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祈り

「ふぅ……」


 すっかり日も暮れた静寂の夜、僕は明日に備えてと休息を取っている地竜の背中にゴロンと寝転がり、何をするでもなくただボケーっと夜空を眺めている。

 こちらの世界では夜空を眺める行為など、よほどのロマンチストか重度の天体オタクくらいしかしないもので、興味のない人間にとっては毎晩現れる度にスルーするものである。

 しかし、こんな事がなかったら夜空をまじまじと見つめる機会などなかっただろう。改めて見る夜空には、無数に広がる星々の煌めく光の美しさ。それに正直いささかの感動を覚えている。


「キレーだなー……」


 都会では光が集中している為、夜空を観測するには都会の光が邪魔しない夜中の暗い山奥を大きな望遠鏡を持参しつつ登る必要があると、どこかで聞いた気がする。

 この都会の光どころか人影すらロクに見えない完全なる暗闇の中では余計な光は一切存在せず、星の煌めきをそっくりそのままこの目に移し出す。

 そのせいだろうか、夜空を眺めていると数分に一回のペースで流れ星を見る事が出来た。確か流れ星を見つけた時、三回祈れば願いが叶う。とかいうそれはそれはロマンチックな迷信があったが、だったら僕の願いは何回叶ってたのだろう。と、全て祈り損ねた後でそんな感想が頭をよぎる。

 しかし流れ星を何個見つけようが、土砂降りの雨の様に大量に降り注ごうが、僕の願いはただ一つ。――――芽衣子に会いたい。ただそれだけだった。


「なーに黄昏決め込んでんのよ」


 そう言って夜空を眺める僕を茶化す大魔女様のいじわるな声が聞こえてきた。


「山賊連中はもう全員寝たわよ。寝る時は全員一斉にってルールみたい」


「あんたもそんな吟遊詩人気取ってないで、とっとと寝なさいよ」


 山賊が早々に眠りについたのは、アンタがこき使って溜まった疲労のせいだと心でツッコミを入れつつ、こんな時間まで元気にその辺をウロウロしている大魔女様に、逆に僕もこう聞き返す。


「あんたこそ、どこ行ってたんすか。勝手に動いて迷子にならんでくださいよ」


「なるか。アタシを誰だと思ってんの」


 迷子になった所ですぐに見つかるだろうな、この女なら。狼煙代わりに少々その辺をドカンとやれば、いとも容易く発見できる。


「ったく~、夜行性の魔物に襲われない用に、あんたらを守ろうとしてこうやって夜更かしして頑張ってんのに」


「守る?」


「これよ、これ」


 そう言って大魔女様が指をパチンと慣らすと、周囲から薄らとオーロラのような光のカーテンが現れた。

 下から漂う光の現れる先、地面を見ると何やら線のような物が辺りをグルっと囲っている事に気づく。

 なんとなく何をしていたのかわかった。これは所謂――――


「わかった? アタシの偉大さが。感謝しなさいよ」


 大魔女様は皆が寝静まった頃合いを見て、地竜の背中を降り、一人せっせと”結界”用の陣を描いていたのだ。

 大魔女様曰く、夜を跋扈する魔物は竜や人食い植物のような目に見える怪物の類ではなく、悪霊、怨念、負の思念体……と言った、実体を持たない所謂霊的な物が支配する時間帯との事らしい。

 それらは主に人の精神に入り込んで、自分達の仲間にする――――つまり霊的な存在に変化させようとしてくるのが、主な習性なのだと。


「うわぁ、それはヤダなぁ」


「結界の先をよーく見てごらん。ほら、すでにアタシ達の回りを囲んでるでしょ?」


「え、うそっ」


 よく目を凝らすと、確かに”それ”はいた。

 ヘドロを被ったガイコツのような物や、辛うじて人の顔の形に見えなくもない黒い靄、顔のない白い服の女、赤い服の少女、首のない騎士等々、全員どこかで見たような都市伝説よろしくオカルト全開の連中がそこに集まってきていた。


