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百二十九話 鮮明



――――ドン パン パララララ



「…………」



 僕は今、夢を見ている。

 その夢はやけに鮮明クリアで、光景の全てがまるで映画のように流れていくんだ。

 そしてその鮮明さは僕自身も同じ。

 思考も体も、夢でありながら全てが僕の思いのままに動かせる。



 例えるなら、まるで仮想現実ゲームの中に入り込んだ様な感覚……。

 だがしかし、実はそれ自体はなんら珍しくもなかったりする。

 多分僕以外にもいると思う。

 たまにあるだろ? 目覚める前の所謂明晰夢めいせきむって奴だ。




――――ウォォォォ…………




――――ギャァァァ…………




 起床後も夢の中の出来事を覚えてる事。きっとみんなにもあると思う。

 だが……こっちは多分僕だけだだろう。

 目覚める前から、この夢は「きっと記憶に残るだろう」と予期する事なんて。



 その理屈は至って簡単だ。

 今いるこの場所、風景、音、その他諸々の情報。

 そしてその先に起こる光景。

 いや、特定人物の所業と言うべきか。



「死ねェェェェェ!」



「「ウァァァァーーーーッ!」」




 その全てが――――いつか見た夢の、続きだったから。




(…………)



 花の生い茂る川のその向こう岸。

 そこで”思いを寄せる女性と非常に似た人物”が、凶器を手に持ち人々に襲い掛かる夢。

 逃げ惑う姿も命乞いの言葉もまるでお構いなし。

 溢れる殺意を具現化したような禍々しい表情。そして気が触れたかのような雄たけびで持って……。

 銃を、剣を、その手に持つすべての凶器を、無抵抗な人々に突き立てる。

 そんないつか見た夢と、同じ光景。



「貴様ら魍魎に侵されし我が身、さりとて我が心、未だ潰えぬ」


「潰えてなる物か! 我が意思ここにある限り、此岸穢れに埋める事叶わぬと知れ!」


(…………)



 なにより悪夢なのは、その殺人鬼のモチーフが”よりにもよって”な人物である事。

 無駄に鮮明な分、余計にその光景は脳裏にこびりつく。



 お世辞にも吉夢とは言えない。紛れもなく悪夢と呼ばざるを得ない夢ではある。

 が、一つだけ希望があった。

 それは夢でありながらただ一人、”僕だけが”自在に動ける事。

 言い換えれば、夢を自分自身の手で終わらせられると言う事でもある。



(いい加減に……しろよ……)



 そうと分かればやる事はただ一つ。

 この実に胸糞の悪い夢の元凶を、ここから追い出す。それしかない。

 川の対岸にいるその元凶に向かって、歩き、泳ぎ、忍び――――。

 そして無事たどり着いた暁には、力いっぱい掴み上げて、二度と現れないようこの川に突き落としてやろう。

 そう、思った。




(なん…………)




 そうすればこのひどい殺劇もきっと終わるはずだ。

 そんな直感と確信で持って、僕はついに一歩を踏みしめた。



 だが――――僕はその行動を、結局”最後まで叶える事は出来なかった”

 自分ぼくだけが自由なはずの自分の夢の中で、特定行動まえにすすむだけ取れなくなるその理由。

 それは、至って単純な話だ。

 前に進もうとする僕のすぐ裏。すなわち、僕の背後から――――。




(だよ…………)




