朝ごはん
一日目
我が家の近くには池がある。半径五メートル程の小さな池が竹林の中に佇み、蛙共の憩いの場となっている。
横には以前活用されていたであろう水路が葛に蝕まれており、いつかは見えなくなるだろう。流れの無い池は死んで行く。色は褪せ、粘性を帯び、細菌を蓄える。
二日目
周りには色鮮やかな花共が池を小馬鹿にするかの如く咲いており、涼しげな竹に囲まれたその池には、まるで演者のいない舞台かのようにぽっかりと空いた違和感だけがあった。
三日目
舞台が埋まる。観客は私だけでいい。
少女が池に乗っているかのようにどんよりと浮いている。少女は長く美しい黒髪を、白く妖艶な柔肌を、可愛らしく虚ろな顔を池に任せて浮いている。
そよ風に吹かれた竹はカランコロンと序曲をあげ、差し込んだ太陽光は舞台に沈む事ない彼女を照らしあげる。
四日目
彼女の身体は少し膨れ、油の様な光沢を帯びた。周りには蝿のフラッシュモブが池を彩り、彼女の横には一人友達が増えた。
褐色肌の彼女には水着の跡がつき、引き締まった肉体には短いながらも一生懸命生きた歴史が刻まれている。
小さくも綿のように柔らかそうな腿やこじんまりとした胸に蝿がとまる度に静寂を感じた。
うつ伏せで池に飛び込んでいる彼女の顔はきっと可愛かろう。
五日目
大分体が解れた少女の美しかった頭髪は既に無く、池の底の方に沈んでいる。初めは沈む事を拒んでいたのに今では殆ど身体が沈み、あった肉塊は池へ溶け出している。
褐色の彼女は次第に膨れた腹を天に向け、やっと顔を見せてくれた。少しだけ飛び出した眼球も愛嬌だろう。しかし、「女性たるもの前髪は命。」と聞いた事がある、甘やかすのは良くないと知っているが顔に海藻のようにへばりついた前髪を櫛で整えてやる。世話のかかる子程可愛いものだ。
六日目
成程、三体も揃うと壮観な物だ。一体は既に池底へ沈み残っているのは雀の涙だが、褐色肌の彼女は色が抜け中々文学少女の様だ。
新参者は礼儀がなっていない。お陰で傷がついてしまった。しかし、股から精液を垂れ流しながら必死に陸へ上がろうとする生への執着をありのまま残したその姿は最後として相応しいだろう。
七日目
家から調味料を持ってきた。料理が出来る男はモテると聞く。漆椀を池に潜らせ、一杯手に取る。味噌大さじ一杯を溶かし、菜箸を褐色だった肌に差し込み心行くまで頬張った。
食い切るのに何日掛かるだろうか。




