第13話 新たな道しるべ
「バンザイ!風呂だーっ!」
俺は領主の屋敷でこの世界に来て初めて風呂に入らせてもらった。
俺の知ってる風呂とは違うけどちゃんとバスタブもある。
だだっ広いタイル張りの風呂場にバスタブがポツンと置いてある感じだ。
でも風呂は風呂だ。
俺のテンションはめっちゃ上がった!
「ふはぁ〜気持ち良すぎるぅぅ…沁みるわ〜」
少し狭めのバスタブでおじさんのように湯船を堪能する俺。
海外セレブが入るような金の猫脚付きの真っ白なバスタブで足が完全には伸ばせないサイズだったが、これでもかなり高級なのだそうだ。
こうした風呂があるのは貴族や裕福な商人の屋敷だけなんだとか。
適温のお湯に浸かれるだけでもすごく贅沢なのだという…改めて風呂の価値と気持ち良さを実感する俺だった。
俺のいた世界とは違ってこのバスタブには魔石が付いていて水を入れてこの魔石で湯を沸かし温度を保っているんだそうだ。
湯をバスタブの栓から抜くのは同じだ。
だからタイル張りの部屋には排水の為の排水口がある。
俺の知ってるユニットバスとは構造も違うから、風呂の為に部屋を作るのは相当大変そうだ。
魔石は魔物を倒して取るか店から買うらしいから何とかなる。
水もウンディーネの加護があるから問題なし。
バスタブは…家はないけどアイテムボックスに入れておけるから持ち運ぶには問題ないし…。
あとはこの手のバスタブを買えば俺もいつでも風呂に入れるって事なんじゃない?
良いかも!
風呂欲しいぞ!
『吾輩には湯などに入りたいという気持ちが全く理解出来ませんが…』
天井からぶら下がりながら翡翠がぼやいている。
「まぁ、こればっかりは翡翠には強制出来ないよな〜、めっちゃ気持ちいいんだけどな」
頭の上に絞ったタオルをのせて翡翠を眺める。
昆虫だしな。
お湯苦手かもだし。
「最高なのになぁ〜」
バスタブの中で腕を伸ばしながら呟く。
『…そんなに気持ちいいのですか?』
「おっ、気になる?」
『ま、まぁ…アサヒ様が気持ち良さそうなので』
フッフッフッ…そうだろうとも!
「試してみる?入る前に掛け湯っていって身体を洗ってから湯に入るんだよ。それと今の翡翠じゃデカいからこのバスタブに入れるサイズで頼むぞ」
『御意…』
翡翠のサイズが俺くらいになる。
「少しお湯かけるよ。熱いかな、どう?」
バシャバシャとゆっくりお湯をかけてやる。
『大丈夫ですぞ、ほう〜これはこれは…』
カポーン!
あっという間に翡翠も風呂の虜になった。
俺と入っているからちょっと狭いけど、気持ち良さそうに寛いでいる。
身体を小さくしてくれたらもっと広々入れるんだけどな。
昆虫だから心配したけど、どうやら大丈夫みたいだ。
『いや〜なんとも言えない心地良さですねぇアサヒ様』
「だろう?次に行く街ではもう少し大きめの風呂を買おうと思ってるんだよな、足伸ばしたいし…お金に余裕があれば翡翠専用のもありだと思ってるからさ、売ってる店とか翡翠は知らないよな?」
『残念ながら存じません。これまで探した事もありませんので…ここの領主に聞いてみましょうぞ』
「うん、そうだな!楽しみが増えたよ」
しっかり長湯して風呂を堪能した次は、広間でご馳走してもらえる事になった。
広間の長いテーブルに並ぶご馳走の数々。
たくさんあり過ぎてまるでホテルビュッフェのようだ。
「あるとこにはあるんだなご馳走って…やっぱり貴族ってすごいんだな」
感動してると執事に招かれる。
「こちらへどうぞ、アサヒ様」
上座の領主に近い席に座ると、俺の隣りに翡翠、向かい側には白大蛇。
その隣には灰色熊親子が並んで座っている。
俺だけじゃなく従魔や魔獣にも席と料理を用意してくれてる。
なんかすごく嬉しい。
領主からの挨拶が始まる。
「この度はアサヒ殿はじめ、皆様には大変なご迷惑をかけたうえにわたしのみならず息子をも助けていただきいくら感謝してもしきれません。今宵はささやかながらおもてなしさせていただきたく、席を設けさせていただきました。先ほど息子の意識も戻り、今では軽い食事を部屋で食せるほどに回復しております」
「それは良かったですね!」
『良かったのう』
『アサヒ様が手助けしたのですから当然ですぞ!』
相変わらず翡翠がドヤ顔をする。
まったく恥ずかしいったらないよ。
「白蛇族の方々には御神体を盗んだり…この命をもってでも謝罪しなければいけないところでしたのに、寛大なご慈悲をいただきました。我が守護領地として御神体の安置場を整備してこれからも供物を欠かさず信仰させていただきます」
白大蛇は深く頷く。
『うむ、我が一族としてはそれで充分じゃ』
「灰熊族の方々にも領地内狩猟の禁止を申しつけております。そして熊の生き肝が病の薬になる事はないことを周知徹底することを誓います」
