の学校に、学校クソ食らえ系生徒も真っ青の、飛び切り危ない”番長”がいた事だ。
(――――ちょっと、そこのアンタ)
(あ? 何お前)
(アタシを差し置いて勝手にここ仕切んないでくんない?)
(いや仕切ってねえし。つかお前誰? 気持ち悪ぃんだけど)
(アタシが誰なのか……体で教えてやるわ!)
(は!? オイここで!? 何魔力溜めてんだよ!)
(食らえオラァーーーーッ!)
(どぁぁぁぁぁぁ-----ッ!)
――――
……
「入学早々いきなり因縁つけられてな……」
「うわぁ」
『完全に頭おかしいわ』
「結局その後二人してあのおっさん……あ、当時担任だった王ね。に、死ぬほどキレられて」
「結局卒業までずっと、目ぇ付けられっぱなしだったっけ……」
「……なんかしたの?」
「成績……入学試験の結果がな、ほとんど僅差だけ、ほんの一点だけ俺の方が上だったみたいで」
「そっからもう毎日因縁の日々なわけよ。”借りは返す”とかなんか意味不明な事言い出して」
『あーなんかやりそうやわ』
「相当悔しかったんだな……」
オーマらしい実にしょうもない理由だ。あんなもんパツイチ合格と豪語していたから、試験基準は軽くオーバーした余裕の合格だったのだろう。
そんな自信有りな面持ちでぶっちぎりトップ……と思いきや、ふたを開ければあらびっくり。自分の名前の上に見知らぬ誰かがいるじゃありませんか。
きっとアイツはその時、青筋を引きつかせながらこう思った事だろう。どこのどいつか知らないが、「アタシの上に立つな」と。
「でも毎日やり合ってたせいで、結局一番仲良かったのはパムだったなぁ」
『喧嘩する程仲がいい?』
「ライバル……に近い感じだったな。少なくとも向こうはそう思ってるだろうぜ」
「ふーん……」
ちなみにその時の成績順位はこいつが一位でオーマが二位。その結果に怒ったオーマが何故か自分の上にいるこいつに目を付け、そして二人して今度は王に目を付けられたと言う訳だ。
そんなにウザイなら無視すればイイ……と一瞬思ったが、オーマに限ってはその手は通用せず、無視すればするほどさらに手痛い嫌がらせをしてくるようになったのだと。
「だってあいつさぁ! 俺の弁当に腐ったキノコ仕込んだりとか、俺の鞄に女子の下着とか突っ込んでくるんだぜ!?」
「そんなんされたらもう、黙ってらんなくね!?」
(鬼……)
そして否応なく争いに駆り出された若様は、挑発に完全に乗っかった形になり、教師の目もなんのその。魔導院の名物と呼ばれるまで日々熱き戦いを繰り返してたそうだ。
卒業までの数年間二人して勝った負けたを繰り返し、時に学業で。時にタイマンで。
その他もろもろ様々な決闘方法で、他の生徒を完全に置いてけぼりにした激しいデッドヒートを繰り広げていたとかなんとか。
入学早々少年漫画ばりのバトルを繰り広げる二人に他の生徒も興味津々だったようで、進級が決まる頃にはすでに魔導院内で”パム派”と”若派”で校内が二分されていた。
そしてその噂は瞬く間に帝都全体へと伝わり、それが後に”選挙”と言う形で大きな影響を及ぼすとはこの二人も露も思わなかったろう。
(今日こそアンタを跪かせてやるわ!)
(へっやれるもんならやってろよ! このイカレポンチのクソアマが!)
(かかって……こいやァァァァァァァ――――!)
