第7話 パンケーキ作り
かくしてパンケーキを作るハメになってしまった俺だけど、実はちゃんとした作り方がわからないのだ。
作ったことはあるにはある。
兄弟とホットプレートで焼いた記憶が。
確かホットケーキミックスという粉に卵と牛乳を入れただけだった気がする。
それを混ぜて焼いただけだったのに普通においしく食べた覚えがある。
俺の記憶が正しければ、あのホットケーキミックスがかなり重要だったのではと考えている。
そしてこの世界では絶対に手に入れられない物だ。
「アサヒさん、こちらに材料を色々揃えてみましたが見ていただけますか?」
村の人たちが手伝いに来てくれていて、みんな興味津々のようで老若男女結構な人数集まってくれていた。
ヤバいぞ…俺が教えなきゃ始めようがない感じだけど、どうしたもんかなぁ。
ん?そうだ!料理が出来るようになるスキルとかあるのかな?俺って冴えてる!
【料理人のスキルがあります。スキル料理人見習いとスキル料理人です】
おぉ!やった!これいいじゃん、今すぐ使えるし。
じゃあスキル料理人に決める!
【スキル料理人を習得するにはスキル料理人見習いの習得が必要です】
え?という事は、残りギフト3個の内2個使わなきゃならないって事か。
うーんどうしようかな。
でもまたレベルが上がればギフトは貰えるみたいだったし、ここで2個使うしかない!
さいわい翡翠もウンディーネと話してるし、翡翠はおそらく料理人スキル獲得に反対するだろうから、何か言われる前に決めてしまおう!
ギフト2個使って料理人見習いと料理人スキルを覚えることに決めた!
すると例の如くまた光った俺は無事料理人スキルを獲得した。
ウンディーネと話してた翡翠が気づいたようだったが聞こえないフリをする。
スキルを得た途端、俺の脳内にパンケーキの材料がひらめいた。
パンケーキの材料 2人分
・小麦粉(薄力粉)160g
・ふくらし粉小さじ2
・ケコの卵 1個(鶏の卵)
・カーウの乳(牛乳) 110ml
・砂糖 40g
・バター 適量
・蜂蜜 適量
おぉ!すごいぞ!(元の世界の材料)とこの世界の材料名に変換されてる!
よ〜し、出来そうな気がしてきた!やるぞ!
「みなさんにお願いがあるんですが、今から言う材料をここに揃えてくださいますか?」
「は、はい!」
みんなも俺の指示通りに材料をボウルに入れて混ぜる。
そして焼く準備に入るけど、実は焼き方にちょっとしたコツがあるんだ。
熱したフライパンを最初だけ濡れタオルの上で冷やす。
そうするとフライパンの温度が熱くなり過ぎず、ふっくらしたキレイな焼き色になるんだ。
フライパンに生地を入れたら弱火で表面にプツプツが出るのを待つ。
焼き目がついてきたらひっくり返して更に2分ほどじっくり焼いて火が通っていればOK。
焼きあがったパンケーキは2枚か3枚を重ねて(それは俺の好みだけど)、バターをひとかけのせて、その上からシロップをかけたら完成だ!
俺でもあっという間に美味しそうな料理が作れてしまった。
スキルってスゲ〜。
『むむっ⁈いい匂いがするぞ!』
ほわっと甘い香りが周囲に広がると、いち早くウンディーネが気づいた。
「お待たせ。パンケーキ、お待ちどうさま!」
テーブルにパンケーキを出してナイフとフォークも並べる。
「まずはウンディーネからどうぞ」
「うむ、さっそくいただくぞ」
ウンディーネがフォークを使って食べようとしたが、俺はハッとした。フォークをパンケーキにブッ刺そうとしてる!
