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虹×虹(フェンリル)

よぉーやくバトルが始まります( ´△`)

「うっひゃぁーっ! なんかジェットコースターみたぁーいっ」


 移動個室(クロス・ポッド)の中で、(れいん)は叫ぶ。周りは真っ暗だが高速で移動していることだけは分かり、絶叫マシンに乗っているような気分になったからだ。

 やがて行く手に光が映り、虹はそこに一直線に吸い込まれた――。


「わぁっ、止まった。あれぇ? ここはぁ……」


 光の中へ入ると視界が開け、虹は移動個室(クロス・ポッド)の中でぽつりと座っていた。

 プシュー……と、移動個室(クロス・ポッド)のガラスが開き、まるで降りろと言わんばかりの演出が施された。


「ここ教室じゃぁーん。てかみんな、どこぉ?」


 虹の目の前に映った光景は、初等部の教室であった。ガラスは開いているものの、降りるべきかどうかと迷っていると、移動個室(クロス・ポッド)の中に亜東(あとう)先生の声が響いた。


『皆さん、無事に到着しましたか? いまあなたたちは、学園のどこかに排出されました。……と言っても、本当に学園へ移動したわけではないのですが』


 虹は亜東先生の声に耳を傾けるも、なんのことを言っているのかはさっぱりだった。


『そこは、占奏(せんそう)学園と全て同じように作られた……〈地下学園闘技場(ヴァルハラ)〉です』


 学園が学園じゃなくて学園で……? 虹の頭は混乱し、思考は強制停止した。


『皆さんには、この地下学園闘技場(ヴァルハラ)特別授業(スローン)を行ってもらいます。まずは移動個室(クロス・ポッド)から出てください』


 虹は亜東先生の言葉に従い、ベルトを外し移動個室(クロス・ポッド)から出て、教室に降り立つ。

 すると、教室の壁に設置されているスピーカーから亜東先生の声が聞こえてきた。


『それでは、端末を見てください。装着(デバッグ)の文字が表示されていると思います。それを押して、装着(デバッグ)してください』


 虹がスマートフォンを取りだすと、確かに画面には【装着(デバッグ)】の文字が映しだされている。虹は言われた通り、【装着(デバッグ)】をタッチした。


「うわっ、なんか、変なかんじぃ……」


 虹の周りを、青い風が激しく吹き荒れだす。それは黒く長い髪をバサバサと揺らし、服はボタンが幾つか外れるほどに乱れた。

 やがて青い風が止むと、虹の目つきはとても鋭くなり、身体は青白い光に覆われていた。


『ここからは、(ルーラー)に説明させた方が早いかしら。それじゃ(ルーラー)たち、あとはよろしく頼むわ』


 亜東先生がそう言い残すと、スピーカーはブツリと音を立て、教室は静まり返った。

 しん……とした教室に放置された虹は、首をごきりと鳴らして動きだす。


「うっし、んじゃ始めっか。小娘、聞こえるな?」


 虹は誰もいない教室で、誰かに話しかけるよう少し低い声で話しだした。


(あ、フーちゃんっ! 聞こえるよぉ。てかわたしまた呪われたんだー? てかなんで教室いるの? てかなんで……)


 虹の頭の中に、いつもの虹の声が響いた。


「うるせぇってのッ! いまから説明すっから、黙ってろッ」


 虹は誰もいない場所に向け、大きな口を開けて吠えた。それからスマートフォンの画面を見て、独り言を吐きだす。


「時間もねぇし、簡単に済ませっぞ。貴様はいま、(ルーラー)二心同体(フェイト・スレッド)して身体を預けてる状態になってんだ。ただ貴様も意識だけはしっかりあるからよ、こうして〈脳内で俺とだけ〉会話ができんだ」


(えー、どぉいうことぉ? てかね、なんかね、わたしいま夢見てるような感じがするよぉー)


 虹の声が虹の脳内に響く。それに対し、中身がフェンリルとなった虹は教室で独り言を呟くように話を続ける。


「それとここはな、占奏学園の地下に作られた学園と瓜二つの場所……地下学園闘技場(ヴァルハラ)だ。教室も図書館も体育館もグラウンドも桜の木も……占奏学園と寸分違わぬ作りになってる。だけどよ、当然ここにゃ一般生徒はいねぇ。ここは選ばれた者だけが集う特別授業(スローン)のための戦場だからな」


