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璃奈VS……

日常?パートです。

 キーンコーン――……。



「もうさ、あのさ、えーとさ、りなちゃんくる前に一時限目終わっちゃったよー! なんでーっ?」


 一時限目の終わりを告げるチャイムとともに、長い黒髪をツインテールに結った(れいん)萌衣乃(めいの)に詰め寄る。萌衣乃の態度は冷静なもので、虹の眼前にアイホンをスッとかざした。


「わっ、ちかっ! みえなっ!」


 虹はアイホンから少し身を退き、適当な距離に顔を近づけるとムムムと(うな)りだした。


「寝坊で遅刻となぁー? それはけしらりんですにゃーっ」


 そう口では言うものの、虹はスマートフォンを持ち璃奈(りな)に心配しているという趣旨のメールを送った。


「れいれい、スマホぴこぴこ、メルメルぴるぴるりーん。てか、落ち着こってゆー?」


 萌衣乃のアイホンに、虹からのメールが届いた。そして虹のスマートフォンの画面には、萌衣乃宛てに送信されたメールが映っている。


「あっ、まちがえちった! てかね、んーとね、えーっとねぇー……。やっぱり、りなちゃんいないと変なかんじぃー……」


 虹はしょんぼりと肩を落としうなだれる。すると突然、ガチャリと教室の扉が開き璃奈が入室してきた。


「り、りなちゃぁーんっ! お、おぉ、おはっ……」


 虹は涙を流しながら璃奈に飛びつく。璃奈の身体にグリグリと顔をこすりつけるたびに揺れるツインテールは、まるで主人の帰りを喜ぶ犬の尻尾のよう。


「うわぁっ! ちょっと、虹っ……あれ、髪型変えた?」


 子犬のようにつぶらな瞳で見上げる虹は、「わんっ」と鳴いて返事をした。



    ***



「おっひるぅー、おっひるぅーっ。今日はどこで食べるー? たまには中等部の近くの植物園あたりにいってみようよぉ」


 虹は日焼け止めを肌に塗りながら、璃奈と萌衣乃に提案する。弁当箱を携えた二人は、(うなず)いて返事をしてみせた。

 そうして三人が教室を出ると、廊下に黒色の制服を着た男子生徒が待ち構えていた。その男子生徒は、制服を着崩したりアクセサリーをつけたりと、周りとは一線を画した格好をしている。


「よぉー、クソガキ。ちょっと、付き合えや」


 声をかけてきた男子生徒は、茶色の髪をツンツンに(とが)らせている。璃奈はその男子生徒を見るなり、急に怯えた表情になった。


「覚えててくれて光栄だぜ。じゃ、ついてきな」


 璃奈の異変を感知した虹は表情をグッと引きしめて、不良風の男子生徒を睨みつけて叫ぶ。


「なにあんたーっ! てか、りなちゃん怖がってんじゃんっ。やめてよーっ!」


「あ? んだてめぇ。用があんのはてめぇじゃねぇよ、邪魔すんなッ」


 背の低い虹はつき上げるように睨み、そこそこの背丈の男子生徒は押し潰すように睨む。両者がバチバチと火花を散らす中、口を開いたのは萌衣乃であった。


「うにゅーん、さいとーくんっぽい?」


 例に漏れずアイホンを弄っていた萌衣乃は、不良風の男子生徒を見て首を(かし)げる。それを見たさいとーくんと呼ばれた不良風の男子生徒は、ギョッとした顔で萌衣乃を二度見した。


「お、お前、蜜鳥梅(みつとめ)さんとこの……? チッ、オヤジにヨケーなこと言うんじゃねぇぞッ」


 さいとーくんは廊下の壁を思いきり蹴りつけると、振り返って初等部の生徒を威嚇(いかく)しながらズカズカと去っていった。


「うひーっ、なんだったんだぁー。てかめいっぷ、あんなやつと知り合いなん?」


「ぱぱりんの秘書っちのむすっこのさいとーくんじゃん?」


 ムーッとする虹に、萌衣乃はヘラヘラと笑う。


「…………」


 うつむき冷や汗を垂らす璃奈。それに気づいた虹は、慌ててフォローするように声をかける。


「あーっと、うーっと、むー……とぉ。……りなちゃん、ごはん食べよー?」


 その言葉がフォローになったかどうかは別として、璃奈は黙って歩き始めた。





 中等部の生徒といざこざがあった直後に中等部の学舎(まなびや)になどとても近づく気にはなれず、三人は中等部から少し離れた場所にある体育館の裏に身を潜めていた。


「てかねー、んとねー、やっぱねー、りなちゃんいなかったから一時限目はぜーんぜん集中できなかったよ。わたしはりなちゃんいないとダメだぁー」


 虹は一番乗りで弁当を完食するとペラペラ語りだし、にーっと璃奈に笑ってみせる。

 〈いないとダメ〉とは私にいつでも頼れる人間でいろ、ということなのだろう。璃奈は虹の言葉をそう受け取り、昨夜と今朝、母に言われたことを思い出す。


(あんたが居たのに、どうしてこんなことになったの?)

