13．狙われたパンケーキ屋
事務所の電話が鳴った。まりこが取ったが、すぐに代子に目で合図し、代子は転送された受話器を取った。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ この物語はあくまでもフィクションです ＝＝＝＝＝＝＝＝＝
============== 主な登場人物 ================
島代子・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。後輩達には堅く口止めしてあるのだ。
飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。
戸部（神代）チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。
貴志塔子・・・代子がプログラマー時代、組んでいた相棒。ネットワークシステムは、2人の合作だ。
西川稲子・・・代子と塔子の、プログラマー修行時代の仲間。
茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
小雪（嵐山小雪）・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。
楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
橘吉右衛門・・・府会議員。芸者ネットワークのスポンサーの1人。代子は「たーさん」と呼んでいる。
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※京都には、京都伝統伎芸振興財団（通称『おおきに財団』）と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。
現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の５つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。
※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。
リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子である。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。
午後3時。芸者ネットワーク本部。
事務所の電話が鳴った。まりこが取ったが、すぐに代子に目で合図し、代子は転送された受話器を取った。
「何や、小雪ちゃん。どうしたん？スマホでも良かったのに。」
「それが、ねえさん。スマホ、ひったくりに遭って取られたの。トイレから出たら、学生っぽい男の子に。これからお座敷やのに。どないしょう？チエちゃん、話し中やったから。」
「今、どこにおるん？」
「パンケーキ屋さん。祇園白川の『くらがり通り』に出来た、『パンケーキふっくら京都』。」「警察には？」「まだ。」「何やの、アンタらしくもない。東山署に電話してみる。」
代子は、稲子が差し出した、IP電話の子機を持った。
相手はすぐ出た。東山署の神代署長だ。
事情を聞くと、神代は、「今、ケータイショップで機種変更中ですわ、チエは。連絡あったら、店に行かせます。店の名前、もう一度教えて下さい。」と応えた。
「祇園白川の『くらがり通り』。『パンケーキふっくら京都』です。」
「塔子が今、車、用意しているから。」と、稲子が言った。
そして、「まりちゃん、留守お願いね。」と烏丸に声をかけた。
代子は、普段通勤は、身障者用の自動車に乗っているが、塔子や稲子と外出する時は、彼女達の自動車に乗せて貰う。所謂『車椅子運搬車』だ。」
午後4時。『パンケーキふっくら京都』。
警察官が、店員と小雪、双方に事情を聞いている。
よく見ると、東山署の中町巡査だ。
「どうやら、小雪さんが芸者さんからか、小雪さんのスマホを狙っていたかのどちらかの「ようですね。お店はオープンしたばかりで、お店への怨恨は考え難い。『いちげんさん』のようだし。」
代子達が中町や小雪から話を聞いていると、チエがやって来た。
「あ。警視。ご苦労様です。スマホの機種ですが・・・。」
「これと同じ。ウチと小雪ちゃんのスマホで違うのは、ストラップ。スマホケースに付けてあるのは・・・これや。」
今度は、チエはスマホの中の写真を見せた。
「スマホリストリング”、スマホストラップリング、ハンドリングとか言われている、ブレスレットや。スマホの値打ちあるが、日本にしかないアクセサリーや。町ヤン、ブランド買い取り店に手配して。あ、ウチがするわ。」
チエは、新しいスマホから、父である神代警視正に電話した。
「分かった。そこから4キロ四方の買い取り店を臨時休業させる。1軒覗いてな。」
午後5時。京都観世会館近くの、買い取り店。
「もう、閉店ですけど。」「1個だけやから、エエやろ？」と言って、その客はポケットからブレスレット付きスマホを差し出した。
「はい。終了。」
その『女子大学生』の腕に冷たいモノが填まった。
「あんた、そのブレスレットの方がお似合いやな。署で、おねえさんが可愛がったるわ。」
その後、確認書類にサインをした小雪は、スマホを取り戻し、お座敷に出掛けた。
午後7時。代子のマンション。
パンケーキに蜂蜜をかけて食べている代子のスマホが鳴動した。
「チエです。ゲロったで。近くの短大の学生やったわ。オンラインカジノで、すったらしいな。何か金目のものって、探していたらしい。親、泣いてるで。」
チエが父親の分も買っているのを見た代子は、ファザコン丸出しのチエに感心した。
固定電話が鳴った。
「ああ、たーさん。」「こまめ。パンケーキの旨い店がえらい評判らしいんやが。」
代子は、苦笑しながら、スポンサーの1人の橘の話を『初めて聞く風』で聞いていた。
―完―
その『女子大学生』の腕に冷たいモノが填まった。
「あんた、そのブレスレットの方がお似合いやな。署で、おねえさんが可愛がったるわ。」