 人の形を模した黒い靄が、僕の肩に手を置いていたから。





――――





……





「 起 き ろ ! 」



「――――たぁい!?」



 起こしの咆哮を極大の音量で聞かされたアルエは、まさに飛び起きると言う表現が似合うように、ガバリと上体を撥ね起こした。

 そしてその直後、瞼を開いたアルエの目に飛び込んで来た物。

 乾いた大地を踏みしめる、いやに”黒ずんだ”革靴である。



「ったく……こんな時によくのん気に寝てられるわね!」



「――――???」



 その黒ずみは靴のみならず、まるで持ち主の身体を這うように上へと登っていた。

 足元から段々と昇る黒ずみを、アルエは無意識にその目で追う。

 靴から始まり足、腰、胸と――――。

 そして首元を通り過ぎて直、靴の持ち主の顔貌がその目に映る頃。



「…………」



「何? なんか文句ある?」




 靴の持ち主の顔をハッキリと視認した後――――一言、こう呟いた。




「――――どちらさんっすか!?」




 煤けた靴の持ち主は、オーマ”っぽい”誰かであった。




「は? 何? まだ寝ぼけてんの?」


『ねーさんちゃうちゃう。髪よ髪』



 アルエが誤解を招くのも、当然であった。

 今までオーマをオーマと認識していた特徴の一つ。

 陽の光を反射する程に明るい白金の髪が、全て「自分と同じ黒」に変色していては、それも致し方ない事である。



「あー、これね」


『イメチェンしすぎやて。わいかて一瞬誰かわからんかったし』


「オーマ……なのか……?」



 オーマの姿は、誰が見ても”一瞬だけ”錯覚するほどの変貌を遂げていた。

 黒に染まった髪色もそう。

 鮮やかだった瞳の蒼は色が抜けた様に茶色く変色し、加えて全身に見られる煤けた黒ずみのせいか、肌色までもが微妙な変色を見せている。



 白い肌が濁る事で滲む微かな黄色み。加えて茶色い瞳。そして黒い髪。

 その姿にアルエがオーマに感じた第一印象「海の向こうの人っぽさ」はどこにも存在せず、あるのはどこにでもいそうなただの「歳の近い女子」でしかなかった。



「何よ、たかが髪色変えたくらいでうろたえちゃって、バッカじゃないの」


「声でわかんでしょーが声で」


(わかるかっつーの)



 しかしながら、それでもオーマはやはりオーマであった。

 本人も言う通り、発する声からうかがい知れる乱雑な口調。

 その根源となる「性格」からして、目の前の人物は、紛れもなくオーマ本人であると判断せざるを得ない。



『これな、ねーさんが自分に掛けた魔法なんやと』


「魔法…………?」


「【魔法制限マギャ・プレデェル】――――その名の通り、魔法を制限する魔法」



 そんなオーマの性格は口調や態度のみならず、持ち前の魔力にも顕著に現れていた事を、アルエは今一度思い返す事となる。

 【魔法制限マギャ・プレデェル】。

 そう名付けられた、オーマが自らに掛けたと言う魔法の内訳で持って。



「なに、それ」


「こう、自分で自分に鍵をしとくのよ。一日に使う分の魔力をさ」


「鍵だぁ?」



――――魔法を制限する為に生まれた魔法。

 その由来は魔法学上において「妨害系魔法」に属す。

 「妨害系魔法」の起源は元来他者の魔法を何らかの手段で封じる用途が主であり、その派生として時を経る毎に睡眠、毒、麻痺等の様々な状態異常を他者に付与する形へと発展を遂げた経緯がある。



 しかしその発展も、今は昔の話である。

 長い年月の中で発展を遂げた「妨害系魔法」は同じく「対を成す魔法」の進化と平行し――――そして今。

 完全な対処法が確立された【古代魔法】の一つとして、もはや魔導院の教科書に載る程度の「歴史の一部」と化した。



「で、万が一その設定した分の魔力を越えたら、自動的に鍵がかかるようにしたの」


「超えた分の魔力が回復するまで、使える魔法に制限ロックかけてね」


「はぁ…………」



 そんな遥か昔の異物と成り果てた妨害系魔法。

 が、さらに長い年月の後に、”今一度日の目に当たる事となる”。



――――在りし日のオーマは、他者に向ける為の魔法を「自分に向けたらどうなるのか」に着目した。

 それはあくまでオーマの個人的な目的の為であり、言うなればただの思い付き。

 その行いに廃れ行く古代魔法を庇う気持ち等あるはずがなかった。



「見た目の変化はその副作用って所ね。ま、アタシは対して気にしてないけど」


「それよりも眠気の方が……こればっかりは、どうにもならないから」



 しかし結果として、古代魔法は見事復刻を果たす事になる。

 ただ古いだけの魔法が、大魔女と言う存在を介すことで【魔法制限マギャ・プレデェル】と名を変えて。

 そして現在、オーマの莫大な魔力をさらに大きく膨らませる【大魔女専用魔法】として。

 


