幻獣②
まだまだ続くよ説明回……。
「…………」
西田先生は、学園長の言動に賛同することも反対することもなく黙っている。その姿は、自分より強い獣に狙われた動物が、気配を消して身を隠しているような状態に近かった。
「なぜ一つのクラスに幻獣を三体も集めたか……ということですが。それは、貴女たち三人の関係性に目をつけたからです」
学園長は長椅子の背もたれにギシリと寄りかかり、脚を組む。虹、萌衣乃、璃奈……と見ていく学園長の顔は笑っているにも関わらず、見る者に緊張感を与えた。
「貴女たちは大変強い繋がりを持っているようです。切っても切れない縁とでも言いましょうか」
学園長は一度眼を閉じ……再び開いた眼は、幻獣たちに向けられた。
「フェンリル、フェニックス。お前たちは成績優秀ではあるものの、強烈な個人主義者です。それが、残念なことに強さに限界を与えてしまっています。……そして、ヨルムンガンド。お前は持ちうる天賦の才を扱いきれていないどころか、充分に発揮できてすらいない。一人で内にこもり、やれと言われたことだけをこなすだけ。それもまた、個人主義と言わざるを得ません」
ぐったりとするフェンリルは、言い返す代わりに「グルル……」と喉を鳴らす。フェニックスは目を細め、隙のない様で状況を伺い続けている。ヨルムンガンドは逃げるように璃奈の上で蠢き、シュルシュルとぐろを巻いていた。
「そこで、試してみたいのです。貴女たちの〈繋がり〉というものが、この三体の〈怪物〉と……ラグナロクにどう影響するのか」
「カイブツ……って、フーちゃんは怪獣なんですかぁ?」
虹は険しい表情のフェンリルをヒョイと抱き上げ、学園長に質問する。学園長はフェンリルに視線をぶつけながら、それに応じてみせた。
「そうですねぇ、フェニックスとフェンリルは前ラグナロクにおいて称えるべき功労と活躍を魅せてくれました。まさに〈怪物〉と呼ぶに相応しいでしょう。ですがヨルムンガンド、お前は危うく幻獣ですらなくなるところでしたね。お前も〈怪物〉でいられるよう、しっかりと鞍蛇さんにあやかるのですよ」
一見、人種が分からないくらい綺麗な顔立ちをした学園長。マネキンのように整ったその顔をスルスルと動かし、機械的に話を進める。
この人は本当に、同じ人間なのだろうか……そんな奇妙な空気に当てられた璃奈は、不安を目一杯詰め込んだ顔で口を開く。
「……私たち、なにかに利用されるってことなんでしょうか」
「利用……ですか。そう言われてしまうと耳が痛いのですが、相互関係を結んでほしいだけなのです。貴女たち姿は魂のステータスを上昇させ、その対価として成績や進路を約束される。それだけのことです」
答えているようで、掠める程度でかわしている。絶妙なラインで靄をかけ、報酬というエサをちらつかせる。学園長のセリフを聞いた西田先生の眼には、白い光が宿っていた。
「幻獣や百獣にも、貴女たちと同じように成績というしがらみがついて回っているのです。魂とともに勝ち残ることができればいずれ全てを明かしますので、いまはそう深く考えずしばし協力していてください。……さてそろそろ、特別授業が始まってしまいます。地下学園闘技場へは、早めの移動をお願いしますよ」
学園長の言葉を受け、フェンリル、フェニックス、ヨルムンガンドはケムリの中へ消えていった。西田先生は眼鏡をグッと中指で直し、虹たちに教室に戻るよう指示をだして自身も立ち上がる。
虹たちが生徒指導室を出て、西田先生も扉へ近づいていく――と、その瞬間を待っていたように、ぼそりとした声が西田先生の耳を打った。
「我々の目的を忘れませんよう、聖戦は目の前なのですから。勝手な行動は慎んでくださいね――……白虎」
長椅子に座ったまま、学園長は金色の眼光を輝かせる。西田先生は一礼し、扉を開け放ったまま退室していった。
***
「あのさ、んとさ、なんかさ……よくわかんなかったね。とりあえずわたしらは、フーちゃんたちと仲良くしてればいいってことなのかな?」
がらんどうのような巨大施設の中に立ち並ぶ、移動個室なるガラスの筒。その前で、ガラス扉を開けるためのボタンを押すかどうかと迷うように、虹は声を漏らした。虹の両隣の移動個室には、璃奈と萌衣乃が同じような顔をして立ち尽くしている。
虹は二人の答えを待たずしてボタンを押し、ガラス扉をシュッと開く。その中で待ち受けているのは、白い革で作られた無機質な椅子。それはなず愛の乗っていた車椅子のようにも見え、虹は彼女との約束を思い出して気合いを入れ直した。
そうして虹が華奢な脚を踏みだした瞬間――……。
「あのさっ――!」
「れいれい――!」
二人の言霊が、虹を包んだ。同時に叫んだ二人は互いに驚き声を止めてしまったが、続く言葉を虹はあえて聞こうとはしなかった。
虹は浮かせた脚を巻き戻して振り返り、「にーっ」と笑顔になってみせる。すると璃奈と萌衣乃も示し合わせたようにガラス扉を開き、三人はともに、移動個室へ身を投げ込んだ――……。
『皆さん、ベルトは締めましたか? では、本日の特別授業を開始します』
亜東先生のマイク越しの声が響いた。それは、少女たちを……非日常の中へ連れ去っていった。
お疲れ様でしたm(__)m
そろそろバトルをするような、しないような……。




