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羨望のリフレクト  作者: モイスちゃ~みるく
【序章】視線の先に
11/169

鬼門――前編――

「付キマト――――ワザルヲ得ナイヨネ」


「ダッテ、下の名前ワカンナインダモン」



 モノクロは、ついに白状した。

 芽衣子からのメッセージを自ら認め、その上で堂々と僕本人にその旨を言い放ったのだ。

 その行為からくみ取れる心情は――――”的”。

 「お前は逃さない」。無機質な仮面でしかないはずのモノクロの表情から、そんな決意が伝わったかのように思えたんだ。



「一応苗字ダケハ自力デ見ツケタンダケドネ」


(苗字……)

 


 名前を知る方法そのものはいくつか思い当たる。

 学校の名簿や連絡網、学生証、免許証か保険証か、それらに準ずるカード類等々――――

 フルネームが記載されている物は、パっと思いつくだけでもいくつか浮かぶ。

 一番手っ取り早いのはネット上でのアカウントだろう。SNSをリア垢として運用していればそれは至極簡単な話だ。

 だが、それの場合はあくまで”知人”である事が大前提。

 有名人でもあるまいし、赤の他人が本名を晒した所で、それが誰かはわかるはずがないんだ。

 


 つまり――――事態は、思ったよりはるかに深刻であると言う事。

 モノクロに向けて名など教えていないはずなのに、モノクロは僕の名の半分を”自力で”見つけ出したとなれば話は変わる。 

 手段はわからない。だが、拒んだところで結果は同じ。

 どの道こいつは――――いつか答えに辿り着く。



「ダロ? 江浦クン」


(こいつ……)



 そして、確信はより濃く染まって行く。

 こいつは――――この僕をも送り込むつもりなんだ。

 芽衣子を送った、”アッチ”とやらに。



「……メーコ メーコ キタセ メーコ」


「メーコ イナクナッタ 悲シイ トテモ悲シイ」


「ミタイナ?」


「お前が……消したんだろ……」



 わかりやすい挑発。

 しきりに芽衣子の名を出す事で、僕の精神を揺さぶる目的なのは明白である。

 「芽衣子は向こうにいる」。そうアピールする事で、僕が自ら首を縦に振るよう仕向ける腹積もりなのは容易にわかる。



「会イタイ 会イタイ 見タイ 見タイ」


「デショ?」


「……」



 モノクロのふざけた態度は、ある種の天然。だが一方では意図的な演技とも言える。

 と言うのもこいつは……おどけているようでその実、ちゃんとターゲット身辺調査リサーチは行っていたのだ。

 それがいつどこで、どのようにしてかはわからない。

 だが、こいつの行ったの所業の数々を顧みた結果、僕がこいつに抱く印象は――――



(最初から……これが目的だったくせに……)



 ”狡猾”――――逃げる事ができない状況を作り出し、確証もないまま自発的に行わせるていだけを相手に押し付ける「不自由な二択」。

 無論それらを仕向けられたぼくには、一切何の得もない。

 得をするのは、どちらに転んでも自分の手を汚す事はない、モノクロだけが唯一である。



 気付くべきだった。

 僕が一日をいつも通り怠惰に過ごしていた事――――それ自体がすでに罠だったんだ。

 おそらく、交渉の場にこの学校を選んだのもその為だろう。

 夕刻、中途半端に姿を見せたのだってそうだ。

 先の対面でのやり取りの記憶が、言いようのない煮え切らなさに変貌していく。

 何が仮眠を取るだ……白々しい。

 僕をおびき寄せる最大の餌が、他ならぬ芽衣子の事だとも、お前は”最初から知っていた”癖に。



「ト、言ウワケサ」


(…………)



