表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羨望のリフレクト  作者: モイスちゃ~みるく
精霊使いの逆襲
105/169

七十三話 再燃

 


――――ジュルルルルル!



「くっそがァーーーーッ!」



 この何とも言えない憤りは、僕の決めた事に僕自身が納得していないから生まれる物だ。

 「知らない隣人より知ってる遠人」

 これは僕が、隣の席の奴を一切眼中に入れず、離れた席の芽衣子ばかりを見ていたからこそわかる事である。



『落ち着けや。しゃーないやんけ』


「だってさぁ……だってさぁ!」

 


 理屈の上ではわかるんだ。でも、後ちょっとって所でみすみす放棄する事のなんとも言えない”勿体ない”の感覚。

 爆弾魔ボマーがあの大男の可能性が出た以上、じゃあ僕が追っていたのは一体誰だったのか。

 不快な靄を一刻も早く晴らしたい鬱憤が僕の脳髄を占領する。

 どっちも一網打尽。それができればベストなのだがそう言うわけにもいかない。

 どちらか選ぶとするならばやはり、確実に”被害をまき散らす”事がわかっているあの大男を――――



「くっそ、あのバカ王子! なんて間の悪いタイミングで……!」

 

『わいはちょっとワクワクしてるねんけど』


「はぁ!? ワクワク!? 僕がアイツを追い出すのにどれだけ苦労したと思ってんだよ!」


『いやだってよ。聞いてくれよ』


「なんだよ……」


『今お前が向かってる先にいる人……わいの”お父ちゃん”に当たる人やど』


「……知るか!」



 生き別れた父親と涙なしでは語れない感動の再会とでも言いたいのか。一人だけ潤んだ空気を纏うスマホにややイラっとくる。

 別に、ボランティアで向かってるわけじゃないんだよ。

 何でお前の珍生の為に僕が縦横無尽に走り回らねばならぬのだ。そういう事はその手の番組の制作部に送ってくれ。

 

――――などと心の中で愚痴りつつ全速力で向かう先は、奇しくも当初の目的地であった”開発区”

