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羨望のリフレクト  作者: モイスちゃ~みるく
【序章】視線の先に
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「どうやら、命に別状はなさそうだね」


(まじか……)



 うれしいような、悲しいような、微妙な気持ちだ。

 この微妙な気持ちになる一言を放ってくれたのが、この全身に「白」を纏った人。

 ピシっとした白衣が栄える、所謂お医者さんって奴だ。



 あの後、救急車に乗せられ病院に担ぎ込まれた僕は、目覚めると同時に一通りの検査を受けさせられた。

 やれ骨の損傷がどうだ、やれ内臓に支障がどうとか、色々と不安になるような事を言っていたのを覚えている。

 が、結果出た答えは――――「問題なし」の一言。

 怪我らしい怪我と言えばせいぜい頭にたんこぶができた事くらいか。

 五体満足オールクリア。何なら、「そこらの同学年より健康体なくらい」だと太鼓判を押された次第だ。



「よかったね。明日からまた学校に通えるよ」


(う、う~ん)



 かくして、お医者様自らの口で「帰宅OK」の許可をいただいた次第なのだが……

 どうも腑に落ちないのは何故だろう。

 正直、ちょっと期待していたんだ。

 このお医者さんがドクターストップをかけてくれれば、大手を振って学校をさぼれるし、何より……。



「あの」


「ん? どうした?」


「北瀬さん……僕ともう一人いた人……」


「ああ、君と一緒に運ばれた子ね。安心しな」


「彼女も君と同じさ。全ッ然無事。明日から普通に学校で会えるよ」



 その辺は僕も、しっかりとこの目に焼き付けた。

 芽衣子は、僕が駆けつけた時点でまさに健康そのもの。

 むしろあんな黒煙が立ち上る所で、カンフー映画ばりの激しい棒術を繰り出していたんだから、逆にこっちが驚かされたくらいだ。

 大丈夫どころの話じゃない。何ならむしろ、パワーアップしてた程なのに。



「ま、ちょっとだけ軽目の火傷はしちゃってるけどね」


「火傷……」



 今思い出しても……あの棒捌きは見事なもんだった。

 ありゃ「火事場のバカ力」なんかで繰り出せるような技術スキルじゃない。

 野球やサッカーと一緒だ。昔から、何らかの稽古を詰んでないとできない動き。

 窮地に陥ってならいごとの血が目覚めたのだろうか。

 でも初耳だったな……芽衣子があんな、武術に精通してただなんて。



「で、その北瀬さんは……」


「あれ? 会ってないかい?」


「――――彼女はもう帰ったよ」


(おうふ)



 僕の検査より最も懸念すべき結果を、今この瞬間を持って突き付けられてしまった。

 結果は――――あえなく落選。

 健康と言う名の合格は、反対に芽衣子と「お近づき」になるという点では不合格だったのだ。



「い、いつ?」


「ん~、君が起きたくらいかなぁ」


(そんな前!?)


「ほら、あの子はずっと意識はあったし」



……どうやら、完全にやらかしたようだ。

 僕がタンカの揺らぎに負け、のん気に爆睡こいてた頃。芽衣子は検査を終わらせ、一人さっさと帰宅してしまったらしい。

――――この時点で、僕の淡い目論見は露と消えた。

 およそ人生において数回もない二人きりに慣れた瞬間。

 あの一瞬の再現を、なんとかして今一度と、そう思っていたのに……。



「学校からは連絡貰ってるよ。事が事だから、今日はもうそのまま帰っていいってさ」


「――――今何時だ!?」 



 ふと窓を見ると、ちょうど日の光が黄金色に輝こうかどうかと言う頃合いだった。

 と言う事は……時間にして、大体午後5時を過ぎたあたりか?

 そしてあの事件が起こったのは、午後の授業の途中。

 ちょうどお昼を過ぎたくらいだった。つまり――――。



(寝過ごし……た……)



 なんと言う事だ。

 僕はこの一大事を、事もあろうに”寝坊”で終わらせてしまったのだ。

 これが「丸一日眠っていた」とかならまだ恰好はついただろう。

 しかし蓋を開ければどうだ。僕がやったのは、よくある昼下がりの夢現ゆめうつつ

 これじゃあ単に、ちょっと変則的な「お昼寝」でしかない。



「したらまぁ、そういう事だから。お大事にね」


「お、お大事……に……」



 そうでもなくとも、色々聞きたい事があったのに。

 あのモノクロの事とか、教室の爆発の事とか、アクションスター顔負けの棒捌きとか。

 そもそもあの時、集合せずに一人で一体どこにいたんだとか――――。



(かぁ~~……)



 「同じクラスなんだから話す機会はいくらでもある」。

 そう思いたいのは山々だが、それは現実問題としてほぼ不可能なのだ。

 何故なら、芽衣子はクラスの人気者。常に人だかりが絶えないクラスの中心人物。 

 そんな人物に僕が近寄れる機会があるはずないし、それが校外だったらなおさらだ。

 


