七十八話 蒼ノ眼
ズズズズズ…………
「「~~~~~ッ!」」
帝都上空に突如現れた巨大な雲。
陽の光えを遮り、火の手すらも曇らせる程の暗い影を落とし込む。
雲は、影を伸ばすと直に雨を降らせた。
ポツリポツリと落ちる雨粒が瞬く間に間隔を縮め、ザアザアと降り注ぐ雨が火を着実に消火していく。
「せ、せーれー野郎なのか!?」
「イッツ・a・クレイジー……」
雲も雨も、アルエが消えると同時に現れた。
まるでアルエと引き換えに呼び出された通り雨のように。
この火を消す雨は、帝都の住人にとっては恵みの雨のように思えた。
特にその場にいた者は、これは水の精霊が魔法陣によって生み出した広範囲に渡る雨であると。
しかしその考えはすぐに脳裏を過ぎる事となる。
目の前に現れた”物”が出す、ただの副産物である事に気が付いたのだから。
「「おい……なんだありゃ……でっかい龍が……」」
アルエが呼んだ物。それは雲でも雨でもない。八つの首を持った、水の大蛇である。
大蛇は分厚い雲を介し上空よりその姿を現す。
帝都の住人は嫌が応にもその姿を目撃せざるを得なくなった。
八つの大蛇が、直に帝都全体を周り始めたからである。
開発区、商業区、工業区、伝統区、中枢区。この帝都における五つの区画に加え、王のいる王宮までもを。
「YOYOYO、あの龍が精霊のブラザーなら、何故何も言わねえ?」
「てめッシカトしてんじゃねえぞゴルァ!」
「お待ちなせえ! 何か……何か様子が……!」
巨大な水の大蛇はゆっくりと、まるで観光でもするかのように各区画を巡っているように見える。
が、それは巨体が故に鈍く見えるだけであり、実際は人の力では決して追いつけない程の速度を発している。
その証拠に、八つの大蛇のひとつが速くも開発区を一巡した。
一巡の起点は開発区内の貧民区から。故に終点も、起点と同じ場所――――
「「おい……なんか……こっち来るぞ……」」
グ…………ボ ォ
一巡した大蛇は貧民区上空に近づく度に高度を低く下す。
その光景を目撃する貧民区内の人間は、遠目ではわからなかったものの、視線と同じ高さまで落ち込んだ大蛇を見てひどい悪寒に苛まれた。
そして誰が始めたか、恐怖が恐怖を伝染し、貧民区は三度未曾有の大混乱に陥る事となる。
今度は、実にわかりやすかった。
視界に広がる大蛇の顔が、明らかに”その場の人間を食らおうと”大きな口を開いていたのである。
「「嘘だろォーーーーーーッ!」」
「おいおいおい……まじかよッ!」
「野郎! 理性までラナウェイしやがったか!?」
「おやめなせえアルエの! わしらがわからねえのか!?」
親分らの訴えも虚しく空を切る。
何故か口を開いたまま接近してくる大蛇が、勢い余ってガレキを飲み込みながらドンドンと近づいてくる。
「この場にいたら間違いなく食われる」そう結論付けた貧民区内の人間は恐怖の雄たけびを挙げながら、アウトローの制止をも振り切り右へ左へと右往左往し始めた。
「「うわーーーーッ! たた、助けてくれェーーーーーッ!」」
「てっめぇらァーーーーッ! そいつ止めろ! そのデカ蛇、ボコにしちまえ!」
「理性をなくした水の龍。勝手はさせねえKILL・NO・WIZ!」
ズズズズズズズ…………!
