第6話 説得と提案
村に転移した俺たちはさっそく司祭様がいる教会へ向かった。
教会に着くと司祭様が急いで出て来て、礼拝堂に招いてくれた。
「ア、アサヒ殿、とても早いお戻りでしたね。泉までの距離でしたら、帰りは早くても明日の予定だと思っておりましたが」
やっぱりそう思うよね?行ってないと思われませんように。
「え〜っと、それがですね、途中で空間転移を使えるようになりまして…あはは」
そんな簡単に使える魔法ではないんだろうけど、笑って誤魔化しておく。
「それはともかく、ここの水が呪われた原因が分かったんです。経緯を説明しますので、村の人達を全員この礼拝堂に集めてください」
「全員ですか?わ、分かりました」
司祭様が走って村人を呼びに行った。
そうは言ったものの俺はうまく説明出来るか少し不安になっていた。するとフワリとウンディーネが現れた。
『心配ないってアサヒ、わたしが直接言ってあげてもいいよ』
村の人達も精霊の姿を見れば確かに納得してくれそうだ。
でもウンディーネの姿は少女なんだよなぁ。軽くみられないかな?
「ところでさ、ウンディーネって大人の姿にもなれるの?」
『姿?うん、もちろんだよ!みてて』
くるりと一回転すると、大人のキレイなお姉さん精霊に変身していた。
『どお?この姿も素敵でしょ?』
おぉ!俺が想像した精霊の姿だ!ラノベとかゲームに出て来そう!
「めっちゃいいじゃん!人間にはその姿の方が威厳とか精霊感が伝わっていいと思う!」
『ホント⁈じゃあアサヒ以外の前ではこのお姉さんスタイルにするね』
え?別に俺の前でもそのままでいいんだけど…。とりあえずここは言わない方が良さそうだなと俺は判断した。
よし、そうと決まればあとは村のみんなに聞いてもらうだけだな。
しばらくすると、たくさんの村人達が集まってきた。
大人から子供、老人までみんな集まってくれていて何事かとざわついている。
「皆の衆、静かに聞いてほしい!ここにいらっしゃるのが昨日話した冒険者のアサヒ殿だ!井戸や川の呪いの原因を突き止めてくださったそうなので、話を聞いてくれ」
司祭様から簡単に説明と紹介をしてくれた。
みんなの視線が俺に注がれてすごく緊張する。
「はじめまして、みなさん。先ほど紹介いただいたアサヒといいます。俺は司祭様達に頼まれてここの水源である北の山の泉へ調査に行ってきました。そしてそこで調査をしていたら、水の精霊ウンディーネが現れたんです」
「精霊ウンディーネだって⁈」
村人にどよめきが走る。
「皆の衆落ち着いて!」
司祭様も動揺しつつも村人達をなだめている。
「そしてその精霊ウンディーネから水質汚染の原因を聞くことが出来たんです」
礼拝堂がしんと静まり返って俺の話に聞き入っている。
「その原因は…残念なことに人間による森林伐採でした。しかも精霊の聖地である泉での伐採も加わり、この事を嘆かれた精霊ウンディーネが水源ごと呪いをかけたというのです」
うん、なんとか言い切る事が出来たぞ。精霊の聖地とか言っちゃったけど、まぁ間違ってないだろう。たぶん。
「そ、そんな!森の木を切っただけで呪いをかけるだなんて、あんまりではないですか?」
「そうですよ、木は切ってもなくならないが、水が使えないと俺たちが生活出来なくなるじゃないか!」
「アサヒ様、精霊様に元に戻していただけるようお願いしていただけませんでしょうか」
村人や司祭様までもが次々と俺に陳情してくるけど、どうも自分勝手な言い分ばかりだなぁと思ってしまう。
『お前達の身勝手な願いをアサヒに押し付けるでないわ、この罰当たりな人間共め!』
今まで黙って成り行きを見守ってくれていたウンディーネがとうとう姿を現した。
しかもかなりご立腹の様子。
「まっ、まさか精霊ウンディーネ様⁈」
ウンディーネの姿を村人達全員が初めて見たようで、「ははーっ!」と時代劇の偉い人が登場した時みたいにみんなひれ伏している。
『いかにも、妾は水の精霊ウンディーネ。人間共よよく聞くのじゃ』
俺と話してる時とは違う雰囲気でウンディーネが話しはじめる。
すごく威厳があるぞ。
『森の木は勝手に育っているのではない。ある程度密にならぬように我ら精霊や他の動物達によって土を肥やし水をやり苗を守りながら成長しておるのじゃ。動物達が果実を食べてその種が地面に落ちて芽が生えて育ちまた実を成すのじゃ』
フンッと一息ついて続ける。
『それをなんじゃお前達は?』
ゴゴゴ…とウンディーネから怖いオーラ?のような気が湧き上がっているようだ。
