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第4話 初めての村

 とりあえず移動を始めた俺たちだが、この森の中をやみくもに歩いても疲れるだけなので、何処でもいいからとにかく街か村を探す事にした。

 それと俺はとりあえず大魔王の野望のことはスルーする事に決めた。

 翡翠にその事は言ってないが、俺としては人間はもちろん魔物も滅ぼしたりしたくないし、出来れば元の世界に帰る方法を探しつつこの世界を見てみたい。

 不安はあるが心強い従魔の翡翠もいることだし、ぼっちでいるよりははるかにマシだ。

 翡翠は地図を持ってなかったけど、ここが人間の国近くの森である事はわかっていた。

 とはいえどっちに行けばいいのかさっぱりわからん。

 「何か便利なスキルはなかったかな?探索とか…」

 自分のステータスで何か出来ないかと「うぐぐ…」と念じたが何も発動しなかった。

 そんなに簡単にはいかないか。

 すると翡翠が『お任せを』と言うやいなや、口から糸を出して四方八方の木に張り巡らせ、器用に8本の手足を使ってその糸を手繰り始めた。

 しばらくして『西の方角に集落らしき気配がありますぞ。おそらく人間の村のようです』と教えてくれた。

 「助かる〜!よし、さっそくそっちへ向かおう」

 『はい、アサヒ様!』

 目的地の西へと向かいながらふと思った。

 人間って翡翠を見たら驚くのでは?…と。

 「あのさ、翡翠。人間のいるとこにお前を連れて行ったら普通どんな反応する?」

 『そうですね…恐怖して気絶するか、腕に自信のある者は挑んでくるやもしれませんね』

 やっぱり!そりゃビビるよな。俺の従魔ですって説明しても疑われちゃうかなぁ。

 「従魔を連れてる人間はよくいるの?」

 『ほとんどいないですね。魔獣自身が仕えるべき主人と認める以外は従魔にはなれません。無理矢理従わせることも不可能なのです』

 そうなのか。

 レベル1の俺が翡翠を連れてるのってかなり珍しいってことだよな。

 「出来れば目立ちたくないんだけどなぁ」

 『ならばアサヒ様、こうするのはどうでしょう?』

 俺の呟きに反応した翡翠をみると、巨体がどんどん縮んでいった。

 「わわっ⁈」

 あっという間に翡翠は手のひらにのるくらい小さくなっていた。

 小さくなった翡翠を手に乗せる。

 このサイズでも俺の知ってる蜘蛛としてはデカいんだけど、スゲー可愛い。

 『このくらいでいかがでしょう?』

 「すごいじゃん!大きさも変えられるんだ!じゃあさ、人間のいる時だけでいいから、その間リュックのポケットに入って隠れててもらえる?」

 『お安い御用です、アサヒ様』

 翡翠の身体は思ったより柔らかいようで、リュックの横ポケットにするりと滑り込んだ。

 よし、これならどこからどう見ても俺が従魔を連れてるようには見えないだろう。

 持っていたはずの携帯電話もなくなってるし、今が何時かはわからなけど、とにかく明るいうちに寝泊まり出来る所に着きたいな。

 翡翠がいるとはいえ装備も道具もなしの野宿は出来れば避けたい。

 はやる気持ちから集落があるという方向までかなり早歩きになった。

 その間翡翠は俺の肩に乗り、時々口から糸をビシバシ吹き出していた。

 何してるのかと思ったら、俺を獲物として狙う獣や魔物を牽制したり倒したりしてくれていたという。

 そんな危険な場所なのかと俺は改めて元の世界が平和だったんだと思い知った。

 そして、ようやく建物らしきものが見えてきた。

 「おぉ〜!あれが異世界の村!」

 思ったよりちゃんとした建物みたいだ。

 村を囲う塀もあるし、街灯もある。

 外国の昔話に出てくるようなレンガ造りの家がいい感じだ。

 村はレンガで出来た塀で囲まれていたので、入り口を探すことにした。

 「翡翠、そろそろ隠れてね」

 『御意』

 少し壁沿いに歩くと村の入り口らしき場所に着いた。