「「 や っ ち ま え ! 」」
この突如現れた水の大蛇が自分達に危害を加えようとしてくるならば、取る行動は一つ。
「迎撃」の掛け声と共にアウトローの集団達は、刃物に投擲に魔法に、ありとあらゆる手段を用いて攻撃を加えた。
だが大蛇は、それらすらも飲み込み糧にした。
恐怖を与える側もアウトロー集団ですら、冷や汗が止まらない。
それもそのはず。水でできた大蛇の透明な肌が、飲み込んだ物を外部からでも見せつけた。
口内に入ると同時に――――体内の奥深くへ”猛激流”で流されていくのである。
「だ、だめだ! こいつ水だから殴れねえ……」
「ジーザス! 生まれたてでハングリーベイビーなのかメン!?」
「アルエの……一体どうしちまったんでぇ……」
――――
「「やめてええええ!――――く、食うなーーーーッ!」
区内の怯える声も虚しく――――避難民が全て、大蛇に飲み込まれた。
――――
「くそ……が……」
「完食……されちまったYO……」
ズズズズズズ――――人々を食らった大蛇が、そのままもう一巡しようと進路を進める。
大蛇が食事を済ませた事により、貧民区に残るは元からの住人、アウトローの集団のみとなった。
自分達がせっかく助けた避難民達も、はたまた体が弱い老人、戦闘能力のない子供も、全て大蛇が食らってしまった。
外道の群れに、強い虚無感が襲った。
そして覆われた虚無が生み出した物は――――煮えたぎる恨みの怒りである。
「こいつだけは……こいつだけはぶっ飛ばす……!」
「YO待て! あのウォーターモンスターに魔導二輪で特攻なんざ!」
「ウォラァーーーーーッ! 死ねやァーーーーッ!」
「ファック……やっぱ二輪乗りはアホばかりだぜ……」
先に仕掛けたのは族集団の頭。
彼は見た目通り非常に短気であり、口より先に手が出るタイプである。
故にギャングの長の制止など聞くはずもなく、叶わぬ事も何のその。この手で憎い相手に一太刀入れようと、愛用する魔導二輪で特攻をかけた。
族の集団にとっては、そんな頭の行動が実に勇猛果敢に見えた。
無謀は視点を変えると勇敢となる。そしてそんな頭を援護すべく、敵わぬとわかりつつ後に続く。
唸るような、排気音を立てながら。
「バカ共が……そんなもんで止められるはずがなかろう」
「三勢力総出で掛かって止められなかった大蛇を、どうやって一集団が仕留める事ができようか」。
そう言ってため息を付いたのは親分である。
親分は他の集団より先がけアルエに会っている為、今のアルエの変貌ぶりに対する落胆はひと際強い。
テロを止める所か、新たな災厄を生み出してしまった。しかもそれが、自分の見知った人物なら。
心が底なしの沼に漬かる感覚が、親分を襲った。
族の報復活動で騒がしいはずのに、辺りは何故か無音に感じる。
それは、心が、泥にまみれ沈んでいくからである。
「……」
その時、心の”外”から声が聞こえた。
(………………て)
「……ん?」
(ど…………いて………………)
「俺の縄張りで好き勝手させねェーーーーッ!」
「ファック……俺らも続くか!?」
「いや、待ちなせえ……なんか……声が……」
(――――ちょっとそこどいて! 危ないって!)
今度はハッキリ、全員の耳に聞こえた。
「危ないからどいてくれ」その声色は、確かに精霊使い本人の声である。
しかし肝心のその声がどこから来るのかがわからない。
アルエはすでに激流に飲み込まれ雲に消えた。
だとしたら可能性は一つ――――大蛇しかない。
「――――いぃ!?」
声の主を探す間もなく、頭上から固い雨が降り注いだ。
雨に紛れて振ってくるのは、少し甘い香りがする固形物質。
大量にバラバラと降り注ぐ固形は天候ではなく明らかに人工物の類であり、ぶつけると頭蓋に少しばかり痛みを感じさせた。
そしてそれは、気が付けばすでに辺り一面に散らばっていた。
”小さなランプ”を点滅させながら。
「なんだぁ? こいつは……」
「Ohこいつ、意外とファンシーな生き物だぜ。クッキーの雨を降らすとはな」
「クッキー? にしちゃ随分でかくねえか?」
(わ~バカ! それに触んな!)
「せーれー野郎か!? どエレーもん生み出しやがってこの……!」
「YOスピリチュアルボーイ。これなんだよ。ってかおめ今どこよ?」
(ちがちがちが……いいからそれ離せ!)
(それ……”爆弾”だよ!)
