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第3話目 〜柳に近づくな〜

〜前回のあらすじ〜


傷もなく血を抜かれる怪事件、"血無し事件"。


女子高生・チアキの友達のハナがその事件の被害者となり、自称『怪奇現象専門研究家』の墨羽くろうが調査に乗り出す。


しかしあまりにも不審な言動に警察から怪しまれ、あっさり捕まる。


連行される直前、チアキはくろうに犯人の妖怪について聞き出す。


くろうが出した名は妖怪『血吸い柳』。


今までなかった場所に現れては消える、謎の柳の正体は妖怪だったのだーーー

 カラスの鳴き声が響く空も暗くなり、完全に夜の帷が下りる。

 壁にかけられた時計が示す現時刻は午後7時20分。

 音のない夜風と街頭の光がチアキの自室に入ってくる。


「………ハナ…」


 

 ベッドに腰を下ろすチアキ。

 鏡を見ずとも自分の表情に曇りがあることを彼女は自覚している。


 血を抜かれ、痩せ細り、蒼白な屍のようになってしまったハナ。

 いつもの天真爛漫な笑顔の彼女とは似ても似つかない変わり果てた姿にチアキの脳は処理が追いつかない。


 そして同時に脳内に浮かび上がるもう一人の人物とその"警告"ーーー。


『"血吸い柳"。俺がこの事件の犯人と睨んでいる妖怪の名だ』

『警告しておく。柳に近づくな。死にたくねえならな』


 

「血吸い柳………」


 怪奇現象専門研究家を名乗る不審者、墨羽くろうが出したその妖怪の名。

 ベッド近くの本棚から中学生ぶりに数冊の本を手に取る。


 【大迫力!! 日本のお化け大図鑑】

 【超こわい! 日本妖怪大百科】

 【妖怪完璧ガイド】


 かつての愛読書の中には忘れかけていた妖怪の名や姿が。


 だが、血を吸う妖怪や木の妖怪はいれど"血吸い柳"と言う妖怪は一つも載ってない。


 ページを捲るたびにチアキの不信感は募る。

 もしかして私はくろうとか言う変質者に騙されただけなのでは?

 

 しかし頭でそう考えていても視線はページに吸い寄せられる。

 思考に霧が溜まってくるかの様な感覚が頭の中に広がって感覚が鈍りかけていく。


 その時、スマホの通知音でチアキの意識は本から現実に戻ってくる。

 慌ててスマホを手に取り、確認すると自分含め四人の写真をアイコンにしたグループLINEに新着が。


 このグループは高校入学時、その場のノリで作ったグループLINEだ。

 メンバーは自分とマキ、ポニーテールの自撮りアイコンの"ナギサ"、そしてハナだ。


 数日前まではどのスイーツが一番美味しいか、テスト範囲はどこなのかなど他愛のない会話で賑わっていた画面内。

 しかし、ハナの惨劇を他の二人の耳にも通ったのだろう。

 普段の二人とは別人の様な静かな文章が残っていた。

 

『二人とも聞いた? ハナのこと』

『聞いた。ホント信じられないよね………』


 短い文章の中には二人の心配と不安が露になっている。


 チアキだって二人と同様、信じられない。いや信じたくない

 友達が血を抜かれただなんて。

 しかもその犯人が妖怪だなんて。


 しかし、その考えは即座に消え、頭の中に妖怪の存在が鮮明に浮かび上がる。

 奇妙な怪奇現象専門研究家、消えた柳、そして変わり果てた友人の姿ーーー

 彼女が見てきた事実が現実だと思い知らせてくる。


 霧が渦を巻くかの様な感覚が思考を鈍らせていくその時、


『確かチアキちゃん、あそこにいたんだよね? 大丈夫だった? 』


 ナギサが送ったクマのスタンプとメッセージの通知音のおかげで我に帰ったチアキは慌てて指を画面に滑らせる。


『うん、大丈夫だったよ』

『ハナの命に別状はないらしいけど、やっぱり心配だよね…』


 くろうからハナは生きていることは分かってはいるがそれもいつまで持つか分からない。

 ほんの数分、いや数秒後に事切れても何ら不思議じゃない。


(もし……もしハナがあのまま死んじゃったら………)


 そう考えると指の震えが止まらなくなる。

 呼吸も徐々に荒くなっていき、息苦しさと震えで視界が揺れ始めてくる。

 頭を振って思考を変えようとしても消えるどころどんどん膨れ上がる。


(やだ、そんなの絶対やだよ……!! ハナ…お願い、無事でいて……)


