第1話目 〜血無し事件と怪奇現象専門研究家〜
「ねぇねぇ、聞いた? こないだの "血無し事件" のこと」
「聞いた聞いた。あれでしょ? 血を全部抜かれてミイラになったやつ。しかもどの遺体にも傷は一つもないんだって」
「それマ? 傷もないのにどうやって血抜かれたの? 」
「分かんない。猟奇的な殺人鬼か何かの仕業って噂だよ」
ーーー都内某所。
高校の教室の片隅には数名の女子生徒が机を椅子代わりにして教室に響かないくらいの声量で語り合っていた。
"血無し事件"。
何とも奇怪な噂を取り扱っているが、これを話のネタにしているのはなにも彼女たちだけというわけでもない。
学校では学年はもちろん朝礼前、昼食の時間、放課後など時間も場所も問わずあちこちで "血無し事件" が囁かれている。
やばい薬品の実験だ、宇宙人の仕業だーーーなどなど。
専門家ヅラした生徒たちが互いに真相について自分の説を語り合うがどれも信憑性が薄い。
誰も真相なんてわかるはずがない。非現実的すぎて子供の想像力すら追いつかないのだから。
生徒たちもそれを自覚しているのか、次第に血無し事件の真相について『いかに面白く説明するか』という大喜利のような流れとなり、最初の頃の恐怖心は薄れつつあるどころか、ほぼ消えかけていたーーー
「ねーねー、チアキちゃ〜ん? 」
「…なに、マキ? 今予習してんだけど」
ーーー再び教室内。
『チアキ』と呼ばれた女子生徒は視線を参考書から目の前の女子生徒、『マキ』に向ける。
『目は口ほどに物を言う』とはよく言ったもので、丸メガネの下から『私は不機嫌です』と言わんばかりの目がマキを見据えている…と言うより睨んでる。
「そんな怖い目しないでよ〜? それよりさ、血無し事件のことどう思う? 」
「どうも思わない。どうせアレでしょ? 噂に尾ひれがついたってやつ」
マキの質問に感情もなく答えたチアキは再び参考書に視線を向けては静かにページを捲る。
「えー? そんな事ないでしょ〜? きっと何かの仕業だよー 例えば〜」
「例えば? 」
ゆっくりと顔を近づけてくるマキに視線を一切向けないままのチアキだったが、彼女の顔が耳元に来た途端ーーー
「"妖怪" …とかね♩」
「ッ!? 」
たった二言を囁かれただけにも関わらず、チアキは『ガタガタッ! 』と揺らして、顔を参考書からニヤニヤと口角を上げているマキに向ける。
その真っ赤になった顔からは掴まれたくない何かを彼女に掴まれたというのが伝わってくる。
「え、何々? あんたチアキちゃんになんて言ったの? 」
「そうそう。うちら何も聞こえんかった」
そんなチアキの驚愕ぶりを見た後ろと右隣の机に座っていたポニーテールとサイドテールの女子生徒らも話の輪に入ってくる。
まさかの二人の参戦にチアキの顔はさらに赤さを増していくがマキは対照的に涼しい顔で質問に答える。
「別に〜? 血無し事件の犯人って妖怪なんじゃない? って言っただけだよ〜」
「妖怪?? いやいや、それだけはないでしょ」
「そーそー。妖怪とかいるわけないんだし」
マキの返答にポニーテールの女子生徒は眉を顰め、サイドテールの女子高生は『バカバカしい』と言わんばかりに片手をヒラヒラと揺らす。
「えーそう? でもね……」
二人のリアクションにマキは笑みで返しつつ口を開こうとするとチアキは本能的に何かを察したのか彼女の裾をグイグイ引っ張る。
「ちょっ、ちょっとマキ!? それ言わないでってあれほど……!! 」
「チアキちゃん、中学生を卒業するまでめちゃくちゃ妖怪を信じ… 『わー! わー!! わー!!! 』」
マキの発言を両手を振り回しながら大声でかき消すというあまりにも原始的な方法を取ったチアキ。
