3.『舐めたらあきまえへんえ。』
「ねえさん、これ、ここでええのね。」
『店開き』には、小豆こと島代子の後輩の芸者が勢揃いしていた。
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
島代子・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。
飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。
戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。
貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。
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※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。
現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。
※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。
リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子である。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。
半年前。午後1時。芸者ネットワーク本部。
「ねえさん、これ、ここでええのね。」
『店開き』には、小豆こと島代子の後輩の芸者が勢揃いしていた。
故あって、置屋の休業日なので、これ幸いと、代子を手伝いに来ていたのだ。
勿論、言い出したのは、小雪だ。小雪の他に、小鹿、小夏、小梅、小菊。同じ置屋の芸者勢揃いだ。
代子の作った、事務所の配置図を元に、瞬く間に普段着の後輩は、様々なものを配置した。
電気製品でも、力を合わせた女の力は強い。
最後に花が飾られた。
おかあさん、と呼ばれる置屋の女将さんからだ。
塔子が遅れてやって来た。
「あらあ、もう終っている?」
「塔子、皆と手巻き寿司食べましょ。」
回想にふけっていると、事務員の烏丸が声を掛けてきた。
「何か、男の人の声で、病院がどうとか、連絡先がどうとか、言っていますけど。」
代子が替わると、ある病院の事務員からだった。塔子が交通事故に遭ったらしい。
「まりちゃん、タクシー、呼んで。あ、介護タクシーね。」
烏丸は、急いで介護タクシーを呼び、自分も同乗した。
午後2時。姉村病院。手術室前。
手術が終わり、担当の女性医師が出てくる。
「あなたが島さん?手術は成功しましたが・・・。」
午後4時。病室。
「本人が話をしたいと・・・。」看護師が呼びに来た。
小町が代子の車椅子を押して病室に入った。
「塔子。」
「代子。ごめんなさい、社長。私、もう女の子じゃなくなっちゃった。お母さんにもなれないらしい。退職します。仕事出来ないし。」
「何言ってんの!退職なんて許さへん。あんたは、ウチの『相棒』やないの。出勤札は外さへん。休職や。休職するんや。養生するんや。社長命令やで。」
塔子も代子も、小町も立ち会った医師も看護師も泣いていた。
予め、代子は塔子の体のことを医師から聞いていた。
将来、車椅子生活に移行しなくて済むかも知れない。
だが、全身打撲だけではなく、『子宮裂傷』だと医師は言った。
子宮頸管裂傷とは、子宮頸管に 裂傷 れっしょう (裂けてできた傷)が起こることである。
打撲は、回復修復出来ても、もう子宮は修復出来ないだろう、と。
塔子は妊娠していた。交際していた外国人は、わざと轢き逃げし、領事館に逃げた。
目撃者は、何人もいた。所謂『外交特権』で、『治外法権』の為、警察は事情聴取さえ出来ない。
塔子は、交際相手の浮気をなじった為、乱暴な報復を受けたのだ。
立ち上げた、芸者ネットワークは、開店休業が続いた。
代子が、家から出なかったからだ。
ある日、女将さんがやって来た。
平手打ちをし、帰って行った。幾つもの新聞の切り抜きを貼ったスクラップブックを遺して。
代子は、車椅子に乗ったまま、自動車の所まで行った。
余り知られていないことだが、車椅子生活の身体障害者も自動車の運転は出来る。
運転免許証には『眼鏡等』の他に『アクセルブレーキは手動式の AT車に限る』という条件がついている。
初めは苦労した代子だったが、今は難なく自動車に移動し、1キロ先の事務所に向かう。
事務所に行くと、女将さんが手配した、烏丸という事務員がいた。
女将さんの、遠い親戚だと言う。
事務所は綺麗に片付いていた。
小雪が、寿司を持ってやって来た。
戸部チエを紹介された。
皆で寿司を頬張りながら、代子は、芸者ネットワークの方向性を変えた、と2人に告げた。
「悪人ども。舐めたらあきまえへんえ。」と思わず口走った代子に、2人は唱和した。
「舐めたらあきまえへんえ。」
―完―
運転免許証には『眼鏡等』の他に『アクセルブレーキは手動式の AT車に限る』という条件がついている。