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初デート

なんだこの回(笑)

 ピコピコピコピコ――……。


 土曜日の朝、(れいん)は学園が休みにも関わらずいつもより早い時間にアラームを鳴らした。


「んぅー、ふぁぁー……。えへへぇっ」


 起きぬけで顔をほころばせる虹。早起きには慣れているものの、やはり目覚めを迎えたときは少なからず機嫌を損なっていることが常である。

 しかしいま、虹がご機嫌でベッドから飛び降り髪をとかし始めたのは、さかのぼること数時間前に決まったある出来事のためだった。



    ***



「つまんなぁーいっ……つまんないつまんないつまんないよぉーっ」


 〈れいんのおへや〉にてベッドにゴロゴロと寝転がり、LEDの光に照らされぶつくさ不満をたれる虹。それは、璃奈(りな)からメッセージの返信が来ないことと、昼間にパンツの件でケンカをして以降フェンリルが姿を現してくれないことに起因していた。



『めいっぷーぅっ、くりぃむぅーりんりぃーんっ!』



 虹のスマートフォンから着信音に設定している〈めいっぷ☆くりーむ〉が鳴り、共鳴するようにバイブレーションがブルブルと機能し始めた。

 虹は机に放置していたスマートフォンを急いで取り上げ、〈めいっぷ☆くりーむ〉を鳴らしたのは誰かということを確認する。


「わっ……ぴゅーっ! ほ、ほんとにほんとにぃっ?」


 画面を見つめる虹の顔はみるみる明るくなり、瞳にはキラキラと光が宿る。そしてその小さな胸の中を〈喜〉の感情で満たし、周りをキョロキョロと見回してはソワソワとクローゼットを開けたりアクセサリー入れを覗いたりしだした。


「あっ! その前に返信しないとぉっ!」


 虹は画面に映る、【明日、少し会えませんか?】というなず()からのメッセージに返事を送ろうとスマートフォンを弄る。しかしなぜだか緊張してしまっているようで、手が震えて文字がうまく打てない。


 ふぅーっ、ふぅーっ。


 顔を上げ、落ち着くように呼吸をする。そうして再び画面に視線を落として文字を打つ。まだ少し震える指を懸命に動かし、もちろんオーケーであるということ、どこに何時に行けばよいのかということ、一日でどれくらい軍資金が必要かということを書いて送信に至った。


「デートのお誘いだぁーっ! 気合い入れていくぞぉーっ」


 あれほどまでに綺麗ななず愛とのデート、少しでも釣り合えるよう最高の装備で行かねばならない。そう思った虹は、ごちゃごちゃと物が散らばる床を()き分けシュシュを見つけ、更にレザーのベルトを見事救出。それからクローゼットをひっくり返し、お気に入りの白いフリフリスカートとピンクの英字シャツ、買ったばかりのフェイクレザーのジャケットを引きずり出した。


「カンペキだぁーっ! あ、お出かけするってママに報告しなきゃ!」


 虹は床をぐちゃぐちゃと踏みつけ、ドタドタと一階のリビングへ駆け降りた。



    ***



「着替えとアクセとスマホとそれとぉー……よし、シャワー浴びよっと!」


 昨晩のうちに用意していた装備を持ち、一階の浴室に転がり込む虹。お出かけ用のいい香りのする石鹸を使い、身体を丹念に泡まみれにする。肌を傷つけないようそっと洗い、サッと流してドタバタと脱衣場に戻った。そこで鏡に映る自分を見て、一つ悩みが生まれてしまった。


「か、髪型考えとくの忘れてた……。どーしよ、ジャケット着るならそのままとか……でもシュシュ使いたいしぃ」


 虹は身体を拭き着替えまで済ませながら、頭をフル回転させる。グルグルと脳内でコーディネートを続け、最終的に至った結論は……。


「あっ、ツインテールにしよっかな。きのーのイメージでいった方がいいもんねっ」


 そうと決めた虹はバッチリ髪型もキメて、朝ご飯をガッツリと食べた。





「ねぇママ、このブーツ合ってると思う? カバンも浮いてないよねっ?」


 虹は黒い編み上げブーツを履き小さい茶色の鞄をたすきがけして、エプロン姿の一美(かずみ)に見せつける。


「うん、センスよし! さすがママの子ねっ」


 一美はニッコリ笑ってみせるも、内心では背の低いところまで遺伝させてしまった自分を責めたくなっていた。


「じゃ、いってきまぁーっす!」


「帰り遅くなりそうだったらメールしなさいねーっ!」


 一美は虹を見送ると、鍵をかけ、嗣治(つぐはる)が寝ている寝室に侵入した。





 【待ち合わせは、11時にあざらぎ駅でお願いします。あと、お茶するだけだからお金はいらないよ】と書かれたメッセージを虹は何度も見直し、浮き足だって小走りになる。あざらぎ駅は、学園シャトルバスの停留場に隣接している。そのためいつも通っている道を、いつもより軽快にゆく虹。

 なず愛からのお誘いは、春の陽気以上に虹の頭をダメにしていた。


「あぁーんっ、なず愛さんみたいな綺麗な人と女子会できるなんてぇーっ。大人の女性にステップアップするためのチャンスじゃーんっ!」


 虹は道すがら、ひたすら妄想を繰り返す。キラキラと輝くカフェテラスで美味しいケーキを食べながら紅茶を飲むのだろうか? それから素敵なBGMの流れる大人な雰囲気のレストランでランチみたいなっ? お金はいらないと言われたが、たっぷりと小遣いを財布に詰め込んできた。何次会まででもなず愛に付き合う覚悟は決まっている。

 一人で、にまにまと笑う虹。周りの目など気にすることなく笑顔を振りまき歩いていると、いつの間にかあざらぎ駅の近くまでたどり着いていた。

 虹は左手首に巻いたカラフルな腕時計に目をやると、盤面のデジタル表示は10時45分を指している。


「ちょいーっとはやく着いちったにゃぁーっ。はぁー、なず愛さんはどんな素敵な格好でくるのかなぁーっ?」


 虹は再び、妄想を暴走させ始める。やはり清楚でおしとやかな感じなのだろうか。いや、カッチリとして大人びた服装という線も捨てがたい。もしかしたら、ドレスみたいにきらびやかな格好で来てくれたりしてっ!

 虹はわくわくほくほくしてあざらぎ駅の周辺をうろちょろする。そんな風に、にやけ顔で右往左往する不審人物を演じていると……ほどなくして背後から「虹ちゃんっ」と、なず愛のものと思しき声が聞こえてきた。


「待たせちゃったみたいでごめんねぇっ。急な誘いだったのに、今日は来てくれて本当にありがとう」


 最上級の期待を胸に振り向く虹に、満面の笑みを差しだすなず愛。しかしその見栄えは、虹の妄想とは少し違ったものであった。


苦行お疲れさまでした(。-∀-)

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