虹×璃奈×萌衣乃=日常……
日常パートです。ゆるーい感じで読んでください。
窓から外を眺めると、隣のクラスがグラウンドで授業をやっていた。なにかを拾ったり書いたりしているので、これは恐らく理科の授業だろうと虹は思った。
キーンコーン――……。
「虹、今日は手挙げないんだね。珍しいじゃん」
休み時間になると、いつものように璃奈が虹の席に遊びにきた。虹は即座に璃奈を見て、にーっと笑う。
「にゃはっ。算数の時間、わたしはこの世からいなくなるのですーっ」
璃奈は、「なるほど」と言って苦笑いした。そして少し遅れて、二人の側に萌衣乃が到着を果たす。
「おつにゅー。てか、らんちんぐたいむじゃん? お庭で食べりっぷーっ」
萌衣乃は小鳥の絵が描いてある弁当袋を片手にヘラヘラ笑い、二人を誘った。
「んーっ、ママのロコモコ最高ぉーっ!」
虹はハンバーグを頬ばり、顔をほんのり赤くする。璃奈と萌衣乃から少し離れた場所で。
「ねぇ虹ー、日陰なんかいないでこっちきなよー。あったかいし気持ちいいよーっ」
三人は、初等部校舎から5分ほど歩いた学園の広場にきていた。
璃奈と萌衣乃はそこに設置してあるベンチに座って昼食を取っているが……虹だけは近くにある物置の陰で食べている。
「えー、ムダに日焼けしちゃうからヤダぁー。じゃーさ、わたしさ、ナイスアイデアがあるのっ。それはね、二人がこっちにくればいいってことだよーっ」
「夏ならまだしも、まだ日陰寒いじゃーん。食べたら散歩もしよーよぉー」
互いに若干の距離があるため、少々声を張って話す両者。するとそれまで黙っていた萌衣乃は、弄っていたアイホンをポケットにしまって口を開いた。
「桜が咲きっコ、花見でぱくもぐしたらみんなしあわせはっぴるみー」
萌衣乃の発言に、隣の璃奈と日陰の虹は目を丸くして見入った。
三人は一度弁当箱を閉じ、近くにあった桜の木の下(虹だけは木陰)に腰を下ろした。
「そういえばさ、アプリ弄ったりしたぁー? わたしはね、昨日の夜ね、フーちゃんとねぇ、えーとんーと……」
虹は一番に弁当を食べ終えると、まだ食事中の二人に話しかけた。璃奈はラップに包んだおにぎりを抱えたまま、それに答える。
「いや、私は……。七時限目が始まるってことでお母さんと話し合いしてたから、それどころじゃなくてさ」
「なんでっ? りなちゃん七時限目でらんないとか?」
虹は焦るように話して、璃奈を焦らせる。璃奈は困ったような表情を作り、虹を落ち着かせるように話を続けた。
「あ、いや、そうじゃなくてね……。私の家、お父さんいないじゃん? だからお母さん夜まで働いてるし、妹とおばあちゃんのことは私が見てるんだけど……遅くなると困るって言われたの。でもね、プリント見せたらお母さん急に気が変わったみたいでさ。妹は保育園の時間を長くして、おばあちゃんはヘルパーさんに頼むってことにしたんだ」
虹は(璃奈の言うことが分からず)なんとも言えない顔をして動きを止め、萌衣乃は食事を終えてアイホンを弄っていた。
「あ……ごめん。つまんない話しちゃったね。ね、散歩いこうよっ!」
「ウチは、アプリりまくりで、ぷにとイチャっぷるーっ」
璃奈がおにぎりをしまい立ち上がろうとした途端、萌衣乃がアイホンの画面を見せつけた。
画面にはフェニックスという文字と、【…………】というメッセージが映っている。
「あ、そうだ、アプリだ、メッセージできるんだーっ! フーちゃんフーちゃんフーちゃんフーちゃん……わっ、充電がピンチだっ!」
虹のスマートフォンの画面には、【充電してください】のメッセージが。昨夜、充電し忘れて眠ってしまったため、バッテリーが瀕死状態になっていたのだった。
「うーん、しまったぁ……。フーちゃぁーん……」
フェンリルの愛称を呼びながらしょぼくれている虹と、無言のメッセージしか放たない〈ぷに〉ことフェニックスに夢中になる萌衣乃を見て、璃奈は二日前の夜のことを思い出した。そしてそれから、座り直して二人を見る。
