子
「マジビビったわ……」
「明カリ持ッテナイノ?」
モノクロが声を発するその時まで、一切気づく事ができなかった。
そうなる程までに、モノクロの黒いマントが闇夜によく馴染んでいたんだ。
元々得体の知れない奴。加えて、つい最近まで僕の中にいなかった奴でもある。
なればこそ、僕が他者の存在を認知できないのは当然かもしれない。
その場にいつつ、僕の視界をボヤかすまでに。
「せめて一声かけろよ!?」
「エー、ソンナノ知ラナイヨ。君コソ”オ邪魔シマス”クライ言ッタラドーナノサ」
ただでさえカモフラージュ率の高いモノクロの衣装。
それに加え、反対に闇とは正反対にクッキリ浮かび上がる白い仮面が、月明りに照らされ最高に不気味である。
学校の怪談の主役に抜擢されても不思議じゃない姿……一度会っててよかったと本当に思う。
これが初見なら、多分僕は、腰を抜かしながらここから飛び出していただろう。
「マーイイジャン。コウシテ再会デキタンダカラサ」
「まぁ……そーだけど」
そんな僕の心境一切意に介さず、当の本人は相も変わらずのんき一辺倒である。
仮眠を取ってバッチリ充電できたのか、不気味な機械音声ながら纏う空気は「ゆるみ」そのものである。
モノクロの一言に促され、改めて見て見れば、ほんの微弱ながら黒いマントの境目が視認できた。
言われてからわかっても後の祭りではあるが……一応それは、おっしゃる通りに”最初から”その場にいた証明になる。
「……僕が来るまで何してたんだよ」
「ン……月ヲ眺メタリシテタ」
「月を眺めていた」――――そう言うモノクロの余暇の過ごし方は、どう聞いても退屈凌ぎ以外の何物でもない。
だが不思議と、モノクロの気持ちは痛いくらいにわかった。
モノクロがボケっと外を月を眺めていた場所……そこは、僕の席がある位置だったんだ。
「コノ窓ニ映ルノ。君ガナンカスッゴイビビリナガラ、入ッテクル様子ガサ」
「見えてたのかよ……」
モノクロのいる場所が僕の席だと言う事は、僕以外知る由もない事だろう。
にしても……なんだろう。
夕方から薄々思っていたのだが、こいつからは何故か、よくわからない「親近感」を感じさせてくれる。
やたらめったらめんどくさがる事もそう。やる気の感じられない態度もそう。
そして今もそうだ。偶然かもしれないが、モノクロのやっている事は、僕の席の活用の仕方と同じだったのだ。
「窓際ノ席ッテイイヨネ」
「……お、おう」
モノクロが今やっている事。それは僕が、その場所で普段やっている事と同じだったんだ。
授業内容は全てスルー。代わりに僕は、窓の向こうに広がる景色を余す事なく見つめている。
そして時折風景から目を離す……窓に映る、芽衣子の姿を見る為に。
「サテ、ト……」
「ソシタラ、本題ニ入ロウカ?」
「……」
しかしその姿を見る時間は、永遠に続くわけじゃない。
授業が終わればここいる時間も終わる。
教室には誰もいなくなる。窓の向こうには誰もいなくなる。
見えるのは下校途中、もしくは、部活に励む連中の姿だけ。
故に、振り返れば――――そこには誰もいない。
「約束通リ ココニ キタネ」
「お前が呼んだんだろ」
「ソーダケドサー。ブッチャケ本当ニ来ルトハ思ッテナカッタノ」
「はぁ……?」
「寝坊クライハ、ヤラカシソウダト覚悟シテタンダケドネ」
「ソーマデシテ……メーコニ 会イタインダ?」
「……」
そして皆が僕の視界から消えて行く中で、また明日もこの目に映す事ができるように――――
その為だけに、僕は学校に通っていると言っても過言じゃない。
故に、見過ごせるはずがなかった。
そんな芽衣子をどこか彼方へと追いやったモノクロ。
と、そんなモノクロが放つデリカシーの無い一言とが。
