虹VSフェンリル
飛ばしてもいい回です(。-∀-)
「りなちゃーん、りーなぁーちゃぁーんっ……」
璃奈が目を開けると、眩しい光とともに涙目になった虹の顔が視界に飛び込んできた。
「わ、わぁっ! いだぁっ!」
驚きガバリと起き上がった璃奈は、虹にゴチンと頭突きをして再び倒れてしまった。ゴチンをおでこに食らった虹は、「うぎゃっ!」と叫んでうずくまる。
「にゃぷぅ、ぷぷりっぷーっ。お二人様、あつらぶりぃー」
二人のコンビネーションを見た萌衣乃は、ヘラヘラと笑って冷やかした。
「いだだ……。りなちゃんやっと起きたぁ、よかったぁー」
虹は涙目から雫を溢し、ホロホロと泣いて笑う。璃奈は一瞬なにごとかと思ったが、特別授業なる恐怖を受けて気を失ったことを思い出した。
「あ……虹、萌衣乃……」
夢か現か、いまだ特別授業の光景が璃奈の脳裏にちらつく。璃奈は濡れた髪を触り、ボーっとした顔で二人を見上げる。
「りぃにゃ、ぐっすりーぷで日が暮れりん。しっかりするりる帰りっぷーっ」
萌衣乃は璃奈の前でしゃがみ込み、手を取るとスッと璃奈の上半身を持ち上げた。そこにすかさず虹がぼすんと飛びつき、璃奈をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
いつものようにヘラヘラ笑う萌衣乃と、いつものように身を寄せる虹を見て、璃奈は〈いつも〉の心地好さに泣きそうになった。
「うんっ……帰ろっか……」
三人は、空洞が体積のほとんどを占める新しい施設の中にある、移動個室の前にぽつりと取り残されていた。
「お二人とも、付き添いお疲れ様でした。鞍蛇さんも無事でよかったです。まだシャトルバスの最終便に間に合いますから、濡れた制服は体操着にでも着替えて急いで学園から出てください」
突然、背後から西田先生の声が舞い込んだ。虹と璃奈はドキリと心拍数を跳ね上げ、萌衣乃は「かしこまりーっぷ!」と手を挙げた。
***
「もぉヤダーっ。もぉやんなぁーいっ」
ふかふかのベッドに腰かけて、足をプラプラとさせるパジャマ姿の虹。頬を膨らませて作った表情は、不平不満で満ち溢れている。
そしてその怒りの矛先が向いているのは、机の上にいる青と白の毛並みの子犬のような生き物であった。
「貴様、なに言ってやがるッ。これからがようやく本番なんだぜ? 幻獣どもを狩りまくって、ガシガシステータス上げてくんだよッ!」
高い声でキャンキャン吠えながら、後脚で立ち前脚の拳をビュンビュンと振り回すフェンリル。虹はベッドから降りてフェンリルに近づくと、二つの小さな拳をギュッと捕まえて真剣な顔で話し始めた。
「中等部の男の子、血が出てたよ。それに、りなちゃんすっごく怖がってたもんっ。三人でやめようねって話したから、もう明日から参加しませぇーんっ」
言うなり、ますますムッとした顔になる虹。フェンリルは掴む手を払い除け、「チッ」と舌打ちをして虹を睨む。
「アホタレ、特別授業を棄権するってのは、死を選ぶっつーことになんだぜ」
「もーっ、すぐしぬとか言うんだからぁ。フーちゃん可愛いんだから物騒なこと言わないでさ、普通にしてればいいのに。……そうだ! ママとパパにもきちんと会って、本当に家の子になっちゃいなよ!」
虹は、にーっと笑って提案した。しかしフェンリルは虹を睨みつけたままで、発する声は明るい調子ではない。
「……まだなにも理解しちゃいねぇようだな。貴様はもう、歩きだしてんだよ。後ろを振り向くことのできない、地獄への一本道をな」
フェンリルの放つ威圧感に、虹は少し怯んでしまった。それでもやはり負けん気の強い虹は、フェンリルに自分の意見を押しつけ通す。