「二人はさ、仲良いんだね……」
「ん? りなちゃんとも仲良しだよっ。ねー、めいっぷぅーっ」
璃奈の言葉を受けた虹は、にーっと笑って萌衣乃を覗く。
「ウチら、最強。ラブりん度、神のごとし?」
萌衣乃は璃奈を虹にグイグイと押しつけ、自分も寄り添う。それから萌衣乃が三人に向けてアイホンをかざすと、虹は速攻でキメ顔にピースサインを作り、璃奈は苦笑してしまい、萌衣乃もピースしてからシャッターボタンをタッチ。
キラリン――という音が鳴り、撮れた写真を二人に見せる萌衣乃。
「あ、ありがと。でも、そういうことじゃなくて……そのアプリの子と、仲良いんだなって思ってさ」
璃奈は左右にいる二人を見て、好意は受け取りつつも言いづらそうに溢した。
「りなちゃんはヘビくんと仲良くないのぉ? てかさ、二人とも二日前の夜、どんな感じだったん?」
虹の質問にまず口を開いたのは、璃奈だった。
「私は……虹とメッセージしてたら、突然現れたアプリを間違えてタッチしちゃったの。そしたら声が聞こえてきて……」
***
『あの……、すいません。あの……』
綺麗に整頓された部屋の中。机に向かって座りスマートフォンを弄る璃奈の頭に、青年のような声が響いた。驚いた璃奈は慌てて周りを見るが、声の主らしき存在はいない。
「な、なんだろ? ……てかこのアプリ、なに?」
璃奈のスマートフォンの画面には、〈ヨルムンガンド〉という文字と恐ろしい形相の蛇のようなものが映っていた。
璃奈は急いでアプリを終了させようとしたが、スマートフォンはフリーズしてしまったように操作が効かない。
「え? なに? なんでっ? こ、怖いって、どーしよ……」
璃奈は焦ってアプリをどうにかしようとする。だがそれを遮るように、もう一度声が頭に響く。
『あ、それはもう、終了できないです……。とりあえず5年は……。って、そうじゃなくてですねぇ、ボクの話を聞いてもらえますかぁ?』
先ほどよりはっきりと声が聞こえ、璃奈は腰を抜かして椅子から転げ落ちた。部屋から逃げようと思いドアを見るも、恐怖で身体が動かず見るだけで終わってしまった。
『こ、怖がらなくて、大丈夫ですから……っ! あの、と、とりあえず、契約するって言ってくれますかぁ? じゃないとボクは……キミを殺さなきゃ、いけなくなっちゃうんです……』
姿の見えないなにかの脅しに、璃奈は首を縦に振るしかなかった。泣きたい気持ちを必死に抑え、恐怖に耐えて。
『あ、ありがとうございます……。ではいまから、ボクはキミの魂となりキミはボクの姿となる契約を、ここに取り決めますっ……!』
声がそうセリフを響かせると、ぽんっという音が鳴りケムリが現れた。そしてその中から、赤黒いなにかが床に向かいどちゃりと落ちた。
「ひっ……、な、なんなのこれ……」
床に落ちた物体は、ずるりと蠢いて、顔を上げた。
「驚かせて、ごめんなさい……。あの、その、ボクは……ヨルムンガンドって言って、その……」
少年のような声でゴニョゴニョと口ごもる、ヨルムンガンドと名乗る物体。
「へ、蛇……蛇が、しゃ、しゃべっ、しゃべっ……」
璃奈はやはり恐怖に耐えきれず、気を失ってしまった。それを見たヨルムンガンドもあわあわととぐろを巻き、ガタガタとひとしきり震えてからケムリとなり姿を消した。
***
「んで、それからお話してないん?」
虹は璃奈の話が終わるなり、食いぎみで言葉をだした。
「うん……。毎日お母さんの手伝いで忙しいし、それどころじゃなかったってのもあるんだけどね」
視線を遠くへ飛ばして話す璃奈の手は、すっかり水仕事に慣れてしまった姿だった。
「じゃ、ここで呼んでみよーよ。せーのっ……」
「それは無理じゃない? 人前ではでてこないって、西田先生言ってたし……」
息を吸ったところで制止された虹は、行くあてを失ったそれを萌衣乃に向けた。