「お~わぁ~……」


 そのオカルト連中の一人一人に逸話があり、単体でこられると凍てつくような恐怖を感じるのだが……

 こんなオールスター全員集合状態にされると、それは恐怖よりもむしろどこか、滑稽に映る。


「なんか、サーカス団見たいっすね……」


「夜にしか見えないのが惜しいくらいだわ」


 その都市伝説のメインキャスト共は、結界の外で何やら恨めしい言葉を僕らに放っている。

……が、そんな統率なく我が我がとこられると、それはバラエティでよく見るひな壇芸人のようにも見えて、むしろ面白いのだ。

 オカルト相手にこんな余裕があるのは、結界がある安心と、奴らの個性豊かすぎる見た目。

 そしてすぐ横に、奴ら以上のオカルトが存在しているからだ。


「あーもううっさい! 散れ! 寝ろ!」


 と言って大魔女様は、その辺の草で暇つぶしに作った藁人形もとい草人形を奴らの中に放り込み、「それで遊んでいろ」と吐き捨てた後、自分の寝床へと去って行った。

 草人形にはさっそく誰かが憑りついたのか、誰の手も借りず独りでにカタカタと自立歩行をしている。

 本来はホラーストーリーのオチに当たる部分なのだろうが、その一時的な体を巡ってわちゃわちゃと争い始めるオカルト共を見ていると「ああ、争いは醜いなぁ」と世界平和を願わずにはいられなくなった。

 ふと再び夜空を見上げると、また一つ流れ星を発見する事ができた。願いが一つ増えた僕にタイミングよく現れた流れ星の為に、ここは見逃さず、迷えるオカルト共の為に一つ祈りを捧げてやった。