「「「はぁーーーーッ!?!?!?」」」
大きいクッキーと間違う程の質感と甘い匂いを出すそれは、現代軍事技術が生んだ可塑性爆薬。通称”プラスチック爆弾”である。
プラスチック爆弾は旧来の物とは違い少々の火気や衝撃では爆発に至らない物の、それがバイク相手だと微妙なラインである。
魔導二輪の馬力と排気。そしてバイク同様火気を用いる構造であるならば――――
誤爆の可能性が浮き出るのは、必然である、
「エ、エンジン切れよファッキンバイカー! 轢いたら爆発するだろがYO!」
「わわわ、降りろてめえら、降りろ降りろ!」
「ぜ、絶対踏むんじゃねえぞ!? 爆発しちまいさぁね!」
「「おわァーーーーッ! 爆弾の雨だァーーーーー!」」
外道をひた走るアウトローがたかが中学生一人の指図に従うのは、ひどく滑稽である。
しかし彼らが恥を感じる事すら無く黙って指示に従うのは、以下にアウトロー集団であろうと”爆弾とタイマン”は御免なのである。
「「ハァ……ハァ……ヒィ……ヒィ……」」
「あーマジファック……にしても、随分変わった形の爆弾だNA」
「なんかうまそうな臭いが……マジででけえ菓子が降って来たと思ったぜ」
「オマエの所の部下に食わねえYO言っとけよ」
「あ? てめえこそ三下にハッパじゃねえって言っとけ」
「でもてめえら、これが爆弾だとわかるって事は……」
(えーっと、もしもーし。こっちの声聞こえてますかぁ~?)
「やはり……アルエの!」
――――
『おい、返事してるっぽいぞ』
(ああよかった……やっと聞こえたか……)
「てんめえゴルァ! 魔物になり果て人間をエサと間違えたかァ!」
(は!? エサ!?)
――――どうやら、随分と派手な誤解をさせてしまったようだ。
実はさっきからずっと彼らに呼びかけ続けていたのだが、まだうまく操り切れていないのか声が出てなかったらしい。
何かがおかしいと思った。共有成功を知らせようとしたのに、何故かこいつらキレながら襲い掛かってくるのだもの。
この風貌の連中でガチギレなんてされた日には、恐怖で頭が混乱するのは僕だけじゃない……はず。
(食ってねーよ……あの人たちは中枢区まで”流した”んだよ)
(まぁ道中ちょっとだけ息苦しいけどさ。ここにいるよかはまぁマシだろ)
約一名がやたらキレながら食っただのエサにしただの訴えているあの行為は、避難民や負傷者などの明らかに戦闘行為に向いていなさそうな人を優先して水のレールに流した。ただのそれだけだ。
大蛇の体は今、帝都の各地を巡っている。
そして八つの首が全て一つの胴に繋がってるから、一端回収して中枢区にいる首に全員吐き出したと言うわけだ。
食らう所か体を張った文字通りの救援活動なのに、そんな事を言われるのはひどく心外だ。
そこまで言うならお前もパクリといっとこうか? クッキーみたいにさ。
「ウォーターレール! HAHAHA,水だけにCOOLだぜ」
「ではこの爆弾は?」
(避難民を運ぶ代わりに持ってきたんだ。それは起爆前の、”伝統区”に仕掛けられてた分の爆弾さ)
吐き出せると言う事は吸い込む事もできる。と言うわけで、伝統区にいる首には爆弾を食わせたわけだ。
後はさっきの人達同様、大蛇の体内を伝う水のレールを介して、まとめてここに持ってきた。
これはある意味等価交換でもあるかもしれない。
人命と引き換えに、爆弾を背負い込んだと言う意味で。
「よくわかったな? ウェアーイズSO」
(感覚共有……一時はどうなる事かと思ったけど。やっぱりアンタらの言う通りだったよ)
(感じるんだ。この【水大蛇】を通じて……)
(どこに何があるのか。誰がいるのか。どんな音で、どんな匂いで、一体今帝都はどうなっているのか……)
「フォウ! まさにサクセスコンプリート・オブ。フィーリングシェアー!」
(なんせ今僕、8頭いるからね)
感覚共有。何をどうすればいいのかサッパリわからずただひたすら水を膨らませる事ばかり考えた。
だがそれはあくまで”思考共有”であり、感覚の共有とは違う。
わかってはいたが、あの時はそれしか思いつかなかった。
そんなわけもわからず悩み続ける僕に、答えを出してくれたのは――――僕、自身だった。
「降りて来る事はできねえのか?」
(できる……のかな……ちょっと待って)
(……あ、行けそう。オーケー。今そっちに降りるよ)
膨らむ水が魔法陣の効果で暴走し、その中にいる僕は瞬時に飲み込まれた。
