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14.喫茶店強盗

事務所の電話が鳴った。まりこが取ったが、すぐに塔子に目で合図し、塔子は転送された受話器を取った。

「ああ。玲ちゃん。どうしたの?」

「塔子ねえさん、助けて。」


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 島代子しまたいこ・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。

 飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。

 貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。

 西川稲子・・・代子と塔子の、プログラマー修行時代の仲間。


 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。

 権堂玲子・・・塔子の従妹。塔子と喫茶店を共同経営していたが、塔子が芸者ネットワークに参加したので、オーナーになった。


 =====================================


 ※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。

 現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。

 ※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。

 リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子しまたいこである。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。

 ※京言葉【「おいでやす」と「おこしやす」の違い】

「おいでやす」は、一見の客や不意の客に対して使う。

「おこしやす」は、事前に約束をしていたり、心待ちにしていたりする客に対して使う。「いちげんさん」と「おなじみさん」を区別している。店の入口の従業員が、奥の従業員に区別して合図すると言われている。


 午後3時。芸者ネットワーク本部。

 事務所の電話が鳴った。まりこが取ったが、すぐに塔子に目で合図し、塔子は転送された受話器を取った。

「ああ。玲ちゃん。どうしたの?」

「塔子ねえさん、助けて。」

 異変を感じた塔子は、IP電話を取った。

 代子が、向こうで頷いている。

 午後4時。山科区。京都東IC近くの喫茶店「おいでやす おこしやす」。

 京都らしいネーミングの名前だが、オーナーの権堂玲子も従姉の塔子も東京の人間である。

 代子に教わった、京言葉を店の名前にした。

 チエは、「喫茶店強盗」かと思ってかけつけたが、どうも様子がおかしい。

 店の隅の方にカレンダーがあり、そこには、六曜が書かれている。

「だから、『tomobiki』とは、友達が地獄に落ちる日なのですか?」と、アメリカ人らしい観光客が従業員と玲子に尋ねている。

 特殊な言葉だから、ネット検索しても分かり辛い日だ。

「東山署の戸部チエ警視です。何かお困りですか?日本語はお上手のようですが?」

「友達が地獄に落ちる日なら、友達も自分自身も外出出来ないのですか?」

「” Japanese era name” 元号、分かりますか?」名刺を出しながら、チエは尋ねた。

「エンペラーの『在任期間』ですよね。亡くなってから交替することが多いけど、今のエンペラーは『交替』ですよね。」と、彼も名刺を出した。

「ああ。ジャーナリストさんですか。ジャーナリストでも文化を熟知していない場合もありますね。じゃ、大正時代はご存じですよね。」

「ええ。今は令和、逆に戻っていくと、平成、昭和、大正。3つ前の時代ですね。」

「その通りです。この2文字の漢字で表す表現は、実は、大正時代に流行った『占い』なんです。」

「 “Fortune telling”・・・占いですか。」

「あなたは、星占い、どの程度信じますか?」「私は信じない・・・ああ、信じる人には重要だが、そうでない人には重要でない、ということですか。」

「友引とは、ラッキーに拘る人が作った『伝説』です。漢字から連想してね。違う漢字なら違うことを言うでしょう。人が亡くなった人と重なると、他の人も亡くなるというのは、所謂「デマ」、Hoaxです。その日のお葬式を避ける人が多いですが、クリスチャンには関係ありません。地獄から怪物が出てくる訳ではありません。」

 ジャーナリストは、熱心にメモを取り、店の従業員にもチエ達も丁寧に礼を言って帰って行った。

「先輩。私達、要らんかったみたいですね。」

「ん?まあな。帰ろうか?」

 午後4時。芸者ネットワーク本部。

 塔子と稲子とまりこが大笑いしている。

「出掛ける準備、要らなくなったわね。ごめんね、代子。」

「たまにはエエんとちゃう?チエちゃんは、外国語堪能だけやないから、助かった。流石、京大出や。」

「京大卒業しはったんですか、警視さん。」と、まりこが目を丸くした。

「うん。京大出の斎王様や。まりちゃん、タマキンさんのあずきバー、送っといて、東山署に。署長さんの好物らしいから。」

「了解です。」

 電話が鳴った。

「はい。芸者ネットワーク。」と、代子が受話器をとった。

 ―完―








「先輩。私達、要らんかったみたいですね。」

「ん?まあな。帰ろうか?」


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