「お前ら仲良く喧嘩しな」



――――……



――――チュン――――チュンチュン



 朝。まぶしい日の出と共に世界が目覚め始める。

 全ての生き物に夜明けは現れる。それは僕ら人間にも例外ではなく、例え世界が違おうと、この日出ひいずる世界の法則は万物に平等なのだ。


「ん……後五分」


 と言って意識が目覚めそうになりつつ地に伏せたまままだ動かない僕の横を、ガチャガチャと山賊達の鎧が擦れる音が四方から聞こえ出す。

 山賊の音が直に一点に集まり、一斉に止まった後、何やら朝礼らしき声が薄らと聞こえる。

 どうせ「今日も一日頑張りましょう」とありきたりな挨拶でも言っているのだろう。

 ああ、本当に頑張って頂きたい。何せ今のお前らは、超が付くほどのワンマン社長に仕えるブラック企業の新入社員同然なのだから。

 しごきに耐え兼ね無断欠席をしないように精々気を付けてく――――


「ふぎっ!」


「あ、ごめん踏んじゃった」


「いーのいーの。そいつが起きないのが悪いんだから」


 横たわっている僕は痛みと言う名のアラームで起こされたのち、いつの間にか大魔女様専用個室になっていた馬車の荷台に呼び集められる。

 地竜が生み出す鱗の布団のぬくもりが忘れられない僕をしり目に、彼らは今後の行進についての綿密な打ち合わせをし始めた。


「姉さん、そろそろこの平原を抜けますぜ」


「”アルフォンヌ山脈”かぁ。地竜の足で大丈夫?」


「道を選べば渡りきる事は可能ですが……問題は地竜の体力がもつかっすね」


「さすがの地竜も山道を延々と登るのはしんどいっすよ」


「そうね……うーん」


 何やら深刻そうな面持ちで会議を始める連中に事情を全く飲みこめてない僕は、それが空気の読めない質問だとわかりつつ、知る権利を行使し一つ質問を投げかけた。


「あの、どうしたんっすか」


「山越えですよ、アニキ」


「あんたがそれを知った所でどうにかなる話じゃないから、とりあえず寝てて」


 眠気はまだ残っている為寝ろと言われればすぐさま二度寝は可能だが、このハブにされている感じにイラっときたので、そこは譲らず「プリーズプリーズ」と連呼しておいた。


「アニキは朝が弱いタイプですかい?」


「ただ寝ぼけてるだけよ。しょうがないわね……はい」


「これ、そこの怒髪天に渡してあげて」


 どは……そうか、朝シャンなどこっちに来てからやってなかったな。

 ふと頭を触ると髪が至るとこでで逆立っている。せめて鏡が見たい所だが、大魔女様が渡してきたのは鏡ではなく、古びた一枚の紙であった。


「あ、これ……地図だ」


「そ。バフールでもらった物の一つ。古そうに見えて実は最新版よ」


 なるほど、確かに最新版だ。地図を見渡すとほぼ空白になっている森がある。

 こいつが軒並み吹き飛ばしたあの可哀想な森だ。そこからやや南東に進んだ所に街の記号がある。なるほど、これがバフールの街だな?


「で、アニキ。今俺たちゃこの辺にいるんですがね」


 山賊が指差した場所。そこはバフールから北東に当たる場所。街と指の間にはこれまた広い空白がある。

 ここが昨日山賊達と会ったあのだだっぴろい平原か。


「この平原は”ラサーン平原”て言うんですがね、俺らは今そこを北東に進んでるんす」


 そう言って山賊はさらに指を進める。

 現在位置からさらに北。そこに目を移すと――――そこにはとげとげしい三角柱がたくさん並んだ針の様な地帯があった。


「山……ですか」


「”山”じゃなくて”山脈”よ。もしかして違いがわからないとか言い出すんじゃないでしょうね」


 失礼な。山と山脈の区別くらいわかる。地理の授業で習ったんだ。ええと……その……つまり……


「これから向かう所は”アルフォンヌ山脈”って言いましててね。帝都に向かうにはここの山越えが必須なんす」


「ほらここ、見て下せえ。山を越えた先にある大きい街の記号。これが帝都っす」


「ほぉほぉ……」


「ですがアルフォンヌ山脈は登山難度が非常に高い事でも有名でして……」


「登山に難易度とかあるんすか?」


「え、いや、そらありますよ……」


「無知にも程があるでしょ、アンタ」


 登山の趣味などない僕は、精々遭難して三日三晩飲まず食わずで耐えたとか、お酒の入ったチョコで体を温めるとか、寝たら死ぬとかそういうベタな知識しか持ち合わせていない。

 そんな荒行みたいな文化、寺の坊さんくらいしか存在しないんだよ。


「アタシらはともかくアンタが持つかが疑わしいのよ」


「失礼な。地竜が運んでくれるなら大丈夫でしょ」


「あの、アニキそう言う事じゃなくて」


 山賊曰く山を登る際に気を付ける事は、まず遭難の危険性と、急斜面を登り続ける体力。そして高山病に代表される様々な病気の三つだそうだ。

 この三つの内二つはクリアできている。地竜の体力と地元民のナビゲート。それは彼らが証明している。だが山登りでかかる病気とは一体なんだ?