「でもさ、わたしさ、傷とかさ、つけたくないじゃぁーん。フーちゃんの光が消えたら、お肌傷ついちゃうんだよね? それだけは絶対にヤダもーんっ!」
虹は、全身の肌を毎日入念に手入れしている。それに傷がついてしまうなど、彼女にとってあってはならないことで許されざることなのだ。
虹の態度にフェンリルの苛立ちはグングン高まり、思いの丈を全て吐きつけることにした。
「魂が命懸けの戦いをしてるっつーのに……姿ごときが腕の一本や二本失うことを恐れるなんざ、生意気なもんだなぁ? ……そうだ貴様、その長い髪、動き回るのに邪魔だったんだ。いますぐ、削ぎ落とせッ……!」
フェンリルは四つ足になり、毛を逆立てた尻尾をピンと上に向けて威嚇してみせた。虹はその姿を少しばかり可愛いと感じてしまうも、声にする言葉は甘いものではない。
「えーっ! そんなんイヤに決まってるじゃんっ。肌も大切だけど、髪も大切だもーんっ。せっかくここまで綺麗に伸ばしたんだから、短くなんてしないよーっ!」
虹は、その小さなお尻の辺りまで伸びたサラサラの黒髪を愛しそうになでつけ、猛抗議をする。互いの都合が噛み合わず、うまく話がまとまらない。
フェンリルは一度冷静になれるよう頭を抱えてうずくまり、怒り鎮めるべくぷるぷると震えた。それを見た虹は思わず顔を赤くして飛びつきたくなったが、肌と髪を守るべく足を踏みとどまらせた。
「……よ、よぉーし、わかった。なら、邪魔にならねーよう、なんかうまいことやってくれねぇか」
伏せたままのフェンリルは、妥協点を探るべく口を開く。虹はクシで髪をとかしながら、ごちゃごちゃとした部屋に置いてある姿見を見た。
「うーん……、お部屋にいるときはいっつもツインテールにしてまとめてるけどぉー。それで学園いくのはなぁー……」
虹はヘアゴムを口にくわえ、頭の右側に髪の束を作る。それをクシで整え後れ毛をまとめ、ヘアゴムでキュッと縛りあげた。同様に左側にも髪の束を作り、姿見をまじまじと睨む。
「左右の高さ合わせるのむずかしいーっ。てかさ、なんかさ、これさぁ、こどもっぽくない? まんま初等部ってかんじしないかなぁー?」
姿見に映しだされているのは、虹の童顔に抜群に似合いすぎるほどの長いツインテール。しかしそれは、大人の女性を目指す虹にとっては複雑なことであった。
左右にプラプラと浮かび虹の身体にまとわりつかなくなった髪を見たフェンリルは、「はぁー……」と息を吐いて胡座をかいた。
「まぁ、それならなんとかって感じだな。うっし、明日の特別授業に向けて、少し話を……」
フェンリルのセリフの途中で、虹はなにかを思うように首を傾げる。それから、視線を姿見からフェンリルに移行させた。
「あのさ、てかさ、んとさぁー……そうじゃないんだってばーっ。わたしはね、明日からね、もうね、特別授業は受けないのっ!」
両腕を天井に向け、ぷりぷりと怒る虹。フェンリルは少しばかり沈黙し、真っ直ぐ虹を見つめて話をする。
「…………。そうかよ。なら俺が貴様を殺してやらなきゃいけねーんだが、俺はまだ終了する気はねぇ。これでも貴様の行動力は買ってんだ、明日もよぉ……」
「またころすとか言ってさぁー、そういうのやめてよねっ! わたしもう寝るから、フーちゃん寝るとき電気消しといてっ!」
フェンリルの話を聞き終えることなくベッドに飛び込む虹。かけ布団を被りモゾモゾとする虹を机の上から見下ろすフェンリルは、頭の青い毛を掻きむしりまくって、うなだれた。
「……明日もしっかり頼むぜ、小娘……」
フェンリルは呟くと四つ足で部屋を飛び回り、電気のスイッチを蹴りつけオフにした。
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