 ジュルルと音を立て急速に流れる水蛇が、さっきまでいた場所を遠くの景色に送っていく。

 今は商業区との区境を超えたくらいだろうか。

 現在位置が目視じゃわかりずらいのは、どれもこれも火と煤とガレキに変貌しており、先ほど派手に爆破されたばかりの商業区と、大差ない風景が広がっているからである。



『一番最初にやられた所やからなー……』


「ここの人達は……無事避難できたんだろうか……」



 開発区には僕も少々思い入れがある。

 オーマに置き去りにされた山賊達を迎えに行くべく、道行く人に声をかけたものの……

 僕を不審者と間違い全力でスルーしてきたのは何を隠そうこの開発区の人達である。

 しまいには通報までされて、心の中でハッキリ「死ね」と呟いたのを覚えている。

 しかし冗談でも「死」と言う言葉を軽々しく使うもんじゃないと思った。

 今は本当に「死」と言う物が、そこら一体を漂い練り歩いているのだから。



『あ! オイあっこ!』


「――――あっ!」




「う……ぁ……」



 開発区へと入りしばらく進んだ頃、道端に倒れている帝国兵を一名発見する。

 近づくと見るからにボロボロで相当手痛い目にあったのだろうが、幸いにもまだ生きている。

 このダメージは爆弾を浴びたか崩れるガレキにやられたか。

 もしくは、”怪力自慢の暴れん坊”に絡まれたか。



「ちょっと、大丈夫ですか!?」


「あ、あんた……せ、精霊使い様……?」


『こりゃまた見事なまでに……おい水玉! 何とかしたれ!』


「コポォ!」



 応急処置がてら水玉の持つ【癒しのシャボン】を振りかけた。

 癒しと言うよりただの気休め程度の疲労回復にしかならないが、それでもないよりかは随分ましで、とりあえず口が効ける程度には回復できたようだ。

 この兵士は僕を一目見て精霊使いと見抜いた。

 つまり、この兵士は王宮からやってきた増援部隊の一人と言う事である。



「か、かたじけない……私はつい今しがた到着したばかりな物で……」


「今しがた? 緊急発進スクランブルはとっくに出てたでしょ?」


「え、ええ……しかし先行して発進した魔導車が、何故か次々”落とされていく”との報告が入りまして……」


「私は後発組でした。ですから……急遽ルートを迂回して、それで遅れた次第で……」


狙撃手スナイパー……」



 増援の妨害。その言葉を聞いて思い浮かぶのは、どこかから僕の脳天にヘッドショットを決めようとしてきた例の狙撃手スナイパーである。

 確か狙撃手スナイパーの存在はオーマがいち早く察知していたはず。

 「ぶっとばしてくる」と言い残し山賊達の元を去って行ってから、しばらくが経っている。

 そして今。こうして増援が無事たどり着いたと言う事は……おそらく、オーマが”宣言通り”の事をしたのだろう。



『帝国兵……やっぱ開発区こっちに集まってたんやな』


「ええ。緊急発進スクランブルは開発区に出ておりましたので……」


「全員、開発区に?」


「いえ、何も全軍を投入したわけではございません。確かに大部分は開発区へと向かいましたが、警備を固めるべく警備部隊が各区へ散会しております……」



 話を聞くに、帝国軍の緊急発進スクランブル発動により大部分は開発区へと向けられたが、万一に備え戦火から遠い区域にも兵力を分配しているようだ。

 そしてこの戦火の真っ只中、増援よりも多くの兵が待機している区域がある。

――――帝都の大本営、王宮のある中枢区である。

 


「何が起こるか、わかりませんので……」


「……懸命だと、思うよ」



 そっちに回された兵はある意味ラッキーかもしれない。まさか待機要員もこれほどまでひどい状況だとは思ってないだろうから。

 だが、だからと言ってまだまだ油断はできない。

 テロリスト神出鬼没が売りなのだから、今こうしている間にも、いつ何時どこから湧いてくるかわからない――――

 