(お姉ちゃんなんだから、頼りになってよ!)

(お母さん忙しいんだから、あんたがしっかりしてちょうだいっ!)


 私はしっかりして、皆を支えなきゃ。そんな想いが、璃奈の胸をパンパンギュウギュウ破裂寸前まで追いつめている。


「れいれい姫、しつもんコーナー。今日のおにぷりヘアー、激レアっしょ?」


 右手にアイホンを持ち、左手を挙げる萌衣乃。話を振られた虹は、少し気疎(けうと)そうな表情になり遠い目をして話しだした。


「きのーの夜さぁ、フーちゃんとさぁ、肌とか髪のことでケンカしちゃってさー……。ほうこうせえのちがいみたいな? ほんで、仲直りしたい印ってかんじかなぁ」


「わっつあやまりんぐ?」


「特別授業、もうやんないって三人で約束したじゃん? それ話したらフーちゃん怒っちゃってさぁー。でも、あんな危ないことする方がおかしいよねぇ」


 二人を交互に見てぷんすか怒る虹。萌衣乃は「んー、ウチもぷに隊長にむりっぷ宣言されたっぽい?」と反応するも、璃奈は一人黙っておにぎりを頬ばるばかり。


「りなちゃんは、ヘビくんとしっかりやれてんのぉ?」


 ……しっかりやれてる?


 その言葉だけが耳に入り、その瞬間、璃奈の頭の中にぐるぐると記憶が渦巻いた。咲季(さき)の鳴き声、祖母の奇行、そして……母のヒステリックな怒り声。


 グシャリ――。


 璃奈はおにぎりを弁当箱に押し込み、フタをした。するとおもむろに立ち上がり、虹を睨むように見下ろす。


「やれてるワケ……ないじゃんっ……!」


 璃奈の声は震えていた。それは、抑えていた気持ちが溢れることにまだ戸惑いがあるようだった。


「り、りなちゃん? どしたん……?」


 虹は困った顔をして璃奈を心配する。しかしいまの璃奈にはその行為が酷く勘に障ってしまい、吐瀉(としゃ)されていく感情に歯止めをかけることができなくなった。


「私が、いないと? 私が、しっかりしないと? ……これ以上、私になにを頑張れっての……。もう疲れたよ、こんなんばっか!」


 璃奈からこぼれる言葉はボロボロで、聞く者に充分すぎるほど悲痛さを伝える。

 それを受けた虹は先ほどのさいとーくんの出来事を思い出し、力になりたい旨を伝えようと思った。


「りなちゃんっ、だいじょーぶだよ。なにかあっても、わたしが守ってあげるからっ!」


 虹はどこかぎこちなく、にーっと笑う。

 璃奈は……目を見開いてお腹に力を入れた。


「無責任なこと言わないでよっ。虹に私を守れるワケないっ! お母さんは帰ってくれば私を怒ってばかりだし、妹のこともおばあちゃんのことも、全部、私が……!」


 息切れを起こしたように、璃奈の声は小さくなって消滅した。

 虹はなにかを言いたそうに口を開いて閉じてと繰り返すも、気持ちを言葉にできずにいる。

 萌衣乃は感情を表立たせようとはせず、璃奈の様子を、ただ伺っていた。


 誰も口を利くことのない状況に璃奈は少し冷静になってしまい、代わりに気まずい思いがふつふつと湧いてでてきた。


「……ちょっと一人にさせてっ」


 璃奈は誰と目を合わせるわけでもなく地面に言葉を吐き捨て、逃げるように駆けだした。


「あ、りなちゃ……」


「れいれいっ! りぃにゃ、ぷりーずひとりっぷ……」


 音速ですっ飛んでいこうとする虹を光速で制止する萌衣乃。しかし虹は、因果律を崩してしまわんばかりに光速を超えて璃奈を追い始めてしまった。


「りなちゃんが困って苦しんでるのにほっとけないよぉー……!」


 叫び、萌衣乃から遠ざかる虹。その小さくなっていく背中と声を見送る萌衣乃は、「ぷぅーっ」とため息を吐いた。


お疲れさまでした(。-∀-)


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