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第5話 原因究明

 村人に教えてもらったとおり目的地の泉目指して川沿いをひたすら歩く俺と肩に翡翠。

 そしてその移動中も俺の肩に乗った翡翠は、周囲の魔物を威嚇したり倒したりしてくれていた。

 きっと翡翠がいなかったら俺はあの村にも辿り着けなかったんだろうな。

 リュック以外何も持ってなかったし、怪我なんかしてたら…想像したらめっちゃ怖くなった。

 「灯りはともかく、食べ物だけじゃなく武器も準備してもらえばよかったかも。ずっと俺を守るのも翡翠が大変だよね」

 『お気遣いなく、アサヒ様。それよりも、おそらくレベルが上がっていると思われますので、確認してみてください』

 「えっ!俺の⁈」

 そうだった。

 従魔が倒した獲物の経験値は主人にも付与されるんだった。

 レベルが上がってる感覚がなかったのでかなり嬉しい。

 レベルが上がって高らかに音が鳴るのはやっぱりゲームだけなんだな…ちょっと楽しみだったのにな。

 ひとまず立ち止まってステータスを見てみる。


  LV 4

 名前 風間カザマ アサヒ

 年齢 22

 種族 人間(召喚者)

 HP 72 / MP 20

 固有スキル 強運 アイテムボックス

 大魔王の加護+ギフト♾️

【レベルアップに伴いギフトが4つ選択可能】


 「うわっ!レベルが4もあがってる!」

 『おめでとうございます、アサヒ様』

 「俺はなんにもやってないんだけど…全部翡翠のおかげだよ〜。ありがとな、翡翠」

 翡翠の背中を撫で撫でする。

 『アサヒ様のお役に立ててなりよりです』

 主人である俺のレベルアップは従魔にとっても嬉しいみたい。でもこれからは翡翠に頼ってばかりじゃなく、俺も頑張らなきゃだな!

 「ところでさ、レベルアップに伴いギフトが4つ 選択可能ってあるんだけど、どういう事かわかる?」

 『ギフトを4つも選択ですと⁈』

 「え?なんかそう書いてあるんだけど」

  またなんかやらかした感じかな。

 『そもそもギフト自体がレベル50や100まであがってようやく1つ付与されるかどうかのレアスキルなのです。それをレベルアップ毎に付与されるなんて凄すぎです、アサヒ様!』

