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19.身代わり

車椅子に座った女性。その女性の車椅子を押して来た男性。

「それじゃ車椅子や無くて【くるま死す】やな。」

後方からやってきた男が拳銃を構えた。


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 島代子しまたいこ・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。

 飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。

 貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。

 西川稲子・・・代子と塔子の、プログラマー修行時代の仲間。

 小雪(嵐山小雪)・・・舞妓を経て、芸者をしている。神代チエの小学校同級生であり、代子の芸者後輩。


 刑部政男・・・京都地検特別刑事部の警部補。


 =====================================


 ※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。

 現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。

 ※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。

 リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子しまたいこである。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。


 ※引き抜き[衣裳]

 引き抜きは、観客の眼前で一瞬にして衣裳を変化させる仕掛けです。

 引き抜きにもいろいろ種類があるのですが、よくみられるのは「かぶせ」と呼ばれるしかけです。衣裳の上に別の衣裳をかぶせるように重ねておいて、舞台上でかぶせた衣裳を瞬時に取り去ります。舞踊でよく行われ、『京鹿子娘道成寺』では、主役の白拍子花子の衣裳が引き抜きによってどんどん変化していきます。

 仕掛けのタネは、とてもシンプル。衣裳の袖や裾などを太い糸で荒く縫っておき、舞台上で後見こうけんがタイミングよく糸を抜いていくのです。この糸は、きれいにすっと抜けなくては流れをさまたげてしまいますから、縫う荒さなどを後見と衣裳の担当者が相談し調整しています。息を合わせた動きが必要な後見は、演者の弟子がつとめます。

 ※貴船神社に行かない方がいいと言われる理由

 貴船神社に行ってはいけない人の特徴とは?霊感・縁切りの噂と、貴船神社の霊的エネルギーは非常に強力だと広く知られています。 このため、霊感が強い人には特に注意が必要です。 理由は、一部の人が強い霊的影響を受け、体調不良を訴えるケースが報告されているからです。 頭痛、めまい、吐き気といった具体的な症状が現れる場合もあります。


 午後6時。貴船神社。【新緑ライトアップ】されている付近。

 車椅子では、階段を上り下り出来ない。

 笑い声が聞こえた。

 車椅子に座った女性。その女性の車椅子を押して来た男性。

「それじゃ車椅子や無くて【くるま死す】やな。」

 後方からやってきた男が拳銃を構えた。

 男性が、180度車椅子を乱暴に後方に向けた。

 車椅子に乗った女性が和服の【引き抜き】をし、ジャンプして、男に『かかと落とし』をした。

 一瞬の出来事だった。

「公務員に残業さすなよ。」神代チエは、そう言って、笑った。

 遡って、午後1時。

 刑部が、脅迫状を読んでいる。「上町の仲間かも知れませんね。立花さん、確か引退されたのでは?」

「ええ。もうどこの議員にもならないから、皆安心して選挙に臨めるだろう、と笑っていたんですが。」

「補欠選挙。明日ですね。立候補しない人間を何故狙うのかな?」

「風見さんは、立花さんの同期なんです。立花さんがまだ後援していると勘違いしているのかも知れません。」

「殺しておいて、揺さぶりをかけるんですか?粘着質ですね。では、我々は警護するんですか?」

「いえ。『援護』して欲しいんです。今夜、貴船神社の、【新緑ライトアップ】の青紅葉をたーさんと観に行きます。それを、後輩芸者に『拡散』させます。」

「話が見えませんが・・・。」

 午後5時半。貴船神社。

「ホンマにエエんどすか?階段上りおり、できまへんえ。」

 小雪他の芸者達が、車椅子の女性に挨拶をして去って行く。

 バイクで来た男が、じっと、その様子を見ていた。

 辺りが暗くなって来た。ライトアップがまぶしく見える。

 男が、バイクを降りて、ゆっくりと近づいて行く。

 午後7時半。代子の自宅。

 代子がシャワーから戻ると、電話の留守番電話のランプが点滅していた。

 再生ボタンを押した。

「ねえさん、成功どす。流石、チエちゃんや。警部からも政治ゴロゴロ捕まえた、って連絡が事務所に来ました。それと、たーさんは、無事カナダに旅立ちはったみたい。さみしおすなあ。また、明日。可愛い妹分、小雪どした!!」

 代子は、ワインをグラスに注ぎながら、笑った。

 やっと、緊張が解けた。

 たーさんこと立花のことも、『捕り物』も気に掛かっていたが、車椅子での『入浴』は大変な重労働だ。

 稲子や塔子がいれば手伝って貰うが、今日は1人でいたかった。

 代子はSNSの同報通信で、塔子と稲子と烏丸を呼び出した。

 無性に声が聴きたくなった。勝手な社長だな、と思いながら。

 ―完―




ねえさん、成功どす。流石、チエちゃんや。警部からも政治ゴロゴロ捕まえた、って連絡が事務所に来ました。

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