 その結論に至った時、モノクロの仮面から除く瞳が、獲物を狙う肉食獣かのような鋭い視線に見えた。

 しかしそこから逃れられる術はもう途絶えたのも事実。

 芽衣子のメッセージ通り、”会ってはいけなかった”。

 しかし芽衣子と言う餌にまんまと釣り上げられた僕は、もはや主導権をモノクロに預けるしかなかったのだ。



 僕が今できる事。それは――――

 モノクロが、何らかの慈悲を見せるのを望む事。それだけだ。



「僕を……どうしたいんだ」


「ン?」


「僕の名前を知って……アッチに送りこんで……」


「一体……何をさせたいんだよ!」



 例のボスキャラとやらと戦っている芽衣子に参戦して、共に戦えとでもいうつもりだろうか。

 だったとしたら、悪いがお世辞にも僕にそんな戦闘能力はない。

 それならこいつが直接加わった方が速いくらいだろう。

 つい今しがたまで「アッチ」の存在を知らなかった僕なんかを送り込む事より、ある程度事情を知っている自分モノクロが加わる方が……



「チョイマチ。論点ガズレテルネ」


「あ……?」


「僕ガ知リタイノハアクマデ”名前ダケ”。ダガ、ソレニヨッテ、同時ニ向コウヘノ扉ガ開ク」


「付加価値デシカナインダ。ダカラ、ソノ扉ヲ潜ルノハ君ノ自由」


「行コウガ行イクマイガ、僕ニハドッチデモイインダ」


(付加価値だと……)



 モノクロは告げる。どうやら当人としては、僕にアッチでどうこうさせるつもりはないらしい。

 「自主的に行きたいのならお好きにどうぞ」。そう言うモノクロの語りは、何となくではあるが本音で言っているように感じられる。

 当然、普段の僕ならそんな話即座に断っている。

 未知の世界に行かされる事もさながら、「他人から指示される」と言う状況が至極気に食わない。



 しかし――――今回ばかりはそういうわけにもいかなかった。

 僕だって扉の向こうなんてどうでもイイ。モノクロではないが「お好きにどうぞ」とは僕のセリフでもある。

 だが、そこに、扉の先に僕の行く末を照らす”導”があると言うのならば――――



「いるん……だな……?」


「誰ガ?」




――――答えは、一つしかなかった。




「芽衣子がそこに……いるんだな……!?」


「…………」



 僕の問いかけに、モノクロはあえて無言を貫いた。「教える義理はない」とでも言いたいのだろうか。

 だが、先の行動。芽衣子本人からのメッセージ。

 加えてアッチの住人であるはずのモノクロが、”コッチ”にいる事そのものが、答えを示すいい証拠だった。



 芽衣子がそこにいる――――その場で今何をしているかはわからない。

 だが、そのたった一つの事実が、僕を選ぶ選択肢を180°捻じ曲げる事は……

 おそらくこいつも、織り込み済みなのだろう。



「……交換条件だ」


「エッ?」


「お前のしたい事はよーくわかった。けど、そのまますんなり受け入れろってのも都合がよすぎだろ」


「条件……ナニサ」



 条件とは言う物の、内容はそう小難しい事じゃない。

 互いの希望を理解した上での、至極当たり前な主張だ。

 対峙する双方の、片方だけが得をする。そんな甘い話など世の中にはないだろう?

