病弱な幼なじみを優先していますが、彼女、超健康体になりましたよ?
「またですか……」
「でも、マリアーヌが寝込んでいると聞いてしまったら、心配なんだよ」
そう言って、私の婚約者のパドリック様は、眉毛を下げ、ターコイズブルーの瞳を少し潤ませながらこちらを見てくる。私は、ため息をつく。
「寝込んでいるって……いつもじゃないですか」
「ねぇ、どうしたらいいと思う? マリアーヌのところに行った方が良いかなぁ?」
「……私が、行かない方が良いと言ったらどうするんですか?」
私の質問に対して、考えるような素振りを見せるパドリック様。
そして苦しそうな表情で私に尋ねてくる。
「大切な幼なじみが苦しんでいるのに、本当にそれでいいのかなぁ?」
パドリック様がジッとこっちを見てくる。どうせ、私が「いいんじゃないですか?」と言ったら「そんな冷たいこと言うなんて……」と悲劇ぶるくせに、私に質問として投げかけてくるのだ。
「……分かりました。どうぞ、マリアーヌ様のところへ行ってください」
「オリビア。この埋め合わせは必ずするから!」
そう言って、パドリック様は明るい笑顔を見せて、去って行った。
パドリック様は私の父が決めた婚約者だ。というのも、パドリック様の実家であるディアモント侯爵家の新規事業に対して、我がハワード子爵家が資金援助をすることになり、その代わりに侯爵家との縁を作るということで、私が婚約することになったのだ。
我が家は父の商才により、資金は豊富にあるが、所詮子爵である。上位貴族の侯爵家との縁戚という強い繋がりが出来れば、更に取引などを有利に進める事が出来る。
そんな家同士の思惑から決められた婚約者。婚約をする前に、彼に恋人のような幼なじみがくっついていることが分かっていても、結論は変わっていなかったかもしれない。
パドリック様とマリアーヌ様は、幼い頃から一緒にいて家族ぐるみの仲だそうだ。
お互い将来は結婚をすると思っていたようだが、マリアーヌ様から見たら、私が突然彼氏を奪ったように見えるのだろう。
(冗談じゃないわよ! 私だって政略結婚じゃなければ、パドリック様なんか選ばないわ)
パドリック様は、政略結婚だからといって、あからさまに嫌な態度を取ったりはしない。
顔立ちも整っている方だと思う。
ただ、何かと『マリアーヌ』なのである。そして、一番好きになれないところは、決定権を私に委ねるところだ。
「マリアーヌのところに行った方が良いかな?」などと私に自分の行動を決定させるのだ。
いや違う。正確にいうと、自分の行動を私が承認したという言質をとりたいのだ。
(「僕はマリアーヌのところに行きたい!」ってハッキリ言ってくれた方が、すっきりするのに……ほんとに卑怯な男だわ!)
私のこんな愚痴を聞いてくれるのは、友人のイオリナ侯爵令嬢だけだ。彼女の爵位は上だけれども、私を親友として交流してくれる。今は隣国に留学中のため、私は手紙に愚痴をしたためる。
(私もイオリナみたいに婚約者の面白おかしい話をして惚気たかったわ)
そんなある日、いつものごとく、街に遊びに行く約束をしていた前日、マリアーヌ様の具合が悪いから……という連絡がきた。
「マリアーヌの具合が悪いんだけど、どうしたらいいかなぁ?」
「……そばについてあげればいいんじゃないですか?」
「そうだよね。わかった!ありがとう」
マリアーヌ様を私は一度しか見かけたことがないが、確かに少し顔色は悪い方だった。
なので、病弱で具合が悪いのは全くのウソではないのだろう。
私は約束がなくなり暇になったため、一人で街に出かけた。
そこで、ある薬屋が目に入った。
(本当に具合が悪いならば……薬草を煎じたお茶でもプレゼントしようかしら)
我ながら、お人好しだとは思う。
マリアーヌ様は、私とパドリック様の約束した日近くになると狙い澄ましたかのように具合が悪くなるので、わざと邪魔をしようとしていることは間違いないだろう。ただ、それでも、いつも仮病というわけではなさそうなのだ。
なので、体調が良くなれば、こんな嫌がらせはなくなるだろうとの思いと、本当に具合が悪いのならばちょっと可哀想かもという思いで、私は店の扉を開けた。
「いらっしゃい」
「すみません、あのー薬草をいただきたいのですが」
「どういう症状の人用で欲しいんだい?」
なんて言えば良いのだろうか。突然具合が悪くなる子……これって、本当に病気なのか?