 涙で画面が滲み初めてきた時、再び彼女のスマホがナギサからの新しいメッセージを受け取り、振動する。


『二人とも、もし暇なら今からハナのお見舞いに行かない? 』


「お見舞い………? 」


 か細い声で呟くと即座にマキからのメッセージが表示される。


『いいね! 心配だし行こうよ! 』

『チアキちゃんも来るでしょ? 』


 チアキは慌ただしく反射的に返信を打つ。


『うん。私もいくよ』


「…やば、行くって言っちゃった……」


 送信ボタンを押した直後、チアキは自分の行動に頭を抱え悔やむ。


 本物の妖怪がいるかもしれない街での外出。しかも夜に。

 マキやナギサからしたらなんてことないかも知れないがチアキにとって最悪のイベントである。


 下手したら命を落としかねない。

 いや、もしかしたらただ死ねるだけ幸せなのかもしれない。

 生きたまま血を抜かれる苦しみなど単に死ぬよりも悍ましい。


「ふ、二人やハナには悪いけど…私は…」


 彼女は自分のメッセージを取り消そうと震える指を近づける。

 が、あと数センチで指が画面に当たるところで『既読』の文字が。


 その瞬間、心臓が飛び跳ね、一瞬の眩暈が。

 チアキは死刑を言い渡された罪人の様に強烈な恐怖に包まれる。


「どど、どうしよう…! どうしよう…!! 妖怪がいるかもしれないのに……!! 」


 完全にパニックに陥った彼女は部屋中を歩き回る。


 すると、今のチアキの状況など知らないであろうナギサから再びメッセージが二つ届く。

 スマホを握り、それに目を通すとーーー


『じゃあ8時くらいに病院前の広場に集合しよっか』




『おっきい柳の下が目印ね! 』



「おっきい……柳の下? 」


 チアキの頭の中に病院の前の広場が映し出される。

 鮮やかな花畑、木製の机に椅子、底が見えるほど澄んだ池、そして目に優しい緑の草原ーーー。



 だが、記憶の中の風景に柳の木はどこにもない。

 背の高く、名前の知らない木はちらほらあったが、柳は見た事がなかった。


 

 ーーーでは、ナギサは何を見たのか?


 チアキが忘れてただけなのだろうか?

 それかナギサが別の木と見間違えたのだろうか?

 柳の様な特徴的な木を忘れたり見間違えたりするものだろうか?


 再びグルグルと回りだすチアキの脳内。

 

 その瞬間ーーー



『柳に近づくな。死にたくねぇならな』


 くろうの声が響いた途端、彼女の頭が一瞬ではっきりした。

 自分の記憶にはない柳の木。

 それはハナが襲われたあの場所にもーーー


「まさか……!! 」


 スマホを握り、ナギサへの通話ボタンを連打する。

 通話画面になって数秒後、ナギサの声が聞こえてきた。


『もしもし、チアキちゃん? どうしたの? 』


 二人の声を聞いて胸を撫で下ろしたのも束の間、チアキはスマホに向かって叫ぶ。


「ナギサよく聞いて!! その柳には絶対に近づかないで!! いい!? ぜっっったいだよ!? 」


『な、何? チアキちゃん、どうし……』

 

 ナギサが何か返した気がしたが、そんな事どうでもいい。

 チアキはひたすら声を張り上げる。


「いいから柳に近づかないでってば!! 今すぐそこから離れて! 早く!! 」

 柳の下に着く前に何とかしてでもナギサを止めなくては。



 ーーーだが




 『そ、そんなこと言ったってーーー







私、もう柳の木の下に着いちゃったよ? 』

 


 その瞬間、チアキは足元から崩れかけた。



「逃げて!! 逃げてナギサ!!! 早く!!! 」


 喉に痛みが走っても彼女の声量は下がらない。

 彼女はナギサを守る事でいっぱいになっている。


 ーーーしかし、


「………あれ? な、ナギサ? もしもし…? 」

 


 彼女からの返答が突然止まった。

 音量を上げても声は全く聞こえてこない。


 聞こえるのは風の音と遠くで走ってる車の音、そして“ザワザワ”と聞こえる柳の揺れる音。


 変わり果てた姿が頭をよぎる。

 ハナの様にナギサまでもーーー


「ナギサ…!! 」


「ちょっとチアキ! あんた何夜中に大声を……」

「ごめんお母さん! 話は後で!! 」


 チアキはドアを開けた母を押し除け部屋を出る。

 親に心配してるほど彼女の心に余裕などない。


 階段を駆け下り、そのままの勢いで外に飛び出した彼女はもつれる足取りで病院に走る。


(お願いナギサ…! 無事でいて!! )


 どんどん上がっていく心拍数。

 心臓を痛めながらも彼女は夜の街を駆け抜けるーーー




 一方その頃、警察署の前。


「やっっっと、警察の事情聴取が終わったぁ…… 無実だってのに話長えんだよ、ったく…」


 疲弊し切った表情で、墨羽くろうがふらつきながら出てきていた。

 ぎこちなく伸びると身体から"ボキボキ"と音が鳴る。


 黒スーツを照らす街灯に視線を向け、スマホで時刻を調べるとその表情がさらに歪める。


「7時過ぎ…!? めっちゃ時間食っちまったじゃねぇか。奴がいつ出てくるか分かんねぇってのによぉ…」


「ガァ! ガァ!! 」

「………あ? 」


 羽音としわがれた鳴き声の方へ顔を上げる。

 両翼を羽ばたかせ、一羽のカラスが降りてくる。

 くろうは止まり木代わりの曲げた人差し指を出す。


「どうした? なんか見つかったか? 」

「カァカァ! カカァカァ! 」


 カラスの声にくろうの表情が変わり、目が鋭く光る。


「………場所は? 」

「ガァガァ!! 」

「……分かった。案内しろ」

「ガァア!! 」


 指から飛び立つカラスの後をくろうは走る。

 夜の風の様に早く、静かに。


「ようやくご対面かーーー」


 黒ズボンのポケットから取り出したのは細長い赤い布。

 頭に巻かれた鉢巻と白い髪を揺らしながら彼は駆け抜ける。


 足音すら残さず夜を切り裂くその姿は、もはや人の枠を超えている。

 


「今そっちに行ってやらぁ。待ってろよ血吸い柳ーーー」


 

【第三話目、完。第四話目に続く】

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