9.届けられた宅配便
「もしもし。ああ、たーさん、お久しぶりです。設立時は、お世話になりました。」
「こまめ、ああ挨拶はいい。実は、困ったことになった。何者かが宅配便で妙なものを送ってきた。」
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
島代子・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。
飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。
貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。
西川稲子・・・代子と塔子の、プログラマー修行時代の仲間。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
橘吉右衛門・・・府会議員。芸者ネットワークのスポンサーの1人。
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※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。
現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。
※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。
リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子である。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。
※下鴨文化村
鴨川と高野川が分かれる鴨川デルタの北に広がる京都市左京区下鴨は、京都市内でも有数の高級住宅地として発展を遂げました。住民には文化人も多かったことから、独自の文化が醸成された街でもあります。
午後2時半。芸者ネットワーク本部。
固定電話が鳴った。受話器を上げようとした稲子を制して、代子が出た。
「もしもし。ああ、たーさん、お久しぶりです。設立時は、お世話になりました。」
「こまめ、ああ挨拶はいい。実は、困ったことになった。何者かが宅配便で妙なものを送ってきた。」
「妙なもの?なんどす?」「骨壺だ。」
「骨壺?」「ああ。墓に納骨する方では無くて、『喉仏』の方だ。」
たーさん、とは、代子が贔屓にして貰って、お座敷に読んで貰っていた上客の、橘吉右衛門、今は府会議員だ。
「嫌がらせどすか?」「ああ、君は警察と懇意なんだろう?内々に調査・処分を打診してくれないか。私から直接頼むと、後が厄介だ。」
「分かりました。取り敢えず、預かりに伺いましょう。その宅配便の箱のまま、他の大きな箱にくるんで下さい。」
電話を切ると、塔子と稲子が寄って来た。
事情を話すと、「私が行って来るわ。稲子、後、お願いね。」と塔子が言った。
塔子が出掛けると、代子はIP電話で東山署を呼び出した。
幸い、電話の相手は、署長の神代だった。
「分かりました。箱や遺骨に異常が無ければ、遺失物として生活安全課で保管します。その場合は、どこか草むらで拾ったことにして、おたくの誰かが届けを出して下さい。議員が出すと、ややこしくなる。」と、返事が返って来た。
午後4時。ミニパト車中。
楠田が運転、小雪が『たーさん』の家を案内した。合流した塔子も乗っている。
「小雪ちゃん、チエちゃんは?」と塔子が尋ねた。
「四条烏丸。立てこもり犯が出たから。」「そう。ごめんね。手伝わせて。」
「ええのよ、ウチも、ターさんによう呼ばれたさかい。」
午後4時半。左京区下鴨。
橘家から少し離れた所にミニパトは駐車。付近の住民を慮って、小雪は塔子と橘家を訪れた。
「小雪。塔子さん、久しぶりだな。まあ、上がってゆっくり・・・という訳にもいかないか。」
少し大きめの宅配便用の段ボールを受け取った2人は、交替で持って、ミニパトに戻って来た。
「嫌がらせにしても、今のタイミングとはねえ。選挙はまだ先なんだけどなあ。」と、楠田は言った。
午後5時。東山署。
3人は、箱を署内に持ち込み、署長は小雪と塔子に感謝した。一旦、遺失物保管庫に収納し、鑑識が明日調べることになった。遺失物は、所轄の警察署で1ヶ月保管された後、不明のままなら、『警視庁遺失物センター』に運ばれ、3ヶ月間保管されることになっている。
午後7時。
遺失物保管庫から火が出た。
幸い、ボヤで済んだが、マスコミに『保管体制』を問われることになった。
―完―
3人は、箱を署内に持ち込み、署長は小雪と塔子に感謝した。