「え……?? 」
「ち、チアキちゃん?? 」
彼女の奇行にポニーテールとサイドテールの女子生徒らはポカンと数秒間時間が止まった。
そんな二人をよそにチアキはマキのリボンを掴みんで赤く染まった顔を近づけて睨みつける(最も全く怖く無いというのがマキの表情から見て取れるが)。
「えー、なんで隠すのよチアキちゃん? 昔はあんなに妖怪大好きだったじゃん」
「それは昔の話!! 私はもう妖怪なんて信じてないからっ!! 」
「本当に〜? 昔プールで溺れた時に『河童に襲われたっ!』とか言ってたのに…」
「だ・か・らっ! 言わないでって!!」
リボンを取っ手にマキをひたすら揺らすチアキだったが、
『キーンコーンカーンコーン』
と、チャイムが教室内に鳴り響いた途端揺らす手が止まる。
「やば、うちら次移動教室じゃん。マキ、行くよ」
「マジ? 急がなきゃじゃん。じゃあねチアキちゃん。揶揄ってごめんね♩」
マキはチアキにウィンクの置き土産を送って駆け足でポニーテールの女子生徒と一緒に教室を去っていく。
しかし、当のチアキは顔を赤らめたまましばらく固まっていた。
「意外だね。真面目なチアキちゃんも妖怪信じてたりするんだ」
「言わないで」
サイドテールの女子生徒の一言をバッサリ切ったチアキは大きく息を吐いたまま椅子に座る。
(あー、もう… なんで昔は妖怪なんか信じたんだろ。おかげでめちゃくちゃイジられるし…)
そのまま倒れるように机に突っ伏した彼女は熱くなった顔を冷ますのに神経を集中させ、周囲の声を遮断する。
「なぁ、今日なんかカラス多くね? 」
「え? あ、本当だ」
不意に男子生徒の会話が耳に入り、チアキもふと窓の外を見つめる。
「カァ! カァ!」「ガーッ! ガーッ! 」
黒い影たちが空を舞い、羽をひらひらと落として行く。
(なんか…不吉…)
だがすぐに頭を振ってマキとの会話もカラスの影も記憶から消す。
そして、あの"血無し事件" の真相のこともーーー
***
「それでそれで? チアキちゃんってどんくらい妖怪のこと信じてたの〜? 」
「ハナ…その話やめてって言ってるじゃん…」
夕陽に照らされた帰り道。サイドテールの女子高生、『ハナ』が周りをぴょんぴょんと跳ね、チアキの表情を歪ませる。
「えー、いーでしょー? ウチらの仲じゃーん? 教えてよ〜」
「…あんまりしつこいと、もう二度とノート写させてあげないよ? 」
「えぇえ!? そ、それだけは勘弁してチアキ様〜!! 」
チアキの放った一言に大きく目を見開いたハナは笑顔から泣き顔に変わって必死に手を合わせて懇願する。
「もう私の黒歴史、掘り返さないでよ? 分かった? 」
「はーいっ! わっかりましたーっ! 」
(…絶対分かってないな、この子……)
チアキは元気いっぱいに片手を上げる彼女を見てそう思わざるを得なかった。
「でもさでもさ。"血無し事件" の犯人が実は妖怪でしたーって言われたら何となく信じない? 」
「信じない。妖怪なんていないし、そもそも"血無し事件" 自体嘘っぽいじゃん。あんなのただのでまかせだよ」
ハナの質問に冷たく返すチアキ。彼女の頭の中では"血無し事件" は単なる噂話、あるいは自分に関係ない出来事と処理されているようだ。
「え〜そお〜? 妖怪の仕業っぽいじゃん。例えば…ドラキュラとか! 」
「ハナ、ここ日本だよ」
「じゃあ、"妖怪チヲスッター" とか! 」
「……妖怪信じる人でもその妖怪は信じないんじゃない? 」
立て続けに犯人候補の妖怪(?)を出すハナの隣で時々クスッと笑うチアキ。
二人の歩みは曲がり角に差し掛かったところで止まる。