 故に、僕が提示するのは――――”当然の保証”。



「手伝え……そして導け」


「僕が、芽衣子と共に戻ってこれるように……!」


「アー……」



 モノクロは明らかにめんどくさそうな返事を出した。

 「なんで僕が」そんな心の声が鮮明に聞こえてくる。

 だが、やってもらわねば困るのだ。いや、これはもはや「義務」とも言える。

 だってそうだろう? この状況を生み出した張本人が、他でもないこいつなのだから。



「名前、欲しいんだろう?」


「ウン」


「それと同じだ、僕にも欲しい物がある」


「ウン」


「それが何かは……言われなくてもわかるよな?」


「ウ……ウン」



 悔しいが僕がアッチとやらに向かうには、こいつに名前を教える事が必須条件だ。

 だが無論タダでくれてやるつもりはない。

 「対価と代償」。この二つがせめぎ合うこの世の中で、自分だけがノーリスクでリターンを得るなんて、そんな虫のイイ話はない。

 利害の一致――――そう、これはまさに”取引”なのだ。



「扉を潜ったが最後、二度と帰ってこれませんじゃ話にならない」


「戻れるはずだ……お前がこうして、ここにいるように」


「ウーン、鋭イト言ウカ何ト言ウカ」



 できないとは言わさない。モノクロは向こうからこちらに現れ、器用に芽衣子だけを送り込んだ。

 そしてその気になれば、この僕をも送り込める……それも、ただ「名前を教える」だけと言う至極単純な事で。

 「名前が扉の鍵となる」。先ほどのモノクロの言葉を言葉通りの意味で捉えるならば、つまりこいつは、扉を自由に開閉できる事となる。

 つまりは、”世界と世界の往復”――――それができるから、こうして僕と交渉できるんだ。



「こんな回りくどい真似して……そうまでして名前が欲しかったんだろうが!」


「ダッテサア……」


「だってじゃねーよ! こっちも必死なんだ!」


「手伝え! 僕が芽衣子を見つけて、そして無事帰れるように!」

 


 語尾を、意図的に強く荒げた。

 強面こわもてとは縁遠い僕に効果は期待できない、

 それでも、そうするに至るワケがあったんだ。

 それはまさに、ここが正念場――――揺れかけたモノクロの意識に杭を指すには、今この時しかない。そう、思ったから。



「そこまでやるからには……絶対にただでは動かない」


「やれ。そして保証しろ」


「僕が再び、この地に戻ってこれるように……芽衣子と二人で!」


「…………」



 打算的な怒りは、いつしか本音へすり替わっていた。

 色々長々と語ったが、とどのつまり、僕が言いたいのはこう。

 「誰がタダで働くもんか」――――モノクロの行った裏工作紛いの所業が、逆に肝心の僕に不信感を抱かせる結果となったのだ。



「保証……ネ」


「絶対条件だ! 名前はくれてやる!」


「その代わり……手伝え! 僕が芽衣子を連れ戻すまで!」



 僕の叫びに反比例して、見るからにモノクロの口数が減って行く。

 たまに「ウーン」と悩んだような嗚咽を吐き、黙り、そしてまた「ハァ」とため息を付く。

 ターゲットの予想外の反撃に頭を悩ませているのか、それとも持ち前の「めんどくさい」が湧いて出たのか。



 そんなウジウジした悩み方が、より一層僕の怒りに火をつける。

 僕からすれば、この期に及んで悩むなんて論外だ。

 わざわざこっちから「乗ってやる」と言っているんだよ……。

 めんどくさいのはお前だけじゃない。何を隠そう、僕が一番そうなのだ。



「本当ニ……行クノカイ?」


「そう仕向けたのはお前だろ……!」


「イヤナァ……デモナァ……」


「くどい! 条件が飲めないのならこの話はナシだ!」



 僕が交渉を白紙にする可能性を示唆した事で、モノクロの態度に少しばかりの変化が訪れた。

 今僕に逃げられるのはモノクロに取っても本位じゃないだろう。それはわかる。

 だが……ここまで来て、まだモノクロが煮え切らない態度を取り続ける理由。

 それは、僕の予想とは”少しズレていた”事に起因する。



「本当ニ……コレデモ?」



(うっ……!)



 バサリ――――モノクロが不意に手を払い、その身を包むマントをフワリと上へと舞い踊らせた。

 それを見た僕は……不覚にも、推し固めたはずの決意が少し揺らいでしまった。 

 モノクロが払ったマント中。そこに本来あるべきあるはずの物。

 すなわち胴体の部分。それが――――



「コレガ扉ナンダケド」



(体が……ない……)



 「扉」と聞いた時、真っ先にイメージしたのは、一言で言うと少し豪華な開き戸。

 観光地や世界遺産にありがちな、所謂由緒正しそうな「門」だ。



 それは――――ただの妄想に過ぎなかった。

 モノクロの言う「扉」。

 それは何を隠そうモノクロのマントの内側にあり、そのせいか、代わりに本来あるはずの胴部が存在しなかったのだ。

 


