萌衣乃×フェニックス
(ぷに隊長、ウチだいぴんちで装着あいであさんきゅるりーん)
朱色の光に包まれ焔の玉を乱舞させる萌衣乃に、萌衣乃は一昨日の夜のお礼を改めて述べた。それを聞かされた萌衣乃は、「ふんっ」というセリフを体育館の中に響かせる。
「……汝が居なくなることすなわち、余のラグナロクがついえてしまうということ。其れでは参ってしまうのでな」
障害物のない体育館の中、焔の翼を広げ天上近くで舞う萌衣乃。高位から焔を飛ばし、地を這う二心同体から光を奪う。大学部の校舎に隣接しているこの体育館、実物の方は授業で使う程度のためそれほど大きな造りではない。
しかし萌衣乃にとって、狭く障害物がない環境は狩りの狙いを定めやすくこれ以上ない好条件であった。
(ぷーっ。ウチがポチっても、ラグにゃんおわりっぷー……)
「…………。汝……いや、萌衣乃よ。日々飽くことなく余に協力をしようとする姿勢には、少々の恩義くらい持っているということだ。まぁ法外なことをやったところで、密告者がいなければどうということもあるまい」
萌衣乃の頭に、さいとーくんと乙姫が焔に焼かれる映像が流れた。……いや、きっとすぐにあの場から逃げていたということなのだろう。
下界を見ると、体育館の中をボールのように転げ回る二心同体の大群が映った。その中には、萌衣乃を狙い攻撃を飛ばす者もいれば、それを背後から狙う者もいる。
更に外に続く扉の前では絶えず二心同体が出たり入ったりと、まさにすし詰めの状態であった。
「ふん、わらわらと湧いてきおって。さてそろそろ、雑魚を狩るのも飽いたというもの。萌衣乃よ、どこか……」
萌衣乃が窓の外を眺め、萌衣乃になにか提案するよう命じようとした刹那――。
シュバァァァァァアッ――!
渦を巻くような音とともに、幾数もの細い紫色の光が萌衣乃の身体中を縛りつけた。
それは萌衣乃の身体をギリギリと締めつけグイグイ引き寄せようとして、萌衣乃の動きを封じ込める。そしてその光の先、地上には……紫色の光を携えニヤニヤと笑う、乙姫の姿があった。
(にゅっ! ぷに隊長っ、さいとーくんのおふれんず発見でありまっぷ!)
「ふん、雑魚には飽いたと言ったのが聞こえなかったようだな。……その上、群れて湧いてくるなど、さすが害虫とは質の悪いものだ」
萌衣乃は、少しずつ全身の光を毛羽立たせ……やがて業火と成った朱色の光が拘束具と化した蛇を炙り――ボォンッ! と全てを消滅させた。
はらはらと散る灰となった光の蛇の欠片を浴び、下界を見下ろす萌衣乃。それから、そこに広がる光景に……少々面倒くさそうな顔をした。
「……ふん。よく燃えそうな蟲けらだな」
体育館内で、ぞろぞろと這い回っていた二心同体が、全て光を失い倒れている。加えて扉が閉鎖され、これ以上この空間に誰も入ることのないよう措置されていた。
そして……この舞台を演出したのは他でもない乙姫と、その傍らにいる二体の二心同体であった。
「やっだぁーん、害虫だの虫ケラだのってぇー。アタシの姉様たちを、悪く言わないでちょうだぁーいっ!」
乙姫が、バッ! と手を差しだして〈姉〉と紹介する二体の二心同体。それは、白色の制服を着たショートカットの女子生徒と、長い髪を一つに結った橙色の制服の女子生徒だった。
両者はともに紫色の光を携えていて、頭部には無数の光の蛇が備わっている。
「橙色の制服の方はステンノ姉様でぇぇぇえッ、白い制服の方はエウリュアレ姉様ぁぁぁあっ!」
乙姫がセリフを終えた直後、ポニーテールとショートカットは、黒色の制服でその巨軀を包む乙姫の左右に陣取り、ビシッとポーズを決めた。
「三人合わせてぇぇえッ、ゴーゴン三姉妹よォォオッ!」
ババァァーッン!
……とでも効果音がつきそうなほど、しっかりと決まった三人。
だが、しかし――萌衣乃からの反応は、一切なかった。
(……ぷえぇー、ぶるダサぴーっ)
「うぅーん。でもなぁーんで、アタシだけゴッツい男なのかしらねぇーん?」
自身の身体をキョロキョロと見回し、苦笑いする乙姫。姉たちの姿はともに可愛らしい女子生徒にも関わらず、自分だけゴツい男が姿であることに多少の不満を抱いていたからだ。
そんな乙姫の振る舞いや言動を目の当たりにして、萌衣乃が思い出すのは一昨日の夜に見た、寡黙で男気質といった風体の乙姫。それをメデューサを装着した状態とついつい比べてしまい、萌衣乃はモヤモヤした気分になった。
(ぎゃっぷ……萌えないっ!)
萌衣乃がぴーぴーと騒ぐ間、萌衣乃はチラリとアイホンの画面を確認する。
〈メデューサ〉、〈レベル10〉、〈ステータス131〉。
〈ステンノ〉、〈レベル11〉、〈ステータス177〉。
〈エウリュアレ〉、〈レベル11〉、〈ステータス152〉。
瞬時に相手の情報を拾い上げ、焔の翼をゴゥッと唸らせ狩りの体勢に入る萌衣乃。
「萌衣乃よ……おとついの件にて奴は恩人かもしれぬが――容赦せぬことを容赦してもらうぞッ!」
萌衣乃の眼に焔が宿り、その顔は少し愉しそうにも見えた。
次回、どうぞご期待しないでくださいm(__)m




