ステータス=強さ
今回短いですm(__)m
「うひゃぁーっひゃっひゃぁッ!」
不良生徒のけたたましい笑い声が、屋内プール全域を泳ぎ回った。
……がぼっ、ごぶっ。
璃奈の身体は、落とされた勢いのままプールの中腹辺りまで沈んでいた。プールの壁には、〈5M〉という標記が印字してある。
璃奈の身体は気泡を吐き続け、茶色い髪がゆらゆらと揺れる。
(――……あぁ、私、なにやってんだろ……)
視界の先には、ぼやけた光が救いの手を差し伸べるように射し込んでいる。が……いまの璃奈には、プールの奥底で自分の身体を呑み込もうとする暗闇の方が、幾らか興味を持てた。
(戦うとか、できるワケないじゃん。怖いっての、あんな不良どもに殴られたり蹴られたり……噛まれたり。見てるだけだって、苦痛だよ……)
璃奈は弱気になり、目の前の現実から逃げるため、別のことを考えようとした。
(……帰り、スーパー寄ってかなきゃ。あと薬局でおばあちゃんのオムツと、咲季の……)
視界から、光が遠ざかっていく。それが救いの光なのかどうかは璃奈には分からなかったが、なんとなく寂しい気持ちにもなってしまった。
身体はまだ、沈み続けている気がする。いや、確かに沈んでいる。
目の前を、なにかが掠めていった。それは、橙色の制服を着た男子生徒であった。その泳ぎ回る勢いは水流となり、璃奈の身体を奈落の底へと圧し潰そうとしている。
(てかもう、いっかなぁ。なーんか疲れちゃった。毎日まいにち……友だち付き合いとか、勉強とか、家事とか、お母さんに八つ当たりされたりとか妹のお守りとかおばあちゃんの介護とかっ……!)
璃奈の身体からガボッと大きく空気が抜けると……それきり気泡はでなくなった。
(…………。ヨルムンガンドくんも、もうやる気ないみたいだし。……このままサメに食べられるか窒息するかで、死ねたりするのかなぁ?)
男子生徒が、璃奈に射し込む光を断絶するように水面から見下ろしている。そして、帯びた灰色の光をサメの頭に変えて大きく口を開け、揃えた両脚をばたつかせるとスピードを上げて璃奈に突進してきた。
(……虹、萌衣乃、ごめーん……)
璃奈の身体は、男子生徒の大きな口にガブリと丸呑みにされた。
ザッパァァー……。
飛び込み用プールの水面から、水を滴らせた生徒が姿を現した。
「おっせんだよー、遊びすぎだぜ。やっぱ水ん中じゃお前が最きょ……」
不良生徒は、だしかけた言葉を忘れてしまったかのように声を詰まらせた。そしてその切れ長の細い目を大きく見開いて……戦慄した。
奈落の底から這い上がり水面を破ったのは、漆黒の光を乱舞させている璃奈の身体。それは、虚ろな眼をして宙に浮き上がっている。
「ウ……ア、ァ……」
乱れ狂う漆黒の光は、触れたモノ全てを破壊していく。窓は砕け、床は割れ、飛び込み台は崩壊し……水は消滅していった。
干上がった飛び込み用プールの底には、光を失った橙色の制服の男子生徒が倒れている。
「マ、マジかよぉ……。んだよこれ、ざっけんなよぉっ。幻獣ってのは、こんなずりぃ力持ってんのかよッ……」
人は絶望したときこういう表情をするものなのだと、不良生徒たちの顔を見せつけられた璃奈は思った。
不良生徒は脚を震わせ腰を抜かし、他の二人も涙を流してふにゃふにゃとへたり込んだ。
「ガ、アァ……アァァァァアッ!」
璃奈が轟音を吐きだすと、漆黒の光は高速で八方に乱れ飛んだ。
「う、うわぁぁぁーっ!」
疾風のように蠢く漆黒の光が三人を襲う。
パパパァァァーンッ!
と音が鳴り、三人が帯びていた光は瞬時に消え去った。そして三人は、不良風の男子生徒と普通の男子生徒と普通の女子生徒に戻り、地割れした床にドサリと倒れ込んだ。
(……ヨ、ヨルむンがんど、く、ん……?)
璃奈の意識は、少し朦朧としていた。
璃奈はスッと瓦礫の上に降り立つと、漆黒の光を宿る程度に落ち着かせる。
「う……、あっ……」
璃奈は漆黒の光を宿したまま、ふらりと身体を崩してパタリと伏した。
キーンコーン――……。
『皆、ご苦労様。今日の特別授業はこれで終了よ。生き残った魂たちは……』
璃奈は、なんとなく亜東先生の声が聞こえた気がした。しかしあまり上手くは聞き取れぬまま、意識が遠のいていった――。
読んでくれて、嬉しいです( ^∀^)
次回は萌衣乃です。