「保証保証ト言ワレテモダネ……」



 モノクロには、体がなかった。マントの中には文字通り手も足もない。

 マントの内側には、ただ「暗色めいた虹色の渦」が蠢く様しか見て取れなかった。

 それはまさに竜巻の内部。もしくは滝つぼの裏。はたまた、夜空に輝く銀河のような……。

 どれもこれも正しいようで少しずれる表現。それらを無理やり一言で表すとすれば――――

 


(扉って……お前自身かよ……)




 異次元――――そんな表現がぴったり当てはまった。




「……ドウスル? コレデモ、会イニ行ク?」



 先ほどのお返しと言わんばかりにモノクロがプレッシャーをかける。

 その言葉の言わんとする事は「この先どうなるかは自分でもわからない」と言った所か。

 僕がしきりに強調した「保証」の二文字。

 その言葉を、モノクロは「そんなものなどない」と態度で示したのだ。



「ソリャ出来ル限リノ協力ハシタイヨ。デモ……」


「逆ニ聞クヨ。未来ニ……保証ナンテアルノカ?」


(ぐ…………)



 そして何より歯がゆいのが、モノクロの態度も言葉も、全て「正論」だと言う事だ。

 僕は扉の先を知らない。故に、良い意味でも悪い意味でも、何が起こるかなんてわかるはずがない。

 ”未来に保証なんかない”。

 例えモノクロが四六時中案内ナビしてくれた所で……いや、そもそもこの扉を潜らなくたって。

 僕がこれから送る長い人生の道筋に、保証なんて物は存在しないのだ。



(それでも……)



「ソレデモ?」




 それでも――――




「……行くよ」



「意外ト勇気アンネ」




 そう決めた、その理由はただ一つ――――




(芽衣子……)




 芽衣子がそこにいる――――それだけが僕の”保証”だったんだ。




「名前……」


「ン?」


「名前……いるんだろ?」


「――――ッ!」



 モノクロの無機質な仮面の奥から、堪えきれない感情が見えた気がした。

 モノクロに取っての最大の目的。それが今、紆余曲折を経て達成されようと言うのだから無理はないだろう。

 逆に、僕はその瞬間少しだけ悩んだ。

 名前を教えるのは構わないんだ。ただ……。

 この期に及んで自己紹介をするのが、少し恥ずかしかった。ただそれだけだ



「この裏に……僕のフルネームが書いてある」


「これでいいか?」


「オ、オオオーーーーッ!」



 モノクロは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出してきた。

 やはりと言うかなんというか、名前さえ知れれば、方法など最初からどうでもよかったのだろう。



 名前は……口ではなく物で教える事にした。

 僕の財布の中にあったレンタルビデオ店の会員証。

 その裏に記された、”僕の本名”で持って。



「ちょっと字は汚いけど……ま、間違うような漢字じゃないだろ」


「ハ、ハヤク! ハヤクソレヲクレ!」


(…………)



 モノクロの態度の急変ぶりに、少しばかりの軽蔑を覚えた。

 本能を剥き出しにした動物のような仕草に、あれほどあの手この手を尽くした知能の片鱗を感じ取れなかったのだ。

 それは逆に、モノクロがこの時をどれほど待ちわびたのかを鮮明に表していた。

 小細工に次ぐ小細工を積み重ね、やっと得た達成のチャンス。

 その苦労が報われる喜びは……僕も、十分わかるつもりだ。



(これを…………)



 だが――――そこで終わりじゃない。いや、絶対に終わりにはさせない。

 これはあくまで”対価交換”。

 僕が目的を果たす時まで……こいつにはまだまだ働いてもらうつもりだから。



「ほら……受けとれよ」


「――――オオットォ!」



 ピッと無造作に投げ捨てた会員証を、親の形見のように大事に掴むモノクロ。

 何もそこまでしなくてもと思ったが、奴にとってはそれほど価値のある物なのだろう。

 名前……何故にそんなものを欲しがるのかは皆目見当がつかないが、欲しいと言っているのだから断る理由はない。

 