「えーと、いつも具合が悪くなってベッドに寝たきりになっちゃうような人……友達用ですが」
「えぇ? それは薬草で治るかなぁ……まぁこれだと何でも効くから良いかも」
そう言って店主は薬草を煎じてくれた。
「はい、お嬢ちゃん。銀貨2枚」
私は銀貨を支払い、煎じられた薬草を受け取る。
「この薬草で、お友達、病気がよくなるといいね。隣国との境にある山にだけ生えている薬草が万能薬らしいんだけど、なかなかそこまでは行けないしねぇ」
「そうなんですね。おじさん、ありがとうございました!」
私はパドリック様の自宅を訪れて、マリアーヌ様に効く薬草を彼に預けようと思った。
すると、具合が悪いと寝込んでいたはずのマリアーヌ様は、パドリック様の自宅庭にてお茶をしていたのだ。
(……やっぱり仮病よね)
「あぁ! オリビア! マリアーヌの具合が良くなったんだよ」
「そうだったのですね。でも、またすぐに具合が悪くなるかもしれませんから、もし良かったらこちらをどうぞ」
そう言って私は先ほど購入してきた薬草をマリアーヌ様の前に置いた。
「ひどいわ!」
「は?」
「私に具合悪くなって欲しいってことなんでしょ?」
「いや、具合が悪くなったときのためにって……」
「私だって元気になりたいのに!」
マリアーヌ様は私の話を全く聞かずに騒いでいる。その両手で目を覆っているが、涙が出ていないのは丸わかりだ。けれど、パドリック様にはその泣き真似が通用するようだ。
「オリビア。マリアーヌのことを考えて欲しい。健康体の君には分からないかもしれないが、どんなに辛いことなのか。どうすれば体調が良くなるだろうかと悩んでいるんだ」
「……はぁ?」
さすがの私も我慢の限界だ。
どうせ仮病だろうと思いつつも、万が一を考えて、わざわざ銀貨2枚もする薬草を買ってきてあげたのに、そんなことを言われるなんて。
(もういいわ! 婚約解消となろうが構わない。やってやるわ!)
「お言葉を返すようですが、パドリック様!」
「な、なんだ?」
いつもと違う私の声色にパドリック様は少し怯えた表情を見せる。
「パドリック様は、マリアーヌ様が健康になって欲しいと、マリアーヌ様のことを考えていらっしゃるのですよね?」
「あぁ、もちろんだ」
「それでしたら、万病に効いて健康体になること間違いなしの薬草が、ある山に生えているそうです。そこまで、マリアーヌ様のことを考えてらっしゃるなら、命を張ってでも採取してくるべきではありませんか?!」
「えっ……命を張って?!」
パドリック様の目はキョロキョロと泳いでいる。マリアーヌが心配だと散々言っておきながら、自分の命を張ってまで守ることには躊躇いがあるようだ。
「先ほど、パドリック様はおっしゃいましたよね?『マリアーヌ様が元気ハツラツになって欲しい、明るく楽しく生きて欲しい』って」
「そ、そこまで言ったかなぁ……」
「そう願うのならば、行動をして見せるべきです! ベッドで横になっているマリアーヌ様をただ見守るのではなく、自ら汗水流して動くべきです! こんな状態のマリアーヌ様を見て、パドリック様は何も思わないのですか? 行動すべき時ではありませんか?!」
「あ、あぁ……そうだな」
パドリック様とマリアーヌ様は、私の迫力にたじろいでいる。
「ちょうど今は夏休み。隣国との境の山に生えている貴重な薬草を採ってきなさい!」
なぜか私は命令口調となってしまったが、パドリック様は迫力の方に気を取られているようだ。
「男らしく! マリアーヌ様のために! 身体張って!」
「そ、そうだな! うん、確かに!」
パドリック様が私の口車に乗ってくれた。なんとも単純な人だ。自分で決められず、私に決定権を委ねていた性格がここでは上手く使えた。
マリアーヌ様は口をパクパクさせている。何か喋ろうとすれば、私がそれにかぶせて「パドリック様なら出来る!」と叫ぶため、彼女はそれ以上喋る事が出来ないでいた。