『木は切ってもなくならないが、水が使えなかったら自分達が困るじゃと?森の資源を使うだけ使い、動物も赤子から卵までも狩り尽くしておいて何という傲慢な言い草か⁈』
「ヒィィッ」
村人は全員精霊の怒りを前にただただ震えている。
『妾は別にお前達なんぞ滅ぼすつもりで呪いをかけたのじゃがの、このアサヒがどうしても助けてやってほしいと言うからこうして出向いてやったのじゃ。どうじゃ、お前達は妾に報いる気はあるかの?』
「もちろんです、ウンディーネ様!」
「どうかわたくし共に謝罪の機会をお与えください」
「なんでもいたします!」
「どうかわたし共ににお慈悲を」
精霊が村を滅ぼすつもりだったのがわかり、ようやくこれまでの自分達の行為が自分勝手であったかを悟ったようだった。
ウンディーネが言うまで気づかないなんて、さすがに鈍すぎると思う。
『まったく人間とは調子の良い生き物よのぉ…ま、これまでの罪を悔い改める気があるのならばアサヒに免じて此度の呪いは解いてやってもよいぞ』
ようやくウンディーネの声色が変わり、交渉出来そうになってきた。
「誠でございますか⁈」
『じゃが…次は無いと思え!!』
美女なだけにギラリと睨みをきかせる顔が怖すぎる。
「はい!肝に銘じますっ!」
「ありがとうございますウンディーネ様!」
村人からも安堵の声が聞こえてくる。
『それと、条件があるのじゃ』
ウンディーネが出した条件とは
①森の木を切る際は間隔を空けておく
②木を切ったあとは植樹する
③動物を狩る際は親子連れは狩らない
④同じ動物ばかりを狩らない(絶滅回避のため)
⑤水の精霊ウンディーネに月に一度供物を捧げる
だそうだ。
村のみんなもこの条件を見ながら納得しているようだ。
「あの〜質問があるのですが…」
村人の一人から手が上がる。
「ウンディーネ様への供物は何がよろしいのでしょうか」
まさかこれ、ウンディーネが待ってた質問なんじゃない?
『フッフッフッ良い質問じゃ、妾はの【ぱんけえき】を所望するぞ』
「「⁇⁇」」
あーやっぱり村の人達も知らないんだ、パンケーキのこと。
「失礼ですがウンディーネ様、【ぱんけえき】とはどのようなモノでしょうか?」
『ほう、ここの人間も知らぬのか。ではアサヒよ、そなたがその【ぱんけえき】を作り皆に広めるのじゃ!!』
ぐわ〜っ、やっぱそうなるかぁ。
俺もといた世界でもそんなに料理しなかったんだよな〜。
でも言っちゃった手前なんとかするしかないか。
「とりあえずウンディーネ、料理をするには水が必要不可欠だから呪いの解除を頼める?」
『うむ!任せよ』
そう言ってウンディーネが両手を上に広げると、ウンディーネを中心にキラキラと輝くデカイ球になった。
そしてその球が礼拝堂をを抜けて村全体に広がり、更に森までも包んでいく。
「うは〜すごいな、どこまで広がるんだ?」
そしてその球がパチンっと弾け光の粒が地面に落ちて消えるように吸い込まれていく。
同時にウンディーネの姿も美しい透明な水の色に変わっていく。
『これで良いじゃろう』
「おぉ!ありがたい」
「司祭様、水が使えるようになったか見に行きましょう」
「はっ、はいアサヒ殿!」
俺たちは井戸や小川を見に行き、全て綺麗な水に戻ったことを喜んだ。
「精霊ウンディーネ様、アサヒ殿、この度は本当に感謝の念に絶えません!ウンディーネ様の教えを守りこの森を育んで共存することをお約束致します」
『うむうむ!殊勝な心がけじゃ』
「村を助けてくれて本当にありがとう、ウンディーネ!」
俺は嬉しくて思わずウンディーネに抱きついた。
『アッ、アサヒ⁈』
「実はさちょっと不安だったんだ。通りすがりの俺なんかが村を救うなんて…しかも精霊を仲介するとかさ。でも、ウンディーネは俺を信じてくれて結果的に村も助けてくれたからスッゲー嬉しくて」
ウンディーネはちょっと面食らってるようだったが、少し照れてるようにも見えた。
『ま、まぁ妾としてもあの姿のままは正直不満でもあったのじゃが、なにせ呪いをかけた手前理由もなく許すわけにもゆかんかったし…アサヒが間に入ってくれたのは妾にとっても実に良いタイミングだったというワケなのじゃよ』
そうだったんだ。
そう言ってもらえて俺も嬉しいし、肩の荷が降りたって感じ。
ウンディーネがそんな俺を引き剥がして両肩を掴む。
「なっ、何ウンディーネ?」
『何ではない!【ぱんけえき】じゃ!』
「は、はい…」
本当にパンケーキを作る事になってしまい、かなり不安な俺なのだった。