 そこには長い棒を持った門番らしき男が一人立っていた。

 俺の存在に気づくと、上から下にジロリと一瞥した。

 俺が入り口に近づくと、棒を前に出して止まるよう合図した。

 「ここはドマニー村だ、旅人か?」

 よかった、言葉は通じるようだ。

 「あ…はい、そうです」

 旅人なのかは自分でも分からないが、ぎこちなく笑ってそう答えておく。

 門番はもう一度俺の格好をみて、胡散臭そうな顔をする。

 「見慣れない格好だな。どこから来た?」

 そりゃそうか、服装も持ち物までもこの世界のとは違うもんなぁ。

 「えっと〜俺は東の方から来たんですが…決して怪しい者では…」

 「東の方から?」

 何をどう説明すればいいのか、しどろもどろになってる俺の言葉にハッと門番の顔色が変わった。

 「まさか司祭様の仰ってた冒険者では…⁈」

 「は?」

 今何て言った?冒険者?

 「少し待っててくれ!だ、誰か、司祭様を呼んで来てくれ!」

 「いっいや、俺は冒険者じゃ…」

 …ないですよ、と言い終わる前に門番は俺を置いて村の中に走って行ってしまった。

 (翡翠、どう思う?)

 すごく面倒な事になりそうな感じがプンプンする。

 (敵意はないようですし、このまま様子を見てはいかがでしょう。アサヒ様に危害が及ぶようなら吾輩が成敗します故ご安心を)

 なんて物騒な事を言ってくれたが、まぁ、成るようになるか。

 勘違いしてるんだったら後で説明すればいいか。

 しばらくすると、村から数人の人間が集まってきた。

 さっきの門番と武器を持った兵士と思われる人が二人、そして僧侶の様な格好のおじさんが一人。

 このおじさんがさっき言ってた司祭っぽい。

 そしてその司祭が俺の前に立ちお辞儀をした。

 「驚かせてしまい申し訳ない。あなた様が東から来られたと聞いたのですが誠ですか?」

 「はい…そうですが」

 嘘は吐いてないぞ、本当だし。

 「お一人で来られるとは思っておりませんでしたので」

 もしかして翡翠の存在に気づいたんだろうかと緊張が走った。

 「その事なんですが…」

 人違いだということを説明しようとすると、司祭が俺にぐんぐん近づいて来た。

 「冒険者よ!どうか、どうかこの村をお救いください!」

 そう言って司祭が俺の両手を握り締めて頼み込んできた。

 「あ、あの…」

 そして俺はよくわからなまま村に招かれる事になり、人違いである事を言いそびれてしまった。

 村の教会に連れてこられた俺は仕方なく事情を聞く事になった。

 ここは水が綺麗な事で結構有名な村なんだそうだ。

 それが数日前から村の側を流れる小川と井戸の水が汚れて使えなくなってしまったんだそうだ。

 付近にはこの井戸の他は同じく汚れてしまった小川しかなく、綺麗な水が使えなければ生活が出来なくなり、今まさに村存亡の危機に陥っている状況なのだという。

 村人で原因を調べようにも時を同じくして付近の魔物も凶暴化してしまい、王都からも兵士を呼ぼうかと検討していたところだという事だった。

 (まさかその水質汚染問題を俺にどうにかしてくれとか言うのかな?そんなの無理なんだけど)

 そう思っていると、司祭が話し始めた。

 「実は知り合いから腕利きの冒険者パーティの話しを聞きまして、魔物の凶暴化と水質汚染に因果関係があるのではないかと思い、貴殿にお越しいただいた次第です」

 腕利きの冒険者?いやいやいや…!どう見ても普通の俺に村の一大事を解決できるとか思う?人違いだって断るべきだよな…と早々に断る理由を考えていると、翡翠がこう言った。

 『アサヒ様、この件の調査を引き受けてみてください。そしてそれに見合う対価をいただく事を伝えるのです』

 「⁈」

 翡翠の声が頭の中に聞こえてびっくりしたが、従魔の契約をしている者同志では念話といって他には聞かれずに会話出来るという。

 (解決出来そうなの?)

