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綺麗なお前が気に入らない

作者: あちゃーた
掲載日:2026/03/19

高嶺の花攻め×強気受け

夏目悠(なつめゆう)がまた一位かよ!!!!!!」


掲示板に貼られた一枚の紙に飛びつき、素っ頓狂な声をあげるのは俺、日高誉(ひだかほまれ)

俺の目の先には『1位夏目悠さん』という文字が新聞の見出しのように大きく書かれた紙があった。その文字の半分くらいの大きさで横には『2位 日高誉さん』とちょこんと記載されている。


こんなことあっていいはずがない!!!

俺がどれだけこの課題に時間をかけたと思ってるんだ!?

アイツなんて授業の初めの10分で描いたものをだしただけだぞ!?


「ほーまれっ!!!どうしたんだよ?」


陽気な声が横から聞こえた。

トンっと肩を叩く友人は俺の心中なんてわかっちゃいない。


俺は悔しはで震える指で紙を指して叫ぶ。


「どうしたもこうしたもあるか!この間の美術の課題の結果だよ!俺またこいつに負けてるんだよ!」


「あぁ、夏目くんの作品が1位だったんだ!え、でも誉だって2位でめちゃくちゃよくね?」


「よくねぇーよっ!俺は勝って勝って勝ちまくってアイツに…………」


げっという顔をする友人。

それもそうだろう、俺は入学時に次席だった時からずっとこのセリフを言い続けているから。


「アイツに………、アイツにギャフンと言わせてやるんだ!!!!!」


-------------------------------------------


夏目悠のことは嫌でも忘れられない。

俺は小中とずっと一番だった。

勉強も運動も、その他本当になんでもだ。

褒められること、人から感謝されるのが何より大好きだったから努力して努力して一番を取り続けた。

当然、高校生活も一番が自分であり続ける、順風満帆なものになると思っていた。


あの時までは。


「主席、夏目悠」


その言葉が聞こえた時、それは俺の人生が狂い出した時。


「はい」


透き通るような声がした。


スッと背筋を伸ばして登壇に立つ男。


一番が自分ではなかったことへのショックが、そいつを見た途端吹き飛んだ。


目にかかるくらい無造作に伸ばされていたストレートの髪が、一礼をするとサラサラと揺れる。


原稿を持つ手は雪のように白くきめ細かかった。


頭をゆっくりとあげると、人形みたいに綺麗な切れ長なのにパッチリした目に自然と惹かれた。


「春の訪れと共に…………」


そこからまともに覚えているのはやつの顔と綺麗な声だけ。


不思議とゆっくりと時間が流れていく。

この世界にアイツと俺、2人きりになったみたいだった。


夏目悠は1人だけ、格別に何か違った。


繁々と咲く緑色の草木の中で、なぜそこに咲いているのわからない鮮やかな花みたいな。


例えるなら白百合。


まさに高嶺の花のような存在だった。


入学初日にして夏目悠を知らない者は学校にはいなくなった。


皆色めきだってやつを目で追う、追ってしまうのだ。


俺は奴が答辞を読み終えた後も頭の中は夏目悠のことでいっぱいだった。


夏目悠。


その名前がやけに頭に残った日だった。



-------------------------------------------------



「夏目くんって頭いいんだね!かっこいいー!!!!!」


「ほんとほんと!おまけに顔も芸能人並みに綺麗だし!羨ましー!」


「人生勝ち組って感じだよね!」


クラス中が夏目の話で盛り上がる。

が、俺は面白くなかった。


だって今までその注目を浴び続けてきた人生だったから。


「誉が二番かー!珍しいこともあるもんだな」


中学時代からの友達である堺春樹(さかいはるき)がきゃっきゃっと夏目の話で盛り上がる女子たちを横目につぶやいた。


「別に今回はまだ頑張れる余地はあったから!完全敗北ではないし!!!!!」


「へいへい!そうですかい」


「そうなんだよ!夏目って野郎に最初の定期テストで勝って証明してやるよ!」


「頑張れ頑張れ」


そうだ、今回だけだ夏目 悠。

次からは一位は全部俺のものだ!!!!!

貴様は今回の一位を一生誇りに思っていろ!!!!!


と、息巻いていたものの。


一年一学期中間テスト 二位。

一年一学期期末テスト 二位。

一年二学期中間テスト 二位。

一年二学期期末テスト 二位。


「よっ、万年二位!」


「殺すぞ」


春樹に殺気を向けながら成績表を握りつぶす。


絶対に許せない、夏目悠!!!!!


