めいっぷ☆すとーりー
プロットとかちゃんと作らないんで、思いつきでこういう話が差し込まれることもあります(;´_ゝ`)
門構えの電灯に、〈蜜鳥梅〉と書かれた表札が照らしだされた邸宅。その前に、ピンク色の軽自動車が停まっている。ガチャリと開いたピンク色の扉から出てきたのは、私服姿の萌衣乃だった。
「本当に、玄関口までお送りしなくてよろしいのですか?」
運転席の窓が開き、ボブヘアーの女性が不安混じりな顔で萌衣乃に語りかける。対する萌衣乃はヘラヘラと笑い、手を振ってみせる。
「のーぷろぶれむ、送迎たすかりっぷーっ。おっやすぅー」
萌衣乃のマネージャーである女性はニコリと笑い「お疲れ様でした」と頭を下げると、車を走らせた。
ブオォォー……ン――。
街灯の点る人気のない夜道を行くピンク色の軽自動車。それを見送った萌衣乃は自宅である蜜鳥梅家には入らず、踵を返して歩きだしてしまった。
「あっいっすぅー、ばっにっらぁー、ちょこちょこちょこりんりん食べりっぷぅー」
萌衣乃は仕事柄、過度な飲食は控えるよう指導されている。しかし監視の目がなければ、その制限も意味をなさない。
胸を弾ませ歩く萌衣乃。文字どおり、たゆんたゆんと。そうして向かう先はコンビニであったが……薄暗い公園から出てきた数人の男に立ちはだかられ、萌衣乃は前に進むことができなくなってしまった。
「……ぷーっ、ウチ、アイスぱくもぐぷりーず。おジャマんにゅーは、こまりんぐぅー」
「いやぁー、キミカワイイなーと思ってさぁ? ちょっと遊んでこーぜー」
萌衣乃は迷惑そうな顔をして後ろを振り向くが、サッと取り囲まれ帰り道は消え失せた。
「キミさ、中学生? こんな夜に出歩いてるってことはさ、家出か親と仲悪いってことだよな? じゃあさ、俺たちが世話してやるよぉ……」
円になり詰め寄る男たちは、萌衣乃より背が高く見下ろす形となっている。恐らく高校生といったところだろう。
男たちがでてきたのは灯りが少なく不気味な雰囲気の公園。そこへ萌衣乃を誘い込もうと、長髪の男が腕を掴んだ。
「……っ! ウチ、そこ用事ないしっ。もう帰りっぷー!」
萌衣乃は長髪の男の手を振りほどくも、退路は断たれたまま。いま手招きをしている道は……公園への入り口しかない。
誰かに背中を強く押された萌衣乃は、勢いのまま用事のない場所へ歩きだしそうになった。
ブーッ、ブーッ――!