「遅ればせながら到着した我が部隊は、到着早々敵襲に……」


「誰だ!? 一体誰にやられたんだ?!」


「この先に……”二本の棒”を振り回す大男が……うぐぅ!」


「やっぱりアイツだ……絶対、アイツだ!」



 その話を聞いて確信した。やはり間違いない。

 今まであったテロリスト。爆弾魔ボマー狙撃手スナイパーと来たからには、さしずめあの大男は単身で敵地へ突っ込む「突撃兵アタッカー」と言った所か。



『お父ちゃん暴れてるん?』


「お父……? はい、現在わが軍はその男と交戦中……あうっ!」


「あーくそっ、また暴れ回ってるみたいだな……!」


『あ、おい! 周り見てみぃ!』



 スマホに促され辺りを見回してみる――――どうして、気が付かなかったのか。

 滾る轟音の影に隠れ、”静かなうめき声”を挙げる兵が、至る所に道に伏せていると言うのに。



「「うう……」」



「まじかよ……」


『お父ちゃん……これを、一人で?』


「到着早々我が部隊は瞬く間に全滅……合流した他部隊も、今交戦中ではありますが……」


「前の時と一緒だ! でも、逃がそうにも……」



 今からUターンして彼らを避難させようにも、いくらなんでも数が多すぎる。

 頑張れば数人程度なら運べるとは思うが、今瀕死を迎えている兵の数は明らかに許容範囲を超えている。

 走る事には長ける水玉ではあるものの、事運ぶと言う点に置いてはやや不向きな精霊である。

 それは水であるが為。重い物体を大量につぎ込めば、そのまま底まで沈んでしまうから……



『山賊軍団呼ぶか?』


「来てもらう……か」



 この数を同時に運ぶ事ができるのは、僕の知る限りやはり地竜しかいない。

 そう判断した上で、山賊に連絡を取るべくスマホに手を掛けた。




――――その時の、事だった。





「 オ ゥ ル ラ ァ ー ー ー ー ッ ! 」




「――――ッ!?」



 スマホに手を掛けたその瞬間、突如として爆発が起こった。

 爆発が僕らを隔てていた壁を丸々飛び散らせ、その中から白煙が噴火した火山のように溢れ出てくる。

 不意に飛散した白煙が僕らの視界を奪う。

 その中から――――いつか聞いた”喧嘩祭り”の音頭が聞こえた。




「ハッハッハーーーーッ! オラオラオラ、帝都の兵の癖に、揃いも揃ってそんな程度かぁ!?」



 白煙の中から何かが飛び出てきた。帝国の鎧に身を包んだ、帝国兵その者である。

 突如現れた兵士に咄嗟に目を合わせた。

 よく見るまでもなくすぐ気づく……兵を包む鎧の胴部が、綺麗な”一本線状”にベコリとえぐれていた事に。



「こ、これは!」


「やっぱり……!」



「――――ハン! たかがちょっとぶん殴ったくらいで随分ふがいねえなぁ~、これじゃ山岳隊の連中と変わらねえよ!」


「ここは帝都.帝国の大本営だろ!? もうちょっとくらい、根性見せてくれてもいいんじゃねえかぁ? ええ!?」



 鎧のえぐれた帝国兵が次から次へと僕の元へ飛んでくる。それは文字通り、野球の練習でおなじみ千本ノックのように。

 ほぼ九割近くあった確信の分量が、たった今十割に満ちた。

 やはり案の定。ここで暴れているのは、あの時の”アイツ”だった――――

 



「「ウァァァァーーーーーッ!」」




「うッ! ゲホ……相変わらず急に現れやがって……!」


『 お 父 ち ゃ ん ! 』


「バッ、お父ちゃんじゃねえよ! おい水玉、行くぞ!」


「コポォ~ッ!」


「兵隊さん、ここで待ってて! アイツを何とかしたら仲間呼ぶから!」


「は……い……」




――――急行。

 アルエは水流を再び生み出し、祭囃子の聞こえる方へと走り去っていった――――




 ガ ッ ! 




「くあ……! 己、何と言う耐力なのだ!」


「アホかよ。お前らが弱っちいだけだっての」


「気をしっかり持て! 以下に相手が未知の存在であろうと、我ら帝国兵ここで朽ち果てるわけにはいかぬ!」


「そーそー。そうやって弱いなら弱いなりにガッツを見せてもらわねーと、こっちもはるばる帝都へ赴いた意味がねえ」


「ヘヘン、今回は列記とした”作戦”だからよ……叱られる事なく好き放題暴れられるわけなんだな」


「ぐう……おのれぇ……」


「だ~か~ら~よぉ…… も っ と 骨 見 せ ろ ! 」



 男は激を飛ばしながら、その手に持った棒を大きく振りかぶった。

 力に任せただただ棒を叩きつけるその行動、山岳宿舎の時と全く同じである。

 



――――ジュン!




 勢いのまま弧を縦に描く棒が、対峙する兵の頭上まで振り下ろされた頃。

――――棒と兵とを隔てる、水の盾が現れた。




「やめ……ろ……!」




「 ボ ン ! ? 」




 男の前に突如立ちはだかった水の盾が、棒の振り下ろしを食い止める。

 気分よく暴れ回っていた所にまさに水を差すような妨害。

 にもかかわらず、男はどこか嬉しそうな表情を見せた。

 それもそのはず。この変幻自在に水を操る精霊使いが、つい最近自身をかつてない程にまで追い詰めた”ボン”その者だからである。




「………… ら ぁ ッ ! 」




「おう――――!?」



 再開を祝う間もなく、男は再び水の圧により吹き飛ばされた。

 ドォ……ン。吹き飛んだ男の大きな体が遠くで衝撃音を立て、その際またも壁を壊しながら、白煙の中へ消えて行った。



「せ、精霊使い様!」


「……みなさん、聞いてください! アイツと……アイツとは戦っちゃダメだ!」


「な、なんと!?」


「アイツはちょっとやそっとじゃ倒れないんだ! あの異様なタフネスは僕が一番よーく知ってる……」


「今僕の仲間がこちらに向かってます。皆さんは、避難と負傷者の介護を!」



 帝国兵を見下すわけではないが、やはりその戦力差には一方的な開きがあるとアルエは結論付けた。

 男は、言うなればバリバリのパワータイプ。

 加えて耐久力が頭一つ飛びぬけており、その反動からかややこらえ性がない。

 その身体能力スペックが最大限に生きるのは、今のような集団戦。

 多勢に無勢はむしろ男の土俵なのである。



「しかし、それでは精霊使い様が……」


「アイツは……僕が止める!」



 そんな男を食い止める事ができるのは、男を上回る力をぶつけるか。

 もしくはそもそも”力が通らない物”をぶつけるか――――つまり、水である。

 経験に基づいた確かな判断により、アルエが勇ましく仕切り出したと同時。

 白煙の奥から”ライバル”の成長をねぎらう声が聞こえた。



「――――嬉しいね。一度会っただけなのにそこまで評価していただいちゃってよ」


「みんなかしこまって精霊使い様呼ばわりだぁ? えらく出世したじゃねえの。ボン」


(やっぱり……この程度じゃダメか……)


