ラグナロク
(な、なず姉っ――!)
「貴様に与えられた未来は、二つだッ」
人工的に青く創られた空の下、高等部校舎の屋上でニヤリと笑う虹は叫ぶ虹を無視して、なず愛に向かい言い放った。
「まず一つ――」
「やれやれ、その前口上は相変わらずだな。我の未来など、お主に言われずとももう決まっている」
虹は、一本立てようとした左手の光の爪を半端にしたまま、横やりを入れてきたなず愛をキッと睨みつけた。
「貴様ァ……! ッンっとに、おっもしろくねー野郎だなッ、だから貴様は嫌いなんだよアホ真面目ぇッ!」
「ハッ。余計な能書きなど、我らには必要ないだろう。それよりステータスでも確認しておくといい、その方が幾らか有意義であろう」
虹は、「チッ」と舌打ちをしてスマートフォンの画面を見る。
〈スレイプニル〉、〈レベル13〉、〈ステータス340〉
数値を見て少し顔をしかめた虹は、画面を光の爪でカツカツとタッチして自分のステータス画面に切り換えた。
〈フェンリル〉、〈レベル10〉、〈205〉
(わっ、フーちゃんのがダメだぁ……)
数値を見比べた虹の毒舌を聞かされ、虹は更に顔を歪ませる。しかしそれは、自分の数値がスレイプニルより劣っているから……というわけではなかった。
「貴様はこんなにも力を持ってるクセに、なんでそれを生かそうとしないッ? いつまでも姿なんぞに拘りやがって、自分のために戦おうとは思わないのかッ」
青白い光の爪を広げ、険しい表情で吠える虹。対峙するなず愛は、それを嘲笑うように口を開いた。
「我のため? ハッ、いいかフェンリル。我は復讐などに興味はないのだ。我がこの戦いに身を投じている理由は、唯一つ……」
なず愛は目を細め、ふっと表情から〈喜〉と〈楽〉だけを消し去った。
「それは、誇りだ」
「……誇り、だと?」
なず愛の言葉に、全く理解を示せないといった口振りの虹。それでもなず愛は気にすることなく、哀しみと怒りを織りまぜたような声で続きを放つ。
「我らの創造主は我らを只の駒としてしか見ていなかった。だが我ら獣は、違う。ともに生きようとした。――……それを拒んだ創造主たちに復讐しようというのがお主らの考えであろうが、我のラグナロクへの想いはそうではない」
なず愛は目を見開き、黄色の光を膨張させて感情を露にしてみせる。
「決して使い捨てなどではない――姿という存在を得られた我ら獣の、誇りを守りたいのだ……!」
光を揺らめかせ、語気を荒らげる。虹はなず愛の放つ波動に当てられるも怯むことなく、更に睨みを利かせてみせた。
「ケッ……。んなくだらねぇこと考えてんのは貴様くらいなもんだ。ここにゃ手を取り合って仲良くしようなんてヤツはいねぇ、全員テメェのために弱い者を利用することしか考えてねぇんだよ」
利用……という単語に虹は嫌な感じを覚えるも、二人の話す内容がよく分からず特になにかを発することはできなかった。
「バカバカしいぜ、ったく。だから貴様は、あのとき……」
虹の脳裏に、悪い記憶が砂嵐のように乱れ舞う。それは好んで思い出したい代物ではなく、モザイクがかかったようにおぼろ気に映った。
「…………。あれは、我の責任だ。しかしなフェンリルよ、我は姿にとって、最善の判断をしたと思っている。勝つことだけが、我らの望みではなかっただけのことだ」
「チッ! おい貴様、ここで二度と立ち上がれねぇようにしてやるから覚悟しろッ。貴様のような甘チャンが勝ち抜いちまうと、すべて台無しにされかねねぇからな。――だから恨むんじゃねぇぞ、これこそ俺たちの創造主への……」
……――復讐劇
「ッなんだからよォォォォオッ!」
佇んでいたコンクリートが砕けるほどの勢いで、虹は脚を掻いた。
ドォォォオッ――!
瞬時になず愛の眼前に姿を現した虹の、顔は……迷いの色でぐちゃぐちゃに染まっていた。