 寒いから風邪をひきやすいとか、食糧を無駄に減らさない為に昼を抜くとか、そういう事だろうか。


「山ってね、標高2400mを超えたあたりから空気の層が著しく薄くなって、その低酸素下の中に長時間いたら、人体に様々な障害が起こるのよ」


「高山病って奴っす。アニキ聞いたことないっすか?」


 高山病……名前だけなら聞いたことがあるが、内容までは知らないな。

 おっと、また無知だのなんだの言っていちゃもん付けないでくれよ? 僕は登山家じゃないし、将来なる予定もない。

 だからそんな知識、僕には必要ないのだよ。


「じゃあささっと渡っちゃえばいいじゃないっすか」


「それが出来たら苦労はしないっつーの」


「うーん、アニキにはなんて説明すればいいか……」


「なんで? 地竜が入ればすぐでしょ」


「オーケイ、まずそこから説明しましょうか。この怒髪天無知野郎の為に」


「あ、はい、そっすね」


 この悪意ある命名に山賊が同意した気がして少しイラっときた。

 もう無知でもなんでもいい。気が済むまで存分に説明してくれ。ちゃんと聞くから。


「高山病の説明はさっきしましたよね」


「え、うん。標高2000mからだっけ?」


「アルフォンヌ山脈の標高、ご存じです?」


「え……そんなの知らないよ」


 登山以前にこの世界そのものが初見だと言うのに、ったく。

 ええと、世界一高いエベレストの標高が確か8000mくらいだったっけな……だから……


「5~7000mくらい?」


「……真面目に答えてくれませんか」


「いやいやいや! ふざけてないよ! だって、世界一のエベレストが大体8000mでしょ!?」


「エベレストって何よ」


「アニキの中の山のイメージって一体……」


 ええいうるさいな! 僕は毎年夏は海外で過ごすセレブじゃないんだよ!

 そこまで言うなら速く答えを言ってくれよ! 段々本気で気になって来ただろ!


「……そのエベレストとやらの、3,4つ分くらいって所かしら」


「そんなもんすね」


「えっまじっ。やっぱこっちの山は広いんだなぁ~」


「まーたなんかアホな勘違いしてるっぽいわね……」


 そう言うと山賊が不意の僕に近寄り、ボソっと耳元で囁いた。


「アニキ……”縦に”っす」


「……」


「ええッ!?」


 た、縦って、それ、ええっ!? えっと、エベレストが8000mの×4って事は……


「標高3万2千オーバー……」


「ま、キッチリ計ったわけじゃないけど」


「アニキ、後ろを見て下せえ。実はさっきからもう見えてますよ」


 そう言われて後ろを振り返ると、空の青さにと昇る日光に融け込んだ、先の見えない”壁”がそこにはあった。

 夏の入道雲と見間違えるようなその光景は、あまりの存在感に逆に山と認識する事が出来ないほど、雄大で、高く、大きく、眼前にそびえ立っていた。


「……アレ?」


「そ、アレ」


「……回り道とかできないんすか」


「山脈だっつったでしょーが」


 そしてもう一度地図に目を配る。

 山の麓を結ぶ線は、現在地からずーーっと南東に下った、指でなぞるだけでも数秒はかかる、今までの行程のさらに何倍はあろうかという距離に、ようやっと山の途切れを確認できた。


「迂回ルートを選ぶとしたらどのくらいかかるかしら」


「そうすねぇ……地竜の足で……」


「大体七日、八日って言った所ですかいねぇ」


「”順調”に進めればね」


 7,8日って……ほぼ丸々一週間じゃないか。

 じゃあ何か、一週間もこの竜の背中で過ごせと言うのか。

 しかも順調にって、なんだその前置きは。それじゃあまるでトラブルに見舞われるのが当たり前みたいな口ぶりじゃないか。


「えっと、確かここから南は……」


「毒の沼、骸の街、廃人横丁、ホラ吹き砂漠。寄生遺跡……と後……」


「それらを超えて帝都側に回れば、今度は巨大生物の住処ですね」


「そうだった。ええと……なんつったっけ……変わった名前の……」


「巨人保育園っす。姉さん」


「そうそう、それそれ」


 なんだその普通の単語におどろおどろしい形容詞を取ってつけたようだけのネーミングは!? なんでもかんでも継ぎ足せばいいってもんじゃないぞ!?

 それになんだ、前半は大体の想像がつくが後半はまるで意味がわからん。なんだよ巨人保育園って。大きなお友達がマグマをプール代わりにして遊んでいるのか!?