こうして、夏休み早々からパドリック様は従者らを連れて、薬草採取へと旅立った。何度か「ここまでしないとダメかな?」と正気に戻る瞬間もあったため「パドリック様は行くべきです!」と何度も言い聞かせて、なんとか旅立たせることが出来たのだった。
◇
「こんにちわ。マリアーヌ様」
パドリックがいなくなってから1週間後、私はマリアーヌ様の屋敷を訪れた。
マリアーヌ様はベッドから上半身を起こしながら、こちらを一瞥する。今日は本当に少し具合が悪いのかもしれない。でも、私を睨む目に力がこもっていて、体力気力は十分にありそうで安心した。
「パドリック様が不在なので、代わりに私がお見舞いに来ました」
「別に、あなたに来て欲しいとは思っていないわ」
「あら、そんな軽口が聞けるならば元気な証拠ですわね」
私はニッコリと微笑みかける。
「今日は、幼なじみと一緒に来たんです。マリアーヌ様はパドリック様が幼なじみですが、私にもそういう方がいるので、ご紹介しようと思って」
私がそう言うと、一人の男性がマリアーヌ様の部屋に入ってきた。
「はじめまして。アロンと申します」
「……!」
黒曜石のような艶めかしい黒髪の青年。その顔は、見慣れている私ですら、息をのむほど整っている。吸い込まれそうなアメジスト色の瞳をマリアーヌ様に向けている。
(マリアーヌ様の好みは下調べ済みよ!)
マリアーヌ様は、アロンの顔を凝視して視線を全く外さない。
いや、外すことが出来なくなっているのかもしれない。その顔を見れば、おそらく一目惚れしたのだろう。
「アロンは、いま夏休み中だから隣国から遊びに来ているの。マリアーヌ様も具合が良くなったら一緒に外で会いましょうね」
「そうだな。マリアーヌ嬢は具合が悪いと聞いているから、良くなったら――」
アロンが話している途中でマリアーヌ様が、ガバッとベッドから起き上がった。
「私、元気ですわ!」
「……え? ちょっと、いきなり立ち上がると、立ちくらみしちゃうわよ」
私がそう言うと同じタイミングで、マリアーヌ様がふらりとした。
その身体をアロンが慌てて支える。
「……! アロン様! ありがとうございます」
「いや、顔色がまだ悪い。寝ていた方がいい」
「そうよ、急に頑張ろうとしても危ないわ」
私達がそう言っても、マリアーヌ様は頑なに首を振る。
「わたし、元気です。ちょっと気分が悪くなることもありますが」
「ほらね。無理しちゃだめよ。この前あげた煎じた薬草を飲むと良いのだけど」
「煎じた薬草? それってホウジュの花?」
アロンが尋ねてきたので、私は頷く。
「あー確かに、ホウジュはマリアーヌ嬢のような子には合っているだろうね。顔が白いから血が足りないんだと思うよ」
「アロン様は、薬草に詳しいのですね! アロン様がお勧めなら飲んでみますわ!」
(この前私が渡したときは、泣き叫んだくせに)
マリアーヌ様はメイドを呼んで薬草入りのお茶を用意させている。
その間も、マリアーヌ様からアロン様への質問が止まらない。
「アロン様は、婚約者はいらっしゃるのですか?」
「……いいや、まだいない」
マリアーヌ様の目がキラキラしている。もう私がいることは忘れているようだ。
「アロン様はどのような方がタイプですか?」
「元気な子かな」
「……! 私、元気になって見せますわ」
「でも、マリアーヌ嬢は腕も細いし、折れてしまいそうだ。僕はたくましい子が好きなんだ」
「……! 私、筋肉つけますわ!」
「あと、頭が良い子で相手の気持ちを理解する子が好きかな」
マリアーヌ嬢は下から数えた方が早い成績だ。
なので、成績別にクラス分けされる貴族学園では同じクラスになることはないので、学園内では平和に過ごせているのだ。
(さて……マリアーヌ様はどうするのかしら?)