『あー、だから爆睡してたんか』


「どうりで、起きないと思ったよ……」



 自分の魔魔力に鍵をする改変古代魔法・【魔法制限マギャ・プレデェル】。

 その効果は術者本人の魔力使用量に制限を設け、その制限を超えた魔力を消費した場合、越えた分が回復するまで”魔力消費が必要最低限に制限される”魔法である。



 特徴として、制限が発動すると、その状態を体現するかの如く術者本人の「色が抜ける」。

 そしてもう一つの作用。制限開始の起点として、越えた魔力に比例した「眠気に襲われる」と言う事。



「一気にブワっと来たからね……大分オーバーしてるっぽいわ」


「……げ! やっぱり大分オーバーしちゃってる!」



 故に先刻舟の甲板で起きた、オーマの微動だにせぬ熟睡。

 加えて急激な髪の染色――――もといイメージチェンジは、その実なんてことない。

 ただ本人が、自らの意志でそう仕向けたにすぎなかった。



「つかお前も人の事言えねーだろ。いくら起こしても起きなかったくせに」


『てか、それ』



 魔法制限マギャ・プレデェルはさらに、二次作用的に、本人オーマすらも曖昧になる「量の計算」をも生んだ。

 オーマ持つ元来の魔力量と、そこに加える制限魔力量。

 そして実際に使用した魔力量。並びに越えた分の量。

 さらにはそこから算出される、制限下での魔力量。及び回復までの猶予時間――――。

 


「くっそーやっぱり! あのバカ王子が六門剣なんか振るったから……!」


「秤だったのか……」



 複雑で面倒な魔力の計算。しかし全体を把握せねば支障が出るのは当の本人。

 そこでオーマは、それらの複雑に入り組んだ計算を一目見てわかる「値」に表すべく、魔法制限マギャ・プレデェルをとある物にリンクさせた。

 誰かから奪った物ではない。衣服と並んで唯一とも言えるオーマの私物。

 数を刻む物――――その手に持つ【懐中時計】の中に。



『あっほんまや。今の時間と全然違う』


「これがその、例の鍵か?」


「そーよ。アタシの懐中時計は、時間じゃなくてアタシの魔力を数える為の物」


「ほら見てよこれ。おかげ様で、当分このままよ」


「見方がわかんねーっての」



 「オーマの時計は時を刻まない」。刻むのは、オーマの中にある魔力である。

 本人の口から出たその言葉に何ら偽りはなく、事実、懐中時計は現在時刻とはまるで異なる時を指し示している。

 「その逆さに動く針が現在時刻と大きく離れる程、設定魔力をどれだけ超えたかを示す」とはオーマ談。

 懐中時計の示す時刻は4時48分付近。

 無論実際の時刻とは大きく剥離しており、そしてその剥離具合はオーマが思わず雄たけびを上げる程である。


 

「も~~~~! あの王子バカさえちょっかいかけてこなければ~~~~ッ!」


「うるせー自分でやった事だろが」



 あの時あの場面。

 「王子コーミンの放つ六門剣の斬撃に対抗するには、オーマが自らの魔力を解き放つしか術はなかった」。

 オーマのそんな決断があったからこそ、無事帝都から脱する事が出来たのは紛れもない事実である。



 しかし――――それはそれ、これはこれ。

 アルエの言う通り、オーマが目に見える程の制限を受ける羽目になったのは、単なる自業自得である。

 


『いや、ていうかさ』


『そもそもなんでそんな縛り掛けるん? そんなん自分がしんどいだけやん、それ』


「それは…………」



 そんなアルエの気持ちを代弁するかのように、スマホから本人に鋭い指摘が入った。

 「最初からそんな魔法を掛けなければ、そんな目に合わなかったのに」とは誰もが思う疑問だろう。

 「莫大な魔力を要しながら、それを自ら封印するかのような所作に意味はあるのか」。

 その質問は至極真っ当な疑問である。



「…………」


『なんか……理由があるんか?』



 質問と同時に押し黙るオーマを見て、スマホは内心「聞いてはいけない事を聞いてしまった」と自責の念に駆られた。

 そんなスマホの察知通り、オーマの制限には確かな理由があった。

 確かで確固たる、何者にも覆す事の出来ない大いなる理由。

 それでいて人に話すにはほんの少しだけ”恥ずかしい”秘めたる理由ワケ



(どうせこいつの事だから…………)