萌衣乃が携帯している小さなショルダーバッグの中で、アイホンが震えている。萌衣乃はサッと取りだし画面を見ると、【装着】の二文字が光を放っていた。
「ぷに……。いまノン特別授業、悪いコお仕置きぴゅるぴゅるりぃー……」
萌衣乃は――アイホンをバッグにしまおうとした。それは、特別授業以外での装着は禁止されていると聞いていたから。しかし萌衣乃の意思とは逆に、アイホンの震えは一層強くなっていく。
怒り狂うように震え、光を増すアイホン。
確かにフェニックスの力を借りれば、この状況を無事に乗り切れるかもしれない。だが……それをしてしまえば規則を破ったことになり、魂は罰を受けてしまうと萌衣乃は知っていた。
「ぷに、ウチにコーチング。ダメなことしたら、ラグナロクとばいばいっぷ。それウチともばいばいっぷ……」
普段、アイホンを弄る中で、萌衣乃はアプリを介してフェニックスに語りかけ続けていた。その中で、特別授業を知らない人間の前で装着すると、ラグナロクを棄権させられるという規則を教わっていた。
萌衣乃が震えるアイホンと睨みあっていると、それに気づいた長髪の男は……萌衣乃の小さな手からアイホンを奪い取った。
「オイオイ、もしかして助けとか呼ぼうとしちゃってたり? よくないなぁー、そういうの……ん? あがッ――?」
長髪の男が突如吹き飛び、公園の砂利を滑る。
「な、なんだっ……ウッ!」
別の男が腹を抱え――腰を折った。一瞬の内にうちのめされた二人の男を見て、残された四人の男たちがたじろぎだす。
「ん、んだテメェッ……! ざけんなコラァッ」
「へッ、いきがンなよ」
叫んだ男がドサリと倒れる。そして、萌衣乃の目の前に立っていたのは――……茶髪を逆立てた男であった。
「ぷにーん……、さいとーくん……?」
「よぉ、ご令嬢。なにこんなツマンネー奴らと遊んでんだよ? サインでもねだられてたか、有名人ッ」
さいとーくんはニヤリと笑い、残った男たちを見る。すると男たちは、ナイフや警棒を持ちだしさいとーくんに向けて構えていた。
「調子に乗んなよ、ガキがぁ……! ぶ、ブッ殺してやらぁッ!」
三人の男は雄叫びを上げ武器を振りかざし、さいとーくんへ特攻する。しかし、さいとーくんは攻撃をスイスイとかわして傷一つなく掻い潜ってみせる。
男たちは慌ててブレーキをかけ、さいとーくんに再度アタックを仕掛けるべく振り返る――と、そこには……高くから見下ろしてくる、壁のような大男がいた。
「…………」
「……あ、デっ、デカァッ! んだよッ……テメェ……」
三人の男は大柄な男を見上げ、なよなよと萎んでいく。それを黙って睨み続ける大柄な男の物々しい雰囲気に、男たちはついに武器を落としてしまった。
「そいつよ、かなりつえーから覚悟した方がいいぜ。ボコられたくなきゃ、いまのうちに逃げとくんだなッ。……なぁ、乙姫ィッ」
佇む乙姫に気圧された男たちは、さいとーくんに倒された仲間を叩き起こす。すると、負け惜しみという名の暴言を吐き、足を引きずり逃げ去っていった。
「へッ、マジでツマンネー奴らだったな」
さいとーくんは、地面に落ちていた萌衣乃のアイホンを拾い、萌衣乃に手渡す。
「さんきゅるりーん、さいとーくんっ。てかさいとーくん、さいきょーくん?」
「……俺はンなことねぇよ。うちのジムで一番つえーのは、乙姫だからな」
さいとーくんと乙姫。二人は同級生であり、同じボクシングジムに通う仲であった。
「つーかよ、女が夜遅く一人で歩いてんじゃねぇぞ。ジム帰りの俺らがたまたま通りがかったからよかったけどよ……。まぁ、気ぃつけて帰れなッ」
さいとーくんが背を向け駆けだすと、乙姫は萌衣乃に一瞥くれ、後に続くように駆けた。
――が、さいとーくんはすぐに足を止め、背を向けたまま萌衣乃に語り始めた。
「……そうだ、ご令嬢。わかってると思うけどよ、あんとき絡んだのは、報復しにいったワケじゃねぇからな」
「ぷっぷぅー、それ、かしこまりっぷ。りぃにゃになにか、お言伝て?」
萌衣乃はヘラヘラと笑うと、敬礼のポーズをとった。
「俺の魂のハイエナが言ってたんだ。……西田先生なんだけどよ……なんつーか、とりあえず気をつけろって言っといてくれ」
さいとーくんは言い終えると、先に行ってしまった乙姫を追うように街灯だけが照らす道の奥へと消えていった。見送る萌衣乃は「……かしこまりーっぷ」と呟き、暗がりから明かりを求めるように――コンビニへと走った。
お疲れ様でございます。
貴重なお時間を割いてくださり、本当にありがとうございました。