(そりゃ会う事自体は簡単だけどさぁ……)



 しかも相手は女子。それらの障害を越え強行突破でもしようもんなら……

 ストーカーと思われて、また病院に連れていかれるかもしれない。 



(精神科には……連れて行かれたくねぇな……)




 可能性は潰えた。

 その事実の直面した今、僕は健康そのものなはずなのに……。

 帰り道が、実に重かった。





――――





……






「……ふわぁ」



 夜、夕食を済ませた僕はベッドに寝転がり、おもむろにスマホを取りだした。

 もしかしたら、今日の件でメッセージがたくさん来てるかもと思ったのだ。

――――が、結論から言うと「そんな事はなかった」。

 あれだけの騒ぎだったのに……ラインには、今日の話題について触れる奴が一人もいない。

 もしかして僕をハブって、別のグループでやりとりしているのだろうか。

 だとしたら、こんな所で結構残酷な事実を知ってしまった形になる。



「まぁ、いいか……」



 一瞬「芽衣子を守ったんだから礼くらい言ってけ」とか思ったが、そんな事はすぐにどうでもよくなった。

 よく考えたら、クラスのラインなんて最初から機能していないのだ。

 最新のメッセージはすでに数か月前も前の物。

 誰かが言い出して誰かが作り、そしてすぐに使われなくなった、まぁネット上の廃墟みたいなもんだ。

 


「……暇だな」



 その代わりタイムラインの方には、ちょっとだけ情報が載っていた。

 一通り目を通せば、一応、学校側としては結構な騒動になっていたようだ。

 僕が救急車で運ばれた後。警察やら消防車やらが次々と押し寄せ、ご近所ではちょっとした「祭り」状態になったそうな。



 消防隊が鎮火を済ませた後は、今度は警察の事情聴取。

 警察が一人一人に話を伺い、それが終わったと思いきや、今度は保護者関係のクレーム処理。

 さらにはどこからか集まって来た野次馬の整理。現場保持。マスコミへの対応等々……。

 そんなこんなで、えらい遅くまで残されたとかなんとか――――

 を、あの飛脚女がマヌケな絵文字付で解説してくれている。



「あ、そうだ」


「ブログの更新しよ」



 そんな大変な目に合ってる学校と比べて、当事者の僕のなんて怠惰な事か。

 母校が混乱に見舞われる中。一人その裏でテレビを見たり、ゲームをしたり、漫画を読んだりネットを漁ったり等々……。

 ああダメだ。やっぱり、とてもじゃないが言えたもんじゃないな。

 肝心の僕が、「いいネタができた」くらいにしか思ってないだなんて。



「謎の怪人が、学校に火を放つっと……」



 今日一日を顧みた結果――――

 確かに通常とは違う出来事はあったものの、四捨五入をすればやはり「日常」だったと判断せざるを得ない。

 割合で言えば3・7くらいか? 総括すれば、いつもの日々に数時間だけ「一風変わったイベント」が起こっただけに過ぎない。

 事件に関しては警察の仕事だし、幸い死傷者も怪我人も出ちゃいない。

 肝心の芽衣子だって、無事その物……

 故に、もうこの件に、僕が出る幕なんてありはしないのだ。



「おし……できた」



 まぁ……いいさ。

 マスコミが来たと言う事は、きっと朝には今日の出来事がニュースか新聞かで流れる事だろう。

 その時に「クラスメイトを救ったヒーロー!」なんて紹介してくれたら嬉しい。



……一つだけ気がかりなのは、あの「モノクロ」とか言う不審者の事だ。

 今日の一件は、ほぼ間違いなくアイツの仕業による物だろう。

 何の目的か知らんが、学校に爆弾を仕掛けるなんてロクな奴じゃないに決まっている。

 そもそもあの不気味な恰好の時点で、まさに変質者そのもの。

 ただちにとっつ構えて、厳重な牢屋にぶち込まねばならぬ類の人種なのは明白だ。



「ん~、寝るかな」

 


 ま、そんなコスプレ野郎のおかげで妄想だけは妙に捗ったがな。

 おかげ様で今日はいい夢が見れそうだ。

 本当に、アイツのおかげで芽衣子と接点が持てた……その点だけは感謝。

 僕に取って、今日と言う日はこれ程はないくらいの「イイ日」だったんだんだ。



 そんなイイ日も、もう間もなく終わってしまう。

 「退屈な日常に一筋の刺激を」――――また明日から始まる退屈に耐えきるべく、僕は今日と言う日を惜しみつつ、眠りに付こうとした。




(ピロリーン)




「ん……」




――――まさに、その時だった。





「……え!?」





――――ラインに、一通のメッセージが届いた。






『江浦くん』






――――差出人は……予想外の人物だった。






「め、芽衣子!?」





                     つづく



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