「それじゃあまた明日ね、ハナ。明日の小テスト、ちゃんと勉強しときなよ? 」
「大丈夫! 今回の山は自信あるから! 」
「……山張ってないで勉強しなさい」
チアキの一言に「はーい! 」と笑顔で返したハナはそのまま曲がり角をまっすぐに駆け出して行く。
「ハナったら、全く…」
ため息混じりに見つめていたチアキだが彼女の背中の奥にある"それ" に片眉を顰める。
(あれ……? あんなとこに柳なんてあったっけ…? )
それは道路右側にあるブロック塀の内側。
柳が枝を道路にはみ出し、地面に葉が付くギリギリまで垂れ下がっている。
(なんか…不気味…)
風に当たるたびにゆっくりと僅かに揺れるその柳を見てチアキは言葉にできない違和感を抱く。
(……きっと、気のせいだよね)
しかし、違和感の正体が分からないチアキはそのまま考えるのを辞めてしまい、視線を柳から帰路に移して歩みを進める。
それはちょうど、ハナが柳の枝の真下に差し掛かった時だが、チアキの目にそれは映らなかったーーー
***
「『誘拐犯がミイラの人形を置いた。それがこの事件の真相だ! 』…か。なんかこれもしっくりこないなぁ…」
チアキはスマホをスクロールして【今話題の『血無し事件』の真相、徹底考察!! 】と言うネット記事に眉を顰める。
「何でみんなこんなの信じるんだろ。"血無し事件" とかただのフェイクニュースでしかないのに……」
コメント欄も『宇宙人説』、『薬品実験やろ』と騒がしいがチアキの目には冷たく映ってる。
ため息をついた彼女はホームボタンを押してネット記事から待ち受け画面に戻す。
毎日毎日周囲に囁かれている"血無し事件"。
頭の中ではただの嘘だと分かっている。しかし、胸の内側には僅かな冷たさが広がりつつある。
「まぁでも"火のないところに煙はない" って言うしなぁ… もしかしたら変質者とかいるかもだし気を付けとこ」
己に言い聞かせるように呟いた彼女はスマホをポケットにしまい、視線を目の前の道に向けるーーー
「そう言えば、あの柳はいったい………ん?? 」
視線を前に向けた瞬間、歩いていた足がピタッ止まってしまった。
いや、より正確に言えば『目の前にいる人物』が視界に入った途端、固まった。
「………何、あの人…??」
チアキの目の前の人物ーーー
黒づくめの男が夕陽に照らされながら腰を下ろしていた。
「…妖気の匂いがする」
男がポツリと呟く。
「やはりこの辺りに出やがったな」
黒いスーツと黒いネクタイ、黒のメガネのというまるでカラスの様に全身真っ黒なその姿からは不吉さを感じさせる。
しかし、そんな真っ黒な全身より目を引くのは男の髪。
髪先が肩につくほど男性にしては長いその髪はまるで紙や雪の様に白い。チアキの記憶上、こんな長さと色の髪の人物は見たことがない。
チアキは男の容姿に違和感を抱くがそれを上回っているのは"男の行動" 。
まるで犬か何かの様に鼻をヒクヒクと動かしては辺りの匂いを嗅いでいる。
時折、手を地面に擦りつけて指を鼻に近づけては『スンスン』と嗅いでは「匂うな」と呟いている。
服装と行動、全てに違和感を抱いた彼女の表情は完全に歪み、男に目が離せなかった。
(変質者……!? やばい、関わったらダメなやつだ…! )
彼女は顔を引きつらせながら物音立てずにゆっくりと踵を返そうとする………が。
「おい。そこのお前」
背後からの声に心臓が飛び跳ねる感覚を感じ、足が凍りつく。
ぎこちなくゆっくりと顔を後ろに向けると、男は不機嫌そうな鋭い目でチアキの顔をじっと見ている。
「ちょっと聞きてえことが…『しっ! 失礼しましたぁ!! 』…は?? 」