そして俺の高校生活は一位をとることよりも夏目悠に勝つことが目標となっていった。


勉強で無理なら運動で………と思ったがやつはサッカー、野球、リレー、バスケ、

何をやらせても上手かった。


美術も書道もどれだけがむしゃらにやっても勝てなかった。


悔しかった。

負け続けることが、じゃない。

一位をとっても喜びもしない、アイツを見るのが。


「おい」


その日は初めて他クラスにいるアイツに話しかけた。


綺麗な顔がこちらを向く。

一瞬何を言いにきたのか忘れそうになった、それぐらい綺麗な顔だった。


夏目悠は席に座ったまま、俺のつま先から顔を眺めて、ゆっくりとふっくらとした赤い唇を開いた。


「誰?」


光のない、退屈そうな顔。

万年二位の俺なんて知らないようだった。


腹が立った。


俺のことを知らないこいつにじゃない。

こいつに興味を持たれない自分自身にだ。


「日高誉だよ!お前が敵わなくなる男だ!!!名前ぐらい覚えとけ!ふん!!!!!」


「はぁ?」


ピクッと片眉が僅かに上がった夏目の様子に何故か心が満たされた。


そして気づいた。


体が熱いことに。


自分でもわかる、耳まで熱い。


すごくすごく、熱い。

インフルのときの熱みたいだ。


でも、病気の時とは違って、体は怠くない。

むしろ、動き回りたくてウズウズしてる。


「ばっ、ばーーーーーか!」


くるっと踵を返して教室を出た。


廊下を早歩きで通る。


冷めろ、冷めろ、冷めろ。


「あれ?なんか宣戦布告してやるって息巻いてたのにおとなしいね、どした??」


「黙れ」


不思議そうな顔をする春樹にこれ以上バレないように机にうつぶす。


頭に浮かんでいたのは少し不機嫌そうなアイツの顔だった。



-------------------------------------------------


「おい!このコンテストにでろ!」


「なんなの君?どっかいって」


「夏目!今度こそお前にギャフンと言わせてやるんだからな!!!」


「人の話聞いてる?あっち行って」


「わりー、こいつもうだめだわ」


春樹が頭を抱えながら言う。


失礼なやつだな。


「俺はいつでも万事大丈夫だ!さぁ、夏目!今度はスピーチコンテストで勝負だ!!!!!」


「……………はぁ」


渋々といった感じで申込書に自分の名前を書く夏目を横目でチラリと見る。


くるんと上を向いたまつ毛がよく見える。


「何?」


「べっ、べっつにぃ!?」


「いや、わかるぜ誉!まじで夏目ってば男から見ても綺麗な顔してるよなー」


「そ、そんなんじゃねぇし!!!!」


慌てて否定する。


「こんなやつの顔に見惚れるわけがないだろうがバカ春樹!!!!!」


「えぇ? 」


「まぁどうでもいいけど、はい」


「お、おおおおおおうっ」


申込書をずいっと差し出して俺に受け取らせると、夏目は静かに本に目を落とし始めた。


「ま、またくるからな!」


「こないで」


「くる!」


思わず声が上擦る。

諦めてたまるものか。


夏目悠。


お前のスカした顔をいつか絶対に変えてやる!

その時までは、絶対に。


「来続けるからな!」


こちらを見もしない野郎に叫んで教室を出る。

慌てて追いかけてきた春樹が呆れながら言う。


「お前、夏目くんに対してしつこくね?」


「あぁ、なぜなら俺は奴にギャフンと言わせたいからな」


「もう何回も聞いたわ、それ」


「春樹、俺今度こそ勝つ!」


スピーチコンテスト、結果は二位だった。


でも諦めない。

絶対に、アイツに勝つんだ。


それで。


「君、いい加減諦めなよ?」


「え?」


いつもみたいにコンテストの申込書を持って夏目のところに来ると、パタンと珍しく本を閉じて冷めた目を向けられた。


「何をしたって僕には勝てない、何回も何回も結果が証明してるでしょ?正直めんどくさいし君のことなんてどうでもいい」


その言葉に、その目に、唇が震えた。


「俺は」


俺は、どうでもよくない。

お前のこと、どうでもよくないんだよ。


一番を取られたから?

そうかもな。


でももっともっと単純な理由があるんだよ。


「俺は、お前にギャフンと言わせて……」


「それ前から思ってたけど何?僕を見下したいだけ?」


「ギャフンと言わせて!!!悔しがる顔が見たい!!!!!」


「いるんだよね、勝手に逆恨みして突っかかってくるやつ、ほんと迷惑」


「そんで俺に勝った時に嬉しがる顔が見たい!!!!!」


「は?」


「いろんなお前の顔が見たい!そんだけだ!!!!!」


ぎゅっと目を瞑って叫んだ。

顔熱い。

前が、アイツのことが見られない。


クラス中が静まり返っていた。

分かってる、俺、変なこと言ってる。

きもいって思われたかも。

軽蔑されたかも。


でも、お前に誤解されたくない。

嫌いなはずだったのに、お前のこと。


「だ、だから覚えとけよ!!!!!今度のテスト!!!!!」


下を向いて一方的に叫んで走った。


アイツ、どんな顔してたんだろ?