必死に抗う僕を容赦なく吸い込んでいく水の激流が、僕の呼吸を奪い、直何も考えられなくなった。
無酸素状態が極限を迎え、意識がフッと消えた。
――――それが、答えだった。
「ふう……」
「てんめえゴラァーーーーッ! ビビらせやがってこの! この!」
「あだだだだ! だって! 何回呼んでも誰も返事しないんだもん!」
「声が出てなかったんだYO、文字通り水になってたからYOU」
「あー、ちょっと水に寄り過ぎたみたいだね……でも大丈夫。もうコツは掴んだ」
「Wow、クレイジーな才能だな……」
「何も考えない事」。それが正解だった。
数秒間の気絶から再び意識を取り戻した時、酸素はまた僕の体を巡った。水玉と空気を共有したのである。
そこから後は慣れの問題だった。
どの程度意識を消せばいいのか。どれくらい感覚を鋭利にすればいいのか。
この感覚は歴代精霊使い達の中でも一握りの段階らしいが、幸いな事にその方法は実に僕向きの方法だった。
天才とか才能とか、そんなんじゃない。
「ただ、流されるままに」――――それは僕が、普段から行っている事だったから。
「アルエの。やっぱり王子の……いや、オイラの目は節穴じゃなかったようだ」
「これが済んだら本格的にうちの組へこねえか? お前さんなら後の幹部の座を約束するぜなぁ」
「えっ!? いや……いいでです……」
「引き抜きかYO。いくら万年人員不足だからってよ」
「卑怯だぞてめえ! 俺だって水のバイクに乗りたいっての!」
(やらねーよ)
『あーちょっとお三家さん、今こいつちょっと仕事あるから、邪魔せんといたって』
「そうだアルエの、ここに爆弾を集めてどうしようってんだ?」
とは言う物の何故その結果が八つ首の龍なのかは僕にもよくわかっていない。
この場合被災者や爆弾を運ぶ事が最優先される。
だから”運搬”の二文字から無意識に思い描かれたのかもしれない。
帝都各地に人を運ぶ「魔導レール」と、オーマを連れて僕らを無事帝都に送り届けた「地竜」。
そのどちらかが。あるいは、”両方”か。
「親分さん。伝統区の爆弾を全部撤去すれば、連中は中枢区への足掛かりがなくなるんだ」
『爆弾で一層して突撃ってのが連中の作戦っぽいからな』
「さっき龍に乗って中枢区を覗いたけどね。ものすごい壁が生えてきてたよ」
「中枢区の【緊急防護障壁】だ……確かに、あれを自力で超えるのは困難だぁ」
「中は案の定避難区域になってた。帝都の住人はみんなそこに集まってたよ」
「YO、さっきにパックンチョはそこに運んでたんだな」
「そゆ事」
「だったらそー言えやてめえ! 魔物になったのかと思ったろうが!!」
「あだだだだだ! だからずっと言ってたけど聞こえてなかったんだって!」
「つまり……テロリスト側のキッカケを潰そうって腹で?」
「てて……ま、そーゆー事」
中枢区は帝都の本営中の大本営。だからその要警戒っぷりは生半可な物じゃない。
以下に連中狙撃銃やバズーカ砲を持ってたって、あれにそこまでの攻撃力はない。
大方爆弾に紛れて一機に侵攻したかったって所だろうが、その手の電撃作戦は時間をかければかける程不利になると言うデメリットがある。
今はもう最初の爆発から大分経った……妨害も執拗にしたし、それにまだオーマや王子もいる。
連中のタネはもうバレたんだ。
状況は確実に……僕らに向けて”好転”している。
「爆弾は後どれだけあるんだYO」
「今はざっと見つけたの手あたり次第に食っただけだけど……やっぱ相当な数仕掛けられてたよ」
「今持ってきたのはほんの一部さ。まだまだこんな程度じゃすまないね」
「それてめえ一人で全部運べんのかよコラ」
「さすがに僕一人じゃ厳しいね……だから、こいつを使う」
『おっしゃ、やっとわいの出番やな』
「このミステリアス・ミニボックスを?」
『あ、なんかバカにしとるなこのラッパー野郎。この最新機種であらせられるわい様をなめんなよ』
「このパーツ取りにもならなさそうな箱をかよ……」
『うっさいボケ。全国のライダーがどれだけわいに助けられてると思ってるねん』
「僕は今【水大蛇】を通じて帝都の全てを視れる……だから、爆弾の場所も全部わかる!」
『そしてわいは”ナビ”機能つきや。指で押すだけで簡単にマーキングできる』
スマホが自分に様を付ける程自身があるのは、ちゃんとした根拠がある。
昔のガラケーと違ってスマホが出てきてからと言う物、できる事がずいぶん増えた。
