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2話:夢の道標

出発する日の早朝。あの後部屋に戻ってもなお放心していたルアンがようやく意識を手放した頃合い。シーヴァルは仮面を手に持ち、宿から出て大通りから少し離れた、商業人たちが集う集会所へと向かった。辺りを見渡し、荷台に詰め込む商品を数えている妙齢の男性を見つけると近寄って話しかける。

「おやっさん、すみません」

「お、シーヴァルじゃねぇか」

シーヴァルがおやっさん、と呼ぶその男は今ルアンたちがいる国──アステラ中を股にかける商人で、ルアンとは以前別の街で滞在してる際に飲み屋で意気投合したことから親しく、よく客として買っていた商人だった。 シーヴァルの姿を捉えると仕事中にも関わらず時間を割いてくれた。

「ルアンは相変わらず二日酔いか?」

「えぇ、まぁそんなところです。僕たちも今日、ここを出るつもりで」

「そうかそうか。ここに根付いてもう半年経ったのか。

んで、次はどこに行くつもりなんだい?」

「それは……これが出回ってる街を知りたくて」

そういって、シーヴァルは昨晩出会った男が身に付けていた仮面をおやっさんへ差し出した。

おやっさんは目を瞑り、顎に手を当て考えると、ちょっと待ってな、という一言を残して奥の仲間たちの元へと向かう。

「おーい、これ見たことあるやついるか?」

「なんだこれ」

「北ヴァルハルのロメイアの工芸品っぽくねぇか?」

「ロメイアだと白基調に独特な模様を描くからこんなんじゃないねぇ」

「いつだったか忘れちまったがサウドットで似たような仮面が出回ってた気がするぜ」

「あー、サウドットなら先月まで居ましたけどあったような気もしますねぇ」

珍しい仮面を複数の商人たちが囲ってあーだこーだ互いに述べ合う。たった一人の商人がとある街の名前を挙げるとほかの商人たちも同調する。

「ってことで、サウドットらしいぜ」

「ありがとうございます。サウドット……」

地図を広げて場所を確認する。おやっさんが指を指し教えてくれたサウドットと書かれた街は今いる街より西にあるアステラ最西端の街だった。

「あー、すまねぇな、向かう方角が一緒なら乗せてってやるんだが、次は北東にあるアスラへ向かう予定なんだ」

「いつもお世話になりっぱなしという訳にはいきませんから。

あと、保存食を買いたいので、また伺いますね」

「おうよ!昼過ぎには大通りにいるからな!」

「分かりました」

そういって集会所を出ると、シーヴァルはルアンが寝ている宿へと戻った。


宿に戻るとルアンが宿を借りた際に、シーヴァルに個室を譲り、自身が大広間で寝るために置いたパーテーションをどかして、日差しがあたるようになった席で外を眺めながらパンを食べていた。

「もう起きて大丈夫なんですか」

「傭兵の仕事をしてると寝てないことなんて多々あるだろ?」

不屈そうな笑みを浮かべる。

「んで、次の行先はどこに決まった?」

「……最西端の街サウドット。

この仮面に似たようなものを見たことある商人が教えてくれました」

ルアンは机の上に地図を広げると今の街とサウドットまでの道のりを確認する。

「サウドットか……よりによって遠回しにしちまった場所が最果ての手掛かりになる場所だったかもしれないなんて」

「今までどんなに探しても手掛かりがなかったんですから、仕方ないです。

おやっさんは昼過ぎに大通りにいるみたいですから、保存食を買い込んでから出ましょう。

昼から行けば隣町まで間に合いますよ」

「そうと決まれば、もう少しだけ身体を休めるかぁ〜」

欠伸しながら寝台に寝っ転がったルアンはすぐに安らかな寝息を立てた。

シーヴァルはそんなルアンに布を掛けると自室へ入り、手にしたままの仮面を取り出した。

──『最果て』とやらに繋がる手立てかどうかも分からない。ただ、それでも、それを口にした男を追わないとルアンさんの平穏が訪れることはない。

ルアンが口にした言葉。

サリアス。

シーヴァルは息を吐いて考えた。

仮にその男がルアンの実弟だった場合、ルアンはこの先、何を抱いて生きていくのだろうかと。

──俺とはもう旅してくれなくなるのだろうか。

──ルアンさんにとって、俺は邪魔者になるんじゃないか。

今はただ、天涯孤独な身である二人が寄り添ってルアンの旅路に乗っかっているだけだから。

シーヴァルは、外の日差しに反して曇り空を擁した。

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