-------------------------------------------------


その日から俺は勉強に勉強を重ねた。

死に物狂いだった。


俺の存在をちょっとでもいいから視界にいれろ、夏目悠。


あの綺麗な瞳に俺を映せ、夏目悠。


そんな思いでシャーペンを動かし続けた。


「……………まじで?」


そんで結果は。


「誉!!!!お前すげーじゃん!あの夏目くんをついに抜いたじゃん!一位じゃん!!!!!」


一位だった。


瞬間的に席を立つ。


いつも歩いている廊下がやけに長く感じられた。


はやく、はやく、アイツに!


「な、夏目!!!!!」


ガタンっと扉を開けて夏目のいる教室に入る。


一番後ろの窓際の席に夏目はいつも本を読んで静かに過ごしていた。


でも、その日はいなかった。


席が空っぽでいつも読んでいる夏目の本が、パラパラと風に揺れてページをめくっていた。


「夏目は?」


隅で話し合っていた女子グループにそう尋ねると「げっ、誉じゃーん!」と言いながら扉を指差して教えてくれた。


「あんたあんなに言われてよく来るよね、夏目くんならちょうどさっき教室出て行ったよ」


「さんきゅ!」


その言葉を聞いてかけだした。


どこにいるんだろ?


夏目はいつも基本教室から動かないのに。


図書室、いない。


多目的教室、いない。


食堂、いない。


「どこだよ」


なんでいないんだろう?


一位になった俺が絶対にめんどくさいと思って逃げたんだろうな。


階段を登りながら考える。


夏目は今、何を考えているんだろう?


いつもみたいにどうでもいいと思ってるのだろうか?


それとも。


ギィ…………。


少し古びた屋上のドアを開ける。

風が勢いよく吹いてきて髪が舞う。


サラサラの黒いストレート。

無造作に目の辺りまで伸びた、綺麗な髪。


「はぁ」


チラッとこちらを見てすぐに顔を逸らされた。


「夏目!!!!!」


俺はポケットから畳んだ成績表を取り出して夏目の方に向けて思いっきり開いた。


「俺、一位だ!!!!!」


「そう、おめでとう」


こちらを向かない夏目の声色はいつものように平坦だった。


一位、一回くらいじゃダメだった。


その瞳に映されもしない。


「今度も、とる!とって、とって!お前の表情変えて見せる!」


そう叫んだ後、シーンとあたりが静まり返った。

その間が妙に俺を冷静にさせた。


おれ、いま、なにをくちにした??


自分で自分が言ったことに顔がヤカンに入った水みたいに沸騰していく。


握りしめていた成績表が汗で滲む。


なんだよ、この空気。

死にたい、恥ずかしい。


だって、夏目悠という男は俺のこと、視界にすら入れてないのに。


惨めで、恥ずかしくて、でもこそばゆくて。


そこから俺は動けなかった。


沈黙を破ったのは、やつの方だった。


「…ははっ、何それ」


少し、高めの短い笑い声。


耳を疑った。

聞き間違いかと思った。


信じられなくて夏目の方を見た。

そしたらもっと信じられなくなった。


目尻に皺を寄せて、あの綺麗な瞳の形を変えて。

ふっくらした赤い唇を上げて。


アイツがこっちを見ていた。

俺を視界に入れた。


アイツの瞳に映る俺は、これまた滑稽なほど真っ赤だった。


「………………!?」


ブワッと全身がさらに熱くなる。


この世で見た一番綺麗なものはアイツの片眉を上げた顔だったのに。


今度は今見ている顔が世界で一番綺麗なものになった。


夏目は、1番綺麗な顔のまま俺に向かって口を開く。


「俺のこと好きすぎ」


うん、そうだよ。

一番単純な理由は、それだよ。


多分呆れて笑ったんだろうな。

でも、それでもいい。


その顔が一番見たかった気がするから。


お前のこと、絶対に諦めない理由。


お前のこと、多分、一目見た時から、俺はずっと。


「ばーーーーか」


「なっ!!!!」


バカとなんだ!


そう言い返そうとしたのにできなかった。


いつも盗み見ていた綺麗なまつ毛がやけにはっきり見えたから。


月よりも美しい男が、俺の近くにいたから。


俺より背が高い夏目は、少し屈んで俺の顔を覗き込んで、形の良い唇を動かす。


「真っ赤」


「っ!?」


近い、恥ずかしい、見るな。


何かを言おうと口をぱくぱくさせる俺を、夏目は見て、それで。


顔が、近づいて。


ちゅって音がした。


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