「大好キナ メーコ 会エナイ イヤダ……ダロ?」
「やめろっつーの」
やはりというかなんというか、そんな僕の心情をこいつは完璧に理解しているらしい。
だからこそ嫌悪が湧く。こうなるから、この手の話はイヤなんだ。
どこの世界でも必ず一人はいるもんだ。恋バナが絡むと必ずこうやってネタにしてくる奴が。
「……お前は一体なんなんだよ」
「エ?」
そんなこっぱずかしい話題を、早々に切り上げる目的もあった。
本題は――――僕の方から提示した。
このままこいつに主導権を握られたままだと、いつまでも話が進展せず延々と小馬鹿にされ続ける。
そんな予感が、ヒシヒシと感じられたから。
「芽衣子からメッセージが来てたんだよ」
「ホッホー……デ?」
僕はおもむろにスマホを取り出し、画面を目一杯モノクロへと向けた。
画面に表示させたのは、昨晩の芽衣子からのメッセージ。
そこには、支離滅裂ながら「モノクロ」の名がハッキリと記されていた。
「モノクロは名前を奪う」。このメッセージにはハッキリとそう書かれている。
その内訳を本人から直接聞き出す機会だと、この時はそう思ったんだ。
「ハーハー、ヘーヘー、ホーン……」
(ちゃんと読んでんのかよ……)
スマホの薄らとした光が、モノクロの仮面に反射して一層不気味さを掻き立てる。
自分の事が書かれたメッセージに目を剥けるモノクロではあるが、「ヘーヘー」「ハーハー」「ホーホー」と適当な相槌を上げる様子からして、やっぱり少しばかり不安を感じる次第だ。
仮面のせいで奴の目線がわかりにくいのだが、向きからしておそらくちゃんと読んでいる……と、思いたい所。
ただ、なんとなくだが――――きっとこいつからは「予想の斜め上の返事」が返ってくる気がする。
そんな確信に近い予感を感じるのは何故なのか。
「そのメッセージの真相を、当の本人に聞きたいんだが?」
「ンーマァ、トリアエズ」
「誤字ガ多クテ読ミニクイ」
「……そっちじゃねーよ!」
返答は、案の定のそれだった。
確かに読みにくいのは同意する所だが、僕が知りたいのはそう言う事じゃない。
相も変わらずおどけてばかりで、一行に話を進ませないモノクロ。
その姿は……当初こそ”異様”でしかなかったのに。
だがこのふざけきった態度からして、段々と「道化」に近い印象を抱くようになったのはここだけの話である。
「文法じゃねーよ! 内容だよ!」
「アア、ソッチネ」
不真面目で曖昧な白黒の怪人――――いつの間にやら、恐怖は微塵も感じなくなっていた。
入れ替わりに湧き出るのは、漏れるように湧き立つ「煩わしさ」。
「とっとと話を進めろよ」。そんな呆れに似た面倒さが、こいつを介して次々と溢れて止まらない。
だが……このすぐ後に、思い知らされる事となる。
このウザったさしか感じない不真面目な態度が――――ある意味で”僕に気を使った”態度だったと言う事を。
「これは一体どういう事だ。名前を奪って存在を消す? わけがわからない」
「それにあっちの世界ってなんだ。このメッセージを最後に芽衣子はいなくなった」
「ヘーソーナンダー」
「しかもそれだけじゃない……今日一日、周りの人間がまるで最初からそんな奴いなかったかのように振る舞っていた」
「ソレイジメジャナイノ」
「そんなわけあるか! いいからとっとと吐け!」
「あれもこれも、みんな……みんな、お前の仕業だってのかよ!」
余り普段はこういう事はしないのだが……
モノクロのあまりのふざけっぷりから、自然と険しい顔にならざるを得なかった。
そして迫った。怒声を交えて、強く睨みつけて……まるで、カツアゲでもしてるかのような気分だ。
「大変ダネ」
(こいつ……!)