男が口を開いたその瞬間、チアキは両手で鞄を抱えて全速力で走る。家とは逆方向でも、頭は逃げることだけ。
「に、逃げなきゃ…! とにかく遠くに…!! そして警察に…!!! 」
息も絶え絶えになりながらもただひたすら前へ進むことを意識しながら駆け抜けるチアキ。
ーーーその瞬間。
「ちょっと待てお前」
「うおおおおお!? 」
飛び越えて来たのか、揺れ動く彼女の視界の上から白髪の男が舞い降りた。
チアキは急ブレーキをかけ、転ぶ。痛みに顔を歪ませ見上げると、男が鋭く見下ろしている。
「ヒッ…! 」
喉から小さな悲鳴を出すとそのまま後退りして距離を取るが白髪の男はゆっくりと歩み寄って距離を縮めてくる。
一歩、また一歩と男が近づいてくるにつれてチアキの顔はどんどん青くなり、額から冷たい汗が滲む。
「な、何ですか……? わ、わ、私をどうする気なんですか…? 」
もう逃げられないことを悟った彼女は涙を浮かべ恐怖心と共に震えが強くなっていく。
そして男はーーー
スーツの内側に手を入れてカードの様な一枚の紙を指の間に挟んで取り出すとチアキの前に出す。
「………はい?? 」
「いや受け取れよ。これ名刺なんだから」
「は、はぁ……」
名刺を出すというやけに礼儀正しい行動(渡し方は雑だが)にチアキの恐怖心はわずかに薄れ、両手で受け取ってそれに目を通す。
そこには一羽のカラスのイラストとーーー
【怪奇現象専門研究家 墨羽くろう】
「か、怪奇現象専門研究家…? 」
「そ。要するにオカルト研究家」
白髪の男、『墨羽くろう』の目は刺すように鋭く、ただ見つめるだけでも緊張感が背中が冷たくする。
冷や汗をかきつつ、チアキは恐る恐る彼に質問を投げかける。
「そ、それでオカルト研究家さんが私に何のようですか…? 」
「ああ、聞きたいことがあってな。"血無し事件" について何だが…」
「ち、血無し事件…? あれとオカルト研究家に何の関係が…」
するとくろうの見るチアキの目が細くなり、嘲りの含んだ言葉を続ける。
しかしーーー
「まさか、犯人が妖怪だとか言いたいんですか? って、そんな訳…『そうだが? 』…へ?? 」
「俺はあの事件は妖怪の仕業だと睨んでる」
チアキは言葉を即座に遮られ目を大きく見開く。くろうはそんな見開かれた彼女の目をまっすぐ、そして鋭く見つめている。
「い、いやいやいや! 妖怪なんている訳ないじゃないですか!! 今は令和の時代、科学が進んでるこの世にそんなのが…!! 」
身振り手振りで叫ぶチアキ。
しかしーーー
「………だから? 」
「え……?」
彼女の叫びや動きはくろうの一言でピタリと止まる。
「今は令和。今は科学や技術が進んでる。今は何でも説明がつく。それはよーく分かった」
チアキとは対照的に必要最低限の動きで続けるくろう。その洗練された動きにチアキは目が離せなくなる。
「………だが、そんなのは関係ない。科学や技術、論理などでは説明できねえ妖怪なんざごまんといる」
くろうは自分を見つめる彼女の目を鋭く睨み返す。
そんな彼にチアキは口では反論するが身体は後ろへと距離を取る。
「で、でも…誰も妖怪なんて見てないし、信じてないですよ…」
「…人間が勝手に見ようとしなくなっただけだ」
彼の言葉を聞いた瞬間、チアキの背筋に冷たい感覚が襲う。
ーーー自分もかつて、妖怪を信じて、夢中になっていた。しかし、年齢を重ねるにつれて信じなくなっていって、次第に忘れつつあった。
くろうの一言はそんな自分の過去を見透かされたかの様に彼女の胸に突き刺さる。
「妖怪はまだいる。この世の至る所にな………」
ふらつく足でへたり込む彼女をくろうは見下ろす。
