ステータス≠強さ
もっと派手なバトルを書きたい。
けど、自分には向いてないみたいだぁー
「あ? げ、幻獣……? クソ、やっべーかな……」
黒色の制服を着た不良風の男子生徒は、スマートフォンを見るなり驚いた顔をする。そして画面と璃奈の顔を見比べ、舌打ちをした。
それを見た璃奈も、思い出したようにスマートフォンを確認しだす。
「ハ……〈ハイエナ〉、〈レベル4〉、〈ステータス34〉。よ、よぉーしぃ……」
璃奈は、自分のステータス画面に切り替えた。レベル8、ステータス126という文字を見て、呼吸を整えようとする。
(ヨ、ヨルムンガンドくんの方が強いんだ? なんかあいつもそれ見て焦ってるみたいだし……や、やってみちゃう?)
璃奈は自分の方が有利なのではと思うと、少し可笑しくなった。しかし決して笑える状況でないことは充分に理解していて、自分は頭が変になってしまったのだろうかと悲しくもなった。
「数字だけなら、そうかもですけどぉ……。どうなるかはわかりませぇん。頑張ってはみますけどねぇ」
璃奈は飛び込み用プールの前で、不良生徒を牽制するようにウロウロする。それを見た不良生徒は、不思議そうな顔で見入ってきた。
「なんだぁ、その動き。つーか、光の色ヤバすぎるっつの……。真っ黒じゃねーかよ」
不良生徒は璃奈の宿す漆黒の光を見て顔を歪める。璃奈は益々自分が有利なのだと思い、ヨルムンガンドをけしかける。
(ほら、あいつ怖がってるよっ。チャンスじゃん。ヨルムンガンドくん、がんばれがんばれっ)
璃奈の方が、すっかりやる気になってしまった。しかし璃奈は進んでは尻込みしての繰り返しで、なかなか踏みだせずにいる。
「は、はい……。がんばりまぁす」
璃奈は額から滴る汗を拭い、呼吸を荒くする。
そしてそれを見た不良生徒は……ついに気づいてしまった。
「なんだぁ、お前。もしかして、ビビってんのかぁ?」
不良生徒の言葉を聞いた瞬間、璃奈の全身はぞくりと震え、拭いきれない汗がでてきた。
そして璃奈も、ヨルムンガンドから伝わってくる恐怖心をひしひしと感じてしまった。
「オイッ、みんな出てこいよぉーっ。おもしれぇヤツがいんぜぇー!」
不良生徒が大声で叫ぶと、シャワー室に天井、プールの中から次々と生徒が姿を現した。
灰色の光を帯びた白い制服の男子生徒。
茶色の光を帯びた黒い制服の女子生徒。
灰色の光を帯びた橙色の制服の男子生徒……と不良生徒を合わせて、四人の二心同体が璃奈の前に立ちはだかった。
(な、なんか他にも出てきちゃったけど……。てか、一対一で勝負するんじゃないのっ?)
状況を見た璃奈は、ヨルムンガンドに詰問する。教室で行った〈見本〉では、複数人での戦いなど想定していなかったから。
「サ、サバイバル・バトルですからぁ。仲間作っちゃうのも、アリなんですよぉー……」
(そ、そんな……)
璃奈は、スマートフォンの画面を見る。
白色の制服の男子生徒は、〈ネズミ〉、〈レベル2〉、〈ステータス19〉。
黒色の制服の女子生徒は、〈ウシ〉、〈レベル3〉、〈ステータス25〉。
橙色の制服の男子生徒は、〈サメ〉、〈レベル4〉、〈ステータス31〉。
「み、みんな百獣みたいだぁ。でも、ボクじゃこんなにたくさんは、相手できないかもぉ……」
璃奈は動きを止めてしまった。
(えっ? ちょ、ちょっと、しっかりしてよっ。ほら、頭使って戦えばいいじゃないっ。一対一で戦えるように工夫するとかさ……ってか、戦う気ないなら逃げてほしいんだけどっ!)
璃奈は焦った。しかし璃奈がいくら焦ろうと、璃奈の身体が動くことはない。
「り、璃奈さん……ご、ごめんなさぁい。もう身体が言うこと聞かなくて、どっちも無理ですぅ」
璃奈の顔はひきつり、身体は震えを通り越してガチガチになっていた。そんなヨルムンガンドを見た璃奈は、さっきはあんなこと言って格好つけてたクセに、と責めてやりたくなった。
「オイオーイ、どうしちゃったんですかぁ幻獣さぁーん。頭数揃えただけで、手も足もでない感じですかぁー?」
茶色の光を纏う不良生徒が、璃奈をからかうようにニヤニヤ笑う。
それに合わせて周りの三人も薄ら笑いを浮かべ、璃奈にじりじりと詰め寄ってくる。
(ヨ、ヨルムンガンドくんっ! あなたの方が強いんでしょっ。なんとか……なんとかなんないのっ?)