(ここはニセモノの学園ってことかぁー。すごいねー、映画とかのセットみたいだぁっ)


 脳内の虹の声に(フェンリル)は「ククク」と笑うと、手にしたスマートフォンを目の前に掲げた。


「あと、これなんだがな。俺の顔とかレベルとかランキングとかってのはいいとして、〈魂源(ソウス)〉ってのが見えるな?」


 画面には、青い毛並みの子犬の顔写真と、レベル10、ランキング205という文字があった。

 そして【魂源(ソウス)】なる項目に幾つかの部位(ヴァイタル)の名称と、数値が映っている。


「これは部位(ヴァイタル)の体力のことだ。これは相手から攻撃を受けると減少する。そんで数値がゼロになっちまった部位(ヴァイタル)は、魂崩壊(ディフェクティブ)を起こすんだ」


(うーん、ゲームのヒットポイントみたいな感じ?)


「まぁそんなもんだ。だからよ、あまり攻撃は受けない方がいいってこった。あとは占奏学園の地下に作られたこの地下学園闘技場(ヴァルハラ)で、サバイバル・バトルを楽しむだけだ。……さぁて、初戦はどこのどいつに当たるんだぁ?」


 (フェンリル)は、教室の扉をガラリと開いて廊下に出た。すると虹が脳内で、その存在を主張するように声を上げる。


(あっ、フーちゃん見てぇ。あれ高等部の人じゃない?)


 視線の端、廊下のつき当たりに橙色の制服を着た男子生徒の姿が映った。それは灰色の光を(まと)っていて、体型は長身だがヒョロヒョロとした細身。しかしズシリズシリと一歩ずつ慎重に身体を揺らす様は、それなりに存在感があった。


「ホッキョクグマ……か」


 手元のスマートフォンに一瞥(いちべつ)くれた(フェンリル)は、ぼそりと(こぼ)す。


(ほっきょくぐま? どゆこと?)


 (フェンリル)の呟きに、虹は聞いてみる。それに答えるように、(フェンリル)はスマートフォンを視界にしっかりと映し込んだ。


「相手の情報を見たのさ。あの(ルーラー)は〈ホッキョクグマ〉で、〈レベル6〉、〈ステータス52〉。百獣の雑魚野郎だな」


 スマートフォンの画面には、白い毛並みの子熊の顔写真とその他の情報が映っていた。


「あんな雑魚、相手にしたとこで大した経験値にゃならんだろうが……準備運動には丁度いいなぁ」


 (フェンリル)は、にやりと笑う。と、橙色の制服を着た高等部の男子生徒もこちらの存在に気づいたようで、天井を見上げて「オォオォォーッ」と叫びだした。ひとしきり叫び終えると、ホッキョクグマを(ルーラー)とする高等部の男子生徒は険しい顔を作り、虹に向かいズシズシと歩を進めてきた。

 それは細身な上サラサラで長めの黒髪をなびかせていて、お世辞にも迫力があるとは言えない。だが、虹は人が突進してくるという状況に焦り、慌ててフェンリルに声をかける。


(わわっ、なんかこっちに向かってくるよっ!)


「わーってるっての。貴様は黙って見りゃいいさ」


 (フェンリル)は大きく息を吸い込むと、迫りくる男子生徒(ホッキョクグマ)を睨みつけた。


「おい貴様ァァッ!」


 (フェンリル)の咆哮は渦となり、男子生徒(ホッキョクグマ)を迎え撃つ。それを受けた男子生徒(ホッキョクグマ)は、畏怖したようにピタリと動きを止めた。


「ククク。俺が誰だかわかるか? いや、わかんねぇほうが幸せかもしんねぇなぁ……」


 男子生徒(ホッキョクグマ)は、スマートフォンの画面を見た。すると突如として手足を震わせ、スマートフォンを手から滑らせて廊下の床へカシャリと落としてしまった。


「あーぁ、見なきゃよかったのに。なぁ、ミスターボンクラ?」


 (フェンリル)はニタニタと笑いだす。それを見てしまった男子生徒(ホッキョクグマ)は、目を見開いてフリーズした。


「クク……。貴様に、未来を選ばせてやるッ」


 (フェンリル)の両手を(おお)う青白い光の爪は、ズルリと切っ先を伸ばした。


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