「だから、山越えはむしろ安全なルートなのよ。しんどいだけで特に脅威はないしね」


 そのしんどさが一番の脅威なんだよ。ブログで見たぞ。エベレストですら毎年何百人の遭難者が出てるとな。

 死体が道しるべになっているような山だぞ? その4,5個分って、それもう頂上は宇宙空間だろ。


「帝都直々の勅命なんでしょ? あんまりチンタラしてるのもどうかと思いますぜ」


「あんまり待たせて元老院に変な疑いかけられるとか、アタシやーよ」


 大魔女様曰く、僕がテロリストと知り合いだから匿おうとしていると疑われる可能性があるとの事らしい。

 いやいや、勘弁してくれよ。平地のマラソンですら3分で根を上げる僕だぞ? そんな標高何万mの空気の薄い所で、オリンピックランナーレベルの高地トレーニングみたいな事なんてやったら、僕はその場で倒れて二度と起き上がらないかもしれないんだぞ?


「ほんと、お荷物だわー……」


「姉さんどうします? あっしらは山越えとか結構慣れてますけど」


「アニキはどう見てもそんな風には見えませんぜ……」


 じゃあむしろどんな風に見えるのか、聞きたい。そこはかとなく聞きたい。


「しょーがないわねー。じゃあ麓に付く前に、こいつ用の薬草類を探しましょ」


「ここから少し進んだ場所に、草木が生い茂る小さな雑林がありますぜ」


「じゃ、そこへちょっと寄り道しましょうか。寄れば何かしら生えてるでしょ」


「山越えまで持てばそれでいいわ。図鑑貸すから、それっぽい物があったら片っ端から持ってきて頂戴」


『へいッ!』


 それは後遺症や後の生活の安全の保証を考慮した上での”持つ”なのだろうな?

 下山する頃には植物状態になっているとかないだろうな? いやだぞそんなの。山をなめてはいけない。山は怖い。山はおっかないんだ。


『姉さん、もってきました!』


「ご苦労。ええと……ほっとんどただの雑草ね」


「まあいっか。この調子でドンドン持ってきて」


『へいッ!』


「えーっと、じゃあまずはこいつらをすりつぶして……」


 そう言って大魔女様は、ほとんど雑草と判断した草類をすり鉢状の入れ物に某ラーメンよろしく、ましましと山盛りにつぎ込み、どう考えてもその辺で拾った木の棒でぐちゃぐちゃと雑に混ぜ込んでいる。

 何をしているのかは大体わかる。魔女の調合薬……と言う割には、あまりに毒々しいヘドロ状に変貌した雑草を見て、これを登山の前に飲まされるのか。

 はたまた血管に直接注ぎ込まれるのか。それとも逆の口から入れるタイプのアレなのか。

 そして何より、それを飲む事でどんな効果が生まれるのか……一抹の不安が脳裏を過る。


「これは……ええと……まぁ、いいか!」


 ふとチラリと大魔女様の横を見ると、調合のレシピに使うのであろう草の図鑑らしき本が置かれている。そして開かれたページには、ハッキリと”ドクロ”のマークが描かれているのが見える。

 ……さっきそれに似た草が混ざっていと思うのだが、気のせいか。

 そして大魔女様はついに鼻歌を流し始められ、僕の安否を気遣っている(と信じたい)薬の調合に精を出し始められた。

 山賊の手によって次々と運ばれる雑草をロクに見る事もなく、鷲掴みで次々とつぎ込んでいき、それはそれは楽しそうに次々とヘドロを生み出す大魔女様を見て「これは絶対になんらかの障害が残る」と確信めいた勘を抱きつつ、毒草よりもそれを中和するだけの薬草が多く配合される事を神に祈るのみである。

 それはトランプのババが回ってこない様に、パックの中にダブリカードが入っていない様に、レアガチャを引けるように。


「あ……」


 ここで一つ後悔が過った。願いは一つだけと言ったが全面的に撤回しよう。

 そう、願いはもう一つ残っていた。もし夜まで生き残る事ができたなら、もしまたあの流れ星を見る事が出来たなら、今度は見逃さず、こう祈ろう。



――――無事帰れますように。と



                                       つづく





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