「ちょうど少し退屈してたんだ……せっかく帝都までやってきたってのに、どいつもこいつも根性足らなくてよぉ」


「これでやっと、本腰入れて遊べるな!? え え ! ? 」



 男は湧き立つ高鳴りを抑える事ができず、喜びを声に変えて吐き出した。

 暴れる事が大好きで、戦う事に曇りない喜びを表現する男。

 そんな男の嬉々とした様子を見るのは、初めてではなくこれで二回目である。

 


「ついてるぜ! こんなに速く”リベンジ”の機会が来るなんてよ!」


「やっぱり俺らは運命で結ばれてるってか!? あん?」


(きめえ……)



 まるで小指が赤い糸で結ばれているかのように言う男に、アルエは若干の気持ち悪さとそれを上回る”不気味さ”を感じた。

 アルエに取って、戦いに喜びを感じる事自体が理解を超える感情である。

 痛く辛いだけのドツキ合いに何をそんなに恋い焦がれているのか、男の喜びが一片たりとも理解ができない。

 そんなまるで異なる思考を持つ男に戦慄を覚えるのも、これまた初めての事ではなかった。



『――――お父ちゃぁん!』


「……は?」


「ちょ、おい!」


『お父ちゃん、わいやで! かわいいかわいい息子やで!』


「……何そいつ」


「く、空気読めよ!?」



 再会も早々に。早速再戦の予感を感じさせるヒリついた空気に、スマホの発するコテコテの関西弁が割って入ってきた。

 男が戦いの雰囲気を発しているように、スマホもまた別の雰囲気を発していた。

 声が震え、ついでに鼻をすすったような雑音すら聞こえてくる。

 スマホの中では、この再開は戦いではなく”感動”の空気なのである。



『お父ちゃ~ん、感動の再会やで~、涙なしには語れんで~』


「……いやちょ、マジで意味が分からん。ボン、説明しろ」


「……山岳宿舎の時、あの後お前の事を帝都に報告したんだよ」


「おう、だろうな」


「帝都の外だからな。連絡はそれ用の魔法陣を使った」


「ああ、送伝陣ね」


「その時……その……」



 スマホは背中を向けるよう執拗に催促を促す。

 アルエはそれに答え渋々、スマホの背面に描かれた”魔法陣”を男に見せつけた。



『ほら見てや! 息子の証拠やで!』


「――――ま、間違えやがったのか!?」


(マジ恥ずかしい……)



 アルエは思った。

 何が悲しくて、テロリストの一人とこんな所でお茶を濁すような世間話をせねばならないのだと。

 しかも魔法陣を間違えて描いたのは、アルエではなくオーマである。

 しかし当の真犯人がここにいない以上、手元で友人のように話すアルエに疑いの目が向くのは必然。

 それ故に今度は急に”恥ずかしい気持ち”が、アルエの心中にふつふつと湧き上がってきた。



「ハッハッハ! 結ばれてるどころか子宝にまで恵まれてるとはな!」


「こりゃいよいよ切っても切れねえ関係だな!? ええ!? 子供が生まれたなら教えておいてくれよ、オイ!?」



 案の定、気持ちの悪い悪ノリに拍車がかかった。

 男の悪ふざけも大概の口調に、アルエの中で別の意味での怒りが湧き上がってる。

 「この緊迫した状況下でなんだこのおちゃらけた空気は」――――さすがのアルエも、我慢の限界であった。



『お父ちゃ――――あっ』


「静かにしてろ! バカ!」


「あ、ひでぇ。幼児虐待かよ」


「スリープにしただけだよ、ボケ! そっちこそきもいホモネタ連呼すんな!」



 アルエはスマホを黙らせたことにより、場は再び緊迫した空気に包まれる。

 だがこの張り詰めた空間の中で唯一癒しとなる事は、男が言うなれば”一応”顔見知りの存在である事。

 「知ってる人」と「知らない人」ではテロリストと言えど印象が大きく異なる。それはいい意味でも悪い意味でも。

 そしてスマホの割り込みが一つのキッカケとなり、男といくつか問答を躱す猶予を与えた。



「ふふーん、帝都に向かってるとは聞いてたから、近々会えるとは思ってたけどよ」


「お前、全然こねえもん。退屈だから浮気しちまったよ」


(会いたくなかったんだよカスが……)