通話、メールは勿論の事、ゲームもできるし動画サイトも開ける。
そんな有り余るスペックのスマホに取って、”マーキングした地図を不特定多数に知らせる事”など動作もない事だ。
ネットを介して情報の送受信。これもまた、一つの共有かもしれない。
「ここの全マドーワに一斉送信して……全撤去だ!」
「なるほど……まさに人海戦術だぁ」
『まずは山賊の連中やな』
「兵隊さんにも送りたい。一人じゃ不安だから、なるべく多い方がいいんだけど……」
「待てアルエの。そういう事なら……」
「――――オウ! アレ持ってこい!」
――――
「全てと言うわけにはいくめえがな……これだけありゃ十分だろ」
「えーっと……なんであなたがこれを?」
親分の合図と共に運ばれてきたのは山ほど積み重なったファイルである。
その中のひとつを不意にペラリとめくると、そこにはマドーワ所持者の連絡先が何故か顔写真付きで記載されてあった。
まるで履歴書みたいな書類の一枚一枚だが、よーく見るとそれは……
「ふふ……」
『あ、裏社会の顔』
(あえて深くは聞かないでおこう……)
「俺らの魔導二輪は? こういう事なら役に立つぜ」
「わかった……じゃ近場の爆弾は任せるよ」
「おっしゃ! オウ野郎共! 出発の準備だ――――」
「「ウォォォォーーーーーッ!」」
「後は……」
「YOYOYO、俺らは何かできねえかい?」
「この暴走するしか能がないアホ共と違って、俺らは軒並み”インテリ”だぜメーン?」
「じゃあ、魔法……”氷”の魔法って、できます?」
「ユードックス! そんなの楽勝YO!」
『このダボダボ共には爆弾を”凍結”してもらおか』
「オケカモンメーン! YOブロゥ達、COOLにキメようぜ!」
「Hoooooooo!」
「確か他にもリストがあったはず……若いのに言って持ってこさせらぁ」
「協力せざるを得ないネタをな」
「「へっへっへ…………」」
(やっぱアウトローだな)
爆弾撤去の絵は完全に描かれた。
僕が全ての爆弾を大蛇を持って見つけ出し、スマホはその位置を一斉に送信。
兵や政府筋の連絡先は親分が知っているから、そのリストを使わせてもらう。
族は魔導二輪で大蛇の一頭と同伴。入り組んだ所やまばらな所をまとめて撤去してもらおう。
撤去した爆弾は大蛇の口に放り込めば、後は自動で貧民区へと集めてくれる。
そうして集まった大量の爆弾を、ギャングが魔法で凍結させる――――
『準備できたな』
「わかった。じゃあ行くよ、みなさん!」
「「「オウ――――!」」」
今この瞬間だけ、もはやヒエラルキーは存在しなかった。
全てが一丸となるこの爆弾撤去計画。貧民も貴族も関係ない。
その思いはただ一つ――――故郷を救いたい。ただのそれだけである。
「水玉……いや、水大蛇、もう一度だ……」
「今こそ僕に……僕と……そして、彼らと……
「全てを……分かち合え……」
その思いを見届けるのは、”蒼”に染まった僕の眼球である。
「おおっ」
「”ブルーアイズ”メン……」
「大したもんだ……」
感覚共有発現の際は、体のどこかが蒼く染まる。
水だから蒼なのかそれとも気分的な物なのか。その辺の理由はよくわからない。
が、それが眼球に出る事だけはハッキリわかる。
感覚共有はいわば自転車と同じなんだ。乗るまでが大変だが、一度乗れたらもうその感覚を忘れる事はない。
だから今、眼球が蒼に染まるのは……僕が”意図的”にそう仕向けているから――――
「行け、八首の水大蛇! 災の種を摘み取ってやれ!」
そして僕の眼が蒼くなると同時に、大蛇に無数の眼球が現れた――――
感覚”部分”共有――――【視界共有】
――――
……
「動く出ないぞ、ドナちゃん。あれは紛れもなく感覚共有じゃ」
「目が合えば奴に居所が知れる……ほぼ間違いなく、我らを探しに来るはずじゃ」
「……ふぁい」
――――アルエの感覚共有を誰よりも先に察知したのは、同じく精霊使いのママである。
物陰から大蛇を盗み見るように見つめる傍ら、ドナの口を手で覆い、ジッとその場で耐える。
感覚共有が発現した以上、何がキッカケで居所がバレるかわからないからである事を、ママは知っていたのである。
ズズズズズ……
(よもや、あの段階にまで達するとはのぅ……感覚共有なぞ……そこまで同調できた物なぞ、数える程しかおらぬのに)
ママは無数の眼が生えた大蛇を見つめ、密かに決意した――――
(やるしかないのか……”第六の段階”を)
つづく