 なんかすごい興奮してくれてるけど、何を選べばいいかわからないってのが正直なところ。

 まだ戦ったこともないし、なんとなく魔法とか便利かなぁって程度だもんね。

 『アサヒ様はどんなスキルを選びますか?炎?雷?剣術や体術もいいのでは?吾輩なら炎耐性とか…アレなんかやコレも捨てがたい…迷いますな〜』

 なんか翡翠がワクワクしちゃってる。

 「う〜ん、まだ何が必要かも分からないからこの件が解決してからじっくり決める事にするよ」

 『そっ、そうですね、じっくり選ぶのもいい考えですね。いや〜ギフトが4つも選べるとは本っ当に羨ましい限りです』

 ギフトがレベルアップ毎にもらえるってかなりチートなんだ。

 まだ会ったこともない大魔王様にはホント感謝しなきゃだな。

 そうこうしてる間にようやく問題の泉に辿り着いた。

 「ハァ〜、疲れた〜、舗装されてない山道ってキツいわ〜」

 苔だらけの石や倒木も多かったし、歩きにくいから足もガクガクだ。

 周りを見ると、最近切り倒したばかりのような木が目立つ。

 泉の周りは切り株だらけで木がほとんどない。

 泉を見るとやはり村の井戸と同じく変な色に濁っている。

 「うーん」

 見る限りではなにもいないようだ。

 おまけに疲れのせいで喉が渇いた事に気づいた。

 水はこんな状況だからもらえなかったけど…。

 「あっ、そうだ!食事にもらった果物を食べよう!リミーだったかな?」

 リュックから食事の入った袋を取り出して、切り株をテーブル代わりにして俺は地面に座った。

 サンドイッチとリミーを取り出して切り株テーブルに並べる。

 すると、突然泉がぼんやりと光りはじめた。

 「わぁ!どした?なんだなんだ⁈」

 『アサヒ様、あわてる事はございません』

 オロオロする俺に反して翡翠は落ち着いたものだった。

 翡翠のおかげで気を取りなおした俺は、鈍く光る泉に目をやった。

 泉の中から透き通った姿の長い髪の少女が現れた。

 少女は見た感じ10才前後で全体が泉の色と同じだった。おそらくこの少女が泉の主とかなんだろう。

 『ねぇねぇ、そこの実をちょうだい』

 少女がリミーを指差して話しかけてきた。

 「えっ?これ?まぁいいけど」

 俺も食べたかったんだけど、小さい子には譲るべきだろう。

 ここは我慢。

 「いいよね、翡翠?」

 『問題ないかと』

 はいどうぞ、とリミーを1つ渡すとサクサクとかじってあっという間に食べてしまった。

 『うんうん、これこれ!やっぱりおいしい!』

 「まだ1個あるけど食べる?」

 少女に尋ねると俺をジーッと見てきて『ほしいけどやめとく!あんた喉渇いてるんでしょ、あんたが食べなさい!』と言ってきた。

 「俺が喉渇いてるの分かるんだ!すごいね、じゃあ俺もいただきまーす!」

 リミーにかぶりつくとジュワッと果汁が口の中に広がって瞬く間に喉が潤った。リンゴと桃の間のような味で甘い果物だ。

 「ん〜!おいし〜い!」

 『そうでしょ、そうでしょ!この森の名物だよ』

 少女も自慢げだ。

 『わたしの大好物なんだよね』

 そうなんだ。

 思ったより友好的な妖精?っぽくて話しやすいかも。

 『…なのに、人間達がその木を全部切ってわたしの楽しみを奪って行ったんだよね』

 声のトーンが下がってるじゃん!ヤバっ!これめっちゃ怒ってる!

 『あんた人間だよね?魔獣まで連れて何しにここに来たの?』

 翡翠の存在もバレてる。

 村からのスパイだと疑われたらどうしよう。

 『吾輩に気づくとはさすがは水の精霊ウンディーネだな』

 俺に隠れていた翡翠が元のサイズになって隣に現れた。

 精霊ウンディーネ!異世界って感じ!

 『あら、黒大蜘蛛のアラクネじゃない。人間と一緒だなんてどういう風の吹きまわし?あれれ?もしかして従魔契約結んでんの⁈』

 『フフン、そのまさかじゃ』

 翡翠がちょっと得意気に答えた。

 翡翠とタメで話してるって事はこのウンディーネ、姿は少女でも俺よりずっと年上なんだな…と俺は察した。

 『めっずらしい事もあるものね!アラクネともあろう高位魔獣が人間なんかの従魔になるなんて!しかもこの人間ってば…』

 ウンディーネが言いかけたその時、翡翠がギラリと殺気を放った。

 『それ以上は何も言うでないウンディーネよ』

 翡翠の殺気にウンディーネは本気で驚いている。

 『なっ、何よ何よ⁈そんなに怒ることないじゃないの!』

 ぷりぷり怒るウンディーネに翡翠が何やら耳打ちした。

 ウンディーネの顔が険しくなり更に驚愕の表情に変わった。

 『えっ⁈大魔王様が?そ、そうだったんだ!ふむふむ…』

 きっと大魔王が俺を召喚した事なんかを伝えているんだろうな。

 っていうかそれしかないでしょ。

 『コホン、では改めてまして。わたしは水の精霊ウンディーネよ。アラクネの主人殿、以後お見知りおきを』

 ぺこりと丁寧に挨拶された。

 「こ、こちらこそ、はじめまして精霊ウンディーネ様。俺は風間旭。従魔の名前は翡翠です」

 『よい名であろう?フフン』

 翡翠は名前をかなり気に入ってくれてるようだ。

 『思ったより礼儀のなってる人間ね。わたしのことはウンディーネって呼んでいいからね』

 「わかりました、ウンディーネ。俺のことはアサヒでいいです」

 それからはここの水質汚染について聞く事になった。

 なんでもこの周辺は泉にウンディーネがいる事によって、綺麗な水が保たれ動物をはじめ植物も多く育つ環境だったそうだ。

 しかし、その環境に目を付けた人間が泉の麓に村を作った。

 それは構わなかったが、森の木々を無計画に伐採し、動物を狩り、花や果実も根こそぎ森から取って暮らしだしたと言う事だった。

 子どもの動物さえも獲物とし、鳥の卵でさえ残さず奪った。

 果実も一つも残さず持っていく為、種が残せず残った木も切り倒されて資材となり、結果何も実らない森になっていた。

 あまつさえ、ウンディーネが住むこの泉の周りにあったリミーをも全て持ち去り木も切り倒して行ったという。

 『人間ってさ自然の恵みを自分達が使って当たり前なんだと勘違いして、感謝もせずに喰らい尽くすだけなのよね。きっとこの辺りに食べるものがなくなってもまた次の土地で同じ事を繰り返すに決まってるわ』

 胸に突き刺さる言葉だ。

 俺がいた世界でもそうやって地球を環境破壊に追いやっていたもんな。

 それを知ってる俺だからこそ、少しでもこの世界が同じようにならないようにしなきゃだよな。

 『でさ、今度という今度はさすがにわたしも頭にきちゃってさ、人間共を懲らしめてやろうと思ってここを呪ってやったのよ』

 どうだ!すごいだろ?と言わんばかりにウンディーネは得意顔だ。

 「そりゃあ怒って当然だよね、俺も人間達が悪いと思うよ」

 全くもって全面的に人間が悪いよね。

 『でしょ?でしょ⁈アサヒもそう思うならさ、一緒にあいつら滅ぼしちゃわない?』

 「えっ?」

 『もちろん人間を、ね!』

 サクッと軽いウインクで提案されてしまった。

 「いやいや、それはさすがにない!いきなりそれは乱暴じゃない?ちょっと待って、何か解決策を考えるから!」

 えーっと、うーんと…。

 『えぇ〜、アサヒはやっぱり人間の味方なワケ?あの翡翠の主人なのにぃ』

 ウンディーネは不服らしく、不満を口にしてる。

 (確かに村の人達は浅はかだったと思うけど、滅ぼされなきゃいけない程かな?何がいけなかったかを認識させて以後改善出来るように機会をあげてもまだ間に合うと思うんだけど)