――――ワァァァァァァァ……
「あの決闘もなぁ。まぁ、いつものように因縁つけられて呼び出されたんだけど」
「なんかすんげー野次馬が出来てんの。まるでスポーツでも観戦するようにさ」
『番長同士の伝説の決闘って事になってまっせ』
「まぁ、あれはさすがにやりすぎたな。だって、地形変わってたもん」
(よく退学にならなかったな)
そして二人の決着は、ついに決着を付ける事無く卒業を迎えることになる。
戦績は五分と五分。どっちが勝ちなのか、負けなのか、というよりその闘いに終わりはあるのか。どっちが勝っても結局後日負けた方が再戦を挑むのだからキリがない。
それは一言で言うならまるで”戦争”。まさに終わらない争いのエンドレスリピートだ。
故に二人の勝敗はついに魔導院の枠を超え、卒業後の場外乱闘へと持ち込まれる事になる。
「俺はそん時就職活動でいっぱいいっぱいだったのに、アイツが……」
「しつこいなぁ」
「でも、そん時は珍しく向こうから言ってきたんだ。いつもは問答無用で殴り掛かってくる癖に」
『それはそれでどうやねん?』
「”本当に最後の決着を付けましょう”ってさぁ。何事かと思ったら……コレだったわけ」
そう言って若様が軽く手に掛けたのは、腰にぶら下がった三本の六門剣。これが意味する事はつまり、二人の”決着が付いた”と言う証明。
そんな私的な私闘に使っていい物では絶対ないはずなのだが、今更聞く二人でもないわな。
まぁ確かに、最後に相応しい勝負方法だろう。二人して全力で戦えかつ周りに迷惑をかけない、完全に決着のつく勝負方法。
”大魔女VS若様”その最終決戦の勝負方法は――――”王の選別”であった。
「これならシロクロハッキリ着くからって」
『なんつー動機や……』
「その時二人で約束を交わしたの。本当にこれで最後。勝っても負けても恨みなしだって」
「で、結果は……」
「へへ~ん」
そして長き戦いの決着は着いた――――そのドヤ顔をやめろ。おもちゃもう一個壊すぞ。
しかしよく勝てたな。相手はあのオーマなのに。ありとあらゆる”汚い”手を惜しげもなく使うダーディの申し子のようなアイツに、一体どうやって?
『よぉ勝てましたなぁ』
「妨害工作とかめっちゃしてきそうなのに」
「そうそれだよ。それ! それが決め手だったんだ!」
「へ?」
「あいつ、始まる前から言ってたんだよ。こういう勝ち抜きゲーの場合”効率的に勝ち進むには分母を下げればいい”とかなんとか言い出してさ」
「だから、ペーパーテストで頭のよさそうな奴にカンニングペーパーをわざと仕込んでチクって落としたり、体力テストで器具に細工したりとか」
(自作自演……)
「一番えぐかったのは耐久テストだった。マラソンの後半、みんな疲れ切って朦朧としてる時だぜ?」
「その時を狙って”記憶混乱魔法”を散布したんだ。ルートをわからなくさせて、遭難者続出させてさぁ」
『下手したら死人出るやろ……』
「他にもどっからか取ってきた花粉で体調崩させたり、トラップとか魔物とかガンガン放って……」
「結局四番目の試練になる頃には、ほぼ九割方脱落してたよ」
試練を細かく分けるのは振るいを掛ける為なので、脱落者が多いと主催者側は助かるっちゃぁ助かるだろうが……にしても限度があるだろ。
前年比を大きく下回る進出者に選出サイドもさぞ困惑した事だろう。王の選出は断じてハンター試験じゃない。王に足る人物を選ぶ為に行われる物だ。
その時王様はきっとこう思ったと思う。「なんでこいつらはバトルロイヤルをおっぱじめているんだ」と。
『きったないなぁ……』
「で、そこまでやってなんで落ちたのさ」
大魔女VS若様――――熱き死闘の果てに勝利を手にしたのは、この”若様”。
勝者は後にこう語る。「決して楽な相手ではなかった」と。
「だからよ」
勝手知ったる同期の桜。故に二人の実力はほぼ拮抗していた。
どちらに軍配が上がってもおかしくなかった。どちらも死力を尽くして戦った。
辛くも勝利を逃した大魔女の、その敗因は――――
「最後の最後で、不正が全部バレたから」
(バカだ……)
――――自滅。
つづく