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「師匠! 洗濯するので洗濯物出してください。トーマさんも」

「あー、私は後で自分でやる。トーマもそれでいいな」

「あ、ああ。じゃあ俺は狩りにでも行ってくるかな」

「?」

 昨日の夕飯の時から妙に師匠とトーマさんがよそよそしい。昨日の夕飯が何かまずかったんだろうか。……でも、よそよそしくなったのは夕飯を食べ始める前だったしな。

 僕が洗濯物を抱え、考え事をしながら歩いていると、懐かしい声が聞こえた。

「リア! お久しぶりです。元気でしたか?」

「あ、ミカゲさん。お久しぶりです。珍しいですね、師匠もいないのに」 

「えっと、今日はリアに用があって来たんですよ」

「僕にですか?」

「はい。良かったら今から西の丘にでも行かないかな、と思いまして。どうですか?」

「え、でも……」

 僕は自分の腕で抱えている洗濯物に視線を落とした。僕の視線に気がついたのか、ミカゲさんが少し困った顔をした。ミカゲさんは洗濯が好きではない。

「師範代! 僕たちが代わりに洗濯しておきますよ。師範代もたまには息抜きしてきてください」

 たまたま近くを通りかかったのか、道場の子供たちが声をかけてきた。ミカゲさんがあからさまにほっとした顔をする。

「彼らもそう言っていますし、行きませんか?」

「それじゃあ、行かせてもらいます。……ごめんね、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 子供たちが差し出してくる手にそっと洗濯物を渡す。洗濯物は毎日僕が教えているから、僕がいなくても何とか自分たちだけで出来るだろう。

「よし、行きますよ。ちゃんと付いてきてくださいねぇ」

 ……師匠がいつも不機嫌になるのはこの笑い方のせいか。心の狭い師匠ならこの人を馬鹿にしたような笑い方にすぐカチンときてしまうだろう。ま、僕は気にしないけどね。

 道場から西の森に入って徒歩20分ほどのところに小さな丘がある。その上には一本の大きな樹が立っていて、何時も心に安らぎを与えてくれる。

「わあ、綺麗です」

 その樹に加えて一面に色とりどりの花が咲いている。一年ほどこの近くに住んでいるが、こんなに花がたくさん咲いているところなんて、初めてみた。

「リアはこんなにたくさんの花が咲いているところを見たことがないでしょう? ここは2年に一度だけ一斉に花が咲くんです。何故かは知りませんけどね」

 隣を見ると、いつもよりも穏やかな顔をしているミカゲさんがいた。普段は毒舌を吐くか、稽古中の厳しい顔しか見ない。僕の考えが顔に出ていたのか、ミカゲさんが苦笑いしながら言った。

「僕だって綺麗な景色を見て感動はしますよ。僕はそんなに無感動なネコではありません」

「あ、いえ、……ちょっと驚いただけです」

「あー、もう、リアは可愛いですね。何処かの馬鹿師弟とは大違いです」

 ミカゲさんの言う馬鹿師弟が誰を指すのか簡単に察せられて、僕も苦笑する。確かにあの二人なら気遣いも何もなく、「あんたが感動なんてありえないわー」とか言ってそうだ。

「でも僕にとっては二人とも大切な師匠と兄弟子です。もちろん、ミカゲさんも出ていったとはいえ僕の大切な兄弟子に変わりはありません」

 急にミカゲさんが無言になった。何か気に触るようなことでも言ったかな? もしかして大切な兄弟子とか厚かましかったかな。

 僕が心配でオロオロしていると、ミカゲさんが僕をギュッと抱きしめた。そしてそのまま頭を撫でてくれる。どうやったらあの人からこんなにいい子が育つんですか、とか何とか言っている間も絶えず僕の頭を撫でている。

 どのくらい時間が経っただろうか。僕はミカゲさんと木の根元に並んで座りながら、沈んでいく太陽と、それに照らされる花々をずっと眺めていた。

「……そろそろ帰りましょうか。これ以上遅くなると、いくらあの師匠が放任主義だとしても心配しますしね」

 ミカゲさんが立ち上がってぐっと伸びをする。僕もそれにならって伸びをする。こんなにのんびりしたのは何年振りだろう。

「ミカゲさん、今日は僕を連れ出してくれてありがとうございました。いい気分転換になりました」

「まだお礼を言うのは早いですよ。さ、早く帰りましょう」

「え、それってどういう……」

 質問する僕を半ば引きずるようにミカゲさんが道場に向って歩き出す。

「……お誕生日、おめでとうございます」


 最後にミカゲさんが何か言ったような気がしたのは気のせいだろうか。

 僕は早足で前を行くミカゲさんの後を必死で追いかけた。

 はい、ごめんなさい。もう一話続きます。最初は短編にしようと思ってたのに、いつの間にか連載に……。ホントにもう一話で終わるかな……。

 悪いのは勝手に動きだしちゃうリアたちだ! 私は彼らの動きを文章にしているだけにすぎないからな!

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