が、残念ながらそんな強面な表情は、僕の顔面からは出せないらしい。
まぁ元々キャラではない事ではあったが、それにしても、少しショックだ。
漫画で見た任侠やら番長やらをイメージして、一生懸命睨んだのに……。
こいつときたら、全然ビビる様子がない。
「……フワァ」
「何あくびしてんだよ!」
そしてまた「あくび」だ。
夕方に仮眠を取ると中断した癖にその眠たげな態度。
僕の「詰め」が退屈でしかないとでも言いたいのだろうか。
悲しい事に僕は今、完全になめられているらしい。
それは僕の見た目からも――――同時に”内面”でも。
「イヤサァ……待ッテル間ニ考エタンダケドネ」
「なんだよ……」
「全部口デ伝エルノハ簡単ダ。デモココデベラベラ語ッタ所デ。ドーセ君ニハワカンナイダロ」
「こ、ここまで来てそれを言うかよ……」
「デモ実際ソージャン。ソノスマホガイイ証拠ダヨ」
モノクロにはモノクロなりの理由があるらしい。
曰くモノクロが僕に抱く印象は、いろんな意味で「人の話を聞かない奴」と言う印象だそうだ。
ほぼ初対面の奴にそんな事言われる筋合いはないのだが、だが言い返せないのが悲しい所。
何故なら――――実際に、そうだからだ。
「ソンナニ大量ニメッセージガ来テルノニ、返信ガ二通ダケッテマナー的ニドウナノ?」
「そ、それはだな……」
「内容コソ読ミ辛イケド、異様ナ事態ガ起コッテルッテノハ見レバワカルジャン」
「だ、だからそれはっ!」
「内容ヲ理解シテナカッタ。モシクハ最初カラ読ジャイナカッタ」
「デ、後日改メテ読ンデ、ヤット異常サニ気ヅイタ……ツマリ」
「君……途中デ寝落チシタダロ?」
(う……)
まるで心を読まれているかのように、モノクロの指摘は寸分たがわず大正解だった。
だが待ってほしい。確かに僕はそのメッセージが届いた当時、眠気に負け爆睡してしまった。
だが……そりゃそうなるだろ。
ただでさえ普段はない芽衣子からのメッセージ。
に加え、あんなわけのわからん長文がズラズラと送り付けられたとあっちゃあそりゃあもう。
「……じゃあ何のために呼んだんだよ!」
「君ミタイナタイプハサァ……言イ聞カセルヨリ、実際ニ見セタ方ガ速イト思ウンダヨネ」
「何を……」
「――――ダカラ、持ッテキタ。見タダケデ理解ル物ヲ」
ピロリーン――――モノクロが何かを言ったと同時に、僕のスマホに一通のメッセージが届いた。
メッセージはライン。ちょうど僕が今開いている、芽衣子とのトークに宛てられた物だ。
(え……)
「見テ見レバ? ソレデ全テワカルヨ」
モノクロへ向けた画面を今一度自分の方へと戻す。
そして再び我が目で見て見れば……それは確かに、芽衣子とのトーク。
だがそこには、大凡僕が見る機会はないであろう、”我が目を疑わざるを得ない”画像が添付されていた。
「なんだ……これ……」
画像には――――芽衣子本人が写っていた。
それはある種記念撮影のようではある。
だがこれを「自撮り」と呼ぶには、あまりにも異様すぎる光景だった。
顔貌こそ、まぎれもなく北瀬芽衣子のそれである。
だがその表情にいつもの笑顔はなく、どころか先ほどの僕みたいに眉間にしわを寄せた、実に厳めしい表情をしているのは何故なのか。
それに……問題は、芽衣子の首から下の部分だ。
その画像は、自撮りと言うよりかは、戦場カメラマンが撮影したかのような写真に近い物がった。
ちょっと旅行の思い出にパシャリ――――そんな日常的な写真とは一線を画す。
画像に映る芽衣子。その身なりに普段のような中学生らしい姿など微塵もなく、あるのは中世の西洋と見間違うような鎧を着こんだ、一人の”女騎士”の姿であった。
