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3話:サウドット

二人は昼が過ぎた頃、おやっさんの元へと買い出しへ行き、雑談を交わして街を出た。

「最後に傭兵団の皆さんに挨拶しなくてよかったんですか」

「別れの挨拶は酒と共にしただろう?あれでいいんだ、あの人らは。私たちはずっと出会いと別れを繰り返す生き方しかできないんだから」

ルアンは真っ直ぐ前を見つめてそういった。

彼女は太陽が照らす砂漠よりも眩しく、オアシスより活気がある。

──そんな真っ直ぐな貴方でさえ、過去に縋っているほど、肉親という存在は大きなものなんですか。

シーヴァルはルアンの横顔を見つめながら思いを胸に抱く。

「確かにそうですね。

──俺もかつてそうだったように」

「……あぁ」

そんな話をしていた矢先、砂漠の上を木で作られたソリで進んでくる集団が現れる。魔力を使って後ろに付いた管から空気を噴射することで砂の上でも自由自在に動けるそれは、一部の儲かっている商人と砂漠賊くらいしか使わない。

「げっ。面倒臭いのが来た」

ルアンは露骨に嫌がるが、砂漠で無闇矢鱈に走って体力を消耗する訳にもいかず、無視するように変わらないペースで歩き続けた。

しかし、相手にとっては気にかける必要はない。

砂漠賊たちは二人の姿を捕らえて近寄ってくると二人を囲むようにして停車する。

「その手に持ってる荷物を寄越しな!」

街から追いやられたはみ出しもの達で構成された砂漠賊は日差しの強い砂漠で暮らすため、先日の男とは違う仮面と日差し避けのマントを身に付けていた。声の主は甲高いが男──真っ先に要求してくるあたり、少なくてもこの集団の中では長にあたる人物なのだろうと思われた。

「やなこった」

ルアンはそんなやつからの要求を間髪入れずに断った。

「アンタらの存在で私も食ってる身だけど、わたしの荷物はわたしのモノだ」

「んじゃ、力づくでいただくだけだぁ!」

変わらず歩いている二人の周りを囲んで回る砂漠賊は、空中から見たら芸術的な程に息のあった回転を見せ、中心にいる二人へと距離を詰めてきた。

「シーヴァル、わかってるね?」

「えぇ、もちろん」

魔術が扱えるシーヴァルは何も無いところから槍を生み出すと、足元の砂に立ててしゃがむ。

「太陽よ、月よ、星々よ、我が身を照らす灯火に祈り、願い、跪く。我に光を与え給え、力を与え給え。祝福を祈らぬものの咎を今ここで償わせる。救済の柱(コルムナサスティス)!」

詠唱と共にシーヴァルは天を仰ぐ。こんな時ではあるが、空は快晴で清々しい程の青空が広がっていた。

しかし、そんな青空に歪みができ、無数の光の槍が周囲へと降り注ぐ。

砂漠賊たちはそれが避けられないもの、避けようとして仲間と衝突するもの、とマチマチである。ルアンは砂埃の舞う砂漠の上で動じずに剣を抜いては、上手く避けたものを蹴落としていく。

槍が落ち切って、シーヴァルが立ち上がる頃には立っている賊は誰一人残っていなかった。

「コイツら明らかに商人じゃないわたしらを狙うだけあって、食糧の一つもありゃしない。あーあ、金にもならないし全く損したわ」

ルアンは愚痴を零しながらシーヴァルの元へと戻ってくる。

「仕方ないですね。せめて、金品ひとつすら持ってたらよかったですが……そうか」

ルアンはすれ違って賊の元へと行くシーヴァルに首を傾げたが、すぐさま長年旅した相棒がしようと考えたことを理解した。



「快適〜!」

ルアンは羽織ってた日差し避けのフードを脱いでは赤茶色の髪を靡かせて、ソリの荷台からシーヴァルの肩を掴んで膝立ちしていた。

シーヴァルは賊たちの中でも新しめで破損していないソリを一台拝借して、さっさとサウドットへと向かってしまおうと考え、ルアンもその提案に乗っかった。

「なんでこんな快適なものをみんな使わないんだろうな?」

ルアンは純粋な声で問いかける。

「おやっさんは以前、元値も高い上に砂が入って故障しやすいから維持費に金がかかるし、魔力の消費が激しいからだって言ってましたよ」

「なんでそんな高価なものをあんな賊が?」

「それは知らないですが──さっきのやつらも乗ってるものは全部バラバラでしたし、商人から強奪したものなんじゃないですかね」

「あー、なるほどね」

ルアンは北へと視線を向ける。

「ははっ、まだ日が暮れてもないのにもう隣町が見える」

シーヴァルは不慣れな運転に夢中でよそ見をする余裕すらなかったが、魔力を持たないルアンは自由に辺りを見渡していた。

「彼らもこれを活かした荷物運びとか、そういう生業を見付けられたら良いんですけどね」

「ま、無理だろうね。はみ出ちまったら元に戻ってくるのも難しいさ」

「俺たちも今はみ出したんでしょうか」

「わたしたちは元からはみ出しもんだよ。命の駆け引きをしてるんだから」

二人は休憩一つ設けずにサウドットの近くでソリが壊れるまで走らせた。

「うぅーん、着いた着いた」

着いた頃は日暮れ時で、夕日に染まるサウドットの街並みは今までいたところとは少しばかし雰囲気が違った。商人たちは変わりないが、住民と思わしき人々は老若男女関係なく胸にはひし形が並んだ白と黄土色で揃ったフード付きの衣類で身を包み、顔には仮面の男が身に付けていたものと似た仮面をしていた。他の街より日差しが強く感じられるこの街では、できるだけ肌の露出を避けているような気がするが、他にも理由があるように感じられる。

「まさかこんなに早く到着できるとは思わなかったですね。無理をさせすぎたのか、元々そんなものか、既にただの板に等しい訳ですが……」

「だからこそ、維持費が高くて使い物にならないってのが理解はできたけどね」

「まぁ……」

何かを言いかけたシーヴァルは咄嗟にすれ違った人へと視線を奪われる。視線の先には白い衣服を着る住人が歩いている。動作としてはただそれだけのことだった。

「シー坊?」

シーヴァルに釣られてルアンも住民の全身を観察する。そして、すぐさま納得する。

彼がとあることに気が付いて視線を向けたのは、彼が保持している仮面の男が落とした紐とよく似た造形のものが住民たちの服に使われているからであった。

「さぁて、宿でも見つけてさっさと飯にありつこうじゃないか〜。

ついでに、その辺も探れたら情報を集めておきたい。本格的な聞き込みは明日からだ」

ルアンはシーヴァルの肩を抱いて進み始める。そして、砂に覆われている白いレンガが敷き詰められた街を進んで、大通りから少し外れた二階が宿になっている定食屋兼飲み屋へと姿を消した。

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