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29.後難(こうなん)

「こんにちは。」刑部が顔を出した。

「あ。ちょっと、待って。」塔子は、電話を保留にした。


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 島代子しまたいこ・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。

 飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。カムフラージュの為、タウン誌『知ってはる?』を発行している。

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。

 貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。

 西川稲子・・・代子と塔子の、プログラマー修行時代の仲間。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 刑部政男・・・京都地検特別刑事部の警部補。


 =====================================


 ※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。

 現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。

 ※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。

 リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子しまたいこである。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。

 尚、会社名は『スポンサーが命名』したと言われている。

 ※五山送り火は、毎年8月16日に京都府京都市左京区にある如意ヶ嶽などで行われるかがり火。宗教・歴史的な背景から「大文字の送り火」と呼ばれることがある。

 ※「後難」とは「あとになって起こる災難」で、「御難ごなん」と混同されやすい。

「ごなんをおそれて」ではなく、「こうなんをおそれて」が正しい言い方。



 午前9時。芸者ネットワーク本部。

「こんにちは。」刑部が顔を出した。

「あ。ちょっと、待って。」塔子は、電話を保留にした。

「刑部さん、助けて。『五山送り火』襲撃未遂事件の事で、南区吉祥院の『おやど。きち』の女将さんが申し訳ない申し訳ないって、言うてはるんやけど、ご存じの通り、攪乱の為の脅迫の手紙やったから、女将が悪い訳やない。代子は、今日は欠勤なんです。」

「お電話変わりました。え?五山送り火の件ですね。相手がずる賢かっただけですし、事件は解決したようですよ。え?私?関係者ですが。女将さんには、気になる情報を流して貰って、こちらで取捨選択しますから、気になさらないように、と言付かっております。はい・・・はい。よろしくお願いいたします。」

「欠勤・・・ですか。」

 刑部の問いに、「スポンサーの1人が・・・いえ、恋人ががんで、時々世話に行っているんです。どの道、私らは警察に情報流しているだけですけど。」と、稲子は正直に言った。

「情報を流しているんですか?」

「稲子。刑部さんに、そこまで言ったらアカンよ。まあ、代子のこと好きな刑部さんには、恋人のことはショックかも知れんけど。」

「まあ、ショックですけど、スポンサーさんなら、あり得るな。それで、流しているのは東山署ですか。立場上は、特定部署の連携は注意しなくちゃいけないんですけど、神代警視のところですよね?」

「ええ。じゃあ、その件は聞き流します。警視は、数年以内に警視正になられる筈ですし。」

「そうなんですか?」

「それも、流したらアカン情報と違いますん?」と、入って来た小雪が言った。

「あ・・・聞き流して下さい。じゃ。」

 刑部が出て行くと、「特捜部って、暇なんかしら?」と小雪が首を捻った。

「塔子さん、これ。」と、小雪がメモを塔子に渡した。

「病院はスマホ使う場所限られているからね。」塔子は、メモを押し頂いた。

「それにしても、イケズやわ、大阪府警。陽動と分かって、『ほら見ろ』って言うたらしいわ。」

「ほら見ろ?陽動って分かったのは、結果論やんか。」と、稲子は憤慨した。

「これ、みんなで食べて。」

 小雪は、『そばぼうろ』を烏丸に渡して帰って行った。

 ※蕎麦ぼうろは、実は京都生まれ。 ぼうろ(ボーロ)は、1570年頃にポルトガル人によって伝えられた南蛮菓子のひとつ。 当時は、小麦粉に砂糖を加え、練って焼いたものだったそうですが、京都に根付くとともに蕎麦粉と卵を加え、和菓子としての進化を果たしました。「パン」も実はポルトガル語。あまり知られていません。英語ではありません。また、一説に寄ると、「先斗町ぽんとちょう」と言う地名もポルトガル語の「先端(ponto)」が由来。諸説ありますが。

 ※蕎麦ぼうろが体に悪いと標榜する人がいますが、「過剰摂取」の話。

 どんな低カロリー食品・飲料でも「過剰摂取」すれば体に悪いの当たり前の話。

 私見ですが、〇〇ダイエットという、一点摂取は、過剰摂取と同じく、体に悪い摂取方法。大抵失敗するのは、一点だから。


 ―完―


「欠勤・・・ですか。」

刑部の問いに、「スポンサーの1人が・・・いえ、恋人ががんで、時々世話に行っているんです。どの道、私らは警察に情報流しているだけですけど。」と、稲子は正直に言った。


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