38.正月休み
「ホンマにええんどすか?」
「いいのよ。病院は年末年始、お休みだから、代子も、ずっと出社するし。三が日は、あたしらも休むし。」
「もう、切符取ってあるの?」「はい。クリスマスの昼です。」
「夜は、混むよね。」
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
橘[島]代子・・・仕事上、通称の島代子で通している。「有限会社芸者ネットワーク代表」改め「Geikoネットワーク」。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩。芸妓の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。
飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。カムフラージュの為、タウン誌『知ってはる?』を発行している。
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
烏丸まりこ・・・Geikoネットワークの事務員。
貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。
西川稲子・・・代子と塔子の、プログラマー修行時代の仲間。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
代子は、芸妓の先輩。
小鹿・・・小雪同様、代子の後輩。
神代チエ・・・東山署刑事。『暴れん坊小町』で知られる。
刑部政男・・・京都地検特捜部所属。
灘康夫・・・京都府知事。
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※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。
現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。
※この物語に登場する『芸者ネットワーク(本作からGeikoネットワーク)』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。
会社名は『スポンサー』の一人、橘吉右衛門が命名した。
リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子である。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。
午前9時。Geikoネットワーク。
烏丸が恐縮している。
「ホンマにええんどすか?」
「いいのよ。病院は年末年始、お休みだから、代子も、ずっと出社するし。三が日は、あたしらも休むし。」
「もう、切符取ってあるの?」「はい。クリスマスの昼です。」
「夜は、混むよね。」
烏丸の実家は滋賀県である。
近郊と言えば近郊だが、滋賀県から通勤はキツいのだ。
そこに、刑部が入って来た。
「先日は、どうもありがとうございました。」
「私らは、情報の中継ぎやから。刑部さんは、『御用おさめ』?」
「意地悪言わんといて下さいよ、塔子さん。ほな、これで。」
刑部が帰ると、「失恋男は辛いわなあ。」と塔子が言い、稲子も「辛いワナア。」と続けた。
入って来た小雪が困惑した。
「辛い?何が?」
「あれ?小雪ちゃん、『事始め』は?」
「それは一昨日。12月13日。どす。」と小雪は、済まして行った。
午後1時半。
代子が出勤すると、東山署のチエから電話がかかってきた。
チエからは、短い『業務連絡』だった。
午後2時半。
府知事の灘が顔を出した。
「御用納め、いや、仕事納めですか?」
「ん?ああ、府議会の閉会なら17日。明後日だよ、こまめちゃん。橘、どうしてる?」
「相変わらずどす。」
「そうか。来年もよろしくな。会社名、こっちの方がいいね。じゃ。」
「お忙しいとこ、ご苦労さんどす。」
「親友が心配でも、なかなか自由がきかないとこが、偉いさんの辛いとこやね。私、稲子と機関誌配ってくる、何かあったら、電話して。」
灘知事は、代子と結婚した、たーさんこと橘と、議員になった時の同期である。
だから、先日も、代子の為に、代子の知り合いの入院先を決めてくれた。
それで、挨拶に来ることになったのだろう。
灘は、橘同様、恩着せがましい所がない。
そのことが、かえって「けむたい」連中に敵を作る。
世の中、悪い人間の方が多いような気がする。
午後3時半。
小鹿と連れだって、小雪が帰って来た。
4人で『やつはし』を食べた。
代子の好きなのは、抹茶味だった。
午後5時半。
烏丸の帰った後、塔子が迎えに来て、代子は帰った。
無人の事務所に電話が鳴っていた。
―完―
※事始め (十二月十三日)
事始めは江戸時代から京に伝わる古いならわしで、煤払いをして正月の支度を始めることから、正月起こしともいったようです。
祇園甲部では芸妓・舞妓さんが一重ねの鏡餅を持ち、京舞の井上八千代師匠のもとへ、一年のしめくくりと新年にむけての挨拶にいきます。
八千代師は「おきばりやっしゃ」という言葉とともに一人ひとりに舞扇を手渡します
「先日は、どうもありがとうございました。」
「私らは、情報の中継ぎやから。刑部さんは、『御用おさめ』?」
「意地悪言わんといて下さいよ、塔子さん。ほな、これで。」