 モノクロは受け取ると同時に即裏返し、そしてまじまじと僕の名を見つめ出した。

 そんなモノクロの様子を見て、またしても推し固めたはずの決意が揺らいだ。

 その原因は芽衣子からのメッセージ。

 「決してモノクロに名を教えるな」――――その忠告を破ってしまった事に、内心罪悪感を感じていたんだ。



「フムフム…………ホウホウ…………」


「いつまでそうしてんだよ……さっさと扉開けよ」



 そんな僕の心中も知らず、いつまでも嘗め回すように人の名を見つめるモノクロ。

 これはこれで別の意味で不安を覚える光景だ。

 別に、そこまで注目を浴びる程変わった名前をしているつもりはないのだが……

 まるでキラキラネームを見つけたような目で眺めるモノクロの態度に、少しばかりの気恥ずかしさが湧いて出たのはここだけの話だ。



「……一ツダケ、言ッテイイカナ」


「なんだよ」




 そして、その時感じた気恥ずかしさが――――まさか正しい感情だったとは、予想だにしなかった。




「………………フッツーノ、名前ダネ」



(はッ――――!?)




――――うるせーよ!

 この時、条件反射的に突っ込みを入れた事をハッキリと覚えている。



 そして……

 そんな下らないやりとりが、僕に残された最後の記憶となるとは、これまた予想だにしなかった事だ。

 


(ァ――――)



 モノクロの心無い一言の後、急激に意識が遠のいて行く感覚がしたんだ。

 ドロリとした感覚が僕の脳に直接塗れて全身を染め上げる。

 そして徐々に、脳を起点に四肢の自由が利かなくなり、一人でにその場に崩れ、しかし痛みは一切なく……

 


(――――ゥ)



 ただただ、眠るように消えて行く。

 そんな感覚だけが、留まる事を許された、唯一の記憶だった。



「く…………」


「心配シナイデイイヨ。ソノ内元ニ戻ルカラ」


「これ……が……扉……か……?」


「ウーン、マア、ソンナ感ジ」


「残念ナガラ、君ガソノ道中ヲ認知スル事ハナイケド」



 薄れ行く景色の中で、かろうじてモノクロと会話する猶予が残された。

 だがその猶予も、吹けば飛ぶほどの間でしかないだろう事は僕自身がよくわかっている。

 今思えば……まだ喋れる内に色々聞いておくべきだったと思う。

 が、できなかった。それはどうせ、”聞いた所で結果は同じ”だったからだ。



「う…………」



 尋ねた質問にモノクロが答えるとも限らない。

 答えた所で適当な事を言われるかもしれない。

 そもそも質問は、ひょっとしたらモノクロ自身も知らない事かもしれない

 


 ”未来に保証なんてない”。

 それは皮肉にもモノクロの言葉通り、確証のない答えなんて「知るだけ無駄だ」と言うのは、僕も同意見だったから。



「心配シナクテモイイヨ。僕モ出来ル限リノ協力ハスルツモリサ」


(たりめーだ……ボケが……)


「タダマァ、オ察シノ通リ根ガメンドクサガリデネ。君ガ本気デ危ナクナルマデ動カナイト思ウガ、ソコハ許シテクレ」


(なッ……ふざけんなよ!? 早速言ってる事が違うだろ……!)


「コレカラ君ガ向カウ場所ハ、保証ナンテ一切ナイヨウナ所ダケド……」


「マダ耳ガ聞コエル内ニ、一ツダケ教エテオクヨ」


(…………?)



 その場に倒れ伏せ、意識が遠のく僕に向かって、モノクロが少しだけ近づいてきた。

 そして――――囁く。



 意味がわからぬ一言。

 しかし今後の僕の行く末を決める、重要な一言だったと知るのは、まだまだ先の話だ。




「ウケイレロ ナニモカモ」




「……?」





 その言葉と同時に――――僕の意識は闇へと消えた。




「――――」




「……行ッテラ」




 僕の意識が消えた後――――

 モノクロがどうしたかは、誰も知る由もない事である。




                  後編へつづく



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