「……私、今日から猛勉強しますわ!」
「あまり無理しすぎない方がいいぞ」
「いいえ、頑張りますわ! そしたら、アロン様。夏休み中、マリアーヌと一緒にお茶してくれますか?」
「君の頑張りが見えたら考えておこう」
「わかりました!」
(アロン、そんな約束してしまっていいのかしら)
私は少し心配しながらも、アロンと一緒に、我が屋敷へと戻った。
「アロン、今日はありがとう」
「お役に立てたなら良かったよ」
アロンはふぅとため息をついて、ソファーに深く座る。
「まさか、あそこまで上手くいくとは思いもしなかったわ」
「イオリナ姉さんから聞いた時は、そんな計画通りにいくか? って疑問だったけどな」
アロンは、私の親友であるイオリナの弟なのだ。隣国に留学中のイオリナと共に、アロンも隣国の学園に通っている。
私が、マリアーヌ様のことを相談したら、イオリナから「だったら、あなたも幼なじみを見せつけて、パドリックよりも優先させたらいいんじゃないの?」と言ってきたのが発端だ。
その後、イオリナと作戦を練り、そもそもマリアーヌ様が病弱じゃなくなればいいんじゃないの? となった。そして「弟を使ったら?」とイオリナが言ってきた。
私も、イケメンであるアロンは、おそらくマリアーヌ様の好みであろうと思った。
それに私と仲が良いとなれば、余計に奪い取ってやろうとなる気がしたのだ。そこで、アロンにも相談をして、マリアーヌ様に会ってもらったのだ。
(相談というか、イオリナによる命令のようなものだったけどね)
「無茶なお願いをしてごめんなさい」
「オリビアが辛い目に遭っているのは許せないからね」
「ありがとう」
「本当はもっと早く教えて欲しかったけどね。オリビアに婚約者が出来たと聞いて、あえて情報を入れないようにしていた僕も悪いんだけど」
「そうだったの? どうして?」
「えっ……それは」
アロンがモジモジとしている。
端正な顔の中に幼さも見えて、格好いいのに可愛いというギャップに私も少し胸がキュンとなった。
「今回の件は、ちゃんとお礼するから。せっかくの夏休みなのに、わざわざ来てもらってごめんね」
「いや、ちょうど良い機会だったと思っているんだ。オリビアのお父上にも話をしたいことがあったし」
「え? 父に?」
「ああ。いずれオリビアにも話すよ」
「わかったわ」
こうして、アロンは父との約束があると言い、客間を出て行った。
◇
あっという間に夏休みも終わりを迎えようとしていた。
マリアーヌ様はというと、わずか1ヶ月弱にもかかわらず、劇的に変化していた。
マリアーヌ様の家族からは泣いて感謝されたが、私は特に何もしていない。ただ、家族が喜ぶのも分かる。それくらい彼女は変わったのだ。
「オリビア様。今まで本当にごめんなさい」
「いいえ。私はマリアーヌ様が元気になって嬉しいわ」
マリアーヌ様は、病弱という言葉とは真逆の健康体になったのだ。
アロンとデートがしたい一心で、毎日トレーニングをしたり栄養に良い物を食べたりと、非常に健康的な生活を送っていた。そのおかげで、今では顔色も良く、筋肉もつき、引き締まった身体となっている。
「私、アロン様のことは諦めませんわ」
マリアーヌ様はアロンに告白をして玉砕したようであるが、アロンと同じ隣国の学園に留学をする事を目標に、とんでもない勢いで勉強をしているようだ。
このままいけば、夏休み明けの試験では、上位も狙えるかもしれない。
「もっと、勉強して絶対にアロン様の隣を目指しますわ」
身体が元気になり、頭も良くなったことが、性格にも良い影響をしたようだ。嫌みを言うこともまだあるが、素直な性格となり、私も付き合いやすくなった。
「でも、アロンの隣は、もう決まっているのよ」
私が残念そうな顔をして告げる。
「でも、私がもっと逞しくなれば、気持ちも変わるかもでしょ? オリビア様、正々堂々と勝負するわよ!」
そう、アロンの隣、婚約者は私になったのだ。
夏休み中、アロンは父に対して、ハーロック家への資金援助と婚約をセットにするのはおかしい等と説得をしたようだ。そして、上位貴族との繋がりが欲しければ、侯爵家である自分と婚約すれば問題解決するだろうと告げたそうだ。
父は、私がパドリック様からあまり大切にされていないことを薄々気づいていたようだ。
アロンからの説得を受けて、1日ばかし考えた結果、ハーロック家に、資金援助は継続するが、娘の婚約を条件とするのは間違っていたと話してくれたそうだ。