それはまさに大作映画。もしくはRPGでしかお目にかかる事がないような衣服――――
いやこれは、もはや「装備」と言えるだろう。
「なんだよこれ……何が、一体何がどうなってるんだよ!」
「ワカルダロ」
「何が……!」
「見タママダヨ……戦ッテルンダヨ」
戦い――――モノクロの言う通り、その光景はまさに戦闘のそれである。
甲冑を着こみ、片手には剣らしき物すら所持した「戦闘行為に励む」芽衣子の姿はそこにはあった。
そしてよく見れば、芽衣子の顔は少し”汚れ”ているようにも見える……。
戦場の泥か、煤か。それらを顔に浴びたのか顔は茶色寄りに黒ずみ、反対に甲冑には鮮やかな朱色がこびりついていた――――”血”だ。
「ソンナンニナルクライ、必死ナンダヨ。相手ガソレ相応ニ強大ダカラ」
「誰と……戦ってるんだよ……」
「ンー、マァ、ワカリヤスク言エバ……ボス戦ッテ奴?」
モノクロの言う通り、それはまるで、強大な敵に立ち向かう勇者のようにも見える。
「ボス戦」その言葉に準えるなら強大なドラゴンか、髑髏頭の魔導士か、はたまた全身を銀色に包まれた宇宙人か……。
そして一つ、そんな見切れた「敵」とやらよりも、何より強い大きな違和感あった。
画像に映る「芽衣子」は――――”一人ではなかった”のだ。
「こいつらは……誰だ……?」
「ソリャ一行ッテ奴デショ」
全身を汚しながら厳めしい表情で「敵」とやらに立ち向かう芽衣子。
その背後には……人がいたんだ。それも一人や二人程度じゃない。3,4、いやもっと。
一行にしては十分すぎるくらいの頭数が揃っている。
言うなればそれは「一個師団」。芽衣子と同じく、汚れ、眉間に皺を寄せ……
勇猛果敢な「戦い人」達が、芽衣子の背後に寄り添うように集っているのはどう言うわけなのか。
「見ル限リレベリングモ十分ソウダ。ヨッポド修羅場ヲ乗リ越エテ来タンダネ」
(一行……?)
僕にわかりやすいよう補足しているつもりなのか、やたらとゲームに例えて来るモノクロ。
だがおかげで理解が促され、至極想像がしやすかった。
一行、戦い、ボス――――そこまで言われりゃもうわかる。
この画像は、一行が、何らかの”敵”と戦っている。
仲間同士共に手を取り合い、確かな結束を用いて……
そして目の前の敵を打ち砕かんとする、戦いの最前線の光景であると言う事。
「まるで……」
「マルデ?」
そして、それらを率いているのは――――芽衣子。
(ジャンヌ・ダルクみたいだ……)
それも本物ではない。史実を映像化した、演出と脚色に塗れた偶像の女騎士。
そしてその女騎士が、他でもない”芽衣子である”と言う事。
一体これは、何と戦っている画像なのか。
加えて――――この画像がそもそも「誰が」「いつ」「どこで」これを撮ったのか。
それらを僕が知る術はない。
だがこの、画面に表示された芽衣子の姿は……そう思える程に、僕が知る芽衣子とは大きく剥離していたんだ。
「ジャンヌダルク……ソンナイイモンジャナイケドネ」
「…………」
「……ン? モシモーシ?」
「…………」
「……アラ、見惚レテラ」
動揺を、隠しきれなかった。
今の面持ちはまるで突如荒野に放り出されたかのような心情。
内面からにじみ出る「放心の余波」以外に、一切何も感じ取る事ができない。
今の僕にはただ、この送られた女騎士の画像を注視する事……それしかできなかった。
「一ツ……言エルノハ」
「ソノボスキャラ、実ハマダ倒セテナインダヨネ」
(まだ……?)