 『原因が分かればすぐにでも解決出来るでしょう』

 翡翠ってばリュックのポケットの中にいるってのに、なんで見てもない川や井戸の水質汚染問題が解決できるんだろ。

 俺にはさっぱりだが、翡翠の言う通りにすることにして、さっそく司祭に話を切り出した。

 「司祭様、この件はお引き受けしますが、問題を解決したら俺に何をいただけますか?」

 司祭はじめ兵士達も驚いた顔をしていたが、顔を見合わせて頷いた。

 「この村は小さな規模ですので大した金額は支払えませんが、金貨10枚とあと牧羊をしているので羊毛や肉、角などもお捧げ出来ます!」

 村長も兼ねているという司祭の真剣さが伝わってくる。

 「わかりました。元々高額な要求はするつもりはなかったんですが、それだけこの井戸がこの村にとって大切なんだという事がわかりました。すぐに調査したいんですが、問題の井戸を見せてもらえますか?」

 「引き受けてくださるのですね、ありがとうございます!どうぞ、ご案内します」

 俺は司祭はじめ村人たちに案内されて、件の井戸を見に行った。

 井戸の周りには心配して見に来ている村人も何人かいて、「司祭様、まだ水は濁ったままです」と言って井戸から汲み上げた水を俺たちにみせた。

 ドロリとしていて紫と茶色が混ざったような色だ。

 確かにこれを飲んだり洗濯に使おうとは思えない。

 それに濁ってるだけじゃなく変な感じがする。

 (翡翠、ここの水すごく変な感じなんだけど)

 『お察しの通りですアサヒ様、この水には呪いがかけられているようです』

 (の、呪い⁈)

 『おそらく水源で何かあったと思われます』

 「水源に原因か…」

 「どうかされましたか?」

 「あっ、いえ…。司祭様もお気づきかもしれませんが、ここの水はどうやら呪いをかけられているようですね」

 「呪いですと⁈」

 司祭や村の人々も驚きを隠せないようだ。

 「村のみなさんや建物などには何も感じられませんが、この井戸の水にだけ呪いの気を感じます。なので、この水の水源に原因があるのではないかと考えています」

 「水源ですか、村の北にある山に泉があるのですが」

 「他には?」

 「その泉だけです。村の小川を山へ辿って行けば迷うことはありません」

 「わかりました。明日の朝、偵察に行ってきますので、灯りと食べ物を少しお願い出来ますか?帰りが暗くなるかもと思って…」

 「もちろんです!明朝お渡し致します。あと、今日は村の宿にお泊まりください。お代も結構ですので」

 この日は宿で晩御飯もご馳走になり、ベッドでぐっすり眠る事が出来た。

 この世界のお金を持ってなかったから正直助かった。

 翌朝、少し暗いうちから村のみんなが俺の調査を待ち侘びてくれていた。

 「こちらがランタンです。魔石付きですので燃料無しで大丈夫です。そしてこちらがお食事です、簡単な物しか準備出来ず申し訳ない」

 見ると固そうなパンにチーズが挟んでいるシンプルなものと拳くらいの紅い果実だった。

 水が使えない中用意してくれたんだな。

 「大変な中用意してくれてありがとうございます」

 出発しようとすると男の子が近寄ってきた。

 「お兄さん、そのリミーの実おいしいから食べてね」

 「リミーの実?これのこと?」

 「そうだよ、それ食べて頑張ってね!」

 7、8才くらいかな、弟達を思い出すなぁ。末の弟でももう高校生だったけどね。

 「おう、行ってきます」

 こうして俺は異世界初の村に着いたのも束の間、村の問題事のために北の泉へと向かう事になったのだった。

 

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