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羨望のリフレクト  作者: モイスちゃ~みるく
歪む絶望・歪む本質
114/169

八十二話 無碍


「今のは……一体……?」


「陛下! ご報告申し上げます……」


「……」


「どうした? 申してみよ」


「開発区非正規区域・通称貧民区。現時刻を持って……”消滅”致しました」


「な――――!?」



 貧民区の消滅。その様子は王宮からでも目視出来るほどに大規模、かつ巨大な爆発であった。

 アルエの取った爆弾を一つの箇所に集めまとめて凍結させる作戦。

 その作戦は目論見通り。テロリストの王宮への侵攻経路を断ち切り、爆発の被害を”最小限の犠牲”に留まらせる事に成功した。




「「なんか今――――すごい音が――――本当に大丈夫なのか――――」」




 爆発の余波は王宮の直下膝下。避難所と化した中枢区にも無論届いており、その場にいる全ての民が消滅の音を聞き逃さなかった。

 王の用に詳細を聞くまでもなく、大体が勘でわかっていた。

 それほどまでに悪意に満ちた轟音と、目的達成を示す黒い積乱雲が、遠く貧民区の方角から届いてきていたから。

 


「で、ではあの雲は、あの大蛇の出す物ではなく……!」


「ええ、おそらく。いえ、確実に……”爆弾”によるものでしょう」


「と、止められなかった……!?」



 無論爆発を許す予定等あるはずもなく、現場では爆弾を凍らせた時点で任務は終了した――はずであった。

 アルエに失敗があったとすればそれはたった一つ。

 この世界は魔法と竜と精霊が跋扈する、万物の法則から逸脱した世界であると言う事。

 ”水をも燃やせる火が存在する”。その逸脱した発想を、アルエは思い描けなかったのである。



「残念ながら……ハッ、たった今続報が入りました!」


「貧民区、やはり塵一つ残さず消滅。その影響から貧民区に隣接する一部地帯も爆風の余波を受け――――」


「その被害領域の内側にいた者は……その……」


「お、おお……!」



 報告を渋る兵を咎める事なく、王は重力のままに膝を床に付けた。

 最後まで聞くまでもなく、結末が理解できてしまったからである。

 折りたたまれた膝を中心に腰を折り曲げ、頭と床が平行になるほどに、王は黒雲にこうべを垂れる。

 他者から見て死角となった王の顔面には、王にあるまじき苦悶と後悔と懺悔に満ちた表情が浮かび上がった。



(すまぬ……行き場をなくした者達よ……)



(すまぬ……異界の少年よ……!)



 王の脳裏には様々な思念が渦巻き、一言では表す事のできない矛盾した感情が噴き出した。

 異界の少年、やはり行かせるべきではなかったのか。しかし少年のおかげで王宮は守られたのもまた事実。

 国の長たる王を守る責務を果たしたのが、よりにもよって帝国とは無関係である異界の子供。

 さらに加えて、結果として少年を含む一部の民を「生贄に捧げる」に等しい行為になってしまった事を、王は未だ認められなかった。



 黒雲はまだまだ天高く昇る。葛藤する王に現実を見せつけるように高く。

 そしてより、黒く――――



 


――――





……




「……思った以上にすごい威力だったわね」


「ゴォォォォ……」


「ヒーちゃんおつかれ様。悪かったわね、えらく無茶させちゃって」


「ゴォウ!」


「水に無理やりくっつけちゃって、随分濡れたでしょう。後は風邪を引かないように温かくしときなさいな」


「ゴォォ……」



 黒雲が地に影を落とす範囲から、見事任務を成し遂げた火に賛辞を述べるママの姿があった。

 ママは黒雲から降り注ぐ灰が肌に触れぬよう”帝国の印の入った鎧”を傘代わりにしつつ、静かに時を待つ。

 火の精霊はそんなママを見送るように、同じく自身の身を灰避けの傘と変え、そして卵を温める親鳥のようにそっとママを包み込んだ。

 火の精霊は知っているのである。

 水に長時間触れる苦痛など些細と感じるくらいに、これからママがどうなるか、を。



「ドナちゃんも日に日に進歩してるわねぇ……最初は変なのばっか作ってとか思ってたけど」


「少々広い場所でもなんのその。全てを灰と化す、大きな大きな”キノコ雲”と化すでしょう……だったかしら?」


「すごいわねぇ……ほんと……」


「ゴォウ……」



 火に対する語りか、もしくは誰に対してでもないただの独り言か。判別し難いくらいに曖昧な言葉を漏らすママ。

 包み込んだ火の出す暖かで淡い光が、そんなママの影を地面に刻み込む。

 影は火の揺らめきに同調して、ボヤけた輪郭のままわずかにチラつきつつ形を維持し続ける。

 