『わたし共はこれまでのように住みやすい森であればそれで良かったのだが、灰熊族にとってこれまで以上に安全になるなら森の管理は我らに任せてくれ』
灰色熊親子もそう答えながら楽しそうに食事している。
その様子を見て領主も嬉し涙を浮かべている。
「息子の病が治らぬかもしれないと絶望して不義を犯し、その心の弱さ故に悪魔に取り憑かれてしまったわたしにこんな明るい未来が残っていたなんて…。皆様…本当に感謝しております。息子の病が治ったばかりか、以前より守護魔獣との絆が深まるなんて…これもアサヒ殿のご助力の賜物です」
いや〜…俺はたまたまダンジョンでレベル上げしてただけだったし、ポイズンスライム倒してからみんなを見つけたのは翡翠だし…。
「いえいえ…あっ、それより先ほど入浴させていただきありがとうございました。すっごく気持ち良かったです!」
「それは良かったです。こんな田舎ですが、王都からわざわざ取り寄せたのです」
王都には風呂が売ってるんだ。
「王都?そこ以外でも風呂を扱っているお店はありますか?」
「そこそこ大きな街ならありますね。ここから一番近い街なら港街コーベルナ、それと王都エドガルシアくらいでしょうか。遠方ならドワーフの国にもあるはずです。よろしければ地図をお渡しします」
ドワーフ!
ドワーフもいるんだ!
ファンタジーといえば、ドワーフやエルフ!
いつか会ってみたいな。
「地図は助かります。目的地をある程度決められるので…」
これまでは翡翠の探索で村を見つけたりだったから、方角が定まるのは旅には欠かせないよな。
食後に地図をもらい、さっそく拡げてみる。
「わぁ、立派な地図だなぁ。え〜とこっちが王都で、あっ、これが海…んで港街コーベルナ。ドワーフの国は…ホントだけっこう遠そう」
っていうか異世界の文字が読めてる事に少し驚いた。
外国語は苦手だったからめっちゃ助かる。
地図によると…ドワーフの国へは遠いけど、コーベルナに寄って海を渡れば陸路より近いかも。
風呂も出来れば早く手に入れたいけど、何より俺がドワーフを見てみたい!
よし、次の目的地が決まったぞ。
お金を稼ぎながらコーベルナへ行って風呂を購入してドワーフの国へ行く!
王都は首都みたいな都市だろうし、なんでもありそうだけど、楽しそうな方を優先しよう!
「この地図がお役に立つなら良かったです。行く先はお決まりに?」
俺の様子を見て領主が聞いてきた。
「ええ、とりあえずバスタブ…いや風呂が買えるというコーベルナに行こうかと」
「馬車の手配を致しますよ」
馬車か…ありがたいけど、のんびり旅もしたいしなぁ。
「せっかくですが、ゆっくりあちこちみて周りたいので」
「そうですか、ぜひ出立までこちらで滞在なさってください」
「ありがとうございます」
親切な提案に甘えるのも悪くない。
確かにここに滞在していると快適だ。
でもこれに慣れてしまうと旅先での野宿が辛くなりそうだ。
翡翠のハンモックは最高だけど、フカフカのベッドもまた格別だもんな。
アイテムボックスがあるなら良いベッドを買うのもアリだな。
風呂と一緒にベッドも探そう。
楽しみが増えてきたぞ!
早く出発したくなってきた。
ひとしきり先行きを想像してワクワクしだす俺。
『アサヒ殿はすぐに旅立ちたそうじゃのう?』
白大蛇が俺の様子を見てそう言った。
「ええ。そのつもりですが…どうかしたんですか?」
『ワシの里にも寄って欲しかったのじゃが…』
あぁ…治癒の里って呼ばれてる所か。
やっぱ蛇だらけなのかなとか少し気になるけど…。
「きっと寄らせてもらいます。里の場所を教えてもらってもいいですか?地図に印をつけて憶えておきますので」
ごめんなさい、白大蛇さん。
俺は俺の欲望を優先させます!
ダンジョン探索でレベル上げだけのつもりが、色々な事に発展しちゃったけど、なんとか不幸な事にならずに済んで本当に良かった。
行ってみたいところも出来たし、買いたい物もある。
魔物を狩って素材を売ったりしながらお金を稼ぎつつ旅するとか、まさにロールプレイングゲームさながらだよな。
ゲームじゃなくリアルなのが今でも信じられないくらいだ。
旅の準備をしながらワクワクする俺だったが、俺は忘れていた。
俺の存在に期待している人がいる事を。
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読んでいただきありがとうございました
ゆっくりではありますが、更新していきますのでよろしくお願いします
自分だったらこんな風に異世界を旅したいなぁなど妄想しながら楽しんでいます
感想やご指摘あればぜひともいただきたいです
励みになり一層頑張れます
応援くだされば幸いです
ではまた次回お会いしましょう