「――めいっぷはぁー……、どんなお熱ぅい夜を?」
虹のセリフに萌衣乃は、「ウチぃ?」とヘラヘラ笑い立ち上がる。二人の前に立ちはだかった萌衣乃は、身振り手振りで二日前の夜のことを語りだした。
***
キャラクターや動物のヌイグルミで溢れかえるピンク色を基調とした部屋。その中でピンク色のスウェットを着た萌衣乃は音楽を聴きながら勉強をしていた。音楽のボリュームを上げるためアイホンのプレーヤー画面をタップしようとすると、なぜか待ち受け画面に切り替わり、見たことのないアプリに触れてしまった。
すると音楽に混じり、なにか声が聞こえた気がした。
「ぷーっ。ノンめいっぷボイス?」
萌衣乃が聴いている歌は、めいっぷがMCを勤める子供向け番組の主題歌、〈めいっぷ☆くりーむ〉。もちろんこれは、萌衣乃が歌っているのだ。
『……雑音を、止めろ』
頭に響くのは、凛とした女の声。萌衣乃はアイホンの音楽プレーヤーを停止してヘッドホンを外す。
「だぁーれっ? めいっぷりん星の、星の子?」
〈めいっぷりん星〉とは萌衣乃のファンクラブのことで、ファンのことを〈星の子〉と呼んでいる。
『……なんだ、其れは。余はフェニックス。汝と契約を行いにきた』
フェニックスと名乗る女の声は勝手に話を進めていく。しかし萌衣乃はさほど動じることもなく、フェニックスの声に対して質問をする。
「ウチを電波ジャックりん? ぴぴーん、発信源はワケふめーいっ」
『そうだ、余は汝の脳に直接声をかけておる。……本題だ』
萌衣乃は回転チェアーでくるくると回り、ぴょんと降りてヌイグルミがひしめくベッドにダイブした。
「どの子がウチとはなしまるー?」
萌衣乃は大きいヌイグルミからキャラクター物の小さなキーホルダーにまで、顔をつき合わせて語り始めた。
『…………。なにを……』
「少女まんがっぽい? ウチあんどアニキャラ、世界のヒロインっ?」
萌衣乃はウサギのヌイグルミを抱きしめると、幼児向け少女漫画のヒロインの気分になった。
『……面倒な奴よ。汝、余と契約せよ。拒否することは断じてならぬ。それを成せば、余は汝を滅す』
「うっぴー、はなしんぐが変っしょ? もっと可愛くしゃべりっぷーっ」
萌衣乃は、ウサギのヌイグルミについた長いウサミミをピコピコと動かす。すると、部屋の空気が少しピリッとした。
『……汝、余を見くびるでは……』
「ウチ、意外とバカじゃないにゅー。オールわかりっぷー」
萌衣乃はウサギのヌイグルミを定位置に戻し、ベッドに腰かけた。
『……ふん、余もまた試されたということか。面白い、さすがはあやつが選び余に与えた姿よ……』
「アプリんぐっち、ウチはどーするするりん?」
萌衣乃はベッドに腰かけたまま足をバタバタとして、ヘラヘラ笑う。するとフェニックスの声は、『ふんっ』と笑った。
『そのようにしておれば善い。……契約、成立だっ!』
フェニックスの声が勢いよく聞こえた瞬間、ぽんっとケムリが現れ、その中から朱色の小鳥が羽ばたいた。
「わぅっ、ぷにプリぃっ! ウチ名探偵、おに少女まんがじゃぁんっ」
大きな瞳にキラキラと星を宿す萌衣乃をよそに、フェニックスは机の上にあるアイホンに降り立ち羽を休めた。
「……汝、装着せよ。此れをつつくのだ」
フェニックスは、幼い女のような声で鳴く。萌衣乃はベッドから離れ、言われた通りにアイホンの画面に映っている【装着】の文字をタップした。
すると、萌衣乃の身体を、朱色の風が包み込んだ――。
ふわりとした朱色の風が止むとフェニックスの姿は消えていて、部屋に一人で佇む萌衣乃は、「ふん、なるほど……」と呟いた。
***
「あ、そういえばね、わたしもね、この間ね、〈星の子〉になったんだよーっ」
虹は、にーっと笑って萌衣乃に顔を向ける。対して萌衣乃はヘラヘラと笑って返し……二人は固く抱き合った。
読了、お疲れさまでした!次回からようやく物語が動きだします。




