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5話:ロウディ教と最果て

「この仮面は……」

路地を抜け、人気のない道からパルダルン宮殿の太陽宮へと来た二人は、メガネをかけた若い司教見習いの人間に仮面と紐を見せていた。

「この紐の方は確かにロウディ教教徒の皆さんにお渡ししてるものでしょう。しかし、そうですね、仮面の柄は──ロウディ様の側近である騎士、サリアス卿が付けていたと言われるものの模造品と見て良いでしょう。

教徒たちの中でもサリアス卿は人気でして、宮殿の中にある展示物の中にサリアス卿の仮面や衣装を展示しておりますので、きっと上手く真似たのですね」

「教団としては模造品が流通することに対して刑罰を加えたりしないのかい?」

「ロウディ様の教えにおいて、このようなことで罰なんて下しません。ロウディ様は砂漠のように広い心をお持ちで、寛大な御方です」

──管理下には置かないから、出処は不明か。

ルアンはこれ以上は何も得られないものと思った。

それはシーヴァルも同じようで、何か聞き足りないことがないか目配せすると頷いた。

「わかった。ありがとう」

「えぇ。また、ロウディ教の関係でお尋ねごとがありましたらお越しください」

物腰の柔らかい司教見習いに手を振られて、二人は太陽宮から出た。

「ロウディ教の信者であることは分かりましたが、あの男が何者かは掴めませんね。しかし……」

「そうだなぁ……」

シーヴァルが言い淀んだ理由は分かっていた。

──サリアス。

精霊王の側近騎士。

──普通に考えたら、わたしの両親もまた、敬虔な教徒でサリアス卿から名前を取った可能性だってある。それに、案外ありふれた男性名の可能性だって。

関連性はないだろう。

ルアンはそう考えていた。

いや、考えていたかっただけかもしれない。

「……ともかく、今は考えても埒が明かないなぁ……」



「あっはっはっ」

──どうして、この人は……。

行き詰まった二人は、夜は昨日と同じ飲み屋で情報収集をする名目で飲んでいた。といっても、シーヴァルはまだ酒が飲める年齢には至っていないため、ジュースを片手に食事していただけだった。

ルアンは隣の卓で飲んでいた商人と思わしき人達が気になる話題を話していたため、声をかけ、シーヴァル共々相席にした上で自身の髪色のような強い酒を飲み始めた。

気が付けばいつもの様に出来上がっていた。

「そういや、傭兵の姉ちゃん。こんな噂を知ってるか?」

「噂ぁ?」

とある商人が卓の人間しか聞こえないよう、声を潜めて語り始めた。

「サウドットは土と祭壇の街って言われているんだ。何しろ、街から西へ進んだ先には砂嵐が絶えず、無限に続く砂漠がある。その先に酒池肉林できるオアシスがあり、そこには精霊の涙というあらゆること──例えば、死んだ者すらも蘇らせることが出来る水があるっていう噂さ」

「精霊の涙……?」

ルアンが密かに息を飲んだ。すべてが集まる楽園にどうか蘇生の術が残されていてほしい──そんな願いをずっと持っていた彼女にとってまさか、こんなにも都合の良い話があるものかと。

「でもよぉ、あの砂嵐が激しすぎて今まで挑みにいった秘宝狙いも盗賊も、一人も帰ってこなかっただろ?

本当にそんな場所があるのか?」

「誰も帰ってこなかったから色んな尾鰭がついてるんじゃないか?案外、本当に酒池肉林があって帰ってきたくなかったりしてな」

商人たちの憶測で溢れた噂話を遮って、ルアンは地図を広げて示した。

「なぁ、砂嵐がある砂漠ってのはここかい?」

噂を話した商人は笑って頷く。

「あぁ、そこだよ。といっても、俺らからしたら、潮が引いた時に限るが、唯一陸路で西ヴァルハラへ行けるただの道だったんだが、砂嵐が酷くなってからそんな噂が広がっちまった。

しかし、姉ちゃんはその筋の人間かい?

無茶は言わねぇ。砂嵐の様子だけ見て引き返してきた方がいいぞ。あんなの、生身の人間じゃ吹き飛んじまう」

商人はハッキリとルアンへと釘を打つ。

しかし、ルアンは光を宿した瞳で商人へと告げた。

「だとしても、わたしは挑むよ。精霊の涙を手に入れることができるなら、例えこの身が引き裂かれても構わない」

商人たちはその真っ直ぐなルアンに感嘆の声を上げた。

そして、共にいたシーヴァルへと視線を向けて、一人の商人が肩を組む。その表情はハッキリ見えないが、どこか同情を感じられる。

「兄ちゃんも大変だなぁ、こんな姐さんを持つと」

「長年居ますから、もう慣れましたね」

「くぅ〜、苦労してるなぁ……」

シーヴァルは肩を叩かれる。同情を向けられたからか、場の酔いに巻き込まれたか、シーヴァルはルアンに向けてぼやいた。

「とはいえ、順序としては身が引き裂かれるのが先です。精霊の涙を手に入れる前に死んだら意味がないでしょう。

それに、精霊の涙だってあくまで噂で確証がないんですよ?引き際を確認しながら……」

「わかった、わーったぁ!

たまにはカッコよく決めたんだから見逃してくれたっていいじゃないか〜!」

「自己犠牲がかっこいいと思うのは成人までですっ!」

糸が切れたように説教するシーヴァルを面白がった商人たちは、未成年の彼にたくさんの食事を与え可愛がり、ルアンにはたらふくの酒を飲ませた。

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