「ソ、”マダ”攻略ノ途中ナンダ。ナノニ突然、中断シチャッタモンダカラサ」
「イツマデモホッタラカシジャ……”エンディング”ハ見レナイダロ?」
そんな僕の様子を見かねたのか、相変わらずわかりやすいのかにくいのか微妙な例えで語り掛けて来るモノクロ。
悪いがお世辞にも説明上手とは言えない。
僕でこそかろうじて理解できたが、他者も同じであるかと問われればその保証はできない。
それに……モノクロの問題は、語りの内容なんかじゃない。
(だから……)
――――何故、そんな事情が説明できるのかと言う点である。
「だから……連れてったのか……」
「ンー……マァ……」
「芽衣子に戦いをさせる為に……連れてったってーのかよ……!」
「ソウトモ……言ウカナ」
画像の中の芽衣子。
それに付きそう一個師団。
その集団と戦う敵。
そして、それを管理するモノクロ。
僕の中でほぐれかけていた糸が、再び絡まりほどけない。
ここに来れば全てが解決する――――そう思い込んでいた。
だが……真実は、余計に絡まりわからなくなった。
まるで僕から逃げるように。
まるで僕から、全て遠ざかって行くかのように――――。
「名前――――ソレハアチラヘノ門ヲ開ク鍵トナル」
(鍵……?)
「名前ハ鍵。開クノハ僕。スナワチソレハ、僕ニノミ与エラレタ外法」
「何……言ってんだよ……」
モノクロが一人でに語り始めた。その語りが余計に僕を混乱させる。
しかしそんな配慮は一切なく、モノクロは淡々と語り、そして同時に真実は遠のいて行く。
何もかもが僕から離れていく――――
そんな僕に寄り添おうとするのは、この白と黒の怪人が唯一であった。
「名ハ存在ヲ証明スル物ダ。万物ニ名ノナキ物ナド無イ」
「ソノ辺ニ散ラバル破片ヤ、ココカラ見エル外ノ景色ダッテ……」
「皆名ガアル。ココに存在スル限リ、存在ヲ示ス命名ガアル」
「ソレハ――――人ニダッテ同ジ事ガ言エル」
(わけ……わかんねえ……)
モノクロが何故名を奪おうとするのか。その動機が今この場で語られているのだろう。
そうだ。この世界には名前と言う物がある。
その辺の「石ころ」だって「ガラス片」だって、ましてや、それは僕にすらも。
それが――――なんなんだ。
それを知って、一体|モノクロ(お前)の、何になると言うんだ。
「僕ハ”推シ量ル者”ナンダ。ソノ為ニ名ヲ必要トシテル」
(推し量る……?)
「北瀬芽衣子ハ――――何トカ手ニ入レル事が出来タ」
「デモ、ソレダケジャダメナンダ。全テヲ量ルニハ、マダ足ラナインダ」
一つだけ、わかった事がある。
結局は最初に戻ってしまうが、要はモノクロは「名を欲している」と言う事だ。
それが何故かと聞かれれば僕にもわからない。
こうして目の前で長々と語られているのに、それを、何一つとして理解できないんだ。
「…………」
「……コノ際ダ。ハッキリ言ッテヤルヨ」
そんな僕の「何を言ってるのかわからない」事態を察したのか、モノクロはたった一つ、僕にわかる一言を添えてくれた。
それは、実に単純明快な一言だった。
僕が仮にどれだけに阿保だったとしても……その一言で全てがわかってしまうかのような。
――――そんな、”ただ唯一の一言”を。
「僕ハ――――君ノ名前モ欲シイ」
薄々……感づいてはいた。
おそらくは最初からそういう目的で呼び出したと言う事も。
ただ肝心の本人の態度、並びに芽衣子からのメッセージの難解さ。
さらに加えて”僕の考えのなさ”が、この現実を引き起こした。
消えた芽衣子。名を欲するモノクロ。
戦う芽衣子。門を開くモノクロ。
アッチに行った芽衣子。アッチに送ったモノクロ。
目の前に提示された現実をむやみに追い続け、気づけば僕は捕えられた。
そうなった最大の理由は、僕が先を見ようとしなかったが為。
(…………ハメられた)
逃げる事は、もうできなかった。
つづく
【作業用メモ】プロローグ部分改稿ここまで