 そんなオーマの気持ちを代弁するかのように。

 この場で唯一その理由を知るアルエが、そっと口を開いた。



「あのな、こいつな…………」


『…………マジ!?』



 その結果として生まれたのが――――隠すのもやっとな「お察し」な面持ちであった。



『あー…………魔王と勇者の物語ってそういう…………』


「だって前にそう言ってたし。お前が来る前な」


『ほーん…………』



 オーマが自らの魔力に制限を掛けるその理由。

 それはアルエの世界で言う「貯金」に近い物であった。

 言うなれば将来へ向けた自分の投資――――ただし溜めるのは、金ではなく魔である。



「何よ。何うそぶいたのよ」


「何ってか……じゃあ逆に聞くけど、縛った分余った魔力はどこへ行く?」


「そんなの、決まってるじゃない」



 アルエは知っていた。

 それは例え姿は変われど、オーマをオーマ足らしめる最大の特徴である。

 乱雑で自分勝手であり、調子に乗って自爆する事も多々あるオーマの性格。

 しかしその反面で、オーマの身勝手さに享受を受ける者も存在するのを、アルエは我が目で見届けた。



 良くも悪くも「我が道を行く」スタイルのオーマである。

 ではその道は一体どこへ続くのか――――。

 それはいつか大魔女が漏らした、目指すべき自分の終着点である事を、アルエは知っていた。



「こ・こ!」


「ほらな」


『ただの節約やんけ……』



 「制限された魔はどこへ行く」――――この問にオーマは、自分を指さす事で答えた。

 制限するのも消費するのも、どちらも結局は自分の魔力。

 だったら後は「いつ使うのか」でしかない。



 そしてその「いつ」はもう決まっている。

 将来の自分の為――――すなわち”オーマが魔王として世を圧巻する”その時まで。

 答えは最初からただ一つしかない事を、アルエはすでに知っていたのである。



「まぁ最初はアタシも、色が変わるのにびっくりしたけどさ」


「でも、どうでもよくない? 別に丸々別人になっちゃうわけじゃないしさ」


『むしろそっちの方がこいつにはお似合いやわ』


「でしょ。しかもほっとけばその内戻るし」



 此度のオーマに降りかかった色の変貌も、結局はそれと同じである。

 金髪のオーマも黒髪もオーマも、どちらも同じオーマでしかない。

 見た目の変貌は、イコール存在の変貌とはならない。

 それがたかが髪色ならなおさら。

 仮に顔貌そのものが変わろうと、あらゆる魔法を知り尽くしたオーマなら、それも些細な事である。

 


「そーだな。似たような事は毎年夏に体感するわ」


『そして新学期になれば一斉に元に戻ってるって言う』



「――――ていうか! そんな事よりも!」



(なんだよ……)



 オーマは続ける。

 見た目の変貌は時と共に解決する――――しかし”心の変化はそうもいかない”。

 「一度心に加わった変化は時に風化する事無く残り続け、半永久的に消える事はない」。

 オーマの突然の口上に呆気にとられるアルエであったが、しかしそんな事はおかまいなし。

 それも当然の事。オーマが訴えたかった事は、まさに「その部分」なのである。



「起きたんならアイツ! 速く何とかしてよ!」


「アンタのツレのツレのツレでしょ!」



 長々と魔法制限マギャ・プレデェルの内訳を説明したのも、その実その結論に持っていきたかったが為である。

 その意図は、オーマに訪れた見た目の変化以上に「心に」著しい変化が訪れた者が、その場にいると言う事と言う暗示でもある。



『ツレ一個多いで』


(アイツ…………?)



