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感謝

 あー、頑張ったのに、日付変わっちゃった……。まあ、でもこれにて、リアの過去話も終了となります。ちょっとシリアスに加え、長めになっております。

「ミカゲさん、今日は本当にありがとうございました」

「いえ、僕も楽しかったですから。リア、また行きましょうね」

 そう言って僕を道場の前まで送ってくれたミカゲさんは手を振って森の中へと消えていった。

 ミカゲさんと別れた後、僕はみんなが待っているであろう食堂へと向かった。

「あれ、真っ暗だ。誰もいないのかな」

 いつものこの時間ならお腹を空かせた子供たちがここへ集まって賑やかなはずなのだが。念のため台所のほうも覗いてみるが、明りはついておらず、真っ暗だった。

 そのまま庭、裏門、居住区に人影がないか探すが、何処も真っ暗で誰もいなかった。耳を澄ませるが、微かな音もしない。

「……みんな、何処に行っちゃったんですか」

 不意に一年前のことを思い出した。あの日も真っ暗だった。眠っているうちに見ず知らずの場所へ連れてこられていて、いくら辺りを歩き回ってもお父さんもお母さんもいなかった。兄弟も、友達も、近所の人も、知っている顔はどこにもなかった。

「また、また僕は……一人になるんですか?」

 頬に冷たいものを感じて、自分が泣いていることに気がついた。そう自覚したとたん、溢れてくる涙をこらえきれなくなった。

 僕は静かに涙を流しながら、道場内を歩き回った。でも、いくら歩いても明りは見当たらなくて、その暗闇が僕をさらに焦らせた。

「……師匠、トーマさん、ミカゲさん、みんな。何処に、何処に行っちゃったんですか」

 普段は子供たちのはしゃぐ声で煩いくらいの稽古場の前まで来た時、僕はとうとう我慢できなくなってその場に膝をついた。

「どうして、どうして誰もいないんですか。僕が、僕が変な力を持ってるから……?」


 ――――――「お前なんか、生まれてこなきゃよかった」


 今でもはっきりと覚えている、一年前、僕が最後に聞いた母の声だ。その日の夜、僕は捨てられた。師匠たちが僕を捨てることなんてないと分かっているはずなのに、恐怖で体が震える。頭が真っ白になって何も考えられなくなる。

 月明かりで照らされている僕にふと影が差した。

「遅いわよ、リア。何処まで行ってたの、心配したじゃない」

 涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、そこには優しく微笑む師匠がいた。

「何泣いてんのよ。私たちがリアを置いて何処かに行っちゃうかと思った? ほら、早く泣きやみなさい。男の子でしょ?」

 師匠は僕の涙が止まるまでずっと優しく頭を撫でてくれた。僕が落ちつくと、師匠は立ち上がって稽古場の中に入っていった。中で次々と明りを灯す。

「――――――!」

「遅ーぞ、リア! ほら、いつまでも入口に立ってねーで早くこっち来いよ!」

「そうですよ。主役が来ないと始まらないでしょう」

 普段は飲食厳禁で飲み物すら外に置いてある稽古場に大きなテーブルが持ち込まれ、その上にはこれでもかというほどの御馳走が並んでいる。

「今回は特別よ! せっかくのリアの誕生日なんだから」

「師匠、僕の誕生日、知ってたんですか?」

「あー、それはな、昨日お前、裏庭の石の上で明日12になるとか言ってただろ?」

「! 聞いてたんですか!?」

 羞恥で頬が赤くなるのが分かった。あんな独り言が聞かれていたなんて!

「違う違う! お前、俺の能力忘れたのか?」

「トーマさんの能力……? あー、"記憶を読み取る"ってやつですか。でも、あんな独り言聞いてたなんて」

「いいじゃない、どうやってリアの誕生日を知ったのかなんて。どんな形であれ、私はこうしてリアの誕生日を祝えるのが嬉しいわ。みんなもそうでしょ?」

 師匠の言葉に一斉にうなずく子供たち。みんな素直で可愛くてたまらない。僕は目にさっきとは違う涙がたまるのが分かった。

「また泣いてるのかよ、リア。しばらく見ないうちに随分と泣き虫になったんだなぁ!」

「な、泣き虫なんかじゃありません!」

 反射でにやにやと笑うトーマさんに言い返す。いつもの僕ならさらっと受け流すだけなのに、今日の僕はどうやら少しばかり興奮しているらしい。

「らしくないわねぇ、リア。今日はやけに子供っぽいじゃない」

 悪乗りする師匠の言葉にむくれて顔をそらす僕。拗ねれば拗ねるほどうちの師匠と兄弟子は悪乗りするのは分かっているけど、どうしても今日は受け流しきれない。

 そんな僕たちを見て、ミカゲさんが懐かしそうに笑っている。


 ――――――僕には仲間がいる。


 不意にそう感じて、僕は嬉しくなった。

 この一年間でいろんなことがあった。師匠たちに出会う前のことはまだ忘れることはできそうにないけど、それでも前みたいにしょっちゅう思い出しては泣くようなことは無くなった。

 僕も成長できてるのかな? そうだと嬉しいな。少しでも師匠に近づきたい。

 僕の視線に気がついたのか、師匠がにっこり笑ってそっと頭を撫でてくれる。その手の暖かさが嬉しくて、僕は目を細めた。


 貴女たちと出会えたから、僕は仲間の暖かさを知った。貴女たちと出会えたから、過去の痛みを乗り越えられた。

 願わくばずっと貴女たちのそばに。

 力をくれた、貴女たちの力になりたいから。

 番外編にしては長い(?)話に最後までお付き合いいただき、ありがとうございいました。


 次はちゃんと本編上げます。番外編に逃げたりしません!!


 番外編などでリクエスト等がありましたら、お気軽にどうぞ。出来る範囲で書いていきたいと思います♪

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