ハーロック家も、パドリック様はマリアーヌ様と仲が良いことを分かっていたため、婚約解消をしても資金援助は継続という願ってもいない要望にすぐに同意した。
こうして、私はパドリック様との婚約解消をし、アロンと婚約をすることになったのだ。
「マリアーヌ様。そういえば、パドリック様は今日戻ってくるのでは?」
「そうでしたっけ?」
そんなことを話していると、タイミングよく、パドリック様がマリアーヌ様の屋敷を訪れてきた。
「マリアーヌ! ただいま! あっオリビアもいたんだね」
パドリック様の顔は少し日に焼けており、髪の毛の艶も少し失われている。ただ、その顔は満面の笑みで、手には薬草の束が入ったカゴを持っている。
「そういえば、オリビア! 僕との婚約を解消したと聞いたよ。資金援助は継続してくれるから、ハーロック家としては何も文句はないよ。ありがとう!」
「どういたしまして……」
そう言うと、すぐに私には興味がないと言わんばかりに、マリアーヌの方を向く。
「マリアーヌ! 顔色が大分良くなったね。僕がいない1ヶ月大丈夫だったか? オリビアから何か言われなかったか?」
(私がいじめていたのではを前提にしているのかしら。呆れるわ)
「……」
「言えないほどのことをされていたのか? オリビア!君には、ガッカリだ! もう婚約者ではないんだから、帰ってくれないか?」
ここはマリアーヌの屋敷なので、パドリック様が帰れという意味は分からないが、私もこれ以上、彼と一緒にいたくないので、お言葉に甘えて帰る準備をした。
「マリアーヌ。万能薬を手に入れてきたんだ! さぁ、これを飲んで元気になろうじゃないか!」
「いりませんわ」
「そうだよね、じゃあ飲も……え?」
マリアーヌ様は帰る準備をする私を手で制しながら、優雅に紅茶を飲んでいる。
「パドリック。見て分からない? 私、いまとっても元気なのよ?」
「え? ……確かに、前よりも何だか身体が大きくなっているような気もするけど」
「アロン様のおかげなの。オリビア様のおかげでもあるけど」
「アロン? え、誰だい?」
パドリック様は、戸惑った表情を見せている。
かたやマリアーヌ様は、そんなパドリック様はもう目に入っていないようだ。
「オリビア様。アロン様がこちらの国に来たら、私にも教えてね」
「教えるけど、私の婚約者だから、二人きりでは会わせないわよ?」
「正々堂々と戦うって言ったでしょ? そんなことはしないわ」
「パドリック様の時は違かったじゃないの」
「……それは言わないで。どうかしてたのよ」
私たちが顔を見合わせながら、クスクスと笑い合っている。
パドリック様だけは置いてけぼりにされて、呆然としている。
「アロンって誰? 婚約者って何?」
「あ、パドリック。私、オリビア様ともう少しお喋りするから、帰ってくれるかしら?」
「え……」
「パドリックが帰るみたい。玄関まで送ってあげて」
マリアーヌが執事に声を掛ける。
「マリアーヌどうしたんだい? 君は病弱でもっと弱々しくて、僕が守らないとダメな子だっただろ?」
パドリックが慌てているが、マリアーヌは、そんな彼をチラッと見るだけだ。
「私は、相手を守れるくらい強い女性になるのが目標なの。なので、パドリックはパドリックで、守りたくなる女性を見つけたら?」
「え……だって、オリビアとは婚約解消すれば、君と婚約出来ると思っていたけど」
「お断りだわ。婚約者であるオリビア様の気持ちを考えずに行動をするような一途ではない人は好きじゃありません」
私とパドリック様との関係を邪魔していたマリアーヌが、よく言うよとは思った。
ただ、彼女は反省して謝罪をしてきたし、変わろうとしているのを見てきた。甘いと言われるかもしれないが、いまはマリアーヌに対しては負の感情はない。
「そ、そんな強い女性は、僕の知っているマリアーヌじゃない! ……オリビア! もう一度君と婚約を……」
「お断りです。私には、私を最優先してくれるアロンという婚約者がいるので」
一人呆然としているパドリックを放置し、マリアーヌは私に話しかける。
「今からトレーニングするから、オリビア様も一緒にしない?」
マリアーヌ様は力こぶをつくって私に見せつけてくる。
「……それ以上トレーニングをすると、ドレスをまた買い換えないといけなくなるわよ?」
健康体を超えて、ムキムキになりつつあるマリアーヌ様。
私の忠告に彼女は「アラン様だけじゃなくて、オリビア様も守れるくらい強くなるわ!」と笑うのだった。