 曖昧な影と、曖昧な空。そして曖昧な言葉が同時に存在する曖昧な空間。 

 その中心にいるママは、曖昧な意識のままが故に気が付かなかった。

 自分の背面にある影が、段々と曖昧さを失っていき――――




――――




 そして、独立した”一人”に変わる様を。





「オイ」




「……あら、意外なお客さんだ事」



 独立した影は、主の輪郭に逆らい瞬く間に全く別の、独自の影を形作り始めた。

 形を整え終えた影は這い出るように厚みを深め、そしてついには、二本の足で大地を踏みしめるに至った。

 


「もしかして……見送りに来てくれたの? 普段は引きこもってばかりいるあなたが、珍しい事もあった物ね」



「――――」



 ママの背中に沿うように、触れるか触れないかまでの距離に経つ黒い影。

 影は、その時確かに語り掛けた。

 これから消えゆくママに”文句”を言う為に。



「でも、おしゃべりをするにはちょっと来るのが遅かったわね。もう数刻もせずに私は――――」


 

 


 チャリ…………





「……どういう、つもりかしら?」



「ヨケイナ事ヲスルナッツンダヨ、”大母たいぼ”」



 立ち上がった黒い人物は、背後からママに”木製の”短刀を突きつけた。

 木製と言えど、女の柔肌程度ならスッパリ切れそうな程鋭く研がれた短刀の抜き身が、ママの首元に確かにチラつく。

 この研がれた木の刃が血で紅く染まるか否か。

 それは今、突き付けた張本人であるこの黒い人物の気分次第なのである。



「余計な事……? はて、何の事かしら?」


「言ワレンデモワカルダロ……ナンダヨコレ。誰ガ”ココマデヤレ”ト言ッタヨ」


「あら、心外ね。私は叱られるような事をしたつもりなんてないけど?」


「ヨク言ウワ。根コソギ吹キ飛バシトイテ」



 この黒い人物の所業は明らかに恫喝。もしくは叱責の目的でママの背後に現れたとわかる。

 しかしママは脅しに屈する事無く言葉巧みにのらりくらりと交わし続け、しまいには危害を加えんとしている黒い人物に対し、逆に叱咤の言葉を浴びせ始めた。

 刃を向ける相手にそんな事ができるのも――――二人が顔見知りであるが故の事である。



「何よ……じゃあ、そこまで言うなら言わせてもらいますけどね。”英騎の障害となる者は全て殲滅せよ”。そう言い出したのは他でもないあなたじゃない」


「そこに手段方法の指定なんて、特になかったわよね? だったら事前に伝えなかったあなたにも非があるんじゃなくて? 今更そんな事言われても困るわよ」


「ウ……」


「そもそも、”向こう”で引きこもってばかりいるあなたに文句を言われる筋合いはないわ。気に食わない事があるなら、だったら自分でやって頂戴な」


「違う? ”モノクロ”ちゃん」



 影と同化する程黒いマントに身を包み、顔を隠す白い仮面を装着したその姿。

 白と黒の無彩色に身を包む事から、白黒を意味する単語で呼ばれる人物である。

 そして今、口喧嘩においてものの見事に返り討ちに合ったこの白黒の人物こそが――――

 アルエをこの異界に引き釣り込んだ張本人「モノクロ」なのである。



「コノ……毎度毎度、屁理屈バカリコネヤガッテコノオバハン」


「あらら、私ったら何か間違った事言ったかしら?」


「アーアーモウイイモウイイ、ワカッタワカッタ。ッタク……ソウイウ事言ッテルンジャネーヨ」


「じゃあ、何?」


「オ前ガサッキ吹キ飛バシタ奴ダヨ。ナンデアイツガ、アンナ短期間デ”精霊同調”ヲ完璧ニマスターシテルノカって事」


「……何か理由が?」


「本当ニワカラナイノカ? ッテ事ガ言イタインダヨ、ナ? 言葉ワカル?」


「そうねぇ……精霊に一目惚れされたとかなら、ありえない話じゃないけど?」


「ネーヨ。恋スル乙女ジャネーンダヨ」


「じゃあ何よ」


「イイカ、アイツハオ前ラト”同ジ”ナンダヨ。オ前ト、英騎トモ」


「ソノ証拠ニ向コウハ薄々感付イテルッポイゾ。ソラソウダ。アンタ、アッチノ物持チ込ミ過ギダヨ」


「じゃああの子……!」



 ママはこの時初めて理解した。