 その者は信奉する存在から任を与えられ、そしてその任を「天命」と呼んだ。

 そしてその天命に勇気と覚悟で持って挑む事で、揺るぎない忠義を証明せしめた。

 如何なる苦難があれど決して折れる事の無かった、鋼の精神こころの持ち主である。

 がしかし、同じ空場所に”鋼をも断する者がいた事”が、その者の最大の不幸である。



「コポ! コポポポポポ~~~~ッ!」



「あっ」



 そして、一度折れた鋼は「もう二度と元に戻る事はない」――――。

 これらは全て、つい先刻の出来事と同義である。

 紆余曲折の果てにようやっと見えた終着の果て。

 その目前で”盛大に足を滑らせた”、哀れな一人の男の話であった。






「は、はは…………英騎から与えられし命が…………全て灰塵に…………」





(や、やべぇ~~…………)




 ふと振り向けば、そこには燃え盛る巨大な炎の塊があった。

 その炎の塊の傍らで、膝を折り佇む人影が一つ――――。



 人影は、炎と相まって灰のようなオーラ発していた。

 まるで「いっそ自分もこの炎に……」。

 そう言いたげな程に、実に哀愁漂う背中オーラを見せながらである。

 


「私はこれから…………どの顔を下げて帰ればよいのか…………」


「コポ~~~~ッ!」


『わかるな? あれだけは確実かっくじつにお前のせいや』


「…………はい」



 そんな男に唯一寄り添うのが、最も無関係なはずの水玉事水の精霊である。

 水玉が主ではなく男の方に寄り添うのも、理由は実に簡単な話。

 茫然自失の男が本当に燃えてしまわぬよう、火の手を払ってあげる事が、水玉なりの”贖罪”であったが為。



「マジビビるわよ。起きたらいきなり周りが火の海になってんだもん」


「いきなりドーン! ってなって、え!? 何!? って飛び起きてさ」



 故に今この時に限り、水玉の優先順位は主よりも男の方が上である

 それもそのはず――――。

 彼が自分の命よりも大事にしていた「天命」を、自分と自分の主のせいでキレイサッパリ反故ふきとばしてしまったとあらば。



「そんでわけわかんないままアンタら抱えて飛び出して、しばらくしたら先にアイツが起きて…………」


「で、そっからずっとアレ」


「…………」



 その瞬間。アルエは眠っていた間の出来事が手に取るように思い起こせた。

 未経験でありながら容易に浮かぶその時その場面の光景。

 支え、持ち上げ、そしてしばらく耐えた後――――そのまま叩き落した。

 


(――――ぶえッッくしょーーーーィッ!)



(――――ボケェーーーーッ!)



 意図して行った行為ではないにしろ、どっちにしろ結果は同じ。

 ”そうすればああなる”のは、意図してようがしてまいが関係がない。

 想像だけで十分鮮明に浮かぶ、至極当然の結果である



「聞いたわよ。あの惨事はアンタがやらかしたせいなんだってね」


『せやねん。後もうちょっと我慢するだけやったのに…………』


「逆にすごいわ。もはやわざととしか思えないくらい」



 哀愁漂う人影の正体は、期待を見事に裏切られた医者(ドクター)の背中。

 その医者(ドクター)の周りをうろつく水玉の正体は、自然の具象化水の精霊。

 そして炎の塊の正体は、突き落とした舟の残骸。

 その様を遠巻きに見つめる黒髪の女の正体は、後の魔王を目指すオーマ。



 その場には、何一つとしてなかった――――。

 一刀両断にされた精神こころを治す物など、何も。

 


「わかったら速く何とかしてよ! さっきからずっとああなのよ!」


『呼びかけ全無視やで。まじで』



 動かぬ案内人の折れた精神こころ。無論アルエに治せる道理もない。

 しかしそこには、”アルエ限り”一つだけ出来る事があった。

 治す事は出来ずとも――――折られた精神こころの断面に一つ、ポツリと代替品ごまかしを乗せる事が。



案内人あいつが動かないとアタシらも動けないでしょって!」


『とりあえず土下座してこい』



「は…………ハハ…………」



「えっとぉ…………」




 その代替品は、往々にしてこう呼ばれる。





「…………超・すまん!」




「だめだこりゃ」





――――うわつらと。





                    つづく



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