表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/37

ひとり

キャラを生かしきれないです。

「今日は六時限目がないため、七時限目の特別授業(スローン)まで教室で待機していてください。いまから充電器を支給しますので、お手持ちの端末を充電しておいてください。それと……」


 西田(さいだ)先生はセリフを中断し、眼鏡をクイッと直すとクラスの生徒たちを見回した。


「この待機時間の間に勝手に帰宅しないように。体調の悪い人、どうしても外せない用事のある人のみ私に言ってもらえれば、配慮はしますが」


 五時限目が終わり、いつもであれば帰りの会が始まる時間。しかし特別授業(スローン)が七時限目に控えているため、(れいん)たちは教室での待機を命ぜられてしまった。


「りなちゃーん、勝手に帰っちゃダメだってさぁ。じゃーさ、んとさ、えーとさ、体調わるいことにしちゃう?」


 虹は璃奈(りな)の座る席に飛びつき、まくし立てる。昼休みが明け、二人が口を利くのはこれが最初だった。あれだけの大爆発をみせてしまった璃奈としては、虹と萌衣乃(めいの)をすぐには受け入れづらい。それでもいつもと変わらぬ態度の虹に、返事くらいはすることにした。


「……そう、だね。なんか先生に先手打たれちゃった感じだよね。どうしよっか……」


 璃奈は虹と目を合わせずに答える。そんな璃奈の態度に、彼女が腰をかけている空間はなんとも寄りつきがたい雰囲気を(かも)してしまっていた。


「れいれい、りぃにゃ、ごめりんにゅー。ウチ、着せ替えっコでパシャパシャりん……。車くるじゃん? 帰宅せよ?」


 困り眉毛になった萌衣乃が、アイホンの画面を見ながら話しかけてきた。それから萌衣乃は教卓に座る西田先生に許可申請をし、虹と璃奈に手を振り教室を後にした。


「めいっぷはめいっぷりん(せい)に帰ってしまったぁー……。わたしらどーしよ? もうこのまま……特別授業、でちゃおっか?」


「…………」


「なんてねぇ……」


 特別授業(スローン)を受けたくないという璃奈の気持ちを理解したいと思うも、虹の中にはなず愛の存在が()えずちらついている。

 虹としても、肌が傷つく危険性のある特別授業(スローン)を受けたくない気持ちは当然ある。しかしそれを(くつがえ)してしまうほど、なず愛は虹の〈なにか〉に影響を与えていた。


「……うん、それでもいいかもね」


 璃奈は顔を伏せた。それを見た虹はとっさに声をかけようとしたが――。



 ブーッ、ブーッ……。



 璃奈のスマートフォンが、璃奈の机の上で震えた。璃奈はゆっくりと起き上がり、画面を見る。


「……虹、ごめん。私も帰んなきゃいけなくなった」


 璃奈のスマートフォンに、【咲季(さき)が熱だしちゃったみたい。すぐ迎えにいって】と母からメールが届いていた。


「えっ? あ、そうなん? ありゃ、そっかぁ……」


 ガタリと席を立つ璃奈。それから虹に視線をくれることなく教卓へ出向き、西田先生と話を始める。

 璃奈は西田先生に一つ頭を下げると、虹に振り向き、すぐ目を閉じて教室からでていってしまった。


 バタンッ――。


 扉を閉まる音を聞いた虹は、出かけていく主人を見送る犬の気持ちが痛いほど分かった。


「えぇーとぉ……。あはは……」


 いつもクラスで目立とうとする虹であるが、特別人気者という訳ではない。むしろ奈良野(ならの)との一件以来、クラスメイトからは距離を置かれている感じすらあった。

 行き場を失った虹は、最前列にある席に戻り、椅子に腰かけクラスメイトに背を向けた。



    ***



『ただいまより、特別授業(スローン)を開始します。皆さん、頑張って勝ち残ってください』


 亜東(あとう)先生の声が移動個室(クロス・ポッド)の中に響き、ガタンと揺れると視界が真っ黒に染められた。


 やがて、一筋の光が徐々に視界を支配していき――。


 気がつくと、虹の目の前には〈植物園〉と書かれた建物があった。


『無事に到着したでしょうか。それでは移動個室(クロス・ポッド)から降りて、装着(デバッグ)してください』


 亜東先生の指示に従おうと、虹はガラス扉が開いた移動個室(クロス・ポッド)から降り立ち、スマートフォンを制服の中から掴んで取りだす。画面には【装着】の二文字が浮かび、早く押せと言わんばかりに光を放つ。

 虹は画面に指を触れようとするも、一度指を畳んで手を引き、グッと(まぶた)を閉じて指に力を込め――装着(デバッグ)した。


「……!」


 青色の風に巻かれる虹。ゴウゴウと音を立て怒り狂うような青い風は、やがて虹を覆う青白い光に姿を変えた。


「……チッ、すぐ装着(デバッグ)しろってんだアホタレッ」


 目つきを鋭くした(フェンリル)の表情は、怒りで満ちている。植物園の扉のガラスに反射して映る(フェンリル)の顔は眉間にシワが寄っていて、虹の心をざわつかせた。


(ちょっとフーちゃん、変な顔しないでよー! シワになっちゃうから普通にしててっ!)


「っせぇッ! 姿(ツール)ごときがゴチャゴチャぬかしやがって……貴様は黙って見てりゃいいんだよッ」


(もーっ、やっぱり帰っちゃえばよかったぁー!)


 頭の中にガンガンとこだまする虹の声への苛立ちを表すように、(フェンリル)は植物園の扉をバガンッと蹴飛ばしズカズカと中へ侵入する。すると突然、(フェンリル)は立ち止まりニヤリと怪しく笑い虹に語りかけ始めた。


「ククク……。貴様に未来を選ばせてやる」


(えっ、ちょ、ちょっとフーちゃんっ? なに言って……)


 (フェンリル)は、花壇に向けて唾を吐いた。


お読みいただき、ありがとうございました!(/--)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