ともだち
話の方向性が定まらない(((((゜゜;)
空は青く広く晴れ渡り、絶好の行楽日和。春の陽気が心を踊らせ、どこか遠くへ足を運びたい衝動に駆られる。
こんなにも最高のコンディションで、まさか待ち合わせから小一時間程度で別れの言葉を聞くなど、虹の妄想タイムテーブルには一切記載されていなかった。
「虹ちゃん、今日は……本当にありがとう。でもお願いのこと、無理しないでね。誰にも言えなかった想いを聞いてもらえただけで嬉しかったから」
なず愛は少し赤くなった目を細め、虹に笑いかける。それを見た虹はなんとなく切ない気持ちになり、なんとなく泣きそうになった。
なず愛は「じゃあ、また学園でね……」と言い残し、車椅子をクルリと回転させて虹に背を向ける。
「なず姉っ! わ、わたし……」
去っていくなず愛の後ろ姿は、そのまま消えてしまいそうな気がして――虹は声をかけずにはいられなかった。だが、虹は続く言葉を考えていたわけではなかったので、適当に思いついたことを大声で叫んだ。
「た、楽しかったよぉっ!」
なず愛を乗せた車椅子はピタリと止まり、なず愛は首だけ回して虹に笑いかけた。
***
あざらぎ駅のロータリーで、つまらなそうに佇む虹。家出をして行き場を失っているとでもいうような雰囲気を纏い、何度もため息を吐く。
なにかをしたいわけではないがすぐに帰る気にもなれず、空を眺めたり人の流れを観察して時間を潰していた。
「はぁ……ん?」
虹は二十数回目のため息のあと、なにかに気づき、目を凝らす。その先には、駅ビルのテナントであるスーパーマーケットがあった。そこからでてきた人物は、虹のよーく知った存在だった。
「り、りなちゃんっ? おーい、りぃーなぁーちゃーんっ!」
虹は、待ち焦がれた主人が現れた飼い犬のようにパァッと表情を明るくし、飛びだし跳ね回った。
買い物袋を両手に下げた璃奈は、虹のはた迷惑なほどの呼び声を捉えるなりギョッとして顔を背ける。逃げてしまおうと思うも、ギュギュンッと高速で移動してきた虹に――既にすりつかれてしまっていた。
「えとね、あのね、んとねぇ、メッセージ返ってこないから心配したよぉーっ。あ、荷物持つよっ」
璃奈の身体に抱き着いた虹は、パッと離れるなり璃奈から買い物袋を半分奪い取り、嬉しそうに、にーっと笑う。屈託のない虹の笑顔に、璃奈は観念して口を開いた。
「忙しくて……ごめん」
「じゃあさ、よかったらさ、いまからさっ。少しお話していかないっ?」
虹は璃奈の手をギュッと取りあげ、問答無用である場所を目指した。
虹と璃奈は、小さな公園のブランコに座って買い物袋を抱えていた。
一度遊んでしまえば飽きてしまうような滑り台に、土のように固くなった砂場。そして錆びついたブランコが二台あるだけ。
そんな公園にいる虹は、とても幸せそうに買い物袋を勝手に覗いていた。
「今夜はぁー、パエリアっ。もしくはビーフシチューっ」
「どっちの材料も入ってないじゃん……。どーしてそういう発想になんの」
璃奈は呆れたように笑うも、それはどこか心地よさそうにな表情にも見えた。なぜならここは、幼い頃に二人でよく遊んだ公園だったから。
「…………。昨日は、八つ当たりしてごめん」
自分の足元を見つめたまま、ぼそりと言い放つ璃奈。虹はそのセリフをしっかりと受け取り、買い物袋から璃奈がデザート用に買った桃を取り出した。
「えっへっへー。でもさぁー、言いたいことを言ってくれたのはすごく嬉しいよぉ。りなちゃんはがんばり屋さんすぎるから、たまには言いたいこと言いなねっ」
虹は桃を鼻に寄せ、クンクンと甘い匂いを吸ってうっとりとする。璃奈を見透かすようなことを言いながらも、ひたすら奔放に食指を動かす。
「……虹こそ、本当は私のこと気にかけてる余裕なんてないんじゃない? あんた、悩んでるとすぐ顔をでるんだから。抱えすぎないようにしなよ……」
璃奈は虹に向けて言葉を投げるが、それは全て跳ね返ってきて……容赦なく自分にぶつかってきた気がした。
「でもさ、なんてゆーかさ、大事な人が困ってたらさ、助けたいじゃん? むしろ助けようとしない方が、わたしは悩んじゃいますよぉーっ」
それは、いつも言ってる大人の女性がなんとか……ってやつ?
だとしたら、とんだ偽善じゃん……。
璃奈は、必死にそんな風に考えようとした――が、やはり虹は掛け値なく純粋で、常に真っ直ぐなことを否定しきれなかった。
誰かのためになりたいと思う虹と、やってあげなきゃと考えてしまう自分。
誰かの頼りになることで、自分を認められたと実感できる。それは、璃奈にとって自分を保つために必要なことだった。
虹だって、他人のためと言いつつ自分のために行動しているはず。そう思わなければ、自分だけが汚い人間になってしまう気がして、虹を貶めるようなことを考えてしまった。
「あのね、そのね、だからね……これからも、もし伝えたいことがあれば、なんでも言ってほしいなぁっ」
しかし虹を認めてしまったら、いつも自分を頼りにしてくる虹を頼ってしまったら……それは自我の崩壊に繋がってしまうと、璃奈は胸をざわつかせた。
「……じゃあもう、私のことはほっといてよ。これ以上、私を……」
惨めにしないでっ――!
璃奈はガシャリとブランコを鳴らして立ち上がり、公園から去ろうと歩きだす。しかしすぐに虹から声がかかり、そのセリフを聞いた璃奈は行動を停止せざるを得なくなった。
「あっ、ちょっとりなちゃんっ、荷物忘れてるよぉー!」
璃奈は即座に虹の元へと戻り買い物袋を取り返すと、袋から桃を一つ掴みあげた。
「……これ、あげるっ!」
璃奈は虹に桃を押しつけると、砂利を蹴りつけながら家路を急いだ。桃を抱えた虹は璃奈を追うべきか迷ったが、萌衣乃の言葉を思い出し、大人しくなる選択をした。
「りなちゃん、ぷりーずひとりっぷかぁー……」
虹の隣でキィキィと鳴く錆びた遊具は、誰か乗ってくれる存在を求めているように見えた。
お疲れ様でした!
作者は友達がいないので、色々と多目に見てください(;つД`)