その目はまるでこの世のものではないかの如く吸い寄せられる。
「でっ、でも! 私は妖怪なんか…! 」
大量の冷や汗を流し、声を張り上げるチアキ。
ーーーしかし、その瞬間。
"バサバサバサバサッ!! "
「キャッ!? 」
響き渡る羽音に囲まれて反射的にしゃがみ込むチアキ。
「ガーッ! ガーッ!! 」「ギャアッ! ギャアッ!! 」
「…な、何だ。カラスか…」
しわがれたカラスの鳴き声と降ってくる黒い羽にチアキは胸を撫で下ろす。
ーーーしかし、
「なっ、嘘だろ…!? 」
彼女とは対照的にカラスを見るくろうは切羽詰まった表情。
「野郎…! 急ぐぞ!! 」
そして彼は突然チアキに背を向けて風の様に駆け出す。
「えっ!? ちょ、どこ行くんですかぁ!? 」
くろうの突然の行動にチアキも慌てて後を走った。
***
「ハァッ…ハァッ… やっと追いついた… 何で急に走り出して…」
数メートル離れた場所。立ち止まっているくろうの背中を見たチアキはヨロヨロと向かう。
しかし、くろうは彼女に視線を向けず前を見据えている。
「あれ…? この道って…」
チアキはくろうに近づきながら周囲を見るとそこに既視感を感じる。
「あっ! 思い出した。ここ、ハナが通ってた柳の…」
一瞬、目を見開いた彼女が塀の上を見る。
「って、アレ? 」
ーーーしかし、そこには何もない。
数分前、風に揺れていたあの柳の木はまるで初めから無かったかのように消えている。
「へ、変だな。確かにここに柳が…」
「…柳…? 」
「は、はい。確かこの塀の内側に…」
真後ろで呟いた彼女を尻目にくろうが呟くとチアキは右側の塀の上を指差す。
するとくろうは白い髪に指を立てて乱雑にグシャグシャと掻きむしる。
「クソッ、コスい野郎だ…! 話には聞いてたが、まさかここまで妖気を隠しやがるとは…! 」
「な、何の話です…? それに何で急にここに…」
チアキはくろうの隣に立ち、彼の視線の先を見る。
「………え? あのスマホ………」
そこにあるのは画面にヒビが入ったスマホと中身が飛び出しているカバン。
(こ、このカバンとスマホ…ま、まさか…嘘だよね……!? )
まるで放り捨てられたかの様に置かれてる二つの持ち物…そこにぶら下がっているアクセサリーにチアキの鼓動は徐々に早くなっていく。
そして、スマホとカバンの先ーーー
(い、いや…そんなはずない…!! 違う…絶対に違う!! )
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
"うつ伏せで倒れている制服姿の女性" を見てチアキの全身に汗が噴き出て、呼吸もどんどん荒くなる。
袖の下から覗くその肌は不自然なほど皺だらけかつ色白で、痩せ細っている。
ーーーまるで"血でも抜かれた" かの様に。
くろうは慎重に倒れている女性に近づいて彼女の向きを変えて顔を上に向ける。
チアキはその顔をーーー
「ッ!? いやぁあぁああぁああぁぁああ!!!! 」
"ハナの顔" を見た瞬間、空に反響するほどの叫び声を上げる。
「は、ハナ…!? な、な、何で…!? 」
何かを言おうと口を動かしても、喉が詰まって何も言えないチアキ。
「…こりゃあ、間違いねぇ」
痩せ細ったハナの顔と先ほどチアキが指を差していた"柳があった塀の内側" を交互に見やりながらくろうは呟く。
「カァ… カァ…」「ギャァア… ギャァア…」
カラスの鳴き声とチアキの絶叫が響き渡る中、くろうの目が鋭く光る。
「妖怪の仕業だ…」
逢魔が時。夕陽に照らされたカラスが鳴きわめく街の下ーーー
"妖怪" が再び現れた。
【一話目完 第二話目に続く】