 『アサヒ様、この世界は弱肉強食が大前提の理なのです。しかもそもそも人間は我らの話など聞く耳を持たないでしょうし』

 翡翠も人間への説得は無駄だと思ってるようだ。

 そっかぁ、お互いに出来ない事を補い合えばお互いに利益があると思うんだけど。

 そんな手間よりも駆逐してしまう方が効率がいいって考えなんだろうな。

 精霊ウンディーネが泉を守るからここの生態系が保たれてた…そこに人間が入っても乱れないようになるには…。

 こんな事考えるの初めてだな。

 もっと環境保護番組とか真面目に見とくんだったなぁ。

 しばらくして俺は自分の考えをウンディーネと翡翠に話した。

 ①呪いをかけた理由を村人達に説明する

 ②村人達は森の木を植樹する、果樹は必要以上にとらない、果樹の苗を育てる

 ③森の動物を狩りすぎないこと、特に子連れや卵は狩らないことにする

 ④精霊ウンディーネを敬い、月に一度お供えをする

 ⑤以上が守られれば精霊ウンディーネは村人達を許し、呪いを解き泉は元に戻し村を滅さないことにする

 

 「こんな感じでどうかな?お互いの為になるんじゃないかなって思うんだけど」

 ウンディーネはもちろんのこと翡翠も長細い腕を組んで考え混んでいる。

 『甘いな〜、翡翠の主人は甘々だね!』

 『う、うむ…確かにそこは吾輩も否定できぬ…』

 翡翠まで俺を甘いと思ってるんだ⁈ひどくない?

 「だってさ〜今回このまま村人を滅ぼしちゃっても、いつかまた違う人間がこの辺りに住みはじめたら同じ事の繰り返しにならない?」

 『言われてみればそうかもだけど…』

 「ウンディーネへのお供えとかもさ、何か食べたいモノをリクエストすれば毎回楽しみになるんじゃない?」

 『あら、それはいい考えじゃないの!例えばどんな?』

 そうだな、俺だったらおいしいものとかめっちゃテンション上がるけど…。料理でもいいし、甘いお菓子もいいかも。

 「リミーの実を使ったパンケーキとかおいしそうかも…」

 『【ぱんけえき】とはなんなの?アサヒ』

 俺の呟きにウンディーネが反応して聞いてくる。 あぁ、パンケーキはこの世界にないのかな。

 「パンケーキってのは、甘くした小麦粉に卵や牛乳を混ぜて焼くおやつだよ。蜂蜜や果物をのせたらもっとおいしくなるんだ」

 リミーのジャムとかあればうまそうだ。

 『じゃあアサヒ、わたしにその【ぱんけえき】を食べさせてよ!』

 「ええっ?」

 何を言うかと思ったら。

 「今ここでは無理だよ。台所も材料もないし」

 『では今すぐに村へ戻ろ!そしてわたしがその【ぱんけえき】とやらが気に入ればさっきの提案を考えてあげるわ!』

 交換条件なんてひでぇよ。

 それにもう村に戻るの?さっき着いたばかりで足の疲れも取れてないのに。

 うーん、なんかパパッと移動出来たりするスキルとかないかな?

 【ギフトから移動スキル2種類が選択可能です。空間移動、影移動です】

 どこからともなく声がする。

 そうだった!ギフト選択!どれどれ…。

 空間移動は行った事のある場所ならどこにでも移動可能。

 影移動は物体や生物の影に潜んでの移動が可能。

 なるほどね、どちらかといえば俺にとって便利そうなのは空間移動の方かな。

 よし、このスキルに決定!

 【風間旭がギフトよりスキル空間移動を獲得しました】

 スキルを獲得した途端、翡翠を従魔にした時のように身体が発光した。

 「おっ、やったぞ!空間移動ゲット!これですぐに村に戻れるぞ」

 『ア、アサヒ様⁈おっしゃってくだされば移動など吾輩の背に乗っていただけばいくらでもしましたのに…せっかくのギフトがもったいない!』

 翡翠は俺に強い攻撃系や魔法系のスキルを薦めたかったようで、すごく残念がった。

 「まあまあ、俺にはけっこう便利なスキルだと思ったんだよ。次もあるし、また相談するからさ」

 翡翠はブツクサ愚痴ってるけど、移動スキルってもったいないのかな?めっちゃ便利じゃね?

 というワケで俺は初スキルを使って村に戻った。

 ホントあっという間だった。

 空間移動の魔法陣が現れて、その円陣に入ってドマニー村を念じたら一瞬で移動が完了していた。

 このスキルで俺のなけなしのMPが全部消費した。

 減った感覚はなかったけど、楽すぎてかえってこわくなった。

 なるべく歩くようにしとかないと運動不足になりそうだ。


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