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羨望のリフレクト  作者: モイスちゃ~みるく
【序章】視線の先に
3/169

 

 ド ォ ッ ――――!




「――――おわぁッ!」



 突如、僕の耳をつんざく程の轟音が届いた。

 同時に床がグラグラ揺れ、天井からはパラパラと何かの屑が降り落ちて来る。

 ガン――――直後、僕の頭に鈍い痛みが走った。

 ぶつけたのは壁。当たったのは頭頂部。

 何てことない。揺れる床に足を掬われ、僕の方から壁へぶつかって行ったのだ。

 


「あ……てぇ~~……!」


「なんなん……だよ……もう……」



 「地震」――――一瞬だけそう思った。

 日常ではまぁまず体験する事のない振動が、僕の身体を強制的に動かしたからだ。

 だが、それは間違いだったとすぐに気づく事になる。

 頭の痛みもさることながら……それ以上に漂う”焦げ臭さ”が、僕の鼻へと飛び込んで来た事で。 



「爆……発……?」



 耳を貫く轟音。地震と間違う振動。

 それらの正体は――――”爆発”でしか、ありえなかった。

 一体何が? どこで? 何で? 

 理由はわからないが、どうやら校内のどこかが爆発した事は確かなようだ。

 


 その証拠に、止まっていたはずの非常ベルが再び鳴り始めた。

 ジリリリと再びこの校舎に鳴り響くベルは、言うなれば「警報」。

 さっきみたいに、すぐ消えるような訓練用の作動ではない。

 ベルはいつまでも鳴り響く――――”本物の異常”を知らせる為に。



「…………!」



 そんなベルの音を耳を澄ませて聞いてみた結果。

 ベルの鳴っている方向は、”上から”だとわかった。

 そして音の遠近から察するに、すぐ上階の2階からではない。

 だとすれば3階。いや、もっと上――――それはつまり。



「僕らの教室……!」



 嫌すぎる予感が、いよいよ本腰入れて現実味を帯びてきた。

 姿を見せない芽衣子が、多分この辺にいるだろうと予想できる範囲。

 それと非常ベル――――すなわち、爆音が発生した範囲とが”ピタリと一致”するのだ。



「ウソ……だろ……」



 一体何がどうなってそうなったのか、本当に皆目見当がつかない。

 テロ? 戦争? 隕石? 宇宙人襲来?

 幻想入り混じった様々な疑問が、僕の脳裏を過っては消えた。

 だが……一つだけ。唯一一つだけ、ハッキリとわかる事があったんだ。

 それは脳裏に渦巻く疑惑の中心点――――「今、芽衣子が危ない」と言う事だ。



「芽衣子……!」



 避難訓練がまさか本当に避難になってしまうとは、一体誰が思っただろう。

 いつ何時何が起こるかわからない。

 そういう意味で、やはり避難訓練はしとくべきだと、つくづくそう思い知らされた。



――――だが僕は、結果として避難とは真逆の行動を取る事になってしまう。

 校内から突然の爆発音。そしてその中に芽衣子がいる事。

 そして今芽衣子は、身動きが取れない状態だと予想される事。

 これらの事象を顧みた結果、導き出された答えは――――




「待ってろ……今、行く!」




――――一つしかなかった。





――――





……





「――――ウッ!」



 学校の階段を全速力で登るなんて、何気に初めての事だった。

 普段だらだらと登っているだけに、本気を出せばこんなに速く到着するのかと、少しばかり感動を覚える次第だ。

 だが残念ながら、そんなささやかな感動はすぐさま覆いつくされる事となる。

 到着した途端、目前に現れた――――ドス黒い黒煙によって。



「煙……」



 これもまた、初めての事だった。

 普段目にする煙とは、料理の時に出る煙。もしくはたばこ。もしくは熱い飲み物が出す湯気……

 それらのように、日常に現れる煙はほとんどが「白」である。

 しかし煙は、もう一色あった。それは平穏な日常とは真逆の意味合いを持つ黒煙。

 平穏と言う物を破壊する「漆黒」が、まるで僕を手招きするように眼前を漂うのだ。



「この中に……いるのか……?」 



 階段を登る途中。そこで見つかればよかったのだが、やはり芽衣子の姿はそこになかった。

 自力である程度脱出してくれていれば幸いだったのだが……

 それがないと言う事は、今の芽衣子は”それすらもできない状況”だと言う事を表している。



 ゴォォ…………




(くっそ……!)