「あ、えっとぉ……。と、とりあえず引きつけてから、なんとか頑張ってみますぅ」
璃奈はあまり他人に意見を言わないタイプであるが、やはり自分の身に危険が迫っているとなれば話は違う。切迫感溢れる態度で、ヨルムンガンドに物申す。
(私、本当はこんなことしてる場合じゃないんだからっ。夕飯のこともあるし、妹やおばあちゃんのことも……。無事に帰れるようにだけ、うまくやってねっ?)
璃奈は璃奈に向かって言いつけるが、視界に映っているのは狂気渦巻く四人の〈敵〉。
四人はついに璃奈の近くまでたどり着き、ハイエナが魂の不良生徒が一歩前にでた。
「幻獣とかヤベーと思ったけどよ、ムチャクチャぶるってんじゃねーか。つーかよ、幻獣狩れたらサイコーじゃね? これならやれそーだし、ボコっちまおーぜ」
不良生徒が右手の茶色い光が型どる短い爪を、璃奈に向かい振るう。それに驚いた璃奈は目を瞑り、璃奈の視界は真っ暗になってしまった。
「わ、わぁっ!」
バキンッ――。
不良生徒の爪は、璃奈の両腕の漆黒の光に阻まれていた。璃奈は驚き目を瞑りながらも、両腕を上げ不良生徒からの攻撃を防いでいたのだ。
(び、びっくりしたぁ……。でも本当に、痛くはないんだね)
「いや、まぁ……ボクは、ちょっとは痛いんですけどねぇ」
璃奈のポケットにしまわれたスマートフォンの画面に、【部位】の項目が映っている。そして右腕と左腕の数値が、僅かに減少していた。
「ちょっとだとぉ? なめんじゃ……ねぇぞッ」
不良生徒は、璃奈の腹部に左手の爪を突き刺す。しかしそれは、ガギンッ、という音と共に弾かれてしまった。
「ってぇッ! クソかってぇじゃねーかッ」
不良生徒は苦悶の表情を浮かべるも、すぐに怒りを露にして右手を振り回し璃奈の左腕を攻撃をした。
ギィィンッ――。
璃奈の身体が少しよろけた。璃奈は後ろを振り返る。そこには、飛び込み用の水深が深いプールがあった。
(ちょ……お、落ちないようにしてねっ? 制服濡れたら困るしさっ)
「で、できるだけ、頑張ってみまぁす……」
璃奈は、底が暗くなって見えないくらい深いプールを見て、ヨルムンガンドに懇願する。璃奈は、献身的に璃奈の注文に返事をした。
そして璃奈のセリフを聞いた不良生徒は、璃奈をからかうようにニヤりと笑った。
「頑張るだぁ? てめぇみてーな臆病者なんざ、テキトーに全身魂崩壊しときゃいいんだよッ」
不良生徒は璃奈の鳩尾にヒザ蹴りを食らわせる。バキッという音が鳴り、璃奈は「うっ……!」と言葉を吐きだす。蹴られたお腹を両腕でギュッと押さえ、身体をくの字に曲げた。
「お前らも経験値ほしいだろ、やっちまえよっ」
不良生徒が合図をすると、周りの三人の生徒たちも璃奈に攻撃を開始した。
(やだ……、ヨルムンガンドくんっ、なんとか逃げらんないのっ?)
「…………」
璃奈の声は璃奈の頭に響くが、ヨルムンガンドからの返事はなかった。そして目の前では、男子生徒の灰色の光でできた前歯が右脚をかじり、女子生徒の黄土色の光でできた前脚が身体のいたるところを蹴りつけてくる。
その光景を横目に男子生徒は、璃奈の背後にある飛び込み用プールにドボンと沈んでいった。
「これで経験値は山分けになるなぁ……。レベルもランキングも、どんくらい上がるか楽しみだぜ」
不良生徒が右手を挙げると、男子生徒と女子生徒は璃奈から離れた。
「楽に稼がせてくれて、ありがとよッ」
不良生徒は右手の爪で、璃奈の身体を突き飛ばした。
すると璃奈の身体は、寸刻の間宙に浮き――。
バッシャァァァンッ!
水飛沫が跳ね上がった。そしてその中に、漆黒の光を宿した璃奈は……沈んでいった。
あと少しだけ続きますm(__)m
主役より長くなってしまった……。




