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ペイオンのラプソディー  作者: 天影
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Prologue. Les Paul of Seiren

<ペイオンのラプソディー>


- Prologue. Les Paul of Seiren -


 都市のノイズが吹き荒ぶ風の音に埋まれて幾編が繰り返して窓をたたく。外部との疎通を断わったのよう堅く引いたカーテンは正面から降りる太陽の光を漉き込みながらばんやりした色の影を残した。その影が着せられた暗い部屋の中に彼がすわっていた。


「ワン、ツー、スリー…」


 慣れたテンポの上に予備拍子を載せながら小さいピックを握た右手がストリングの上で繰返して動く。ストリングの振動を感じたピックアップが演奏を電気信号に変えて小さいアンプを通して出力する。音楽が流れ出ている。小さな部屋が一人の男の殷々たる旋律で埋め尽くされていく。


「When I look into your eyes, I can see a love restrained…」


 安定した伴奏の上に声がのせてなる。音楽に惚れた男は益々高揚する曲に合わせてもっと激しくギターの6絃を響き始めた。一定の拍子の上に更にかぶせられた演奏がいくへんリズムを変えてながらグルーブをつくる。


「Cause nothing lasts forever, Even cold November ra…」


 チックっと鈍い音と共にブリッジから解放されたストリングのハウリングががんがん響く。ゆっくり頭を上げて切れてしまった2番弦をぼんやりと見つめる。その視線はいつの間に自然にピックを握ていた右手に移して行く。


「…ちっ. 」


 男は微動する唇をぎゅっと噛みながらため息を漏らした。数え切れないほど繰り返したストローク、そのステディーな基本技はいつの間に消えてしまったまま。誰のものなのか分からないこの右手はたまたまこう主の制御を脱して男の音楽に不協を植え付ける。自分も知らずに他の手で右の手首を強く引っつかむ。でもすぐに止めてまたため息を漏らす。


 元々は今こう演奏する行動自体が許されなかったはずだ。その日以来俺の右手は無きに等しいだった。再びこう俺の手で演奏できることになった事実だけに安堵しよう。一瞬間に全ての酸素が燃焼していなくなちゃったこの必滅のスペースでやっと捕まえた酸素呼吸器の存在に感謝しよう。


 真っ白い壁に釘付けにされたスタンドに赤いレスポール(Les Paul)を掛けておく。自然に他の手は机の上に置くたタバコに移っていく。ぽっと荒いくて白い煙が燃え上がる。すぐにその煙をまた吸い込んで、もう一度吐く。何もいない空に真っ白い残層が広がっている時、男の顔が一瞬歪む。


「タバコを吸う暇すらくれないのか。」


 机の上に載っている灰皿にざっとタバコをもみ消して壁に掛かっているレスポールをまた取る。


「起きろ、セイレン。狩の時間だ。」


 一瞬彼の手に持っていたレスポールが白い光を発し始める。その光に囲まれたギターの曲線はいつの間に長くて鋭い何かの形でその輪郭を変えていった。次の時光が消えた後、それは吸い込まれて行くような暗い闇を落とした黒色の剣身の上に赤い文様が激しく刻まれた大刀の形をしていた。男は変えてしまったギターのとおりにまたいつの間に赤黒い色に染まった右手でセイレンを取り直してカーテン越しに映る赤い光を見上げて口を開いた。


「せめて演奏を妨げた報償は貰えないとな。できれば切れてしまったストリングの代まで。」


 できる訳がない下らない冗談を並べながら男は心行くよう口辺に冷たく凍りついた自嘲的な微笑を流した。

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