小箱
少々残酷描写注意。
五メートル四方のコンクリート剥き出しの小部屋。
天井からぶら下がる裸電球の弱々しい灯り。
そこには私と彼の二人きり。
そこでは愛しいこの人は、私だけを見つめている。
ここは、私と彼の愛の世界。
私の手には彼の愛を一滴たりとも零さないよう、指の一本一本に丁寧に釘が打たれ。
傍らには手足の爪を剥がしつくして役目を終えたペンチがあって。
その横には肘、膝、肋骨を砕きつくして役目を終えた金槌があって。
今、彼はナイフで私のお腹をズタズタにしてなお、何度も何度も突き刺している。
私のお腹はもう、血と肉とで汚れてしまっている。
もしかすると、内蔵もちらりと見えているかも知れない。
それはまだいいのだけれど、それ以上に服がズタズタになっているだろう。
私としては、いくら彼とはいえ不用意に肌を見せるのは恥ずかしい。
どのくらい露わになってしまっているのか気になるけれど、私の立っている場所からは、私は彼の背中に隠れていて分からない。
けれど、そんなことは気にならないくらいに彼は夢中になっている。
それはそれで喜ばしいけれど、何とも言えない気持ちもわだかまる。
少し複雑な気分。
口を尖らせる私のことなど知らず、彼は血塗れのナイフを置くと、今度は私の髪を掴む。
何をするかと思えば、引き上げ、私の頭を壁に叩きつける。
何度も何度も。
ぶつかる度に重く、鈍く、生々しい音をたてる。
もっと髪は大事に扱ってほしい。
でも、そんながさつさも放っておけないところでもある。
赤黒く染まった壁が、新しく赤く色づく。
肉片と髪の毛が張りついて、更なる模様を書き足し終える頃。
彼は手を離し、ピクリとも動かない私を見て、肩を上下させる程に息を乱して踵を返す。
ああ、いけない。
彼が行ってしまう。
そろそろ戻らなきゃ。
「ねえ」
目蓋をパチリと開けて、喉に詰まった血の塊をごぼりと吐き出し、彼の背中に呼びかける。
流石の彼も、この長い時間でくたびれてしまったようだ。
振り返った彼の顔はやつれ、眼から光が失われている。
でも。
「もう終わりなの?」
私と視線を交わした彼は、一体何がそんなに恐ろしいのか、目を剥き体を震わせ言葉にならない呻きを上げる。
「まだ足りないの。まだまだ欲しいの。もっともっと満たしてほしいの」
彼は祈るように閉じた目を開くと、意を決するように、血が滲むくらいの力で手を握りこむ。
「だから、ね」
誘うように小首を傾げて、囁きかける吐息とともに、最大限の艶やかな笑みを浮かべて、彼の心を出来るだけそそるように。
「もっとシましょう?」