 今しがた爆弾で抹消したあの少年が、事もあろうに”自分と同じ側”の人間である事を。

 そして続けて気づきの連鎖が脳裏に連なる。

 モノクロの口ぶりからして、あの水の奴は「このモノクロが連れて来たのだ」、と。



「アイツ死ンデタラ、アンタ前科一犯確定ダヨ」


「……そう言う事は、事前に言っておいてくれないかしら」


「イヤワカレヨソコハ。精霊ガソコラノ奴ニオイソレト懐カナイノハ、オ前ガヨク知ッテルダロ」


「ツカ、ソモソモナ話自分デ聞キニコイボケ。基本自由ニ動ケナイノ、知ッテルダロガ」


「ほんと、ああ言えばこういう……」


「オ返シダヨ。サッキノ」


「もう……あ……」


「ン?」


「ごめんねモノクロちゃん……久々に会ってなんなんだけど………そろそろ…………時間が…………」



 時間切れ――――

 モノクロと込み入った話をする余裕もなく、当初の宣言通り。ママの体が薄らと空に溶け始めた。



「……次ハイツ戻ッテクルンダヨ」


「そうね……言っても、そんなにかからないと思うわ……みんながホームに戻る頃には、私も帰ってこれると思う……」


「ちょっとの間だけの留守よ……その間、代わりに英騎エヴァを見といてくれないかしら……」


「エー……アイツ僕ノ事嫌ッテルシ……」


「お・ね・が・い」



 溶け出したママの体が、日中の水面のようにキラキラと煌めく。

 その煌めきがモノクロの黒いマントによって、より一層輝かしく生えさせる。



「ワカッタ。ジャアホントニ見ルダケナ」


「何それ……女の頼みは……黙って聞くのが紳士の嗜みよ……?」


「ウゼエ。ヒ孫マデイルババアノ吐ク台詞カ」


「あなたはほんとうに……もう…………じゃあ……頼むわ……よ…………」


「ハイハイ。サッサト行ッテラ」




 煌めきに比例してママの体が透明度を増していき




「最後に……一つ教えて…………」


「ナンダヨ」


「…………”果実”は……いっぱい成った…………?」


「……サッサト帰レ!」





 そしてママと呼ばれた女は、この世界から消え去った。





「アホカババア……アレハソウイウ”樹”ジャネーンダヨ……」


「ハァ……ダリィー…………」


「……起コスカ」




 その直後、モノクロもママ同様。

 影の中へと消えて行った――――





――――





……






『――――い――――ォイ――――』



「う……」



『オイ! 起きろて! オイ! オイッ!』



「ここは……うぐぅッ……!」



「コポォ!」



「み、水玉!? 無事だったのか……」



――――僕の問いかけに「お前もな」と泡で返事するのは、先ほどまで豪快に火に炙られていた水玉本人である。

 水玉曰く火に燃やされた事は僕同様相当なショックであったらしいのだが、よくよく考えればこいつは大気中の水分を吸ってすぐに復元できるから、復帰と言う意味ではさして問題はない。

 しかし火そのものはともかく、直火で炙られた分沸騰寸前まで”熱”を加えられた事により中々水分が吸い込めず、結果として復帰が遅れると言う現象が起こった。

 まず燃えると言う現象自体が初体験の水玉にとっては、むしろそっちの方が脅威だった……らしい。



「コポ!」


「よかった……燃え始めた時はホントどうしようかと……うぐ!」


『あんま無理すんな。お前だって、肉片になってないだけで奇跡やねんから』


「コポォ……」


「そうだ……僕は……爆発に巻き込まれて……つつ」


『王様のマント。やっぱり防御力の高い装備品やったみたいやな』


「これの……おかげ……?」



 あの火山噴火級の大爆発で奇跡的に一命を取り留めているのは、王様に貰ったこの「風のマント」が関係しているらしい。

 言われてみると、マントからふんわりと柔らかな風が出ているように感じなくもない。

 装備者の危険を察知して風だけに神風でも吹いたのだろうか? よくわからんがまぁ、おかげ様で助かった。

 しかしこのマントに対して礼を言う気には、どうにもなれなかった。

 何故なら、僕の代わりにマントの方が――――

 