 黒煙は、死の臭いを発していた。 

 焦げ臭さを有に飛び越えた――――死を誘う誘惑の香り。

 僕はその臭いを断つべく、とっさに口を塞いだ。

 見よう見まねだが、黒煙と言う物は「吸い込むとヤバイ」と、いつか何かで知ったのだ。



(……いくしかねえ!)



 だが僕は、それでも死の臭いの中を進む。

 こうやって煙に「何らかの対処」ができる僕とは違い、この中にいるであろう人物はそれすらもできないのだ。

 あれだけの爆発だ。僕だって不意に頭をぶつけたんだ。

 似たような事が芽衣子に起こって、その結果「気絶」してしまった可能性大いにあり得る。

 そして塞ぐ物もなくあけっぴろげな芽衣子の気管へ、死の臭いは、これ幸いと忍び寄る事だろう。



(させっか……よ……)



 太陽を遮る雨雲のように。紙を塗りつぶす鉛筆のように。

 今まさに光を埋め尽くさんせんとする、この漆黒の侵食。

 忍び寄る黒は、白を覆いつくす事を十分可能にするだろう。



――――だが、まだ間に合う。

 黒を払いのける事ができれば、光は消えやしないんだ。

 例えこの黒が死出の手招きだったとしても、この光は絶対に消させない。

 それは僕が、命を賭すに値する、唯一無比の一筋の光。

 


(影――――)



 白に対する黒はお前じゃない。”この僕だ”。

 光の裏にある影は、一人だけでイイ――――それが僕の、”現時点での”最も強い渇望だった。




(………………ァッ!)




――――奴がそこに、現れるまでは。





(パァ――――……ン)




「――――ッ!?」



 爆発か熱の影響なのか。バリンと勢いよく爆ぜたガラス片。

 それは一目見てすぐに、教室の窓ガラスだとわかった。

 全国どこの学校にも付いているだろう、何の変哲もない窓ガラス。

 だが、そこから現れた者は――――言葉で言い表す事すら、できなかった。



「…………」



 「ソレ」は、辛うじて人”らしき”形を成していた。

 縦に伸びたシルエットは、一応は二足歩行のそれに見受けられる。

 だが、それが”生き物なのかどうか”なのかの判断ができなかった。

 全身を黒いマントで覆われ、顔の部分には白い金属質の仮面。

 そしてその頭上にはまた黒い帽子ハット――――と、白と黒でのみ構成された「ソレ」



「ンナ棒切レデ、ヤラレルト本気デ思ッタカヨ……」



 何よりも、今「ソレ」が発した一言。

 それは人声からは遥かに遠い、まるで自動再生される「機械音声」のような声だったのだ。

 そんな得体の知れぬ「ソレ」が何故こんな所にいるのか。そもそもな話、「ソレ」は一体何なのか。

 この場の黒煙が白黒の「黒」と妙に馴染み、結果、余計に人外感を印象付けてくれる。



(なんだ……あいつ……!?)



 無理に何かに当てはめるとすれば――――「人」と言うより「人形」に近い。

 言うなれば、等身大サイズの「人型造形物」と言う表現が、やけにしっくりと来た。



「元気スギルッテノモ、考エ物ダネ」


「肩肘張タッテ、シンドイダケナノニサ」


 

 そんな白黒の「ソレ」が何かを呟いきながら、マントに付いたガラス片を払い落としている。

 上手く聞き取れないが、口調ニュアンスからして、呟きと言うよりボヤキに近い物だ。

 とすれば……この白黒仮面に取って、ボヤきの対象がこの場にいると言う事になる。



(ま、まさか――――)



――――現れ方も”何かから逃げるよう”だった。

 不意に割れた窓ガラス。爆発の影響ではなく、もしかしてこいつがカチ割った……のか?。

 ではこの、今教室の窓ガラスをぶち割って飛び出して来た白黒仮面。



 の、中に――――”もう一人”誰かがいる。

 

 



(芽衣――――)





 それは





「 だ ァ ー ー ー ー ッ ! 」






――――よく知る人物の、雄たけびだった。






                     つづく





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