「ちょっと待った、ウンディーネ!」
「ななな、なんじゃ⁈」
ウンディーネはいきなり止められて驚いている。 そりゃそうかもだけど、せっかくだからちゃんとナイフとフォークで食べてもらいたい。
「悪いけど、こうやって食べた方が美味しいんだ」
そう言って俺はウンディーネの後ろに立ち、二人羽織の様になってウンディーネに使い方を教えた。
始めは面倒くさそうにしていたが、『ぱんけえきを食べるにはこの作法なのだな』と何故か納得してくれた。
『むは〜フワフワで甘くてうまいのぅ。こんなに美味なるものじゃったとは夢にも思わなかったぞ』
すごく上手にナイフとフォークを使いこなしてみせたウンディーネはとても満足してくれている。
喜んでもらえたようで良かった。
「では、みなさんも一緒にいただきましょう」
教会の台所は大きかったので、作り方がわかった村の人達と俺は次々とパンケーキを作っていき、順番にパンケーキの試食をした。
いつの間にか翡翠もウンディーネの隣に腰掛けてパンケーキを食べている。
しかもナイフとフォークを使っている。
村の人達も驚いてるみたいだったが、驚いてるのはナイフとフォークを使ってる事のようだ。
俺の従魔ってことをウンディーネがいつの間にかみんなに言ってたらしい。
意外と従魔って存在にこの世界の人は抵抗ないのかもしれない。
…とはいえ翡翠の真のサイズは秘密にした方がいいだろうな。
『ウンディーネの言った通りふわふわでおいしいです、アサヒ様!』
ちゃっかり俺より先にパンケーキ食べてるし。
「バターと蜂蜜って相性がすごく良いですね」
「こんなにおいしい食べ物は初めてです」
司祭様やみんなも口々に絶賛してくれてる。
スイーツにおいてバターと蜂蜜は最強だよなぁ。
「他にもジャムやホイップクリームをのせてもまた違って美味しいですよ。よかったら作り方お教えしますよ」
「ぜひお願いします、アサヒさん」
「新しい村の名物になりますよこれは」
司祭様や村人みんなにも大好評だったみたいでよかった。
『はぁ〜うまかったぞ、今日はもう帰る事にするが、くれぐれも妾への供えを忘れぬようにな』
「ははっ!毎月の始めの日に必ず聖なる泉までお持ち致します」
司祭様がそう告げたのにウンディーネは『フム…』と何か思案しているようだ。
『うむ〜いや…月の始めの日に妾がここへ食べに来る故、準備しておくのじゃ』
「はい?ウンディーネ様から来てくださるのですか?」
『コホン、そうじゃ…焼きたてが食べたいのでな』
そう言って照れくさかったのか『ではさらばなのじゃ!』と言い残してサーッと姿を消した。
「行っちゃいましたね」
「そ、そうですね」
「あの〜こんな感じの解決で本当に良かったんでしょうか?」
実はちょっと心配だった俺は司祭様に聞いてみる。
ウンディーネには分かってもらえたけど、自信はなかった訳なので。
「もちろんです。アサヒ殿がいなければ本来なら有無を言わさず滅ぼされていたかもしれなかったのです。助けていただいたうえに、こんなにおいしい料理まで教えていただき感謝してもしきれません!」
「それとこちらが…今回の依頼報酬の金貨10枚です。どうぞお納めください」
「こっちはヤクの毛皮と革のフードマントです。こんなお礼しかお渡し出来ませんが…どうぞお持ちください」
そう言って村の人達がお礼の品物を渡してくれた。
「あっあの、ありがたいんですが、こんなにしていただくような事はしていないつもりなのでいただく訳には…」
翡翠の提案で村の人達の本気度が知りたくて報酬の提示をしてもらってたけど、俺としては今回の事でスキルもゲット出来たしよかったと思ってるくらいだったから、報酬なんていらないくらいなんだけど…。
『それはいけませんアサヒ様!依頼達成なのに報酬無しなどあり得ませんぞ。そんな事をするとアサヒ様が軽く見られてしまいます。当初の契約通り報酬はいただくべきですぞ』
翡翠に注意されてしまった。
慣れてないから断った方がいいのかと思ったけど、翡翠の言い分ももっともなのかも。
「そうですよアサヒ殿、村の恩人に何もお礼が出来ないなんて私共も心苦しいです」
「せめてもの心尽くしの物ですのでどうかお受け取りください」
司祭様や村の人達もそう言ってくれている。
村のみんなで集めてくれたお礼だし、無碍には出来ないよな。
「ありがとうございます皆さん。みなさんからのご好意だし、大切に使わせてもらいますね」
照れくさかったけど、俺も感謝の気持ちを伝えて品物を受け取った。
「アサヒ殿、よろしければ是非この村にしばらく滞在してくださいませ」
「そ、それはどうもありがとうございます。でもせっかくなんですが俺はまだ旅の途中で…明日にはここを発とうと思ってるんです」
…っていうか俺にとっては始まったばかりなんだけどね。
それにみんなが当初頼んでた冒険者じゃないのもあって気がひけてるのもある。
「そんなにお急ぎとは…なんともお名残惜しい」
「きっとまた寄らせていただきます」
「アサヒ殿ならいつでも大歓迎ですよ」
それから俺は明日の準備をするために村の道具屋に行ってみた。
報酬で受け取ったお金で色々買おうと思ったからだ。
とりあえず着替えが欲しかった。
服、ズボン、肌着、下着とか。
あと簡単な調理器具、調味料、食器類、水筒、タオル…使えそうな物をひととおり購入して全部アイテムボックスに入れておいた。
色々買っても金貨3枚程だった。
武器も短めの剣と鞘付きベルトを購入した。それを装備するだけでちょっと異世界っぽくなったけど、俺に使えるのか甚だ不安だ。
あと怪我した時のためにと回復薬を買おうとしたら、翡翠に止められた。
翡翠は回復魔法が使えるんだそうだ。
ホント頼りになる従魔だ〜。
結局買い物して残りの所持金が金貨3枚になってしまった。
「衝動買いしちゃったかな…」とも思ったけど、まぁなんとかなるだろう。
明日に備えて早めに教会の部屋に戻る事にした。
部屋の扉を開けるとそこには少女姿のウンディーネが立っていた。