「黒焦げ……」


「コポォ……」


『うーん、どうやら身代わりアイテム的な奴やったんかな? ほら、風って熱とか移すし』


「……」



 礼よりも懺悔の気持ちが、強く上回った。

 「必ず戻ってこい」その約束の証として貰ったと解釈していたこのマントが、契を無碍にするかのように黒く焦げ付いているのだ。

 見た目通りの焦げ臭い匂いを、マントから出る微弱な風が鼻に運んでくる。

 その風が少しの間だけふわりと頬に触れ、そして直に無くなった。

 これではもはや「風のマント」と言うより「闇のローブ」だ。



「み、みんな! そうだ! 貧民区のみんなはどうなったんだ!?」


「コポ……」


『みんなは……あっこや』


「ッ!?」



 スマホが画面に簡素な矢印を出す。

 あまりに簡素すぎてどこを指しているのかわかりにくいのだが、「どこだよ」と聞いても「ここ」の二文字しか返ってこない。

 スマホの言う「ここ」は文字通り僕のいる「この」場所。

 矢印の指す方に広がる光景は、ただの焦げ臭い平地である。



「これは……」


『わからんか? ここが貧民区や』


「そ、そんな!」


「コポォ……」



 一極集中された爆圧が地面を丸ごと消し飛ばしたのか。

 辺りにはガレキのカケラすらもなく、まるで隕石でも落ちたかのように強く陥没してしまっていた。

 どうやら帝都に仕掛けられた爆弾を一か所に集めてしまったがために、その分爆発が集中してしまったようだ。

 奥行が進む毎に深く潜っていく地面。その底は暗く光が届かない程に抉れてしまっている。

 この所業はもはや、爆弾の域を超えている……

 これではまるでいつぞや見た、核ミサイルの実験跡である。



「う……そだろ……」


『……あんな。わい、あん時パニクっていろんなアプリ起動してもうたんやけどよ』


『その時、カメラも起動してたみたいで……自分でも気づかん内にシャッター連打してたんやわ。わけわからんとアホほど誤動作起こしまくってな』


「……」


『だから、その、偶然にも一部始終が残ってるっていうか…………見るか?』


「……見せろ」



 スマホのカメラフォルダにはいつの間にか大量のフォトが保存されていた。

 こいつがパニックを起こした際に連写機能をONにしてしまったらしい。

 機械の癖に何故これほど感情豊かなのかが至極謎ではあるが、今はそんな事どうでもイイ。

 今の関心はこの連射されたフォトに”一体何が写っているのか”である。



「嘘だろ……」


「コポォ……」



 おそらく本当に数秒の間をひたすら連写したのだろう。スライドショーで再生すれば短い動画が出来上がりそうな程だ。

 写真と言うより動画のスクリーンショットを何枚も撮ったかのようなフォトの山。

 そこには確かに映っていた。



 起爆寸前の爆弾をその身で覆おうとする、アウトローの集団達

 消えぬと知りつつ勇猛果敢に火の鳥に挑む、アウトローの集団達

 なすすべなく生きたまま燃やされる、アウトローの集団達

 燃えてなお爆弾から離れない、アウトローの集団達

 


 そして、一人だけピントがボケるほどカメラに向かって走り迫る、墨がチラつくアルエの名付け親が、一人。



「……!」


『お前を助けようとしたんやろな……親分はんの手に映ってるの、わかるか?』


「これ……!」


『魔力や。ヤーさんらしい荒々しい手段やが……お前だけを、この場から吹き飛ばそうとしたんや』


『だからお前が助かったんは、そいつらのおかげって言うか……』


「じゃ、じゃあ親分達は……!」


『……その中や』



 そして再び目線を水平に向けた。

 そこにはくぼみ抉れた、「さっきまで貧民区と呼ばれていた」平地だけが広がっていた――――



「だったら……だったらさぁッ!」


『あ、おい!? 何してんねん!?』


「助けるんだよ! まだ生きてるかもしれないだろ!?」


「うッ……てぇ……!」



 さっきからやけに腹の辺りが痛むと思ったら、親分の仕業だったのか。

 動く度に腹部がズシンと痛み、至極不快な気分だ。

 こうして実際に暴力行為を加えられた以上、僕だって黙っているわけにはいかない。

 「恨みはらさでおくべきか」とはこの事か。アウトロー共と行動を共にしたせいか、奴らの考えが少し移ったらしい。

 