「にしても、俺らの作戦と丸々被るたぁな……ハハ、運がいいのか悪いのかってか?」


「……一つ、聞かせろ」


「あ? 何?」


「お前が……爆弾魔ボマーなのか?」



 追い詰める寸前のテロリストを無下にしてまで男の元へ向かった理由――――それは爆弾魔ボマーの所在である。

 さっきまで攻防を繰り広げていた人物と今目の前にいる大男。

 この両名の一体どちらが爆弾魔ボマーであるのかを、アルエは一刻も早く知りたがった。



「爆弾? 何言ってんだお前。おりゃそんなもん持ってねえぞ」


「ま、まじかよ……!」



 その答えは悪い方の答え――――”ハズレ”であった。

 これにより先ほどまでの奮闘が、哀れにも全て水の泡と消えた。

 よくよく考えれば、男の得物はあの二本の硬そうな棒のみ。

 爆弾どころか火気の類を一切使わず、己が肉体のみでぶつかってきた事を、アルエは今更ながら思い出してしまった。



爆弾魔ボマーは俺じゃなくてドナ……あ、そうか」


「ボォ~ン~、まぁ~た、”間違え”やがったな?」


「な、何をだよ!」



――――が、思い出しついでにもう一つ気づく。

 あの時の戦いは一言で言うなら”カチ込み”。突然やってきて突然暴れだした自然災害に近い登場であった。

 だが、今回の襲撃は違う。

 テロリストが国の首都を気分で襲うわけもなく、爆弾に代表される”綿密な準備”に基づいた襲撃である。



「俺も今回は、ちゃんと”充電”してきたからな! 楽しい時間をできる限り長く遊べるように……”満タン補充”だ!」



 帝都到着後、アルエは様々な装備を譲り受けた。 

 それらは男のあずかり知らぬ事。その場にいなかった男にアルエの充実した装備のいきさつを知る術はない。

 そしてそれは、”男に対しても”同じ事が言える。

 


(充電……補充……?)



 よく注視すれば、男の背中に大きな”筒”が背負われているのが見えた。

 加えて腰には何やらジャラジャラと、ベルトにしてはかなり邪魔そうな大きい”円柱”が、グルリと一周に渡って付いている。

 それは前回の戦いではなかった”アルエの知らない”装備である。

 つまり結論付けるならば、アルエの装備が充実したように――――男もまた、”作戦”に合わせ装備を整えてきたと言う事である



「爆弾。何と間違えたのか俺にはよーくわかるぜぇ……」




 その時――――男の背中に背負われた大きな筒が、男の手により”アルエの方を向いた”。




「――――こいつだろ!?」





 ガ コ ン 





(バズーカ砲――――!)





 ド ッ ―――― 筒から爆弾のような爆音が、白煙と同時に吐き出された。





――――





「……あれ」



 向けられた”バズーカ砲”を真正面から発射され、アルエは無意識に目を瞑ってしまった。

 水玉は爆弾の発破とは相性が良かったものの、バズーカの持つ膨大な”噴射力”まで相殺可能なのか。

 それをぶっつけ本番で試すには、少しばかり自信がなかったのである。



「あん? 外したかぁ?」



 男の言う通り、それは確かに間違えるに値する物であった。

 爆弾とバズーカ砲。どちらも、爆音を上げ”当たれば粉微塵に消し飛んでしまう”と言う点で共通している。

 だが、それがわかるからこそわからない。

 そんな物を目の前で射出されたのにも関わらず、”何で何も起こらないんだ”と。




(発射……したよな?)




 その答えは、間もなくやってきた――――






「――――あッぶない所だったなアルエ! 無事か!」





「 あ ~ ~ ~ ~ ッ ! 」




――――アルエは、さらにもう一つ思い出した。

 男と離れた後、この帝都にて。

 危うく無銭飲食で捕まりそうになった所を颯爽と現れ、窮地を救ってくれた英雄ヒーローの事を。

 


「いやはや、済まねえ済まねえ。こっちはこっちで色々忙しくてよぉ」


「おめえ……は……」


「っと、こいつだな? お前が山で戦ったとか言うデケエ奴ってのは」




 そしてその英雄ヒーローと出会った場所もまた、”今いるこの周辺”であった事も。




「お、おおお、お……!」




「”王子”――――!」




                           つづく 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