『アホか!? あんな大爆発の中でそんな、ありえるか!?』


「でも、僕はまだこうして生きてるだろ! だったら僕と同じで、誰かさぁ!」


『だからそれはみんながお前を――――』



 熱の籠った土を無造作に毟ったせいか、お次は指まで痛くなってきた。

 指から伝わる乾いた土の感触が、いつしかぬるみを帯びた湿り気ある感触に変貌していく。

 本当に、何でこんな目に合わねばならぬのか。

 腹も、指も。ついでに胸の奥も。全身のありとあらゆる所が這うように”痛い”。



「返事しろよオイ! てめーらいつからモグラになったんだ!?」



 この痛みの礼は必ずしてやらねばならない。

 親分に、暴走族に、ギャングに。さっきまでいたあの全員に。

 この痛みの”けじめ”は付けて貰う――――絶対に。



『見てられんわ……』


「コポ! コポコポコポ! コポ!」


『あ、ああ……わかったわぃ、好きにさせるわ。気のすむまで、な……』


「おおおおい! 誰か! 誰か一人くらい……一人くらいいるだろォーーーッ!」




――――




「ハァッ! ハァッ! ハァ…………」



 そうして一心不乱に地べたを掘り続けて、何分が経っただろう。

 指のぬめりがさらに感触を増し、初めて体験する農作業の後のようにズシリと腰が重く感じる。

 砂漠に落ちた石を探すかのような途方もない作業に、今までの疲労も重なり、さすがの僕も心が折れかかってしまう。



「ハッそうだ……水玉! もう一度アレやっぞ!」


「コポ……」



 だが僕は諦めない。

 自分一人が無理なのなら、水玉の共有の力をもう一度借り、そしてまた【大蛇(オロチ)】で持って続行を試みる。

 今の精神状態を表すならば、根性や不屈等のそんな綺麗な言葉じゃない。

 ただ今まで苦労を重ねた分、もう「引き返せない」と言う心理が、否応なく僕の心に押し寄せるのだ



――――



「……コポ! コポコポコポ!」


「い、いたッ! ……見つけた!」


『マジか……生き残り、おったか!』


「助けるぞ! 水玉ァ!」



 八匹の大蛇(オロチ)を介した視界の感覚共有の中で、内一匹の目が確かに人の影を捕えた。

 その人影は爆風で吹き飛ばされそのまま埋もれてしまったのか、やや小高く積みあがった地面の中から、二の腕だけが力なく生えている。



『おいアンタ! 無事か!?』


「くそ、さすがに意識は失ってるか……」



 その人影はすでに死体になっている可能性も無きにしも非ず。

 だが希望はあった。

 あの巨大な爆発の直撃を受けたなら、死体など一片も残らず肉塵と化しているはずだ。

 それがこうして腕一本丸ごと残っていると言う事は、何らかの要因で「偶然爆発から逃れられた」と言う事。

 アウトロー集団も全員集めれば結構な大所帯だ。

 ウン百人分の一の確率ではあるが……その可能性は、十分考えられた。



『腕以外全部埋もれとる……やばいぞ、はよ掘り起こせ!』


「ああ……ちょっと手荒くするけど、許してよ!」


「せーの!」



 ズルリ――――その腕は掘り起こすまでもなく、最初の引き抜きでいとも容易く抜け切った。

 何故か。その答えは実に簡単であった。

 


「ゴボッ!?」



 結論から言えば、やはり僕の考えは正しかったのだ。

 思った通り、やはりこの人は幸運が重なってうまい具合に爆発から逃れられたらしい。



『…………あかん』


 

 そしてそのまま爆風に吹き飛ばされ、ここまで強制的に移動させられた言うわけだ。

 僕が見つける事が出来る程度に、僕の目覚めた場所から比較的近いこの場所に。

 




「あ……あう……」






「う ァ ァ ァ ァ ァ ァ ー ー ー ー ッ ! ! 」







――――腕だけが。




                           つづく


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